心の尺度 3
アッキーの暴走にライムは気づく。夕食と休憩をセーフエリア(階層と階層の間)でとる。深夜、エリスとアッキーが話す。暗雲が晴れるかはこれからのアッキー次第。
【エリスの守護 残り4日】
朝、俺はエリスのノックハンド(手でトントンと体を叩き起こすこと)によって目を覚ました。
しかし、それで起きたら面白くないと思ったので俺は狸寝入りをする。
みんなも俺と同じようにエリスのノックハンドによって目を覚ました。バレるかこっそり見ると、誰も俺の方を見ようとしなかった。
「おはようございます」
ユリアンが床に膝をのばし、朝の挨拶が始まった。
「おはよう」
「おはよう」
「・・ょぅ」
の中、声になっていないアッキー。
「何か寒いですねぇ」
「開放的空間でもないけど五階層と六階層の間だから風が流れているんでしょ。それで温度も低くないのに寒い」
とエリスは話す。
「アッキーさん、暖かそう」
ユリアンがアッキーにくっつく。
「んー」
首を傾げて困るアッキー。こういう時は重宝するなお前、俺は寝ながら顔がにやけそうだ。でも体、汗だらけだぞっ!
「・・・」
静かだ・・・、女たちは、朝もっと賑やかになるのかと思ったが静かだった。
「・・・」
「・・・」
「―」
薄目を開く俺、こちらを見ない皆。お主たちは何をしている?
「―」
おーい、またノックハンドしないのか?エリスー、お前気づいているだろーっ。
「・・・・・」
この空気に耐えられない、
「やあ、みんなおはよう」
俺は両手をバァと出して、朝のアニメ番組のように起きた。
「おはよう」
エリス、その素早い挨拶は気づいていただろっ!ほら、皆もすぐ見たー!もしやお主たち、この童を愚弄しておるのか!?
「・・・・・」
変わらない皆、何だか俺一人だけ白けるな・・。俺は背伸びしてキャメルタオルを折りたたみ、ひと息ついた。
「朝食にするか?」
俺は通路の角に置いてある袋から食料を取り出した。
「そうね、朝食だぁ~」
「ごはんごはん」
この世界での楽しみと言えば、食事くらいである。あとは街の人との出会いぐらい。
「ダンジョン一泊目、朝食はロコスープとサンドライスだ!」
この世界の食料は生ものが常温で一日位もつ。そんな鮮度の悪くなるものはこれまでになかった。
「これ、にゃんこ飯じゃない?」
俺は包みを全員に配るとモニカさんから質問がきた。
「猫いないけど・・」
どれどれ、俺も包みを開けてみる。
「だって、ご飯と食材を和えただけよ」
「エリス、わかるか?」
「私はまだ、見ていない」
「なんですか、にゃんこ飯って?」
ユリアンが不思議そうな目をする。
みんなに木のスプーンを渡す。
「そ、それはご飯とスープを混ぜたものよ」
ユリアンにこれ位で異世界人とは、バレないだろうけど。
「ご飯と何か?」
「ご飯にスパイスだけとか、蜜だけとか、タレだけとか、ねえライム」
「おお、そーだよぉ。うまいけど具材がないんだ~」
「へぇ~、そしたら今度酒場言ったら怒鳴りつけてやりましょう!具材が少ないって」
「お、おい。それはやめよう。酒場のみんな頑張ってるんだから。それに俺たち無断で持ってきたし」
実際、酒場のメニューにはない。にゃんこ飯は特別だ。どこかでねこまんまとも言う。
「それじゃーライムさん、盗人じゃーないですか?」
「まあそうだな、そうとも言う。でもGoldは支払っているから」
「あっはは、そしたらお兄ちゃん達と同じですね~」
「!?」
エリスとモニカさんの二人がユリアンの口を押えていた。
「お兄ちゃん?」
えっ、俺が泥棒でお兄ちゃん?どういうこと!?
