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9話 ダンジョン2階層 見えない敵

 初めて冒険者の死を目の前にしてライムは絶句した。その死体を運ぶのを手伝うライムは現実を知る。さらに初めてフロアボスと戦う、勝負に勝利したライムは二階へ続く階段を上った。

【ダンジョン2階層 見えない敵】



「何これ、最悪じゃない」

 モニカさんの第一声が愚痴だった。それに続く二声、三声、


「ひど・」

 アッキーが珍しく喋る。


「これでは進めない」

 カタリナが言う。



 ツリーシードで拾い集めた木片に魔術で火をつける。その松明を持ったエリスが出口で立ち止まると、後ろからその声が聞こえた。


「どうしたんだ皆、何があるんだー」

 四人が前で立ち止まる。しかもうち三人が愚痴っている。階段を昇りきり、カタリナの背後から覗き込んだ。


「うわ~、なんだここは!」

 俺も愚痴らずにはいられない光景。


 そこにまた新たな一つのフロアが広がっていた。しかもベト地の。


「上は明るいわね」


「空がありますから」


 ダンジョンは時間にして昼をとっくに過ぎていた、松明を消したエリス一同止まっている。


 問題は地だ。見渡す限り灰色の地面と黄土色の岩がフロアを埋め尽くす。地面はぬかるみ、いくつも水溜りができている。道という道はなく岩を昇ったり、下ったりしなければいけない。


 雨が降るのか!?


「さあ進みましょう!」


「みんな、ここは横を通りましょう」

 するとモニカさんが先頭を行った。岩肌の間を通るのだ。それにエリス、カタリナ、アッキー、俺の順番でついて行く。俺はリーダーだから最後尾になった。


「おぅ」


 ゲーム感覚で工夫し、無駄な体力消費と危険を減らす。斜面で滑るかもしれないので、モニカさんの真似をするように、岩肌に手をつきバランスをとりながら進む。足を挫かないようにみんなが(こく)をゆっくりと昇り降りした。

 今度は水溜りがたくさんあるので岩を移動。水たまりというのは()()()があるわけで危険である、また泥濘(ぬかるみ)で滑って怪我をすることも避けなければいけない。


「一山昇って降りたところで次の人行ってくださ-い!」

 俺は、滑って仲間同士当たると危ないので一人一山ずつ渡る事を提案した。


「はーい」

「うん」

「一山ずつですね」

「・・」


 列を乱さない、(はぐ)れないよう進む。そして声をかけ点呼をとる。


「どこへ向かっているんですか?」

 カタリナがモニカさんに尋ねる。


「当てずっぽうに行ってるw。どこに行ったか分からなくなるからあそこに木の棒を立ててきたわ!」

 とモニカは最初の方の岩を指さす。


「木の棒、役立ちますねぇ」


「よく立てれる所があったな」

 モニカさんの木の棒が木偶の棒になるかは使い方次第。このフロアには棒切れ一つ全く見当たらないから良い方法だと思った。


「あはは~、山が好きなんだー」

 なんとすごい、山ガールでもしていたのか?経験豊富なモニカさん。



 犬も歩けば棒に当たる事もある。当てずっぽうで行ければいいけど、水鉄砲(雨)に当てられるのだけはご免だ。


「エリス、スタースティックを振ってフワリといけないのか?フロートと言う魔術で」


「魔術?使って行けなくもないけど雨が降ると危険よ、雷とか風とかで煽られるから落下するかもしれない」


「危ないな、やめ・よう」 


「ライム~、こうやっていると学生時代の登山とか思い出さない?」


「覚えてる、大人になったら山なんて行かないからな。でも頂上は目指してませんよぉ!」


「そうね!でも目的地はあるわ、三階層につながる階段という」


「そうだ、皆で力を合わせて見つけよう!」


 別々の岩でカタリナとアッキーは足が滑っていた。犬も歩けば・・が悪い意味で当たってしまった。



「はぁ・・・・、ふぅ~~」


「ゴキュン」


「ふぅ~」


 前が詰まったので俺はアッキーに近づいた。

「アッキー大丈夫か?汗すごいぞ」

 俺はアッキーの大量の汗を見て、熱中症か脱水症状を起こすかと心配した。


「だ、大丈夫」


「水はたくさんあるから」

 いやーその汗の量はどうみても大丈夫とは言えない。たくさん買っておいてよかった。


「うん」


 みんな一階からずっと動き額から汗が垂れていた。おまけに白いローブが汚れて模様みたいに黒ずんでいる。男の俺ならともなく、三人は女で気にしていた。リーダーの俺は自己中だったかもしれない。嫌われたら連携もとりずらい、どうにかしなくては。


