怪物たちの狂歌 2
ダンジョン当日の朝、セイラとアルスに挨拶に行く。装備を整え、食料も買い出し出発進行!
岩壁の下の穴は何とトンネルになっていた。そのトンネルを抜け、川岸から川岸をつなぐ橋を渡る。モンスターをかわして、ダンジョンに到着!
「ゴブゴブ!」
「ゴッゴブゥー!!」
「ゴォー!!」
「ゴゴゴォ!!」
ゴーブ前衛四匹。
「キィガァ!」
キラーバッドが外から迷い込んできたのを、ゴーブの群れの一匹が見つけた。襲い掛かるゴーブの群れ。
≪キラーバッド 森に住む妖魔、大きく黒い翼が特徴≫
キラーバッドが、それに気づいて牙をむき出しにする。横に斜めに羽ばたかせ空中を滑空し、かわすキラーバッド。大きいのに、あの身のこなしは驚きだ。
一匹のゴーブが、そこにあった石をキラーバッドに投げた!
「ブンッ!」
「ドサッ」
だが、当たらず。後衛のゴーブは四匹、他にも二陣五匹待機中だ。警戒を怠らず用意周到な性格、単細胞だと思っていたが意外に賢い奴ら。そこに別のゴーブが落ちている木々の棒をあたりかまわずふり回した、当てて落とす作戦だ。
「ヒュンヒュン!」
「ビシィ!!」
「ゴッゴッゴゴッ!!」
「バシペシバシタッバシバシタッペシッ!!」
木の棒の先がキラーバッドの翼に命中!落下中のキラーバッドをゴーブは皮膚の厚い手で叩きおとした。
仲間のキラーバッドが助けに来た。
「ギィーッツ!!」
そこにゴーブの二陣が加わった。一匹のキラーバッドを囲み、テリトリーに他を近づけない。地面に落ちたキラーバッドの上へ四匹が跳び上がり踏みつける、の繰り返し。
「バンッ!ダッ!ドンッ!ダッ!グリリッ!」
「コリッ」
潰れたのか折れたような音に似た感覚(≒共感覚)が伝わる。
「キキ」
「キ・・・」
キラーバッドは口から白い吐息を出して動かなくなった。勝利に沸き上がるゴーブの雄叫び。とび上がり手を叩き喜んでいた。
「ゴブッゴブッゴブッゴブッ!!」
「―――」
「少し離れましょう」
小さな声で言うエリス。
「うぇっ」
「うっ・・・っ」
「・・ごほ」
異臭と惨殺された姿に嘔吐が出そうだ。入り口の大きな門の扉は開き、そこから光が差し込んでいて奥までは薄暗いがはっきりと見えた、見ない方がよかった。
「こうやって生態系を観察するというのは冒険の経験知になるから」
入り口の草の中からエリスが聞こえないように俺たちに言った。
「ライム以前覚えてる、あそこの場所」
「覚えている」
「なぜ囲まれたのか、わかる?」
「目立ったからだ」
「テリトリーを荒らし、種族の繁栄を減らしかねない冒険者は強いほど敵も強く攻撃してくるの。全員で囲んで総攻撃する、勝利に固執し生死を問わない」
そうだ、かなり卑怯な奴らだった。
「ダンジョンマスターの言いなりになってる癖に種族の繁栄まで考えてるんだー」
「種族の繁栄は生物の本能だから仕方がない」
とエリス。
「うんっ」
アッキーが同意見で頷く。
「シッ!!」
微かな声を聞き取ったのか、周りを警戒していた後ろの護衛ゴーブの内二匹がこちらを注視した。
顔を傾け怪しんでいる。がいつもの顔に戻り、向こうに歩いていった。
「ただ種族繁栄の話は、ほとんど本能で動いているからダンジョンマスターはあまり関係ないわ。そこをついて利用するのがダンジョンマスターの力量、知恵でしょうから」
「それで終わったのかと思ったらキラーバッドの死体を持ち帰ろうとしているのか引っ張っている。
どうするのか、カタリナが興味深く見入った。
「ブチッ ツッッ!」
「・!」
カタリナの開いた口をエリスとモニカは絶妙のタイミングで押さえていた。二重の押さえは完全にあごを動かなくして声を止めるのに成功する。
「危なかった」
キラーバッドの翼をもぎ取ったゴーブ。戦利品が欲しかったのかあれをまさか食べるのか気持ち悪い。残ったキラーバッドが無残な姿をあらわにしていた。もうすぐ消えるだろう。
「翼どうするのかしら?」
「闇ショップとかで売っちゃうとか」
モニカさんが思いついた。
「そう」
とアッキー。
「ふかふかスベスベよ、あれ」
モニカさんが言った用途は悪趣味だ。
「もしあれが人間だと、そのまま持ち帰ろうとしたりするから気を付けてね」
エリスが二人に言う。
「あんなのに捕まったら、いや」
モニカさんが身を屈めて言う。
「あれっ、そういえばカタリナは、いないの?ああいたいた」
地に倒れるカタリナ。野暮で鈍足で汚い、臭いと言っていたがそれで倒れていたのか?
