心の尺度 4
ダンジョンで寝た翌日、ゴブリンと戦闘。そのに六匹のトロルと戦闘。そんな中、ユリアンがトロルに襲われた!
後ろに倒れ込んだユリアンは腹部の激痛で力が抜ける。
泣こうが喚こうがお構いなしのトロルは腕を下げたまま棍棒を振った。
「ぁがっ・・ぁっ」
ユリアンの腕がへし折れる、その威力で体が少し浮いた。
「・・っぁぁぁ!いたぃぃ、助けぇ・」
俺はユリアンの姿を見ていられなかった。見て立ち止まっていては殺される。俺は反対の手で剣を持ち、アッキーは斧を拾いユリアンに向かう。モニカはファイヤーボウ詠唱する。
俺たちを追い越していく炎の矢。間に合うか!
「ブンッ」
トロルはユリアンの頭上から棍棒を振り下ろす!!
「――――!!」
「コト、ロンッ・・」
ユリアンの頭に棍棒が当たる。
「ぇ?」
「ボシュゥウ!」
モニカさんの炎の矢がトロルの胸元に刺さっていた。それと腕がなかった!?
ユリアンの足元には肩から手先までついたトロルの腕が転がっている。攻撃がユリアンに届く前に腕が切り落とされた!?
「ウグァアアア!」
今度はトロルが喚く。
ユリアンが助かった・・・。
真紅のマントをバサッと翻し、
「呼んだかお嬢ーさん!俺の名前はヴィンスヴェルタ。マッドギルド所属の冒険者で次期ランク一位のナイトとは俺のことよ!!」
と決め台詞を言う男が現れる。
それよりトロルはどうなった!
またユリアンに見とれていた。トロルがファイヤーボウの炎で燃えているが、それに混じって氷の矢が何本もトロルの体に刺さっていた。陰になっていて皆の方から見えないだろうがエリスも魔術を唱えていた。
氷に刺され、炎で燃え、剣に斬られたトロルが前にぶっ倒れて、ユリアンの足に少し乗っかかっている。
さらに、周囲を見ると全てのトロルが全て倒されていた。
「うっ」
踏んづけられたのか?少し声を上げるユリアン。足を引っこ抜く、よかったユリアンは致命傷を負っていないようだ。
「ほらっ」
参上した謎の気鋭ナイトが、手を出してユリアンを起こそうとする、今度アルスに誰か教えてもらおう。
「ぇぇ~」
呼んだのかユリアン?”よくある助けて神様ー!”とか言ってピカッと出てきたりする神様を呼んだのか?しかも来るのかこの世界に。
「お~っ、よーく見るとお前はアルスの所のユリアンちゃんか?」
「ぁあ」
あ、レ?
「ユリアンちゃん?」
「俺は昔から街に住んでいるから、お前の事も知っているぞ。何で弱いのにこんな所に来たんだ?それこそ、これから死にますと言ってるようなもんだぞ。このことをアルス兄さんは知っているのか?」
弱いのに危険な場所に行くのは、死亡フラグを立てているようなもんか。
「ええ、だいたひはほへであってますぅ」
腹の痛みと涙声で言葉を羅列できない。
「そうだろ。いけないぞ、家族を心配させたら」
でもそのフラグを倒した(助けを呼んだ)から生きのびることができた。やばい死ぬって、危ない時、助け(・)を求めなかったわけではない。
俺たちはユリアンの方へ行き、頭を下げた。
「リーダーの俺が助けれなくて悪かった。リーダーなのに、ギルドに誘ったのに」
「痛い思いばかりさせてゴメンネ、私が魔術で援護しないといけないのに」
「ゴメン、助けれなくて」
近づいたら巻きこむ危険があって、離れたら助けられなくなって。
所詮は言い訳だが、俺はどうやって対処すればいいのか思いつかなかった。
「ライムさんは、大丈夫ですか?」
「俺か、俺はこの通り、いたたたた」
俺はポーションでの回復をためらった。それはユリアンの傷をポーションで治せば、魔術で自分を回復できるからだ。ヒーラーのユリアンなら一日寝れば魔力は回復する、これがこの世界の設定だ。
もちろんHPといった体力も。エリスは上から見ていてユリアンのピンチが見えなかったのか、ちょっと変だと思った。エリスは地上に下りてきていた。
「ライム、傷が酷いのならポーションを使ってすぐに回復して」
エリスが俺を見るなり小さく言う、気を遣っているのか。
(ゲームの損得勘定で言っても復活と回復のアイテムは、いくら価格に差がある?)
