6話 パトス
アルスとセイラに会ったライムは二人の生きる姿(仕事をしている姿)に感動する。アルスは働ける場所で出来る仕事をする、一方セイラは夢であった場所で手探りしながら仕事をしていた。しかし、ライムは安心と同時に責任と罪悪を感じる。
「話が中断していたな。この街は見た通り一階と二階の二段作りになっている。例えばギルド協会から少しズレるが二階に位置するのは酒場となるんだ」
教会を出てアルスは、また歩きながら話し始めた。
「商会を左に曲がって500m位行った所がギルド協会なんだが、ここにはモンスターと戦う冒険者から建築家、農家まで全ての職業の人が希望の仕事を探して出入りするんだ。
俺のいる商会が街全体の運営で、その人材の配属先を紹介しているのはギルド協会と言えばわかりやすいか」
「はい」
なるほど、市と公共職業安定所みたいな関係だなと俺は思った。
ギルド協会前に着く。協会は公共職業安定所よりも大きく、入り口に入るとカウンターが一つあった。誰か知らないが右に左にと曲がっていった。職業別に左右に分かれ、それぞれの場所で相談するようだ。
俺たちも、列に続く。
―ギルド協会―
「初めての方ですね?それでは初めに、ご登録をお願いします」
「かして」
そういうとエリスが筆ペンをとり用紙(草か木を干した板)に記入した。
===================================
登録書
個人
団体 テリーヌ(ライム、エリス、アッキー、モニカ、カタリナ)
職業 冒険者ギルド
経歴 なし
◎それぞれの分野で職業レベルに応じた、お仕事を紹介できます。
===================================
「登録完了です。経歴はありませんので紹介できる仕事は、ペンタンの生態調査といった所でしょうか」
「いずれ行きたいんだけど、ダンジョン攻略の仕事はないの?」
とエリスが聞いたところ、
「ダンジョンは見つかっておりません」
「じゃあ他は?」
「まことに失礼ですが、それは初心者の冒険者ギルドには教えられません」
「俺だアルスだ、少しでいいから教えてほしい」
「恐れ入りますがドラゴンの発見に寄与された有名なアルスさんでも、それは教えられません」
「・・」
現実のハローワークと同じだった。資格や実務経験を必要としている仕事(求人)は、それをもっていないと面接を受けることがほとんどできない。
「それじゃー帰りましょう。こんなところにいても意味がない」
こうして何も見つからずギルド協会を出る事になった。
「みんな俺の力が足りなくてすまなかった。これじゃー良い仕事に就くまで相当時間が必要になる。それなら、いっそどっかで仕事場をみせてもらうと良い、きっと冒険に役立つ勉強になると思うぞ」
「そうか!そんな飛び込み営業(売り込む方法)があるな。それじゃー一つ教えてほしいんだけど金の鉱物を溶かしている場所を教えてほしい。金さえあれば高価なアイテムが買い放題だ。攻略も容易くなる。どういった鉱物がお金に変わるか分かれば大儲けだ」
「悪いなライム、お金の話だけにあまり製造現場は言えないんだ。ただお金を溶かす時は魔術で火を起こす事は教えてやれる。加工は普通の職人だから、あまり見ても面白いことはないな。
その代わりといったら何だが魔法加工場はどうだ?この街の地図を持っていけば見つけ出せるだろう。あそこは簡単には見つからないから落とすなよ」
「そこに行ってみるよ。忙しいのに長い間、付き合ってくれてありがとうアルス」
「いいんだ、俺ができるのはこれぐらいだから」
そう言ってアルスは帰っていった。後姿もアンバランスで寂しそう。
その地図をもとに俺たちは魔法加工場へ赴いた。途中、道がなく家と家の間の境界線のような塀も飛び越えて。普通の人なら、ためらって引き下がるだろうが俺たちは知りたいので意地で行動に移した。
また、塀である。
エリスは手を付き華麗に両足同時跨ぎジャンプ、それ忍者並みだぞw。
モニカさんは手をついて両足を塀の上に掛け、上がって地面へ降り立った。
カタリナは身を乗り出すように塀にのってエリスとモニカに引っ張ってもらい、後はゆっくり着地する。
アッキーはどうした?
