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心の尺度 2

 ユリアンと一緒に、ダンジョン四階層から六階層に進む。トロル、ゴブリンが出て順調なギルドに暗雲が立ちこめる。

「アッキー、お前には一番手で行ってもらうから準備を頼む」

 そんなおかしな行動はしないと思い、アッキーに任せた。


「う、ん」

 気にするな、アッキー。


「じゃあ、間合いをはかって」

 エリスが言う。


 生の願望と死の恐怖、この二つを抱いてどこまで踏み込めるか?踏みとどまれるか?その間合で勝敗と生死が決まる。その間合いは、距離で測るのか、気持ちで量るのか、どちらか一つとは言えない。それも一人で相手にするのと複数で相手にするのでは違ってくる。

 またモンスターの中に、こちらの性別や職種で攻撃する奴がいるかもしれない。臭いや恰好で判断するのか、分かるはずもなく情報が全くなかった。


 アッキーを先頭に俺たちは一列に並んだ。さっきのトロルとの戦闘でわかったことは一対一では勝てないこと、一撃で死傷を負う危険性があること。


「まだトロルの知能は知れないから気を付けてくれ、アッキー」


 うんと頷くアッキー。


「ガサガサガサガサ」

 アッキーは草むらを先頭に歩く。


 歩行中のゴブリンが出現!その揺れる草に目を止めるゴブリンは見るなり先頭にいるアッキー目がけて走ってきた。

 アッキーはどっしりと構え、早めに斧を振り下ろした。今の間合いなら良いと思う。それをゴブリンは左に避けた。


「アッキー、俺がやる!!」


 俺は左に一歩、前に二歩出て剣を斜めにおろした。俺は素早い動きを見切ろうとは思わない、俺の攻撃はゴブリンの脇腹を少し斬った。ゴブリンはそれでも俺にナイフを出す。


 俺は剣を素早く何度も振り下ろす。直前でゴブリンの足止めに成功、そこにファイヤーボウを使ったモニカさん。

 『アッキー動いちゃダメだ』が遅かった。アッキーの左顔をボゥンと熱が抜けゴブリンの左腕に炎矢が刺さる!炎を消すゴブリン、そこにアッキーは下から斧をあげる、ズンッと音を立ててゴブリンの腹に斧が突き刺さった!斧を手放し距離をとるアッキー。


 ゴブリンは膝をついた。俺、アッキー、モニカさんがゴブリンから距離をとって囲む。ゴブリンは立てずこちらをギリッと睨んで散っていった。



 泥棒は鼻が利く。

 どこで聞いたか分からないがそんな言葉を聞いた記憶がある。それは宝だけじゃないのか、次々にゴブリンが出現した。辺りに四匹、仲間の死臭は隠し立てが出来ないようだ。


「タッ、ガサッ、タタッ、ヒュッ」


「ッ!っつっ・」


 倒した場所へ駆けつける石のナイフを持ったゴブリン、小ぶりながら暗殺者さながらの動きで斬りつけるので俺は意標をつかれた!喉元をナイフで切られ線状に痛みが走る。ここは敵の陣地。


「ヒュヒュヒュ!ヒュヒュヒュッ!ヒュヒュヒュッ!」

「シィー、シシシ」


 ゴブリンの動きは予想以上、素早く小回りが利く。それでいて手を伸ばしたり足を曲げたり、使い方次第で間合いも変わるといった厄介な奴ら。俺はそれをかわし、息をするたび喉が痛んだ。

 だが俺はそんなことで引かない。一度目の攻撃で知った。ナイフが見えにくいなら腕を見ること、ナイフが伸びるならその範囲を探ること、そうすれば攻撃範囲も分かるから対応できる。


