開放と変化 1
異世界に転移したライムとアッキーだったが、何とモニカもついてきていた。三人は日が落ちてきているので、街に急ぐ。
その頃、酒場では、
「ダンジョンの扉が開放されたことで、この世界が変化している。ライム、あなたは経験を積んだ分、その変化に気づけるようになってるわ」
エリスはサンサンドの酒場で椅子に座り、顔に手をついてそう呟いた。
「はぁはぁ、街がない。早くしないと日が落ちてしまう」
「はぁ、ふぅ~、ねぇライムどこまで行く気なの。もう歩けないわよ」
「ゴホッ、ごほほっ、ううっ、はぁはぁ」
アッキーは何も言わずタタタと小刻みに足を動かしていた。だが巨体だけに重く、顔が真っ赤で苦しそう。正直、直立する事ですら嫌だった。それでも俺たちは歩いて前を進んだ。
「ポタッ・・・」
「雨?手に何か落ちたわ」
「雨?」
俺は何日もいたが、この世界で雨が降ったことはない。
「ほらっ、手に水が落ちたわ」
と手の甲をこちらに出して見せた。少し粘性のある液体が付いている。
「それモスグリーンの粘液です」
「きゃああ何よそれ、気持ち悪い!」
モニカさんは砂に手を埋めて、粘液をこすりつけた。
「暗くなってきて見えなかった、くそ。みんな空に敵がいるぞ!!身を屈めろ」
出来れば砂を被ってカモフラージュしたいが、砂を掻き集めるには遅すぎる。
今、飛んできたら一発でやられるだろう。だがモンスターはやってこなかった。触覚か風かどうやって人間を感知するのかは知らないが。
銀色の月が空から現れた。
「銀の月か」
以前来た時はよく見えなかった。もしかしたら雲があったから見えなかったのかもしれない。そして月と共に、モスグリーンの大群が俺たちの上空を飛んでいるのが見えた。
「四匹もモスグリーンが入やがる!しかもちゃっかり、くっついて来ていた」
「本当だ、こちらが気付いたの事にモスグリーンも気付いたわ」
「襲ってくる、逃げろー!」
全員が空を警戒する。足に力を入れたが、砂地のせいで空回りし半分以上力が抜けていく。加えて俺以外の二人は呼吸を整えていない。それで逃げろと言っても動くことができなかった。
ここから見えるのは、月とモスグリーンと自分と影。何かそれで出来る事はないか。
俺はアルスに太陽を月を背にして戦えと言われたことを思い出す。
そうだ!!この場所と状況で良案をひねり出した。月方位磁針、道のように直線的に進むには人と影の位置を固定するように歩けば良いはずだと思いつく。
「街のあった方角の月と影は確か・・」
と記憶を頼りに俺は進んだ。
力を入れても進まず、足まで届いた力で移動できた距離は、通常力を入れた時の二割程度。
「きゃあっ」
足が縺れている。何とか立て直したモニカ。
アッキーは前のめりになり、体を傾けて足を動かし前進していた。
「ああっ!」
どんどんモスグリーンに距離を詰められる、すぐそこまで来ていた。
ダメだ、
逃げれない。
「はぁはぁ、もう駄目」
息が続かないアッキーは離脱した。
仕方ない、俺はこの世界に一度来ている。戦闘や修業でレベルも上がったし、体力も増えていると思うから戦う事を決意した。
「俺はここで戦います!モニカさんはこのまま真っ直ぐに進んで街を探して下さい。見つかった助けを!このままでは全員がモンスターの餌食になってしまいます!!」
「分かったわ!」
「アッキーも逃げるんだ!」
しかしアッキーは動かなかった。体力が既に限界だった。
俺は夜、強くなったモスグリーンを一度に四匹相手したことはない。だが、倒し方は知っている、勝てる見込みはあるはずだ!
アッキーに空から接近するモスグリーン、そしてそれに続く三匹。
一匹が降りてきた。俺はダッシュでアッキーとモスグリーンの間に入り、接近したモスグリーン目がけて俺は一刀で突き刺した。それに怯んで降りるのを止めた三匹だったが、再度襲い掛かる。
少し早すぎた!しかし、アッキーがいては俺の攻撃が垂直に繰り出せない。
なら、アッキーを突き飛ばす。アッキー目がけて降りてきた三匹はアッキーを掴み損ねる、やはり弱ったアッキーを狙っていた。
下に降りたモスグリーンは再び空に上がった。知っている、敵はワンパターンだ、俺は降りてきたモスグリーンにロングソードを突き刺した。
一匹の体に剣が突き刺さる。すぐに引き抜き、
次は二匹目、わかってい!?