「うん、うんんんっ、ドテッ、ふぅ~う」
足が塀まで上がらず自分の全体重を支えるのは無理。かといって前のめりにいくと落ちた時に体重が顔にのしかかる。俺はそれ以上に塀が崩れないか心配だった。
「大丈夫かもう少し減量しないと目的地に着く前に息絶えるぞ」
「そうよ、壁によじ登ったりジャンプしたりは基本よ」
「それってアクションゲームだろ」
「これは死亡ありのRPG&アクション&アドベンチャーを含んだやつよ」
そんなヤバイのか!?ゲームではなく現実で、これ以上進めないとは何て理不尽&不公平な体格設定なんだ。アッキーがチワワみたいな目で皆に訴えたのでサポートに入ることにした。
「手伝ってくれ、みんな」
こうして四人で支え協力しアッキーに塀を越えさせることに成功!アッキーは恥ずかしいのでエリスの顔を見ることができなかった。俺は最後に塀を上った。
また障害物だ。
「アッキー、気をつけて」
石の上を歩く、他を踏んづけない様にバランスをとる。
「ぁっ」
駄目だ、民家の家の庭に土足で入ったアッキー、お前は明らかに侵入者である。石の上を綱渡りの要領で歩いても、また左右の家どちらかのゾーンに入るのは間違いない。
なぜなら民家の人たちがこちらを指さしているからだ。商会へ通報されるかと思ったが、意外にそれはなかった。今度来る時は別ルートを探さないといけないな。
そうこうして、地図の場所に着いた。外見は普通の家と変わらないが、地図と同じ家の形なので恐らく間違いはないと思う。
「道草しなかったけど、結構時間かかったな」
「そうね、それより誰かドアを叩いてみて」
「すみません、ドンドン!」
ドアをノックする。
「ガチャ」
ドアの中からこちらを見ている女が一人立っていた。継ぎはぎだらけの服をきて(布を何枚も重ねて縫った服?)髪は赤く、目は紺色、ふっくらした顔で背は普通。容姿からしてちょっと異彩な能力ありってとこ。
「あのー、俺たち仕事場を見学しに来た者で・」
と話しかけている途中、遮るように言われた。
「男たちは、必要ないから帰って」
「どうして?」
「あなたはナイトであなたは戦士、だからお断りなんです」
そうですね。はい、ハイレナイト。センシは知らん。男が嫌いなのか、有無を告げられ追い返された。
しかし俺はリーダーだ、食い下がる。宿屋のエリスの真似ではないが、
「それならこれで、どうだ?魔法使いのエリスとモニカだ!」
俺は二人を押し出した。
「これはこれは、ようこそ私はプラマイアと申します、あなたたちは魔法使いですね」
態度が一変した。どこの世界でも、好き嫌いで人間の態度は変幻自在。魔法使いのローブ(装備品)や容姿(女)にもう反応を示しているから目的が分かりやすい。
「そうよ」
「あのっ、まだ・・」
「この魔法加工場で働きたいんですね」
当たりが確定した。
「いえ何も言ってない」
エリスとモニカさんをニコニコ見つめるプラマイアさん。
「どうしますエリスさん?」
「そうねぇ」
「モニカさーん、ちょっとちょっと。俺は仕事の面接の時、現場見学はしておいた方がいいと言われました。だから、少し見ておいてもいいと思いますよ」
「ライムはそれでどうなったの?」
「俺は現場見学なし、結果は不採用だった」
「モニカ、ライムが不採用なら行ってみる価値はありよ」
「酷いぞエリスっ、俺が何をした!」
「ああーっ、言わなくていいんです!最初はみんな不安がりますから」
「さあ、どうぞどうぞ。あら、あなたは?」
モニカさんとエリスの肩を押すプラマイアさん。
「ヒーラーのカタリナと申します」
「じゃーあなたもついでに」
「?」
カタリナにも話しかけている。
「あなたたちは入らないで」
3人は連れて行かれ、俺とアッキーはここに残ることになった。
「ここが魔法
加工場の中です、それでは仕事の内容を説明します」
「うわぁーすごい、こんな窯があったなんて」
「うん」
「外見は普通の家で中は工場そのものなんて驚きです」
「製錬はミネラル(鉱物)→メタル(金属)→マテリアル(素材)という3つの過程を経て行われます。そしてそれをいくつか掛け合わし加工したものが、あなたたちの武器や防具として街で売られます」
「では、ここで問題です。私たちが行う製錬は3つの過程の、どの過程でしょうか?」
「はいはい、メタル!!」
「ブッブー!全てです。だから、この街で働く魔法使いは大変忙しく毎日仕事に明け暮れています」
「ずるい、どの過程って言わなかった?」
「はい、だから3択にはしませんでした」
「まあ物は言い様だから、次こそは」
「主に使う魔法は?」
「ヒートバーニング!」
エリスがさらっと答える。
「せいかーい。おめでとうございます。その通り、ヒートバーニングを使い高温高熱で熱し一度で溶かします」
「何で何でわかったの?エリス先生!」
「焼け跡で」
エリスが言うと悔しそうにモニカは指をパチンとはじいた。
「正解のご褒美に、ヒートバーニングで岩から金属だけを溶かす所をお見せしましょう」
「見てて下さい!」
「榮えん、燃え滾る火火!」
「ヒートバーニング!!」