「さあ、こいっ!」


 俺の隣ではユリアンが他のゴブリンと戦っていた。俺も早く加勢してやりたいが、こちらが優先だ、片づけないと手を貸せない。

「ふんっ!」


 モニカ、ユリアンはゴブリン二匹と追い駆けっこしていた。ロッド、スタッフを振り回し近づけない作戦だ。アッキーは斧を器用に動かしナイフに対応する。


 俺は、みんなを横目で見ながらゴブリンの攻撃をかわす。後ろに下がれば攻撃を簡単にかわせた。


 ゴブリンが二匹増える。だがエリスは一瞬の間にその二匹を倒した。同時にアッキーもゴブリンを倒した。


 ゴブリンのナイフによる攻撃は俺の横振りで一気に決着がついた。腕ごと剣で斬り飛ばした。ゴブリンの腕がなくなり、そこからチリチリと削げるように消えていく。

 一階層で砂を投げたら砂を投げ返すゴーブがいた。なら俺も見習い、このロングソードで臨機応変に戦うまでだ。

 死体は目に焼き付くからあまり見たくはない。だが、もし生きていたら俺たちが殺されるから目を背けられない。その葛藤にかられるので目をぼやけさせて、ゴブリンの死を最後まで見届ける。


 俺は見届けると、即座にモニカさんの方へ急いだ。

 アッキーはユリアンの補助に回っていたが、あの激しい気性は危険である。その行動にユリアンは困っていた。なぜなら死ぬ気で戦っている。


「ジュ――」


「えっぅ、あっ!」

 ユリアンが石器のナイフをかわす、しかし反対の手の爪で顔を挫かれた。おまけにローブの腰の辺りも攻撃を受けた。


 俺が見るとユリアンがゴブリンに攻撃を受けていた!


 アッキーも鎧で覆えない部分から血が垂れていた。太っている分、脂肪があり急所まで届いていないが傷は三、四箇所もある。


「あああーーっ!!」

 アッキーが斧を大振りする、それは敵の思う壺。


 一方、鬼ごっこのモニカさんは魔法使いだから逃げ回っていた、勝ち目の低い戦いは避けるべきと。魔術さえ使えば勝てるはずなのに、間合いを詰められてしまう。   

 魔術詠唱の時間がもらえない、魔術には詠唱時間と発動時間が必要だった。

 俺はうまく、鬼ごっこの間に割り込んだ。さあゴブリンお前はどうする?俺に気づいたモニカさんは後ろで息が上がっていた。


「はぁはぁはぁはぁはぁ~っ」


 ゴブリンも走ったはずだが疲れていない。そのまま俺に石のナイフで斬りつけてくる。俺はロングソードで50cmの距離をあけ威嚇し、さらに1mの距離をとった。

 だが距離に合わせてゴブリンが跳んできた、ナイフを突き出して。俺はロングソードをナイフの刃に当てる。


「ギ、ギギ、キシン!!」

 ぶつかった刃と刃は押し合い止まる。俺は剣の柄と足さばきで右、左、真ん中どこでも飛ばせるよう構えた。ゴブリンが右へ動いた。足でリーチを伸ばし刃をナイフの刃につけたまま下に振りおろした。ゴブリンのナイフが地面に落ちた!ゴブリンは急いでナイフを拾おうとする。

「ザッ、スガッ!」

 俺は素早く、ロングソードを振り下ろした。地面に手をついたままゴブリンの頭を斬り、といっても真っ二つというわけでなく叩いたというべきかもしれないが。

 うげぇっ、脳みそのような物が見える。これはみたくない。ゴブリンの脳はさすがに見るべきものではない、生々しい姿が俺の目に焼き付く。頭に痛みが走った、見てて痛いとはこのことである。ゴブリンは散って粉のように消え去った。


 ユリアンが涙を流す、顔と腰から血が出ていた。ローブのあちこちが土で汚れる。


「ユリアンには、まだ早かったわね」

 エリスは経験の浅いユリアンを慰める。


「ユリアン、お前はヒーラーだからいいんだぞ。戦っただけで偉いからな」


「うっく、うっく、はい」

「ヒーリング!」

とユリアンは詠唱し自分の傷を治した。エリスはユリアンにクロスを渡した。


 アッキーは何か怒っていた。

「どうしたんだアッキー?」


「こんなのばっかり!」


「悪い、俺のせいだ」

 これは何も言えない。


「三人とも落ち着いて」

 エリスが三人を止めに入った。




 それから五分程してエリスはみんなが落ち着いたのを確認し、次の指示を出した。

「それじゃー次は異種ゴブリン一匹と戦いましょう」


 既にあちらに黒いゴブリンが出現している。よく色違いや違う形相でパワーアップしたモンスターがRPGで出現するが、それと同じだ。メニューの名称もブラックゴブリンでゴブリンの進化系や強化型モンスターであった。


