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鱗と苔 2

 ダンジョン五階層に入ると鱗と苔があり、散々な目に合うライム。さらにライたちに状態異常を引き起こす苔の胞子が落ちる!ずっとかわすのが困難なため、当初の計画コケの調査が始まる。

 調査は黒い鱗の上を歩くことから始まった。すると、この鱗には種を持つ草が生えない事が分かった。だから胞子も出ない。

 ただ、この黒い鱗のエリアは渦を描くように生えていて途中で切れている。安全な道だけ歩いて目的地には行けない。


「黒い鱗は無関係に生えてない?」

とエリス。


「当たってそう」

 俺はそう思った。


「仕方がないからライム、また緑の苔の上を歩いて」

と短気なモニカさんが俺を急かした。


「また?胞子の時、俺が一番ヤバかったんですよ」

と言いつつ、俺はジッと見てカタリナに訴えた。


「何ですか?」

 カタリナが問う。


「ライム、先頭が嫌みたい」

 モニカさんが俺に変わって代弁する。


「アッキーお前が先頭行けよ。何後ろでモニカさんとカタリナの匂い嗅いでるんだよ?」


「え!?」


「くんくんくん、ああ~いい匂い。髪の毛がファサーって顔にくっついたぞとか、一人イベント待ち状態なんだろうけどさ~♪」

 俺は声を大にしてアッキーに言った。


「ううんん」

 アッキーが顔を振り全否定。


「そうなの。それじゃ、アッキーも前に行って。二番目でいいから。後ろはエリスさんがいるし」


「お好きに」

 エリスのちょっと格好つけた言葉が自信の表れ。


「僕、前行くよ」


「決まったかアッキー、仲良くしよう」


 アッキーが列の二番目になる。アッキーの体で前方が見えないモニカさんは首を伸ばして前を確認した。自分で言ったことは取り消せないのだろう。

 それならと俺は、モニカさんの動きに合わせて揺れてその視界を塞いだ。怒るモニカさん。だが好きな事をできるのが先頭だ、はっはっはー羨ましいなら前に来い!いつでも変わってやる。


 それを気にしてアッキーがモニカさんに話しかけた。

「どうしたの?」


「ええー?ただこの鎧錆びているなーと思って見てたの~」

 モニカさんは、腐食した鎧の話をして惚けた。


「買い変えないといけませんね」

 カタリナも覗き込むようにして話に加わる。


「僕は構わないけど」


「さすが戦士たる者は何事も我慢よねぇ」


「アッキーさん偉いです」


 男の株を上げるアッキー、好感度が5は上がったと思う。


 みんな我慢している。しかし俺が一番我慢しているのだ。なぜか俺ばっかり損な役回り。冒険者で普通ナイトといったら最高の装備品を身に着けて美味しいイベントばかりあって格好いい展開待ち。それが滑って転んで頭打って濡れてボロボロと、まるで戦士の役回りになっている。

 モンスターが、あまり出現しないのがせめてもの救いだが・・。



「ここ、緑の苔と一緒に種を持つ草があり花も咲いているぞ。また何かあるかもしれない、急ごう!」


「うん」


「ササッ・」



「前をしっかり見て!!」

 弛む空気を張るためにエリスは一喝!最後尾のエリスはその苔の全容を一望していた。



「―――!!」


「ドササササササァ、サササァササァサッ!!」

「パラパラパラポトッ・・」


 目の前に苔の壁が出現!俺達は行き場を失った。皆アッキーの鎧に気をとられ過ぎだ。


 出遅れたので後退するエリス、モニカ、カタリナ。アッキーはすぐに攻撃体勢をとり待ち構えた。どんな罠かすぐに悟った俺は、覆い被さるように捲れた苔に対し思い切って前進する。戻そうと試みたのだ。


「きゃあぁ!」


「ああっ!」


「っつ!」


「ザザザザザッ!!トトササササッバサッ!!パラッ・・・」


 布のように軽い物ならともかく、苔の壁は意外と頑丈で戻せず上から落ちてきた。


「っ!!」

 俺は右にかわす。


 全員かわしたかと思ったらアッキーがいない!