「ゴーブ達、歩いて行ったから戦闘よ」
「戦闘」
「また?」
「何回でもやるわ。方法は群れから気づかれないように一匹ずつ引き離す、石などを当ててね。レベルの低いうちはそうして経験値を稼いでいくの。今のこのメンバーなら一匹相手に、かかって五分。見つからず倒すことも簡単よ」
「もしモンスターに囲まれたら」
「一番弱いモンスターを倒し、道を作り退却」
「すぐ倒せるか?」
「それはどうか、倒し方の研究も大事。ここの敵は外のモンスターではないので攻略法(弱点や急所)があまり見つかっていない。そこで倒し方(必勝法)を知る必要がある。地形や環境条件の変化で変わるものもあるわね」
「覚えることだらけだな」
「ゲームでは覚えてる」
「現実だと覚えるのきつい」
「じゃあ体で覚えて」
「同じだろ」
「違うわ、経験よ。体で反射神経とかとるの、よくやらない?」
「そうか、普通はそんなの無理だろ。それより一度倒したモンスターはもう出ないのか?ゲームなら出るけど」
「重要よね、一度倒したモンスターは一定時間が経つとまた復活するわ。種族は変わることも変わらないことも。まあ階層にあったレベルの敵だから気にしないで。ダンジョンなんて研究し尽くされたら終わりだからダンジョンマスターも考えたようね」
「それは使えるかも・・。エリスさん、ゲームでやった攻略法は使えたりする?」
「う~ん、同じモンスターがいるなら使えるでしょうけど、あまり期待しない方がいいかも。戦術なら使えるわよ」
「そうかぁ」
「それと壊したり、火で燃やすと地形が変化するからフロアを進める際は気を付けて!そうしないと次通れなくなる」
「ええっ」
「まぁ、それなら」
「まだマシね」
「このフロアでは、モンスターを倒しレベルを上げる事が目標よ。レベルが上がったら戦い方や敵を変えましょう」
「エリスお疲れ、説明ありがとう。これオアシス湖の水」
「ライム、よくこんなの持っているわね」
「アイテムショップで買っておいたんだ。水は腐らないと思うけど。みんな悪いが一旦休憩だ」
俺はオアシス湖の水を渡した。
「いただきます、ゴクゴク」
「コクコクッ・」
長い髪を押さえながら右手で瓶の水を飲むエリス。
清らかで澄んだ水が口の中へ流れ喉元が揺れる。生命力に溢れるように揺れる水は、柔らかな球体を保ち優しく体に当たって溶け、エリスの体を潤わせ満たしていった。
俺はその美しさに見とれていた。アッキーの言う通り、まさに女神の美しさ。
アッキーは喉をゴクリと鳴らした。お前も水飲んでるだろw。俺も人の事は言えないが疲れて喉が渇いた。乾燥するのか緊張するのか。
「時間には気を付けて!時間が経ったら倒しても違うモンスターが出現する、それがもし強いモンスターで一度に戦闘になったら、最悪ボス以上になるんだから!」
「ボスもいるのか、わかったよ」
休憩中もエリスは教えてくれた。だんだんとエリスが優しくなっている感じがする。
横目でエリスがこちらを見る。
「何だ?」
俺は気になってエリスを見た。
「移動するからついてきて」
全員移動する。
「かササッ・・」
「みんな見て覚えてね。まず草むらに隠れるの」
俺たちはしゃがみエリスの話を聞く。
「ターゲットは、あのトロリンよ。一匹で行動しているけど、あの草が剥げた道は獣道あらため怪物道。立入り禁止よ。ここで待って近くに来るのを待つ」
あそこに入って以前殺されかけた。モンスターの住処ならレベル上げに適しているが、それはゲームの話。必ず覚えておかなければいけない場所。
皆それぞれの姿勢で屈む。
ローブは立つ時に踏むから折り曲げて屈む。正座したり片膝立てて屈んでいる三人。
「トロリンが近づいたら息を殺して周りの空気と同じ流れに合わせる、つまり風を遮らないように気を配ってね」
何と難しい、そんな事出来るのかよ。ここは入り口からまっすぐ行った道の外れ。風の吹いている方向を探り、風上風下関係に気を配る。
「来たわ」
トロリンが俺たちの前を通る。
通り過ぎたら、こちらを振り向かないか?見守る。
「!」
エリスがトロリンの方へ棒を投げた。当たるまでの時間、棒を蟻の列のように何本か落としておき、こちらとあちらを繋ぐ。
「カランッ!カッ、コロコロ、ガシッ」
最初の棒がトロリンの足元に落ちた。気づくトロリン。ふと下を見ると棒がコロコロとまだ転がっている。続いてこちらまでおびき寄せるために投げた棒が落ちる。
「グァ?」
「ガ」
「・・・」
棒を見る、だが拾おうとしない。棒はそのまま。仲間を呼ばない程度の出来事を起こす、一応確認するためトロリンがこちらへと段々近づいてきた。
俺は焦った。全員を尻目に逃げる用意をするが、まだエリスは棒を持っている。二つも。
投げる気だ!俺はそう思った、草むらを挟んでちょうど1mの所まできたとき握りしめた棒を空へ放った。
あれ?!