「敵はゴブリンの強化型だ。特殊攻撃や技をつかってくるかもしれないから注意すること」

 俺は呼びかけた。皆は、こっちを見て了解した。


 四対一なので勝ち目が十二分にある、だが用心を重ね特徴を観察する。武器は鎖状のチェーンで赤く色は黒い、これまでと異なる動き方だ。ブラックゴブリンは気づくと、こちらに駆けてきた。


「僕がやる」

 アッキーが俺の前に出た、そして武器を構える。


「カシャンッ、ジィイッ!」


 長い!


「うっ、あちっ!」

 しなるチェーンがアッキーをかすった!声を上げるアッキー。斧と鎧で体は守られたはずだが、火傷しているかもしれない。

 今の、熱く滑らかに動くチェーンの攻撃範囲は広く、まるで遠隔攻撃のようだった。敵のチェーンは前三つの鎖が赤く煌々としている。


「鎖は熱しているのか。どうしますモニカさん!!」」


「向こうが熱なら私も火魔術で応戦したいけど、これではうまく利用されそうね。相手は火に慣れている。それに魔力も温存したいし~」


「・・・」

 あの熱い鎖をもつのなら炎には強いと見ていいだろう。


「温存はしないでいいわモニカ」

とエリス。


 チェーンで攻撃するブラックゴブリン!アッキーはそれを斧で受けた、そしてその途中を足で踏む。さらに止まった鎖を握り引いた。熱くないのか?異様な照明(光球)で視界が悪いが、よくそんな事ができるなと思った。


「チャンス!!」

 モニカさんが言った。


 詠唱を始めるモニカさん、俺はブラックゴブリンに向かう。


「ザザッ」

 ブラックゴブリンは武器を捨てて、振り返り逃走した。


「追わないでおこう!」

 ゴブリンの逃げ足は速かった、獣のように高速で草の中に逃げていった。草中では背丈が小さく土地勘があるから追跡はしない。


「アッキー大丈夫、手火傷しなかった?」

 モニカさんが言った側で、ユリアンは心配しながらアッキーの方を見ていた。


「うぅん」


 アッキーの手は火傷がなかった。だが体は火傷していた。アッキーは草や土と一緒に鎖を掴む(熱を閉じ込める)という魔法のようなテクニックを使っていた。


「ヒーリング」

 ユリアンがアッキーの体の傷を癒す。


今回の戦闘は『動けなくなったブラックゴブリンは武器を手放し逃走』という結果に終わった。


「アッキーさん、すごい」


「・・・」


「アッキーあなたは頑張ったわ。素直に喜びなさい」

 モニカさんは普段と変わらず言う。


 なんであんなに走るのが早いのに遠隔攻撃なんかしているんだよ。普通にナイフを持てば攻撃も防御も上手いはず。言わせてもらえばブラックゴブリンは、合っていない装備をしていた。

 このダンジョンのマスターが不適切な装備品をつけるよう命令したのだろうか。

 チェーンは金属だと思っていたが、調べると動物?の骨であった、名付けるならボーンチェーン。その鎖の端を熱して使用していたようだ。持っていても俺たちには不要のもの。売ろうにも荷物になるからいらない。こんなの気持ち悪いし安いだろう。



「もう暗いから夕食にして、続きはまた明日にしましょう」

 エリスはそういうと来た道を戻っていった。


「移動よぉー」


「はいぃ」



 みんな疲れていた。攻撃は寸前の所でかわせたが、緊張がプレッシャーとしてのしかかってきた。死ぬ気なんて持ってはいけないが、覚悟がないと立ち向かえない。


 魔物の巣窟の中で休憩は絶対しない、六階層と五階層間が安全地点である。その階段で休憩、泊まることにした。モンスターにもフロアがあり境界がある、そこをうまくついたのがこのセーフエリア(安全地帯)だ。もちろんダンジョンマスターが各フロアのモンスターに命じれば階段も襲ってくるだろうが、全く冒険者をダンジョンマスターは脅威と思っていないようだ。




