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第13話 初心者の夕べと他の冒険者 

 ダンジョン五階層でアークピクシーを倒したライム一行は、五階層の入り口に戻り通路で眠る。翌朝、アークピクシーを見に行ったエリスとカタリナ。

 傷ついた体は一晩のうちに治っていた。HPの概念は傷ついた体と同等であり、傷口も完全に塞がっている。残る傷があれば治癒出来ないもの。

 毒なら、回復する前にHPが底をつけば死ぬ。どちらにしろ、緊急を要するものはなかった。


 朝、目覚めるとエリスとカタリナの二人は起きていた。近くにいる。射しこむ光が二人をライトアップするように後ろから照らす。俺は昨日の疲れで思うように起きられず寝たまま二人を見ていた。


 二人は既に見に行って戻ってきたらしい。なんでも昨日と同じ道を行こうとすると緑の苔も黒の鱗も、荒らされた形跡が全くない。それはコケが復活したことになるのだが、地形変動ならそれが有り得ず、俺の中では()()()()()()()()()()という位置づけになった。


「おはよう、カタリナ」


「―――」

 無言のままのカタリナ。


「アークピクシーはどうだった?」

 外見から読み取れるが、一応尋ねる。


「ぃぇ・」


「復活していなかったわよ」

 背中を向けてエリスは俺に言う。


「二人とも険悪モードだったのに見に行くんだな」


「ええ、そりゃー確かめないと」


「気が済みませんから。あんな惨殺の仕方されたら、例え良いモンスターでも・・」


 気まずい空気が流れる。余計に悪化させたような・・・。


「そんなこと言って、本当は仲がいいんだろう!」

 俺は取繕うために冗談を言ってみた。


「いいえ」


「全く」


「まあ、そういうな」

 さらに解けていく。



「はら~っ」

 モニカさんが気持ちよさそうに横になり寝ている、そこをゴロンと仰向けになる様に倒したエリス。

「はぁぁあぁ・・」

 どうやら目覚めたようだ。


 俺もアッキーのキャメルタオルを取り去った。

「・・・ぁ」

 すぐに目覚めるアッキー。 


 目覚めたところで、

「出発しましょう!」


 というより起こしたんだが、いいだろう。




 そして階段を降りていく。


「足元に気をつけて」


 階段は貝殻がいっぱい、まさに貝段。この世界に貝は存在しない。だから異世界からフロアごと持ってきた時に一緒に運ばれたんだと思う。

 少し位、中身があっていいものだが 仮にあって繁殖したとしても海のモンスターに食べられて絶滅するなと思った。

 よかった、岩の上に置いたボートがあった。


「アッキー、ボートを運ぶから手伝ってほしい」


「うん」


 朝から大変、しかも昨日の疲れがまだ残っている。これはHPとは関係のない体力だろう。


 用意は出来た。

「さあ、行きましょう」

 ボートを水に浮かべオールを漕ぐ。


 洞窟の入口付近に大きなクラーケンが見張っていて、こちらを見ている。真っ暗で見えないと思うが。とにかく出る時に戦闘になるな。


「どうするんだクラーケンがいるぞー!!」


「たまに沈めって思わない~?私のファイアボールも、ここからだと洞窟に当たって危ないし~」


「これじゃー外に出られない」



「手荒いけど・・」


「羽ばたかせ、風の翼!」

「フロート!!」

 エリスがボートから浮かび上がった。


「洞窟の入口付近で待ってて。出れる時に呼ぶからー!」

 洞窟から飛んでクラーケンのいる海へ出ていく。


 外に出ると、エリスはクラーケンの目の前で止まる、そして左右に動き引き付ける。



「ザパパ、パパパ!!」

 水が跳ねる音が外から聞こえた、クラーケンが動いた!