ない!!
残る二匹は同時左右それぞれ旋回するよう上空を飛ぶ、そして狙いを定めてアッキーに急降下した。
挟み撃ちか!
俺は後ろに飛んでアッキーにぶつかり、アッキーをつき跳ばした。二匹いたので掴まれかかっていたがアッキーを落とす事に成功!、アッキーは落下の衝撃に耐えた。
俺は空に上がろうとする二匹に、隙をついてダッシュ、うち一匹左側を仕留めた。
「はあはぁ、一体どこに街があるってのよ」
とある人いわく、
『明るい所から暗い所は見えないが、暗い所から明るい所はよく見える』
を思い出すモニカ。
「見えた、あそこね!」
縦に一つ長い影と、そこから燈の光が一瞬見えた。そちらにも月明かりは当たるだろうが、見えない所だった。
「もう少し・・」
「今、誰か連れて行くから」
街の入り口である、門などなく開いている。
「はぁはぁ、ここが街ね」
呼吸を整えたいが時間がない、息が切れて言葉が出ない。
街の中、
「誰か誰かいないのっ」
「はあはぁ。それで誰か、助けてくださる方いませんか?」
まだそんな遅くないのに、街には人がほとんどいなかった。
「ああ、あそこ」
家の前にガタイの良い男がいた。
「何だお前は、今夕食の片づけをしているんだ、どっかに行ってくれ」
「友達が外でモンスターに襲われたの!」
「当たり前だろ、街の外に出るからだ」
「ならどうしてここは襲われないのよ」
「ゴホン、それは冒険者ギルドがいるからだ」
「その人たち、どこにいるの?」
「おそらく酒場にいる。ここからまっすぐに行って階段を上ればある」
「そうですか、ありがとうございます」
「いいよ」
「はあはあ、あのーすみません」
酒場を聞いたのはよかったが、どこかよく分からないモニカはとりあえず歩いている男たちに話しかけた。
「なんだい?」
四人は冒険者風の格好をしている。
「あの、モスグリーンの大群がいて友達が襲われています、助けて下さい」
「う~ん、夜にか」
「夜でもいいじゃない?」
「久々に夜の戦闘っすか。夕食の運動がてらに」
「ペン!タン!」
「決まったみたい、助けるわ」
「ありがとうございます」
「それでどこだ、街のどこにいる?」
「いえ外です」
「外か。街の外に行けば、モンスターに襲われて当然」
「そうだな」
「で、どこに行けばいい?」
「すぐ近くです。この街からまっすぐに行った場所で」
そうか。少し冒険者は考えていた。
「まあ、あなたも冒険者なら気をつけなさい」
「はい、本当に感謝します」
街から出て、モニカは救助のギルド四人を引き連れてライムの所に向かった。
救助のギルド四人は戦士、ナイト、ヒーラー、魔法使いとバランスのとれたギルド冒険者。モニカは街から出て、街に来た時と影の位置が変わらないようにして来た道を戻った。四人もそれに着いていく。
「まだ、まだなの!」
「焦らないで、落ち着いて」
「夜のモンスター♪」
モニカは気だけ急ぐが思うように足が動かない。砂地を歩く(駆け足する)のに慣れていない。
「あそこか!」
モニカより早く、目の良い救助のギルドの一人が皆を発見した。
「おお!一人であんな数を相手にしている」
「なかなか強いじゃん」
「助けに来たわよ」
「はぁぁ~、モニカさん待ってま・」
俺は足の力が抜けた。気づいたら膝をついていた。
ライムは四匹モスグリーンを倒したが、次々に飛んで来て追い詰められていった。アッキーを庇いきれず鱗粉をかけられたり掴まれかけたりして瀕死の状態だった。
「うらっ!」
「バシュ!」
次々と倒していく救助冒険者たち。
「皆さんありがとうございます、助かりました」
「いいよ、こっちは稼がしてもらうからね」
「はい」
「その男は仲間?かなり状態やばくないか?」
救助冒険者がアッキーの姿を見て言った。
「え、はい」
「起こせ、目覚めの心気!」
「ドラグケア!!」
「ぅ・・・」
「応急手当は済んだわ。後は自分達でやって、でないと命を落とすかもしれない」
「ありがとうございます。このお礼はいつか必ずしますので」