 苔の壁に潰されたか。苔と土自体はそこまで重くないだろうが水が飽和状態ではそれも断言できない。苔が生えたマットは裏返っていた。こげ茶色の土と、小さな花の根らしきものが見えている。盛り上がった土がある、そこにアッキーがいるのか?


 大きな花!!


 マットが剥き出しになった地面から焦げ茶の土が見えていて、盛り上がった土の部分から大きな花のモンスターが出現した!


 この巨大な花が、苔のマットを捲りあげた元凶で、花の親玉だろう。もしこれがこのフロア中にいるとしたら、どれだけ戦闘になるのか。動いた距離に比例して敵が増えることになる。


 罠は胞子を出す緑の苔に生える草だと騙されていた、いや侮っていた。本当はさらにその下に伏兵が待ち構えていたのだ。


「アッキー!!」

 見るとアッキーは這い出ていた。 巨体がクッションの働きをして重さに耐えた。


「よかった。この場所も早くしないと胞子が来る、速攻で倒すそ!!」

 俺は黒の鱗がある所がないか探した。


 だが花のモンスターは、太い茎からのびたツルを鞭のように(しな)らせ攻撃してくる!


「ヒュンヒュンヒュン!」

「ジュパッ!!ジュスッ!!ピチッ!!ズッ!!ジュパパパッ!!」


「危なっ・・っぅ」


「痛っ・・・」


 乱雑な蔓の鞭さばきを完全に見切ることはできず俺は体を打ちつけられた、肩が擦り切れ透明なトゲが刺さる。誰かを庇ったエリスもダメージを負ったようだ、声が聞こえた。何故庇ったと思ったのか、それはエリスの体術(身のこなし)がこのメンバーで一番優れているからである。


「うあっ」


「大丈夫?みんな」


「パッ、パッ・・」

 土が飛ぶ。


「うわっ・・」


 粗放な乱雑な蔓の鞭さばきは剥き出しになった地面を打ちつける!俺は目を細め、今の攻撃に対する全員の状況を即座に把握する、大丈夫問題はなさそうだ。


「痛たた、痛」

 急に瞼が重くなり眠気が出た、なのに痛みからか倦怠感がして眠れない。これが状態異常なのか。 


「うわっ!」


 胞子が飛んでいる所に逃げるわけにはいかない。距離を詰めれば蔓の鞭の威力も弱まるはず、そう読んで足を動かす。


「シュル」

 やはり上手く蔓を撓らせれない。蔓が自分自身に当たっている。


「ジュス、ガリッ・・」

 剣をぶっ刺す。思ったより力が必要で硬い。それ以上剣が刺さらない。


「パシッ」


「かふっ・・」




 タイムリミットは、それから始まった・・・・。


 大きな花は胞子を空に打ち上げた。そして小さな花のモンスター(苔に生える草)も胞子を空に打ち上げた。


「胞子を飛ばしているぞ、さっきの草の仲間じゃないか!!」


「あれと同じ敵よ!!」


「逃げろ!」


「ぁあっ!」



「ビシュ!パシィン!タンッ!!」


「くっつ・・」


「ダッダッ!!」


「ザッン!ザン!ザザ!」


 アッキーは、太い茎を切ろうと向かっていった。刃が太く大きい斧なら有効だろう。肉を切らせて茎を絶つ思惑が上手くいったが倒すことは敵わない。その場から逃げ出せず、呼吸を止めれず空気(胞子)を吸い倒れた。


 アッキー以外の四人は走って散るが・・。 


「体が動か・・」

 その胞子は体の自由を奪った、エリスの動きが鈍っていく。


「おいエリ・・」

 取り付く島もない、せめて黒い鱗がある場所まで・。



「メディ・・・」

 ライムに近づくカタリナは光るロッドを残して足が崩れていく、

「はぁはあ、もう」

 息が続かず瞼が閉じていく。


「はぁはぁ、はぁはぁ、あぁっ」

 モニカも動きが鈍る。麻痺なのか足に力が入らず倒れる。


「パシッ!パシッ!」


「バシュッ!パシッ!」


「パンッ!ピシッ!」


「ペシッツ!バシィ!!」




 音に心を掻き毟られたのか、蔓の鞭に打たれたからか、俺は目を覚ました。そして見ると全員が倒れていた・・、やられたのか。


「ミジャウ!ジュウ!パシッ!ビシュッ!!」

「ジュパッ!ミジュー!ビシュッ!パシッ!!」


 そこで鞭打っている花のモンスター、みんなを一度に狙うので蔓の鞭がうまく当たらないようだ。絡まっている。だがそれでも時々当たるので、着々とダメージは積み重なっている・・。地面の苔を叩く音、蔓の鞭が風をきる音、誰かを擦り切る音が混ざる。