「ライムゥー!」


「行くぞ、皆!」


「おおー!!」


「クラーケン!!クラーケン!!クラーケン!!クラーケン!!」

 カタリナとモニカの二人でもボートは、すんなり進む。



「現せ、怒りと熱の化身よ!」

「エクスプロード!!」


「ボファッ――・・ドッゴォーオオオオオン!」

「ブハブブブブボボボボォオオオ!!」

「バシャシャシャーン!」

 空を飛んでいるクラーケンの口の中で大爆発が起こった。圧縮する体の中で炎と熱が逆らうように膨張し、体を燃やす。熱と炎は体を破り外に逃げていく。最後にはクラーケンは破裂し、体の一部が空に飛び散った。


「パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!」

「パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!」


 おえっ気持ち悪い~。破裂で海が波立ち酔ってしまった・・・。


 エリスはフロートでモニカさんのボートの上へ下り合流。

 フロアボスを一発で爆散できる強さがあってダンジョンマスターまで行かないエリスは不思議だった。それから波があるからか、レインボーフィッシュに襲われることなくボートは順風満帆に岸に到着する。






 三階層、レッドスラたちの姿はなく、地図を見て敵にあわないように戻った。


「おっ!お前たち」

「あ、あなたたちは」


「クリアーバタフライにやられてた冒険者達じゃねーか」


「冒険者たちです」


「それにしてもよく上がってこれたわね~ぇ」


「頑張って修業した成果です」


「ゴメンナサイ、私たち急いでますから」


「今度また」


「いいぞ、気にするな」


「お前たちが一階層の変色男を倒したのか?」


「何の事です?」

 ボストロリンの事か、当然知らんぷり。


「知らんか」


 助けてもらったお礼もロクに言えず三階層の魔法陣から二階層に戻る。予想外にマントは邪魔にならず。ただ女三人とも正座していた。ちぇっ、もう学習したのか。俺の冒険者としてのイベントが一つなくなった。運営以上に勝手だなお前たち。


 二階層に着くと雨で洞窟から出られなかった。しばらく止むのを待っていると他のギルドが走って来る。

 雨避けの布張りを持っている。だが体に赤いアザをたくさん作り、髪の毛が乱れていた。体の異常の原因よりお宝を探っていたせいだろう。ここに長居はしない方がいいのに。


「宝、見つかったかバス」


「こっちもないぞ」


「悠々自適な生活を送るのよぉ、もっと念入りにぃ」


「そうよぉ、頑張って見つけてー」


 雨が止んできたので俺たちは、宝探しをしている冒険者に話しかけた。お金に目が暗んで頭が悪く見えた。


「俺たち上の階から来たけど、宝なんてなかったぞ」


「うそぉ~」


「ここって宝がないのか?」


「見つけたアイテムはこれです」

 俺はマンドラゴラと朱花の蜜を見せた。あとはクリスタルサンゴと真珠くらいだがあれを取るとなると命を落とすことになる。


「何だ、これ?」


「珍しい草と赤い蜜だけなの、たった」


「はい」


「雨にどの位、打たれてました?」


「水よね、確か二回ほどよ。体が赤くなったから、すぐに防水オイルを塗って、この布と木の盾で防いだわー」


「皆さん、お互いの顔を見て下さい」


「えっ、顔って」


「近寄って」


「何よこれぇ!」


「なんでこんなに短くなっているの。これじゃー老婆じゃない」

 肌が赤く爛れている。


「本当だ、顔色悪いっ」


「あぁ、お前の顔を見ればわかる。それに俺の体も・・」


「気を付けてね」


 雨が止んだ。カタリナがヒーリングを唱えると赤い斑点が消えていった。酸がダメージとして蓄積されるものでよかった。だが溶けた毛は戻らない。これが目の粘膜などを傷つけていたら致命傷になったと思う。