金属を焼く炎は一気に大きくなり、燃え上がった。高温で金属だけが溶けて岩から流れ出す。
「うわわわわわっ!」
「あついあつい!!ここまで熱がー!」
「うん」
「どう?格好いいでしょー」
プラマイアは片方の手の甲を腰に当てて言う。
「はぁはぁ、なんでこんなところで火なんて起こすのよ!」
「すごいですね」
「・・・」
すごいってもんじゃない、これが魔術の力で炎の勢いにモニカは年甲斐もなく驚いた。人生のうち三十数年、生きてて初めてポカッと口が開いたまま止まっている。
カタリナは何度か炎を目にしたことがあるのかモニカより余裕あり。
モニカの顔をエリスとカタリナ二人が見入ると、モニカは、はっと我に返り口をカッと閉じた。
「モニカさん、炎みたいに顔が赤いですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫よ!すごかったの見ててわかんなかった?それより炎みたいにって何ていい方するのカタリナ!」
「いえっ、心配でこれがヒーラーの役目なんです」
自分の言ったことがおかしかったのか、それともモニカの反応がおかしかったのか笑って誤魔化すカタリナ。
「心配ねー、わかったわプラマイアさん」
「何でしょう?」
「カタリナが今の炎、全然大したことないだって。私たちこんなところで働くのはお断りだわ」
「それじゃー、もう一度見せましょうか?」
「ほらっ、カタリナ炎があそこに出るから近づいて、すごいのよー」
そういってモニカは立ち位置をかえカタリナを前へ押し出した。
「榮えん、燃え滾る火火!」
「ヒートバーニング!!」
「炎を篤と味わいなさいっ!」
「うわあああああ。あついあついあつい~!!」
モニカはカタリナを押し、手をとって体を後ろから押さえる。遮熱するように二人羽織して二回目のヒートバーニングを近くで見た二人。
炎からの距離2m弱、カタリナの顔は赤くならなかった。
しかし、
「カタリナあなた顔真っ赤よ~。炎ね、それ炎の真似ね。タイトル『ヒートバーニング、炎の顔』ね」
目を細めてニタニタ笑いながら指を差してカタリナを表舞台に立たせたモニカ。
「なっ、なんですかそれ!」
今度はカタリナが顔を真っ赤にしていた。というかなった。
「炎はどうだった?カタリナ!」
と手を上げながら(手を振るポーズ)、モニカはさわやかな顔で捲くし立てる。
「どうだったって。子どものお迎えじゃーあるまいし」
己、この仕返しは~、メラメラとカタリナの心の奥底で怒りが燃え滾るのであった。
「さて話を再開します」
プラマイアが話し始める。
「ここからは男たちの仕事です。隣の作業場で素材を釜に入れファイヤーボウで溶かし、その素材を型に流し入れます。あとは熱いうちに武器を打っては調整し打っては水に浸しを繰り返し行います。そうして丈夫で型崩れのないものが出来上がったら研いで拭いて出来上がりです」
「それにしては音があんまり聞こえないわねえ」
「一応、音が外に漏れにくい作りになっていますから」
「なかなか技術があるのね」
モニカは感心した。
「それと、ここには大食堂兼休憩所があります。そこへ移動しますのでついて来て下さい」
建物から建物へと歩いていく。
「ここね」
十数人の魔法使い(女)がわいわいと騒いでいた。
まるで女の園みたいな場所である。
「女性ばかり」
「これだけ魔法使いがいれば、街に何かあっても戦える」
「あらっ?」
「??」
「あなた、新顔?」
「私はソレイユよろしくね」
「私はアサガオ、よければ今度一緒に私の家に来て。美味しいリーフティを御馳走するわ」
私は、私は、ねえねえ、とみんな興味津々で話しかけてきた。
「待って皆さん、まだここで働くと決まったわけではありません」
「えー、一緒にここで働きましょう」
みんなそういって仕事に戻っていった。
「あとの説明は不要でしょう」
大食堂兼休憩所を出て、入り口に戻ってきた。
「以上で説明は終わりです。さぁ皆さん、どうします?」
「わ、私もですかー?」
カタリナが焦って尋ねた。
「はい。ヒーラーも一人いていいかなと、あなたを見て思ったの。皆よく火傷や擦り傷をつくるから」
「私は今はちょっと・・」
カタリナが遠慮する。
「私たちは冒険者ギルドを続けてみる」
「そうですか」
プラマイアは残念そうに言った。
「ガチャリ」
おっ!3人がドアから出てきた、それをプラマイアさんが見送っている。
「もし仕事で困ったら当魔法加工場まで」
「行けばいいのね」
「行く」
「わかりました」
こうして3人が戻ってきたわけだが何か顔が入る前に比べて険しかった。この加工場での仕事は思ったよりきつそうだったのか?
モニカさんとカタリナが離れて歩いている。
「なんか二人とも仲悪くなってないか?」
「別に」
「関係ないです」
俺は、最近の女たちの変化についていけなかった。
魔法加工場の見学に行ったライムの仲間たちは一体何を見たのか?
モニカの性格がエリスやカタリナにも伝染してしまう。一人のイライラがみんなのイライラへ発展した理由をライムは知る由もないのだった。




