10話 ダンジョン3階層 抜け出せない檻
見えない敵から逃げ岩山を上ってフロアボスに辿りつく。一匹のフロアボスは見えていた。岩山に紛れ込んでいたのかフロアボスは他に二匹いた。苦戦を強いられるが仲間思いのアッキーの活躍により戦闘に勝利する。それからペンタグラムの移動魔法陣に乗って三階層に来た所。
【ダンジョン3階層 抜け出せない檻】
俺は顔がマントで覆われる直前を思い出した。
この魔法陣がどこへつながるのか。二階層のフロアから見れば空の上で天井。三階層のフロアから見れば地面の下にあたる。
今、円陣から一歩外に出たら、あの世行きなのではないかと言う考えが頭を過り、心配しながら上下を交互に見ていた時だった。
不意に顔を何かが覆った、その正体はマント!視界ゼロになると危険なので動けないし動かない。
それから声が聞こえた。
「空にも円陣がありませんか?」
とカタリナが言う。
「あの円陣と一致するのよ」
とエリスがこたえ、
「最後のPIECEとなって入るんですね」
とカタリナが理解したのだが、
「ぶつかるー!!」
とモニカさんが叫び、
「きゃあ!パタパタ!バタバタバタバタ!バサッバサッバサッ!」
「ドタッバタッ!きゃあっ、あっ・・」
と音と声がして、
静かになった。
俺は咄嗟に、ぶつかる衝撃に備えるため頭を覆ったマントごと手で抱えた。しばらくして風が止み、ゆっくりと手を離したら皆がいない。
カタリナたちの会話通り上空の魔法陣に一致したのか?そしてアッキーに何があったのかは現在不明。
この密閉されたダンジョンに雲があり風が吹くのはダンジョンマスターの力の誇示の仕業なのか、ここだけ異次元空間なのか?も未だに解けず。
ここは夜なのか中は薄暗かった。
「暗いわね、このフロアお化けとか出るんじゃないの?」
モニカさんが言う。
「苦手なんですけど・・・」
とカタリナは身を縮めながら答える。
「そうだな」
幽霊のモンスターが出たら最悪だな。
「グニュッ!」
「うわぁ~あああ。なんだ、何か踏んだぞ!」
「!?」
「どう・きゃああ~!!」
俺の方を見たカタリナが悲鳴をあげる!
「どぉ、どうしたの!」
アッキーがつられて動揺する。
「それ、それっ」
「いやあ、悪い。俺の下にねばねばの水飴が落ちてたんだ、ほらっ!」
暗いのによく見えたなカタリナ。アイテムが落ちていたから俺はとりあえず入手した。
「きゃあーーっ!」
カタリナは魔法陣のある洞窟の方へ走って逃げていった。
「ふふっ、それスライムよ」
エリスが笑いながら俺に言う。
「スライ・・えっ?モンスター!?」
「くすっ、ライムは同族ね」
とエリス。
「これだろ、木の樹液。それで何で同族になるんだ?」
「じゃなきゃ、普通触らないから」
苦笑いのエリス。
「スライムはモンスター、そのスライムがあなたを攻撃しない」
エリスが何か言った。
「本当だ!!」
暗く透明で良く見えなかったが目が動いた。口もある。そして攻撃されていない。世界の七不思議以上の不思議が今、俺の世界に飛びこんできた。
「スライムにファイアボールを当てて調べてみない?」
「モニカさん、そんな実験しないで下さい(笑)ここは森で木が燃えると大変ですよ」
「どのみち服を乾かさないといけないからいいと思ったのぉ。いやーさっきは雨で炎が消えて活躍できなかったから不完全燃焼というかぁ」
「そんなモニカさんらしくない~」
「あははは、どうしちゃったのかな~私」
モニカさんは、遊び心というか闘争心に火がついているんだろう。私に近づくと火傷するからとか言って。
「私が焚火の火をつけるわ」
エリスが言った。
ここは木の下で落ち葉がたくさんある。いくらでも燃やせるものがありそうだ。
「エリスさん、それ修業のために私がやります。ファイアボールの詠唱を途中で止めるんでしたっけ?」
「そうよ。じゃあモニカお願い」
モニカが目の前にある葉っぱに魔術を唱える。
「ファイア・」
魔術を半ばでやめる。実際は微小の魔力を消費していた。ロッドから炎が出て収束し消えていった。その過程で葉に火が燃え移ったから成功!