「盗人稼業なのか?お前の兄弟って」
「あ・・・はぃ」
「あの絨毯もか?」
「いいえ、あれは私の部屋の前に敷いてあるお気に入りの絨毯です。誕生日のお祝いに貰った」
「そっか」
それを生業とした職業だったのか。俺はあいつらが貧困で仕方なくやっているのかと思っていた。盗人、サンサンドにはない職業だな。この際、泥棒猫でも何でもOK、モンスターに比べたら小さい事だ。
「泥棒猫か、俺は可愛いと思うぞ。さあ食べよう」
ふむ、そうか。俺は朝食を食べた。危険性がなく空腹を満たす食事は心と脳と体の栄養になった。腹が減っては戦は出来ぬ。これからモンスターと戦うんだから。
そして準備をして六階層のフロアに出た。
「既に十六日経過したわ。思ったより・・」
とエリスは言いかけて、
「実戦再開よ」
と実戦開始のかけ声をかける。
「全然強くならないな、俺たち」
敵の強さの前に、俺たちはいつも唖然とする。
「そのうち慣れるわよ。さあ、そこにある道を歩いて」
「はーい」
全員、厳しいエリス監督の指示に従う。
「それとトロルやゴブリンはすぐに倒して。長期戦になると仲間を呼んだり、こちらに隙が生まれるから」
「やってみる」
「はい」
そして、俺たちは怪物道を歩く。何かあってもエリスがいるから今は死ぬことはない。だが本番だと思ってやらなければ、これから俺たちは生きていけない。
「いないな」
昨夜話をしていた、アッキーとエリスの様子は普通だった。深夜、声が聞こえたような気がしたが俺の聞き間違いか。
「ゴブリンが二匹!」
エリスが皆に伝える。
「俺とアッキーは横に二列並ぶ、モニカさんとユリアンはその背後に位置して援護してくれ!」
「ええ!」
「アッキー、斧を持ったまま腕を俺に伸ばしてくれ!」
「うん!」
アッキーは斧を持ったまま腕を伸ばした。
俺も剣を持ったまま腕を伸ばす、
「武器が当たらない距離を保つぞ!」
「私は二人を抜いてこちらに来たら魔術で援護するわ!」
「分かった!」
「ユリアンはライムたちの攻撃範囲に入らないでね。二人は、まだ周囲に気を配る余裕がない!」
分相応、できないことを教えるモニカ。
「はいっ」
二匹とも先が鋭い石のナイフを持つ、こちらに跳びかかる!!
「カシャン!」
「ヒュッ、ヒュッ、ヒュヒュヒュ・・」
「っくぅ・」
俺は着地地点を狙い素早く剣を振り下ろしたが、体を斬るどころかナイフで受けられてしまった!何かが弱いのだ、剣でゴブリンのような小刻みな攻撃はできない。間合いを詰められる!接近戦では剣を振ろうにも距離が近すぎて手が出せない。かわすだけで精一杯、さらに詰め寄るゴブリン!
ユリアンは俺の後ろにいたが、ぶつからない所を見ると俺に合わせて下がっている。敵は俺がかわせない事を知って詰めたか。
「キィン!」
「カッ、カン!、カカッ」
アッキーは斧よりナイフを出す方がはやい事が分かっている。落ち着いてそれを見る!斧の刃を柄を回し盾替わりにする。接近するゴブリン、あまりに距離が近いので柄を短く持って斧を振る。
「フッ、フ、フ」
空振りするナイフ、昨日に比べ断然動きが早いアッキー。しっかり見据え、目を離さない。
「アッキー、私は後ろにいるから」
モニカはアッキーに存在を告げると、さらに
「ちょっとライムに炎矢で加勢する」
と伝えた。
「ファイヤーボウ!」
「ライムよけて」
一歩間違えれば、ライムを直撃したファイヤーボウはゴブリンの額に刺さり、髪に燃え移った。頭全体が燃える。
「ジュフッ!」
モニカの前にいたアッキーは体を刺されていた。だがナイフは短く小さいことが幸いし、掠り傷程度であった。素早いゴブリンと、どう戦うか?