「少なくとも二十倍以上、だから使えってことか」
(そうよ。それに死んだら生き返らないわ)
エリスは他に声が漏れないように話をした。何でエリスはゲームの事まで知っているか謎だけど。
ポーションをユリアンに使った。腕の傷が回復した。これで動かなかった手も動く。そして残りのHPの回復をヒーリングで回復する。
「お前たち、俺はこれで失礼する。中央にいる奴はどう見ても強いから絶対に手を出すなよ。よくここまで、あんなのに会わなかったな。さて帰りはどうしようか?」
「はい、ありがとうございました。ヴィンスベルトさん」
「ヴィンスヴェルタだ。それじゃ気を付けたまえ新人冒険者、諸君」
「ヴィンスヴェルタさん、俺たちの事までよく知っていますね」
「いろんな冒険者を知ることは冒険者ギルドの必須事項だぞ」
「は、はい」
そうなの、リーダーなのに知らないから焦ってしまった。
「ありがとうございました、ヴィンスヴェルタさーん、酒場で今度お酒をご御馳走させて下さい!!」
モニカさんがお礼を言う。
「ありがとう」
「そうか、楽しみだー!!」
ヴィンスヴェルタさんは入り口の方へ歩いて行きながら、そう返事をした。入り口には他の仲間も来ている、今帰る所らしい。
「ところでエリス、ポーションの傷はどこまで回復するんだ?」
「説明しなかった?この世界で自然治癒した状態まで回復するわ。体のどこに傷を負ってもHPが減る、それが0になると死ぬ。回復させるとその傷が治っていく」
「すごいんだな回復アイテムは」
「だからポーションは魔法薬っていわれるの。時間がかからず、すぐ元に戻るから」
トロルは最初からこちらの人数を削る目的ではないから油断も手落ちもなかった。こちらに油断と手落ちがあるとしたら何匹出るか分からないのに進んだことだ。
「ヴィンス?戻るのか」
「ああ、ほらこれを見てみろゲイル」
「刃こぼれが酷いな」
「俺もまだまだ・・・」
「ヴィンス、剣何本か持ってきたら」
「ここいらの敵と戦うと、お前たちもすぐこうなるぞ」
「装備品が弱いわけか、今以上の武器は手に入りにくいしファースト素材の武器を待つしかなさそうだ」
「ハーゼリアはロッドだからいいけどな」
「でもロッドも良くなれば魔術の精度も上がるわよ」
「そうか、なら待ってみよう」
ユリアンはヒーリングで俺の傷を全快してくれた。
「一日何回くらい使えるんだ?」
と尋ねた所、
「十回くらいです」
と答えた。
「話は終わりゴブリンが来た、でもいい逃すわ。しゃがんで静かに」
ゴブリンたちは化物道を歩いている。風向きに気を付けながら俺たちは草木に身を隠した。
「何匹いるんだ?」
「・・・」
エリスは無視する。黙れしゃべるなと言う事だろう。エリスは一人フロートで木の上に上がった。そして陰から様子を見る。そして木の幹に沿って下に降りる。
「先頭は四匹、次は六匹、さらにその次は八匹いるわ」
「そ、そんなに」
「あれは最初のゴブリンに攻撃を仕掛けると二列目、三列目にも取り囲まれるの」
「団体のモンスターか」
モンスターのトラップか。一列目を囮にして後列と一緒に囲む。
最初ダンジョンに囲まれた時のようだ。あの時は、敵は子供だった。もし、ここにドラゴンがいたらまた全滅だな。
「そろそろ、いいかしら」
歩いているゴブリンが見えなくなった。俺たちはずっと息を潜めてやり過ごした。
「ライムさん、エリスさんと付き合っているんですか?」
あれ、ユリアンが勘違いしたようだ。
「・・・」
ギロリと見るエリス。
「いや付き合っていない。子供はすぐに勘繰るからな」
俺は、はっきり答えた。
アッキーが唇を少し窄んだ。羨ましがっただろう、見逃さなかったぞ。表情の一部にアッキーの性格が出ていた。いいだろう、お前に話しかけるチャンスを与えよう!