「パチパチチ・・」
火がパチパチと音を立てて広がっていく。さらに皆で落ち葉と枝を拾い集めて燃やしていった。
「ああ、ああああ」
スライムの目に炎と俺たちがうつる。
「お前は?!」
俺を見てスライムは一目散に逃げていった。
「仲間かと思ったのかな?」
スライムの事を忘れていた。仲間だと思われたのか運がよかった、でもスライム可愛い奴だった。
「服、乾かそう」
カタリナが疲れた声で言う。雨やモンスターと戦い体力を奪われた全員が疲弊していた。さらにそれが体の異常を引き起こす。目が重く、眩暈と頭痛と寒気と吐き気が襲いかかった。このまま放っておくと、さらに押し寄せてきそうだ。
俺たちは、焚火を囲んで暖をとった。
「どうするみんな~、別の服に着替える?」
この世界に着てきた服があることを思い出すモニカ。
「体が濡れているのに服を変えるのもねぇ」
エリスは反対した。
「着て暖まればすぐ乾くと思います」
カタリナが提案。
「そうね。ただここはダンジョン、急にモンスターに襲われると防御力が弱いとダメージを多く喰らう。そして異世界の服はちょっと目立ちすぎるわ」
「ああ~っ、ローブ脱ぐわけにいかないしすぐに乾かない!」
じれったいモニカさんは叫んだ。
「モニカさん、俺たち後ろを向きましょうか?」
「そんな事言ってライム二階層でエッチなこと考えてなかった?私はわかったんだけどー」
「そんな事ありません。三人の濡れたローブ姿は見ましたけど、それはイメージが違って見えたからで」
本音は隠しているけど、これは嘘じゃない。俺は後ろを向いた、それを見てアッキーも後ろを向く。
「その時、初めて私はモンスターが仲間にいたのを知ったわ」
「はいはい」
どうせ俺がモンスターなんだろ。
「ライムあなたよ。スケベなモンスターだから、えっとぉ」
「スケベモンスター?」
カタリナが言う。
「それ!スケベモンスターよ、それで決まりね!」
瞬間、強制的に俺は“スケベモンスター”の称号を授かった。
「スケべモンスター」
エリスも言うのか。復唱しただけでも言ったのと同じ!一応女なのは認めるけど俺の守護なんだぞ。
「みんなリーダーリーダーって親しんでくれたのかと思って俺はここまで頑張ってきたのに、くっつ・・」
「スケベモンスターをつれて歩くわけだから気を付けてエリスさん、カタリナ」
まだ言うか。
「はい」
「そんなアッキーだって」
アッキーは後ろを向いたままだった。女達には、その背中は頑なで戦士の鑑に見えているだろう。俺の見立てでは絶対隠れスケベモンスターなのに!
俺はふっ切れた。どうにでもなれ!
「そうだ!俺はスケベモンスターだ。だるさで冷静さを失った暴言女どもめ」
「認めたわ、たとえ生命の危機に陥る私たちでも、これは重要問題」
「なら、そこの洞窟にでも籠れよ」
「いい案ねスケモン。だけどローブ置いてどうやっていくの?それはミステイクよね。仮にそれが出来てもローブ、盗んでいくんじゃない?」
ロッドをスケモンに向けるモニカさんは完全に俺を犯罪者扱い、俺は後ずさった。
「二人が洞窟でローブを脱いで、私が乾かすわ」
エリスが提案する。
「それなら私がやります。回復も戦闘も全然、役に立っていませんから」
「いいから」
とエリス。
「俺がやろうか?」
「スケベモンスターの称号持ちはお断りよ!」
エリスが俺を嫌った。現代ラノベ用語を使いこなしたエリスの言葉は異世界を越えていた。
アッキーは焚火を背に地面を見つめていた。いつもああやって殻にこもっているが、何を悩んでいるのか? ともかく俺も濡れていては気になるので服を乾かすことに専念しよう。
二人のローブが乾いてくるとモニカはエリスとローブ乾燥当番を交替した。
「これローブ」
「ありがとうエリスさん」
「ローブそこで持ってて」
エリスはモニカにローブを持たせ、洞窟から手を伸ばし魔術を唱えた。
「舞い上がれ、空に浮かぶ旋毛のように!」
「ワールウィンド!!」
モニカの持っていたローブだけ、くるくると空へ舞い上がる。そして上からふわりとローブが落ちてきた。風による乾燥である。
「湿っぽいけど大分乾いてる!」
「それだと早いでしょう」
「ええ」
モニカはそれを持って焚火の方で乾かした。乾かしながら自分も暖まっている。
「ここできちんと乾かしてから進みましょう。魔術で風邪は直らないから」
「はーいエリスさん」
同意したカタリナ。
「もう五分はかかりそうだ」
俺はアッキーに話しかけた。
「なんか物凄いことに巻き込んでしまったな」
「え・・・・うん」
別に気にしてない。
「そうだけどゆっくり話す暇もなくて。何か悩み事があったら聞くから何でも言ってほしい。俺もお前の助けとなりたい」
「ううん・・」
アッキーは黙ってしまった。俺はそれ以上、話を切り出すことが出来ず焚火に濡れた服の部分を当てていた。
洞窟の中、エリスがペンタグラムの魔法陣を利用して明かりをつける。