「モニカさん、ちょっといいですか?」

 列の二番目のアッキーを追い越して、カタリナはモニカに話しかけた。


「どうしたのカタリナ?」


「私、足手纏いでしょうか?第一階層で全く攻撃が出来ませんでした」


「そぅねぇ。私は思っていないわ」


「そう・・ですか」


「こんな言い方でゴメンネ。カタリナ、これから頑張りましょう。そんなにすぐ強くなることは考えないでさー。回復魔術を使いこなせればヒーラーの役目は果たせるんだし、自分の身は自分で守れる位で私は良いと思う」


「私、体力はありますから頑張ります。でも攻撃がちょっとなぁ」

 カタリナはアッキーを先に行かせ四番目の定位置に戻った。


 モニカ、エリス、アッキー、カタリナ、俺の五人は山(岩)や谷(泥地)を幾つも越えた。


 そして登山家一行(ライム一行)が低山間地帯を昇ったり周ったり、止まったり(はぐれてしまうから)次に進む方向を決めたりして進んでいったある時のこと、ポツポツと雨が降ってきた。


 空を見上げるエリス、

「気を付けて!!」


「雨に気を付ける?」

 カタリナが言う、地面の水たまりの上に弾けるような窪みがたくさんできる。


 アッキーは糸のような雨を見ていた。俺も見ると、地面の水溜りの水面で水が弾けていた。


「雨だ!」


「よく見て!!」


 雨をよく見ると空気ではない何かが水面に映った。食品の白胡麻を半分にした大きさの虫が浮き足だって水面を這っている。


「何かアメンボ降ってないか?」


 !!


「それは酸性虫よ!」


「酸性虫?なんだそれ、何で名前を知ってるんだよ」


 俺はすぐに、メニューを開いた。


「いいから早く雨の当たらない場所へ逃げて」

 エリスが言う。


「ないだろーそんな場所」

 俺は走りながら愚痴る。この凸凹としたフロアでそれがもしあったとしても、山が邪魔で奥が全く見えない。


「はぁはぁ、岩の頂から見たけどそんな場所はなかったわ、どうしようエリスさん?」


「早くしないと!」


「アッキーは皮膚に酸性虫が直接つかないように盾で守って!!」


「うん」

 エリスが一人全身を包んでいないアッキーに言うと、すぐにアッキーは雨傘がわりに盾を使った。


「みんな酸性虫が装備品を溶かす前に虫を手で払い落として!!」


「えっ、服が溶ける!?」

 カタリナが甲高い声をあげる、どこへも逃げれないダンジョンのトラップというやつだ。


「装備品を溶かし、体を溶かす。そして退治するって気ね、そうはいきますかー」

 モニカさんが必死に暴れまわる、ローブを着たまま踊り子のように激しく動き手で払い落とす。ローブは手で払っても浮かず、重くなっていた。



「せっかくの黒一色のコットンローブが台無しよ」

 ローブに穴があいた。必死の足掻きも無駄に終わりモニカさんが悔しがる。


 俺もマントに黄色い斑点があった。よく見ると小さな穴があいている、これじゃーかっこ悪い。

 アッキーは必死に顔をパシパシ叩いて酸性虫がつかないように動き続けている。首元に風呂用タオルを巻いたので中まで入らずに済んだ。軽さと丈夫さが売りのトータルガードも酸によって薄く溶かされてきたようだ。


 振り払い落とすのも限界、


「降り注げ、溶ける雨!」

「アシッドレイン!!」

 エリスは雨の中に酸性雨を降らせた。


「おい、なんか雨の量多くなってないか!?」


「雨降らせたわよ」


「それでどうするんだよー(涙)!!」


「雨は!」


「あれっ!?」


「雨は強くなったのに溶け・・・ない!」


「そう溶かせなくなったの!酸性虫は雨に乗じて行動するモンスター。その特徴は雨の水から酸を作りだし放出すること。だから雨が降れば、それを体に取り込むの。だけどアシッドレインから酸をつくろうとすると酸の濃度が高まりすぎて自分の細胞が溶けてしまうの。

 だから作れない、生きていれば作り溶け続ける。つまり加減のいいところで自滅するのよ」


 つまりじゃんけんみたいな関係か。人間、酸性虫、酸性雨をグーチョキパーと考えると、人間<酸性虫<酸性雨<人間という関係か。


 それにしても酸を持って酸を作る虫を制す、良く思いついた。



 その喜びの中で、正直俺は少し残念だった。

 学校を卒業しバイトしても日常の光景は、女たちの薄着姿くらい。酸性虫は人生の末路を迎えた瞬間であった、が同時に滅多に出会えない最高の瞬間でもあった。

 アッキーも残念な目をしている。雨のせいか目から涙を流して。色々と悔しさも滲むだろう。アニメの展開なら、間違いなく服が疎らに溶けて肌が見え隠れする。そしてムッチリバディにゴックンパイ、プルルンバトックス(ヒップ)がチラチラして最後はヌードでハイコロリ。むふふと思いながら天国に旅立っただろう。