力と速さ、この両者を秤にかけると体格差が不利になることがある。それが今の状況だ。
「サフッ」
次々とアッキーの体は切られていった。だが鎧がガードの役目を果たしダメージを減らした。
俺は炎矢を右にかわした。炎矢が抜けた後、俺はゴブリン目がけて突っ走った。
「クシイッ!」
コブリンを腹を斬り一匹仕留めることに成功。散り消えるゴブリン。
ユリアもモニカの声を聞いていた。もし魔術が失敗に終わったら、標的が自分に変わることだってある。だからモニカの後ろへ避難した。そしてヒーリングの詠唱を始めた。
モニカはユリアンの存在を知らなかった。だがライムがゴブリンに剣を突き刺しているときに、横のスタッフを持つ手でそれを知った。モニカもユリアンもこの位置から物理攻撃は繰り出せない。だからお互いの距離は考えなくてよい。
アッキーは故意に地に半円を描いた。そして後ろに下がって斧を振り下ろす。攻撃の型のように一つの想像で遠心力を働かせ攻撃した。先を読んだ想像の攻撃である。
ゴブリンは後ろに下がっただけで前へジャンプしなかった。大振りを空かしたアッキーに直のナイフが突き刺さる!
左から躍り出たユリアンは、アッキーの攻撃範囲に入らないよう気を付け、砂をゴブリンに投ける。目を瞑るゴブリンのナイフは先がズレた、ナイフでの二回目の攻撃は運よくアッキーの鎧に弾かれた。
アッキーはゴブリンの両手を持ち、ナイフを持つ腕をつかみ捩じり込んだ。力ではアッキーの方が上、トロルなら負けた。
「アッキー、俺が斬る」
そう宣言し、
俺はゴブリンだけ斬れる範囲から剣を振るった、ゴブリンの背中を斬りつけた、少ししてゴブリンが傷口が肥大するように消えていく。
「回復します」
ユリアンが言う。まだ戦闘は続いているから。
アッキーにヒーリングを唱えるユリアンを見ていて気づいたことがあった。ヒーリングの難点は詠唱に時間がかかること、もう一つは仲間に近づかなければ回復できないこと。
「トロルの群れ!」
エリスが声を高らげる。
気色の悪い黄土や濃い緑、深緑の色をしたトロルご一行が出現した、数は五匹いや六匹か!
モニカさんが先頭に出る。
「先手必勝、私がやるわ」
それは頼もしい。素晴らしいとアッキーの心の声も聞こえてくるようだ。
「飛べ、怒り怒る炎の球!」
「ファイアボール!!」
「ボフォ!」
「ユリアンは離れてて、群れを散らすには攪乱よ!」
「そうですね」
魔術攻撃に加え、恐ろしい戦術のモニカさん。
「うん」
それでもこちらに走るトロル、
「飛べ、怒り怒る炎の球!」
「ファイアボール!!」
「ボフッ!」
モニカさんは、最初から距離をとっていた。もう一度ファイアボールをぶっ放す。炎はさらに燃え移り火力が上がっていった。火に火を注ぐわけだ。
「アッキー、先に燃えた方を片づけよう。俺は右と中央、お前は左を頼む」
「うん」
俺たちはモニカさんとユリアンが逃げる中、走ってくるトロルをかわし燃えるトロルに斧を剣を突き刺し倒した。
トロル三匹がエリスの方へ向かっていった。一人から狙う作戦か?しかしエリスは空へ飛んだ。地上で騒いでいるトロル、頭はあんまりよろしくない。
「今だ!」
俺はダッシュでトロルに近寄り、一刀を二回繰り出す。二回とも当たったが皮膚が切れるだけであまり効いていない。トロルは、俺とアッキーを三匹がかりで囲もうとする。俺はアッキーと背中を合わし、