 メニューで敵を確認すると、


 ≪マレイスフラワー **が成長して花を咲かせたモンスター。蔓の鞭で打ち、胞子を広範囲に飛ばす≫


と載っていた。


 俺は標的にならなかった。またすぐ眠っていったのであまり胞子を吸わなかったのが幸いし手足が動いた。状態異常がどういったものかは詳しく知らないがこれで戦える。


 そして一気に倒すっ!!


 走って近づき攻撃する。


「グッ」

「おおあああぁっ!!!」

「ジュシャ!ジュシャ!ジュシュッ!!」


 何度もマレイスフラワーの茎の部分を突き刺した。そうすると蔓は動きが止まる、だが今度は胞子が落ちてくる。

 胞子を吸いこんだからか、俺は刺したまま動けなくなった。


 ・・・。


 ―――。




 二回目の気絶後、

 目を覚ますと俺は生きていた。緑の苔の削がれた地面の上で皆と倒れていた。その中にエリスはいなかった。


 いた!


 エリスは周囲の景色に溶け込むような感じで遠くの苔を座って見つめていた。


「お、おはようエリス!」


「起きたの?」


「うん、エリスの調子はどう?」


「いいわよ」


 いいか、

「そうだ花は!?」


「倒したわ」


「エリスが倒したのか?」


「いいえ、あなたよ」


「そうだ皆は?」


「生きてる」


 俺は皆の所へ近寄った。全員、脈も息もあった。助かった!


 アッキーの顔を軽く叩くが開いた目がすぐに閉じた。

「大丈夫そうだ」


 他の女二人は触るのは気が進まなかったので、起きるまでしばらく待つことにした。


「エリス、話があるんだがまずは教えてほしい。俺が気絶した後どうなったんだ?」


「アッキーは敵に斧を振り下ろして、何度も攻撃を繰り出していたわ。そこにマレイスフラワーと緑の苔に生える草が胞子を出したの。花が草の胞子を吸いこみ毒されていった。ほとんど体が水分でできているマレイスフラワーにとって、その影響は絶大だった。

 あの小さい草が、大きく育つとマレイスフラワーになるんだと思うんだけど罠がありすぎたのかもしれないわ」


 自業自得の自滅か、植物の構造や習性によって偶然重なった結果だろう。


「でも俺が眠りから覚めた時、まだマレイスフラワーは生きていたぞ」


「それならあなたがトドメの一撃を与えたんでしょうね」


 マレイスフラワーの胞子が落ちてきて、眠気を誘い痺れが起きてみんな寝てしまった。


 エリスは眠ったはずなのによく知っているなと思った。寝たから胞子をあまり吸わずに済んだのか?


「うんん、が」

 アッキーがゆっくりと目を覚ました。痺れの影響かピクリとした?