 道を行くと途中で体が溶かされたのか鎧とロッドが残されていた。人の皮膚の方が武器や防具より溶かしやすい。

 また、別の場所に削られた岩があった。もしかしたら鉱物を運ぼうとしてずっと雨に打たれていて・・・・。血は流れ、肉や骨は酸に溶かされて残らない・・・何も。

 想像すると悲惨な光景になるので、逃げて行ったことにしよう。


 二階層入り口まで戻る。途中、エリスがアシッドレインを唱え酸性虫を退治した。


 一階層に着くと、すぐにトロリンに見つかった。だが意外と早く倒せた。自分でも驚いている。エリスとの修業の成果を感じた。


「さあ、出口よ」


 俺達は、ダンジョンを出た。


「なあエリス、もし主が扉を再び閉めたらどうすればいい?」


「それはないわ」


「どうして、そう言い切れるんだ?」


「主はここまで辿り着いた冒険者達を、この中で確実に殺す必要があるから」


「そうなんだ」

 ダンジョンは冒険者を幽閉するためにあるんだった。


「それに、閉めるのなら既にやっているはず」






「ふぁあぁ~」

 ダンジョンマスターは五階層までのフロアボスが倒されていることなど気にも止めてなかった。

 そしてダンジョン城壁の上空では監視役のガーゴイルが冒険者の出入りを見張っていた。


「クワァア!クワア!クワア!クワァ!」


「なーに、冒険者がどうかしたぁ?」


「クワクワクワァア!」


「また、冒険者が出ていくぅ~?」

 扉の封印が破られてたんだしぃ~、上ってくるのは放って置くのがいいのぉ。どうせ途中でやられちゃうんだからさぁー」


「クゥワァ~ッ!」


「いいえっ、捕虜は欲しいわよっ、でも下りるのが面倒ぉ。それに、その仕事はあなたたちがやるの。でも冒険者が変わっちゃって戦士ばかりぃ入ってくるのよぉ、嫌になっちゃう。エルフやドラゴン族だけじゃない、魔法使いやヒーラーも極端に少ないぃ~」