「・・・」
そのつれない目はなんだ。いいのか。
エリスとモニカさんはゴブリンを探していた。
「ほらあそこ」
「ブラックゴブリンね、しかも二匹」
アッキーもブラックゴブリンに視線を移した。
「エリス他に敵はいないか?」
「もちろん」
「化物道以外はモンスターが少なそうね」
モニカさんが言う。
「ブラックゴブリン二匹か、作戦を立てよう」
俺は提案した。
「そこに草が生えているだろ。皆で四箇所、直径30cmの窪みを作る。さらに、その横に草と草を〆で結んだ輪っかを作る、後はそこにかかるように動く。作戦を考えてみたがどう思う?」
「良いと思う」
「はい」
「くれぐれも自分が掛らないように気を付けてほしい!」
「了解」
「うん」
「はぃ、ただそんなうまく罠にかかりますか?」
「ユリアン、ブラックゴブリンに見つかれば敵の方からやってくるわよ」
「そうですか・・」
ユリアンは不安そうだった。
「ライムさんを信じてやってみます」
若いだけに感情の起伏が激しいユリアン。
そしてブラックゴブリンの前に出た俺たち、ブラックゴブリンが敵意で牙を見せた。すぐに俺は指示を出した。
「後ろに下がれ!」
と、草のあたりで
「敵を囲め」
と言ってブラックゴブリンを囲むように配置にした。
俺が動くと敵も動く、そうやって敵を罠にはめるように牽制する。
俺は剣で突くフリをして敵の目を自分に引き付ける。俺を見たアッキーも真似する。さらに斧を投げるフリをする。モニカさんとユリアンもロッドやスタッフを立てたり、口を動かし魔術を詠唱するフリをした。
ブラックゴブリンもそれに対応するため二匹でチェーンを振った、俺達はそれに退く。
「回ろう!」
ブラックゴブリンが動いた!やった!一匹のブラックゴブリンが〆の草結びに引っ掛かり窪地に足を取られた。そしてのけ反り倒れる。ひっかかったな、こちらの真似をする特性を利用したんだ。
「今よ!」
モニカさんが声をかける、
「ザッ!」
「ガッツ!!
一斉に敵に近づく。俺とアッキーは転んだ方に攻撃をしかけた。俺はブラックゴブリンを剣で突いた。さらにアッキーの斧が体を斬る。
もう一匹の攻撃は回避可能。転んだブラックゴブリンは、その鞭を振って暴れる。土や草に当たるだけ。
モニカさんは魔術を詠唱した。ユリアンはモニカさんの隣で背後に気を配っている。抜かり見落としはない。トロルと同じ手は二度々食わないように気を付ける。
二匹のブラックゴブリンは激しく暴れた!