 夕食をとる。


「ヒーリング!」

 夕食前に、安全な場所でユリアンが全員の傷を癒す。ユリアンは手が震えていた、手の力を使い切ったのか、恐怖からの震えか。


 アッキーは皆から見て調子が良いように見えている。モニカさんたちは誉めていた。だが俺はそう思わない、なぜなら倒している数は俺の方が多いからだ。


 俺はエリスから包みを受け取ったサンドナンを皆に配る。それと酒場の新メニュー、香辛料の効いたあぶり馬肉、それとシトラ水が夕食である。


「水はあまりないからな、みんな」


「うん」


 炙り馬肉を口に入れる。


「ふふふっ」

 思わず笑みが零れる一品だ。食いしん坊のアッキーの舌を呻らせたか?お祝いに合わせ酒場のマスターが作ったそうだ。


「ああ、これ辛美味っ!」

 体を揺らして食べるユリアン、俺は活力が漲りそうだから持ってきたんだ。


「そうね!ほふっ」

 少し頬を上げ、溢さないように食べるモニカさん。


「ん」

 俺はエリスと目が合った。


「味はどう?」


「いいと思う」


「んふ、そうだな」

 なんだ、それ。俺は鼻高々で大満足だった。辛い食べ物は気分を一掃させるからなー。スカッと嫌気も飛ばしてしてくれー、みんな。


「んくんく」

 水を飲み干す。夕食分だけの水の量では物足りない。いざとなればエリスに魔術を唱えてもらおう。ところで魔術の水って飲めたっけ?


 俺は、腹を満たし気持ちも落ち着いた。


 戦闘の傷を癒し体を休め、装備品の手入れをする。武器の汚れは威力を弱めるし怪我の元、防具は解れや装着がしっかりなされなければ機能を果たさない。


「見張り当番どうする?」

 リーダーの俺が聞くと、


「みんな寝てていいわよ、私は朝まで起きているから」

とエリスは見張りを引き受けた。


「ありがとう」


「エリスさん、おやすみなさ~い」


「ユリアンちゃん、一緒に寝よう」

 モニカさんが添い寝する。


「いえ、いいです」


「いいから、ほらお姉さんと寝ましょう」

 モニカさんに絡まれるユリアン。


「ぐぇえ~、わかりましたからスリスリしないで下さーい」


「はい、おやすみ」

 お前たちは子供か。


 ・


 ・・・


「スースー」


「・・んぅ~」


「んん、ぱゃ」


 みんな眠っていた。






「--・・--!」

 アッキーが目を覚ます。


「どうしたの?」


「・・・寝付けない」



「少し話しましょう。来て」


「ぅん」


「さっき色々言った事は謝るわ」


「ぅん」


「もっと普通にできない戦闘?」


「もう、どうでもいい」


「そうねえアッキーは、ゲームのキャラがいいと思う」


「負けるよ」


「それでもね」


「・・」


「カタリナはもういない?」


「いるよ」


「カタリナは街で生きているし、いつでも会える。死んだら会えないのよ」


 アッキーは小さく頷いて下を見る。


「私たちは()()()生きている」


 アッキーはエリスを見た。


「ゲームのキャラは嫌い?」


 アッキーは考える。


「普通に戦闘するのは?もっと話をするのは?」


「・・・」


「アッキーはゲームの時の方が強いわ」


 アッキーは考える。


「僕は、弱くても皆といたい」


 アッキーはエリスの言葉を理解しようと努める。


「明るいあなたは」


「・・」


「前へ進んでいくから」


 アッキーは聞く、


「やめることなく」


 アッキーは聞く、


「切れる、怒ることなく」


 アッキーは顔を引きつる、そして黙って話を聞く。


「立ち上がり」


 アッキーはずっとエリスを見入る・・・。


「量ることのできない何かを抱いて」


「のびていくから」


「・・・・」

 アッキーは考えている。


「このままだったら、ここで命が尽きる」


「生きて」


「前へ」


「・・」


「きっと、あなたの未来は明るくなるわ」


「・・」


「さあ、戻りましょう」


 ―――――。

 アッキーは怒った時に止めてくれる仲間がいました。アッキーはライムを守りましたが、それはアッキーも同じです。

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