「魔力に反応して光る、ほら!魔法陣の上には乗らないよう気を付けて」
青白い光が洞窟内を照らし神秘的な雰囲気を醸し出す。
「はぁ~、やっぱりエリスさんは美しいですねぇ」
と溜息を溢し羨むカタリナ。
「え?そう・・・かな」
自分の体を見るエリス。
「はい。教会の時は泡があって良く見えませんでしたが、艶と張りがあり若くみえます。魔法使いってスタイルがあまり良くないイメージなんですけど個人差があるんでしょうか?」
「どう・かしら」
適当にこたえるエリス。
「私はヒーラーですけど、見て下さい」
「私は胸が大きいカタリナもいいと思うけど、体型に何か不満があるの?」
「おおありです。この体系で攻撃を避けるとなるとその分、動かなければなりません。おまけにロッドを翳すのにも肩が凝ってしまいます」
「それだとアッキーはどうなるの」
「アッキーさんは男性です。ダンジョン攻略も、もしここで結婚、生活しなければいけなくなった時も全部関係します」
「おかしいわね。容姿や体型は、ここに来る前の世界を反映するんだけど・・」
「え、そうなんですか」
「別人が登録したなら・」
「私はお姉ちゃんの写真を使って、その方が見つかりやすいと思って」
「それが原因かな」
「はぁ、それで似たんですねぇ」
「別にそんなの戦闘に使わないから気にしなくていいのよ」
「う~ん、私が我慢すればいいだけの話ですか」
どうやら乾いたようだな、モニカさんがローブを持ってエリスたちのいる洞窟に入って行った。
さっきエリスが使った魔術を全員にしないのは魔力の温存なのがわかった。魔法使いも無駄に使ってはならない。魔法使いやヒーラーがMP0というのは戦力ゼロに近いから必要なときだけ、これが戦闘の鉄則だった。
モニカさんが洞窟の中に入った。
よし、こちらも準備をして待とう。
「うわぁ」
モニカさんの声。
「ど、どうしたぁ!!」
俺とアッキーは洞窟の方へ走った。
「ど、どうしてエリスさんはそんな綺麗なの~、肌白で美脚だけでも珍しいのにぃ」
エリスの後姿を見るモニカ。体全体が均衡と調和を保ちながら線が通り神秘的なベールを纏う艶があった。中でも足は美脚で魅力的である。
「いつもと変わらないけど」
顔だけ振り向くエリス、
「いいえ、全然違う」
「この足の線がすごい綺麗なんです。華奢なような感じがしたんですけど結構、筋肉もあってヴィーナスのように見えたんです。ほら、この膝裏なんて美そのもの。横線がなくて、縦の骨か筋肉の膨らみだけがあります」
カタリナの声だ。
「きゃっ!はひゃ~っ・・」
最初の頃は疲れていた、だから体を洗う時に気にしていられなかった。そのモニカとカタリナが初めて気づいて驚いている。
「!?」
悲鳴が聞こえた!洞窟の中だ、すぐに行くぞ!俺は駆けつけた。
「どうした!」
「ライムはこないで!!」
「ベシッ!」
俺が洞窟の前まで行ったとき、それを見越してモニカさんがロッドを俺の顔に当てる。そして通せん坊して停止させた。どうやら体の品評会をしていたみたいだ、こんなときに何をやってるお前たち。
いつでもどこでも、こういうことをやるから女というものは訳が分からなくなる。
「エリスさん、スケモンが出現したから早く服を着て下さい」
「え、ええ」
まだローブ着てなかったのか?
会話からしてエリスは下着姿だな、いやまさか裸体はあるまい。そんな恰好で二人は何をしていたのか想像するだけで、むくむくむくと・・。
「うがっ!!」
「ペシッ!」
自分の顔を平手打ちし我を取り戻した。
「はぁはぁ・・」
伝説の生物の狼男は知っているが、スケモン化もそれの一種なのかも。
「どうしたの?」
アッキーが後ろから聞いてきた。
「いや悪い、独り言だ。俺たちは離れて待とう」
アッキーに聞かれてしまったか、知っていると思うが欲を断つというのは難しいんだ。ダンジョン攻略中に男女攻略も盛り込んだ俺の目標は出来そうにない。
「おーい着替え済んだのか?」
「終わったわー」
モニカとエリス、カタリナが洞窟から出てきた。なんか少し顔を見るのが恐い。自分の顔が引きつるように張っていた。俺はそらした目をモニカさん達に合わせた。こちらを見る目が怖くない。あんまり気にしてないみたいだ。ふう。よかった。出てきてもまだ怒っていたらどうしようかと思った。
こっちはもうすでに終わっているんだが・・遅かった。
「ローブも乾いたから朝昼食にしない?」
モニカさんが洞窟から出てきて、最初の言葉を聞いて俺は安心した。まだ責められるのではないかと思っていたから。
「賛成、私もずっと根気を張りめちゃって」
「決まりね」
とエリスも賛成した。
ゲームによくあるイベントやステージを導入してみた実験的なフロアです。
攻撃的でないモンスターも中にはいます。そういうモンスターを倒すのは気が引けますが、それならいっそ仲間にしましょう。出来るのなら・・。