モニカは冒険者に頭を下げた。
「それは楽しみ」
「よぉーし」
モスグリーンは増えていき、上空に十匹以上集まっていた。
「今日は大量だ!」
「ここでこんなにたくさん出くわすとは、急に物騒になったな!」
「まあね、でも私たちも強くなったから物騒よ」
「それは言えてる。とにかくアイテム回収といくからな」
「決まってるでしょ。これがないと売却できなくてお金に変わらないんだから」
「それにしてもよくあの体、触るよな」
「普通に街の商人みたいに稼げるんだったらこんな気持ち悪いの触らないよ。これでも結構働いているんだから敬いなさい」
「へいへい」
「それじゃ、これが上位ギルドの冒険者ってもんをみせてやろう!」
「お手柔らかに」
「おおう!」
俺は街までアッキーを引き摺り運ぶ。
ダメージが大きいのか、アッキーは魘されていた。このまま眠って回復すればいいが、命の危険がないか心配である。アッキーをひとまず入り口横に下ろした。
街の入り口を抜け、真っ直ぐ歩く。右に曲がり階段を昇った先に、静かな時間帯に騒がしい店、メルルの酒場があった。
酒場は明かりが灯り大勢のギルド冒険者がいた。
アッキーを回復するため、ライムは治してくれる冒険者を探した。
「誰か、誰かお願いします!俺の仲間の傷を治して頂けませんか?」
大声で俺は叫んだ。
すると三席のギルドの冒険者達がこちらを見たが、また自分のテーブルの方へ振り返った。
助けても意味ないのか?と俺は思った。
「お前たち、ヒーラーつれていないのか?」
真横のギルド冒険者の一人、目に眼帯を付けた男が話しかけてきた。
「いない」
「ヒーラー連れてないのに戦いなんかするからだろ」
「戦闘しようと思ってしたんじゃない。ここに来るには避けられなかったんだ」
「そりゃーご愁傷様。でもそれが戦闘だ。ヒーラーは少しでも魔力温存しないといけないのは承知の知。ここに誰もお前の仲間を回復する奴はいねえよ」
「くそっ、またしても俺が・・・」
ここで諦めるわけにはいかない、アッキーはまだ生きている。酒場の中を見渡し、助けてくれそうな人を探す。誰か、誰かいないか。
!!?
「あれは!」
人で見えなかったがカウンターの端にエリスがいた。
「エリス!」
「なに、その怒鳴りつけるような声の掛け方は?」
「悪い、あの時は助かった」
「そうね、助けてあげたのにお礼もなかったし戻ってこない・・」
語尾の方が少し聞こえなかった。
「それよりエリス、友達のアッキーを回復してもらえないか?」
「で、できるわけないじゃない。私、魔法使いよ」
「だからあの時みたいに、あのその、戻る魔法を」
エリスは耳打ちした、そして小声で言う。
「ちょっと静かにして、そんな事出来ないわよ。あれはとっておきの魔法で一度きりなの。それよりあなたは、また同じ失敗する気?」
「だから頼んでるんだけど・・」
「他人に頼りすぎなのよ、自分の問題は自分で解決しなさい。あなたの仲間がまた敵にやられて同じ状況は有り得ないわよ」
「だけど・・」
俺は何も言えなかった。エリスはこっちを見ない。
「それにしても、よくここまでたどり着きました」
エリスが満面の笑みでこっちを見た。
「ご褒美としてあなたの願いを叶えてあげましょう!」
「それじゃーカタリナお願い」
「はい!!私はカタリナ、ヒーラーです。さっきの呼びかけは聞こえましたので状況は分かります。すぐに治癒しますので急ぎましょう、アッキーさんはどこに?」
「この街の入り口のところ、仲間と一緒にいる」
「そうですか、ではそこまで案内をお願いします」
俺とカタリナ、エリスの三人は宿屋を出た。
「おい、あれって?」
「ああ沈黙の女ヒーラーか。なんだあいつ喋れたんだな」
「えっ!黙ってたっけ?」
「何度話しかけても何も言わないから、そういうあだ名がついたらしい」
名前が三文字ばかりになっていたから強制的に変えました。もう少し緊張感が伝わればと思っております、はい。