 アッキーと目が合った、そうか暗黙の了解か。俺は下を見るふりをして頷いて見せた。アッキーも目が下を見る。


 さすがダンジョンマスター、このダンジョンの主だ、こんな素晴らしいトラップと辱め攻撃をしてくるとはな。

 もしかしたら、これは女三人にとっては恐怖の極みで、男三人にとっては生きたいと思う欲と性欲を天秤にかけた最強攻撃なのかもしれない。


「みんなどれでもいいから山に登って!!」

 とりあえず指示に従おう、水は傾斜面のない地に集まるからそこに溶けきった酸性虫が流される。


 俺はとっさにエリスと同じ岩山に登った。

 アッキーは一人で岩山に、モニカさんとカタリナは同じ岩山に登っていた。


 それから雨が止むのを願い、地に広がる雨を見ていた。


「なあエリス」


「何?」


「お前一度このダンジョンに来たことがあるのか?」


「あなたと来なかった?」


「それ以前にないか?」


「どうして?」


「いやー何故かそんな気がする」


「ないわ。酸性虫はメニューで見たから知ってるの。それに私は大魔法使いだから」


「知らない事はないか」


「このまま雨が降り続くと、どこへも進めないな」


「それはない、岩が溶けていないもの。まあ見てて」


 そうだな、そんな長時間の雨だったら岩山も溶けているな。五分ほどして雨は止まった。


「雨が上がった」

 エリスの魔術も止まっていた。


 谷の泥濘の状態から見て、雨は周期で降っているようだ。はやく次のフロアへの階段を探さないと、また雨が降ってくる。




「このフロアは水はけが良さそう、地面に溜まった強酸もすぐに地中に染み込んでいく」


「ライムとアッキーは先頭を行って」


 小さな岩の頂にいる女二人もこちらに目をやり困った顔をしている。


「どうした?」

 俺が聞くと嫌な顔をした。


「あっちいって!」

 モニカさんが言った。


 カタリナも同意見のような顔だ。


「濡れても透けてないぞ!」


「わかってる」

 モニカさんが怒る。


「どうしたの?」


 水も滴るいい魔法使いのエリスがモニカさん、カタリナと話している。


「私たちローブが纏わりついて嫌なの。エリスさんは私たち二人と一緒に行きましょう」


「それがいいみたい」


「私は二人といくからライムは先頭をお願い」

 エリスが俺を見て言った。


「わかったよ」

 俺とアッキーは先頭を歩いた。後ろでは女三人がローブを絞り水を出していた。


 歩きながら、ふと思った。雨で肌に服が密着する。すると体の胸のラインが見える。

「ボディレイン」

 前を見たまま小さく言ってみたがアッキーは無反応、認めようお前は偉い男だ。そして俺は変態なのかもしれない。死ぬかもしれないこの状況を駄洒落で表現し楽しんでいるからだ。どちらにしろダンジョンの主の理解は超えたいと思う。俺の発想は無限なのだから。


 それを察したようにエリスが大声で言う。

「二人とも三階までお願い!そこで服を乾かすから」


「ありがとうエリスさん」

 モニカとカタリナは感謝した。


 俺とアッキーは同じ気持ちなのだが三人に近寄るのを拒否され思ったように伝えられない。

「ありがとうーエリス!」

 と後ろをゆっくり振り向いて言うとエリスは頷いて見せた。俺とアッキーは山を二列に分かれて上り下り周りする。さっきの雨で滑りやすくなっているから余計に力の入れ方が難しい。


「あ#」

 アッキーから怯えた声が漏れた。


「どうした」

 俺は今の岩山を下りてアッキーの岩山に急いで登った。こういった時ほど転んだり擦り剥いたりするから気を付けた、よしよし手を岩肌にあてかつ滑らないように足を動かす。


「何だ」


「あ、あそこ」


「平地だな」


「あの岩!」

 アッキーが何かに気付いたようだ。


「岩か」

 岩の前に岩がある。


 「あれは岩じゃない・・・フロアのボスだ!」

 俺は後ろを振り向く。


 エリスたちがこちらを見た時、ボスのいる方を指さして犬のような手の形をつくり影絵風にジェスチャーした。ボスがいるのが伝わったみたいだ。


 女三人が手を”丸”の形にしてジェスチャー返し。

 それにしてもさっきまでローブが体の形を露わにしていたのに、寸胴な体に戻るとは水の吸着力は侮れない。


 三人のうちエリス以外は震えていた、こわいんじゃなく寒いんだ、雨が体温を奪っていくから。早く雨を乾かさないと戦闘に支障をきたすぞ。


 エリスは手の平を前へ出して止まれとこちらにジェスチャーする。

 俺はOKとジェスチャーで返事。アッキーと一緒に岩に隠れる。ここから声は聞こえないだろうが注意する。少しでも敵に情報を与えない方が戦闘が有利になる。

 ダンジョンの形作り、明かりをどうするか、考えてなかった・・。ダンジョンは自然に罠にふふっ、どうしましょうか?

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