「チェーンの先は熱いから注意するんだ!」
罠にかかったブラックゴブリンが飛び起きた!そこをファイヤーボウが腕を射抜く、刺さった炎は腕全体を燃やした。
「ゴブゴォ!!」
だが燃えながらブラックゴブリンはチェーンを振るう、そのせいで体全体に炎が移った。
「ビィシュッ!」
「ゴボォオ!!」
そして、ブラックゴブリンの肩から胸にかけて俺の斬撃が入った。噴水のように血が吹き出す、その流血の勢いが衰えると白目になって朽ち果てた。
アッキーは俺がこちらと戦う姿を見て、もう一匹のブラックゴブリンに斧を振り回した、だが当たらない。
「あっ!くぅ」
ブラックゴブリンは俊敏にかわしチェーンを振る。アッキーの体に当たる。熱で皮膚を焦がし切る。アッキーはダメージ覚悟でタックルするがかわされた!ならとアッキーはチェーンを土で押さえようとするが掴めず、
「アッキー、一度こっちに戻って」
モニカさんが声をかけた。戻るとユリアンに傷を癒してもらう。
そこに時間稼ぎに入る俺、すぐにアッキーが来たから後ろに退く。くそっ、少し手をかすったか。戻ってきたアッキーは罠の草がある場所を利用しチェーンをかわす。土の盛り上がりがあったので瞬時に対応しかわした。罠ではない土の盛り上がり。
草を踏んだ時だ、足が縺れるブラックゴブリンに向かってアッキーは走り出した。
バランスを崩したままチェーンを振るブラックゴブリン、チェーンは空を切る。
アッキーは斧を振り下ろした。
転倒中のブラックゴブリンはうまく体を翻したがアッキーの斧が敵の太ももを斬りつける!見るだけで痛みを感じるほどの威力。
俺は隙を伺う、アッキーの攻撃範囲に入らずいつでも代われるように待つ。
ブラックゴブリンは足を押さえ消えていった。
ブラックゴブリンは火を扱えるからか火に強かった。そんなデーターも細かくとる必要はないかもしれないがこうやって分析、記録(メニューの履歴)、記憶していくことで街の冒険者の命や未来につながる。
「昼食をとりましょう」
エリスがこちらにやってきた、何を今頃言ってるんだ。待ってたお昼休憩、ペロリン!
休憩は、やっぱり六階層入り口で。奥は薄暗いが手前なら問題はない。
「ほら昼食の飲物、オレンジュースで~す、じゃっじゃじゃーん」
俺はユリアンに手渡した。ユリアンは両手で金属のグラスのような器を持ち、ふたを回してあけた。回して開けてすぐ飲むタイプのものである。
「にっがぁ~ぃ」
ユリアンが眉をひそめて口を歌舞伎みたいにへの字にした。
「だろだろ、これが味というものだよ」
俺は大人ぶる。オレンジジュースと言ってもフルーツのオレンジとは違う物だ。
「これ、まずくて戦う気力失せちゃうじゃない、このぉ」
「いたぁ、腕つねらないで下さいモニカさん」
「こんなのみんな苦くて飲めないわよ」
アッキーのコップを持つ手が震えている。
プルプルとどうなるかと思ったが、既に飲みほしていた。苦かっただろう、いくつかのハーブをブレンドしてあり、飲むと一度に口の中で広がる一品だ。ただ商売上手な商人さんたちに栄養は抜群で明日まで絶好調でいられると言われたから・・。
本当、大丈夫かなアッキー。何もない場所を見てるぞ、異世界から戻ってこーい。
「ふぅう」
アッキーは戻ってきた。ため息一つで、その苦みをかき消した。
「・・・ぅ・・・・・」
エリスは拒否反応を示していた。一思いに上を見て飲み干す。人生はつらいもんだ、これも一つの経験だな。
こうして俺たちの昼食は終わり休憩をとった。
その日の午後もトロル、ゴブリン、ブラックゴブリンと幾度となく戦った。
夕食はサンドパンとキャーメルというチーズのような球上の粒粒を食べ、水を飲む。
そして夕食後、少し話し眠りに就く。一人エリスは周囲を安全のため見張っていた。
あなたはピンチの時、誰に助けを求めますか?先生?友達?家族?一人で解決する事が難しい時もありますよ。