口パク状態のトロリン、勘付いた。叫ぼうと声を出し、
だが遅い!!
次の瞬間握りしめた棒をトロリンの口の中へ突っ込んだ。
「ウァ・・」
喋れない。
「手をのばせ、精なるものたち!」
「グロートゥリー!!」
トロリンの口の中で木を媒介として魔術が発動した。木は枝をいくつも伸ばし内側からトロリンを串刺しにする。
「ヴッ!ジュッ!」
内部で鈍い音が響く。
「この魔術は体の水分(血液)を吸い成長していく。トロリンの血が尽きると、ほら木も枯れ果てていく」
「これでできるわね、次はみんなの番よ」
「はぇ、魔法使いの私でも同じ魔術はできそうにない」
「嫌です。残酷です」
カタリナは優しいのか抵抗がありそう。
「気持ちがわる・・」
アッキーが手で口を押える。
口をそろえてみんなが断った。
「もう十日しか残されてないのよ、断ってもやってもらうわよ。ただグロートゥリーは古い魔法使いしか使えないから、皆には別の方法でね」
エリスの表情は厳しかった。それを見たアッキーが驚嘆している。
表情を戻したエリスは、違う方法を提案した。
「ライムは剣で、アッキーは斧で倒す」
「モニカとカタリナはロッドで。喉を潰す、何回かやれば倒せるから頑張って」
「全員この程度のモンスターくらい一人で倒せないと自分の身は守れないわよ」
「まずライム、来なさい」
「あ、ああ」
「アナタが棒を投げる、気になったトロリンがくる。で私がそのトロリンの後ろに回り棒を投げる。後ろに気をとられているうちにそこから走って斬りつける」
「やってみるよ」
「あれがいいわね、それじゃ作戦開始」
俺は棒を投げるとクルクルと縦回転しトロリンの頭にヒットした。怒るトロリンは相当腹が立ったのかこちらに一直線に走る。俺の方に走ってきたトロリンの横からエリスが棒を投げ”カラン”と音を立てたが聞こえないのか、そのままこちらの草むらの中に入ってきた。
「おい、棒無視だぞ」
「仕方ない!」
「ヴシュア!!」
両手で剣の柄を握りトロリンの体を突き刺した。
「ウ、ウググッ」
痛みを堪えるだけで精一杯のトロリンだったが俺は仲間を呼ばれないように剣を傾けると、剣は真っ直ぐ、傾けないでとエリスに注意された。
「このあたりには私たちしかいないから安心して」
エリスは一流の剣士と同じ能力があるようだ。前にも言われたな、剣で斬って、剣で叩くなという台詞。
さらに剣を奥に突き刺した、トロリンの体を突き通す。そして傷口から朽ち果てるようにトロリンは消えていった。
「いいわ、合格よ」
「お前、剣も使えるのか?」
「少し。ナイトじゃないからスキル・技はないけど技術や知識は教えてあげられる。接近するのは恐いかもしれないけど近づいて突き刺して」
「支点・力点・作用点の支点、つまり体に刺さった部分と外に出た部分のちょうど間で折れます」
うちのカタリナは頭が良いみたい。
森では出現しませんでしたがキラーバッドは、元々森に住まうモンスターです。