「攻撃は前だけだぞ、後ろは俺がいるから」
「うん、もしそっち行ったら言う」
「おし」
よくあるやつだが、これはピンチだ。なぜなら接近戦程トロル武装型モンスターが力を発揮する時はないからだ。距離をとれないとなると攻撃をまともに喰らうか受け止めなければいけない。そうしないと後ろの仲間に迷惑がかかる。
モニカさんが俺たちを囲むトロルにファイヤーボウを放つ、
「シュパッ、ボゥン!」
背中に炎の矢が突き刺さった。
「グォオオッツ!!」
「うっぉおお!!」
これ以上、近づかれては敵わない。
「アッキー、後ろ見てられないかもー」
「僕も、おおぉーっ!!」
炎の矢が刺さっていないトロルに攻撃を仕掛ける、俺の剣と棍棒がぶつかる、くそっ、剣が折れそうだ。刃が欠けているのは気のせいではない。できれば武器同士を当てるのはやめておきたい。俺はトロルより早く剣を出した。そうしないと力が棍棒にのってからでは対等にぶつかれないから。
アッキーは斧の柄を長短させ攻撃し棍棒を受けた。工夫する事で同格として戦える。戦士としても力もあっただろう。
ライムの位置を確認後、トロルにとびこんだアッキーは振回を出した。斧がトロルの腹を抉り斬り裂いた。紫の血が噴き出すトロル。抉られたトロルは体が散り消えていく。
振回前までアッキーは縦と斜め攻撃だけだった。それでトロルは勝手に二つの方向からしか攻撃がこないと思い込んでいた。
連携をとるトロルは苦戦を強いられるライムを狙うが、アッキーが止めに入った。
俺は右に避けた、もしアッキーを狙うならダッシュで一刀を入れる。
うまくいく、ダッシュで背後に近寄った時、トロルが後ろを向いたまま棍棒を振り回した。
「ザカッ!」
俺の肩から音がする、そして痛みが走る。肩がある手は添えるだけにしてトロル剣を向けた。そして自分の体で押して突き刺した。最初から本気でやっていたのにこの様か。
「ズフッツ!」
そのまま剣を下に動かす、あまり良くないんだっけ。剣が折れるとか。
「グフワァアアア!!」
呻くトロルから足先だけ動かし退いた。だが炎で燃えたトロルがこちらに走ってくる。
アッキーは、ライムを狙うトロルへの攻撃も考えつつ、トロルの武器を持つ手から一番遠い左肩に振落を出した。
それをかわすトロルにユリアンの目つぶし、トロルは目をやられた。アッキーはそこにもう一度振落を仕掛けた。胸に斧が刺さり血が噴き出すトロル、返り血を浴びたアッキーは武器を放し退いた。トロルは消えていった。
アッキーの心から、ライムが殺される恐怖が薄れていった。トロルの薄れゆく体に合わせて。
みんな息をついた。
武器を放したアッキー、肩を砕かれ剣を刺したライム、離れた場所のモニカ、目つぶしするユリアン、空からエリスはそれを見ていた。
ユリアンは身を屈め、後ろからのトロルの一撃をかわしていた。
「トロル」
ユリアンが叫ぶ。
「大振りなトロルの攻撃何て」
ユリアンが立ち上がりバックステップ、
「・・ぁぁっ!」
トロルを舐めていたユリアンは、棍棒を腹に受けた。お腹を押さえるユリアン、ユリアンの身軽で素早い回避より棍棒を振るトロルの素振りの方が遥かに速かった!
「ぅぅえぅっ・・」
飛んだり跳ねたりする人生。悩み多き人たちですね。 私は次も人間で生まれたい。喜怒哀楽の二、三字目が多いですが、ないとつまらない。