 ダンジョンの城壁上空には結界が張られ、外からの侵入は誰も出来なくなっていた。






 川を渡り、岩壁のラクーダの元へ。一日ぶりのラクーダは元気だった。ラクーダに乗って街に戻る。バランスを取るだけでも体の節々が痛い。

 外のモンスターたちがマントやローブに着いた血の匂いに誘われ、頭上に近づいてきた、ボルフライだ。


 エリスのスティックから空に放たれる炎矢、近づく敵の軌道を妨害する。その間にラクーダは早々と駆けていった。




 【初心者の夕べと他の冒険者】


 街に戻ると昼を過ぎていた。夕食までは腹が持たない、すぐに酒場に行き食事を取る事になった。


「グゥウゥ~!」

 安心からか胃を開放する食欲の音。


 酒場に入る。

「グルルルルッ!」

 さらに腹の虫が鳴る、いや獣並みの虫だ。酒場にいる他の冒険者の料理の匂いが鼻と腹を刺激した。昨日の夕食後も、実はまだお腹が空いていた。


「装備品を新調したかったんだけど」

 エリスが何か呟いている、まさか食べずにそんなの見るのか。間違えた物を買ってしまいそう。


「あとにしましょう」

 モニカさんがサンディーカレーを頬張る。我が道を行っているので止まらない

「おいしいわあ~、おほほほっ」


 それを横目で見ると、エリスも一緒にたべた。正直、エリスも空腹なのだろう。


「うまいなぁアッキー」

 料理は、作り立てが一番おいしい。


「うん、美味しい」

 アッキーの口がにやけるような形をした。


「なんでこんなにおいしい物があるのに、俺たちは我がまま言ってたんだ」

 そしてチッキンを食べて湧水を飲んだ。


「うまい」

 小さく言うアッキー。おまえはその台詞が良く似合う。



 以前の冒険者がこちらを見ている、俺たちがダンジョンから戻ったことに気づいたようだ。


「あそこを見てみろよ」


「ああ、いつぞやの冒険者ね」


「ちょっと行ってくる」

 冒険者が席を立った。


 俺たちのテーブルの前にきた。

「おや、珍しいとおもえば先日の馬なし冒険者じゃーないか、やっと馬は買えたか?」


「馬は入りません」


「そうか自分が馬だからいいのか」


「そんな馬はいません」


「そっちは女ばかりでいいな。ハーレム状態だよなぁ?」


「いいえ、男にも負けないくらい強いです」


「そうか、で冒険はどうだったんだ?」


「大変でした」


「なら手伝ってやろうか?俺たち女がいねーんだ」


「あっちに行って!」

 エリスがスティックで顔を叩いた。


「何するんだー、この女!!」


「―――」

 エリスが厳しい顔をする。


「はっ、なんだよ?」


「ごめんなさい、今はそんな気分じゃないの。これで叩いたお詫びに」

 といって二人にモニカさんは200Goldを手渡した。


「ちぇっ、お前たちだけか」

 と受け取り席に戻っていった。


 俺は強くなったので気にならない。




 昼食後、教会に行くとセイラが天使の像にお祈りを捧げていた。


「セイラー!」


「ライムさん!」

 俺が声をかけると、セイラは元気よく返事した。


「ダンジョンから戻られたのですね。神のご加護に感謝します」


「そうだ、全員この通り無事だ」


「心配していたんです。ところでもうダンジョンは踏破されたのですか?」


「いや、まだ途中で一度戻ることになったんだ。休息と装備品を買いにな」


「そうですか、また行かれるのですか」

 少し声を落とすセイラ。


「これ」

 カタリナがセイラにマンドラゴラの花を渡した。

「ダンジョンにあった花が咲く植物です。毒があるかもしれないので気を付けて下さい」


「花・・は、はい、わかりました。これ植物の香りがします」


「そうなんだ、セイラに良いと思ってさー」


「はい!」


「それと冒険で丸一日、体を洗ってないんだ」


「それなら・・」

 セイラは、ゆっくりと歩いていく。


「俺たちで歩いて行くから大丈夫」

 俺たちは清めの場に行った。中は開いていて誰もいない。




 それぞれに分かれ、清めの場で体を洗う。


 俺とアッキー、


「ダンジョンどうだった?、俺は初めてのモンスターと、見た事がない罠で対応できなかった」


「僕も、罠は多いと思う」


「ダンジョンの攻略法とか書くものないから、頭で覚えないといけないなあ」


「忘れないと思う」


「まだまだ先は長い。アッキーも全部覚えていられないぞー」


「ん」


「水が気持ちいいな」


「冷たいね」


「まあ、無事戻ってこられたから」

 いいんだ。




 エリスとモニカとカタリナ、


 清めの場の天井はガラスの素材で出来ている。昼の刺し込む光は夜に比べ明るかった。その光は体をいつもより白く綺麗に照らす。


「頭がかゆーい、ダンジョンにハニーシャンプー持ち込んでもいいかしら~?」


「全て合わせて持てる総数は三十個、シャンプーの余地はないわよ」


「手に持っていくもーん」


「一緒」


「はぁー」


「どうしたのよぉ、カタリナ」


「きゃあ、冷たいから手で触らないで下さい」

 冷たがるカタリナ。


「ゴメンゴメン、これ滝行の修行をやっているようでぜーったい慣れないわ~」


「ばい、苦しい思いで戻ってきてこれです」


「そうよねぇ。そうだエリスさんアクアウェーブでパシャンとやってくれませんか?銅像から出る水が止まっちゃったわーははは~」


「いいわよ」


「ちょ、ちょっとエリスさん待っててね、カタリナも早く全身洗わないと遅れるわよ~」

 全員が頭から足まで、ソープピーをつけたタオルで擦った。


「いくわよ、皆少し離れて」


「はーい」


「アクアウェーブ!」

 エリスが魔術を唱えた。


「きゃぁあああ~っ」

 全身に一気に波を浴びる。


「これ、これだわ~」


「っぅ~」


「ふぅ」


 魔術の水は教会の水より温かかった。



 俺とアッキーが清めの場を出ると、セイラはドアの前で俺たちを待っていた。

「セイラ仕事はないのか?」


「お戻りになった最初の日は、私がお世話します」

と言い張るセイラ。


 しばらくして三人がドアから出てきた。


「今度セイラも一緒に入りましょう」

 モニカが声をかける。

「ぇぇ!ご迷惑でなければ・・」


「迷惑だなんて、たくさんいたら色んな事ができるわよぉ」


「私、楽しみに待っています」


 そう言って清めの場から皆で出る、教会の入り口前に来た。


「セイラ、頼み事がある」


「はい何でしょうか?」


「実はダンジョン三階層に捕虜となった人達がいるんだ」


「それは重大な事件じゃーないですか!」


「誰の情報か知られないように、その事を広めてほしいんだ。もう一度言うが、俺達の事は内緒にしてほしい」


「分かりました、命を救うことが私の使命(仕事)です。他のシスターにも話して広めてもらいます」


「ありがとうセイラ」


「いいえ、ライムさん」


「それと・・」


 俺たちは教会の入り口でセイラと別れた。


 教会を出るとすぐに防具屋に向かう。


 この街に来て既に何十日が経つ。街での生活も慣れた。街の人の服装を知ると、自分達が以前変な格好(私服)を着ていた事が認識できる。

 さっきセイラにバスローブを借りたからよいが、急に俺は心配になってきた。

 ダンジョンの開放を探る者と新しい冒険者を見張る者の存在を感じたからだ。

 冒険後の雰囲気はどうかな?楽しい、つらい、どちらもあります。ダンジョンを一度で攻略クリア出来ず。てはっ。

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