 俺の手の平には戦闘後にも関わらず棘が消えずに残っていた。俺は丹念にアッキーのトゲを引き抜いてあげた。


「アッキー、目を覚ましたか?」


「ぁ、うん」


「これで二回目だ、助けてもらうの。今度飯でも奢るよ」


「いいよ、もう戻れるか・・・」


「そっか・」


「みんな?エリスさんは」


「・・・おはよう」


「私たち眠っていたんですか?」


「ええ、ぐっすり」


「んんっ、あ~~っ。みんな服が泥まみれー」


「見てわかります。それより足が出てますっ」


「あわっ!つた*よ+!」


 悩ましい恰好である、俺とアッキーは眠気がふきとんだ。


「何が起こっていたの~、私のローブが切れてるじゃない!!」


「こうやって縛れば、結び目スカートの出来上がりです」

 カタリナがローブを縛ると、モニカさんは渋々納得した。


「あれ、花はどうなったの!?」


 花はどこを探してもなかった。あるのはオレンジ色でゼリー状の固形物。


「蜜に変わったみたいですよ」

 二人は気づかなかったのか。


 それを手に取る。メニューで確認、手に入れたアイテムは朱花の蜜と表示されている。


「これ戦闘でドロップした初アイテムじゃない」


「そうです。朱化の蜜、初入手ですよ!!」


「高く売れそうね」


 売るのか(惑)。


「ここから緑の苔しかないから、そのまま走って突っ込むぞ」


「はいっ!」


「うん」


 体の土を払いトゲを完全に抜いて俺たちは進んだ。こういった危険な場所が近づいたという事はボスも近いのか。辺りは既に暗くなっている。早く目的地に着きたかった。






「あれは!」


 一本の木の前に羽の生えた女?のようなモンスターがいた。背中に羽があるのでモンスターなのは間違いない。


「特徴からフロアボスで妖精かな、悪そうな顔」


「人型の蝶といったところか、顔に模様が入っているな」


「でなんだが、どうする?」


「倒さなくちゃいけないと思う。あ、待ってあれは!」


「マンドラゴラ!」


 土から顔を出した大根のような形から、それが何か判別できた。草が少し動いている感じがするのはそのためだ。


「マンドレイク、この世界に古くからある植物で図書館にもその名前が記録されていた。魔術薬や毒草にも使われ、その根は幻想や幻聴を引き起こすと言われるが、なぜ育てているのかしら?」


「大麻草栽培の要領で売って儲けるとか?」


「ふざけないで。貴重なマンドラゴラを売って儲かるのは人間の世界だけ、モンスターには関係ないわよ」


「それはないか。てへっ」


「アイテム作成のための調合や実験はどうだ?」


「それも聞いたことがない」


「エリスさん、妖精なら相性もいいし植物の栽培も簡単ですよね」


「仲はいいから合ってるわよ」


「なら普通の黒の鱗の道を歩いてきたら、あのマンドラゴラが暴れるとか別のイベントが発生するんじゃないのか?」

 俺はある推論を立てて述べた。


「どうかしらね」


「う~ん」

 アッキーが顔を捻っている。


「何か言いたそうだな、アッキー」


「別の目的じゃないかな?」


「あっ!妖精が飛ぶぞ、隠れろ!」



「□◇□◇□―◇□」


 妖精は向こうの方へ飛んでいき、何か所かに魔術を使っていた。



 全員、身を屈め伏せた。服が土で汚れたのでカモフラージュにぴったり、敵に見つからなかった。メニューを開き名前を調べる。


 ≪アークピクシー このフロアを管理する上位の妖精≫


「妖精の名前はアークピクシーだ。それと光りが見えたが・」


「攻略されないための何かよ、どう思う?」

 見えているのに答えてくれない意地悪なエリス。


「フロアを変える」

 俺がいったのと同時に、


「フロアを変える」

 エリスが言った。



「フロアの難易度」

 アッキーも思考中。


「そんなの単に魔力の補充のため、栽培を命令されただけかもしれないじゃない。私はもう疲れてヘトヘトなんだけどぉ」


「ここも早くしないと胞子が飛んでくる」


「では、手短に作戦をたてよう」


 全員でしゃがみ円陣を囲んだ。


「まずダンジョンは、土、花のモンスター、胞子を出す草、コケ(黒と緑)の順に配置された」


「そうね」

 エリスが相槌を打つ。


「次にマンドラゴラを育てるアークピクシーがいるということ。他に同じ場所はなかったから六階層の前でほぼ決まり」


「それで」

 カタリナとモニカさんも相槌を打つ。


「それ以上はわからない」


 ドテッ!全員がよろける。


「取り消すわ」


「コケにしたわねぇ」

 ロッドを構えるモニカさん。


「違う、馬鹿にする気はないんだ!」


「ライム~、またコケでこけてもいいのよ」

 モニカが駄洒落込みでライムをからかう。


「それよ!」


 その瞬間、俺の頭で長距離走改めコケ(そう)が決定した。

 自然の植物は危険です。毒や麻痺、幻覚の症状を起こす植物がたくさんいます。これが昔はモンスターとして存在していたのかも。

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