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4話 ダンジョン

 岩壁の丘に着いたライムは、その向こう側にサンドワームの穴を利用し行く。穴を抜けると川があった、渡れそうにない川でエリスは魔術を使い橋を作る。

 その橋を渡り森を抜けた先にあったのは、岩壁より高くそびえる建物であった。

 【4話 ダンジョン】


 エリスがまっすぐ門の中を見ている。


 この建物はおそらくダンジョンだろう。

 なぜなら門があり城より幅が広く、塔や砦とは比べ物にならないほど高いからだ。普通のダンジョンは地下に作るが、空まで続くこの建物は上の階ほど重要な部分になり構造上同じと言えよう。


 街からこの建物が見えないのは、世界が球体でも理解し難い、歪んだ世界なら理解できるがそれはないと思う。


 俺はダンジョンの外壁に目をやり特殊な鉱物に興味が湧いた。壁は白く透明な石と緑、青、黄色の小さな石が混ざっている鉱物が使われている。この建物は少なくとも五十年以上前に建てられていたもの、罅が入る事もなく現在に至っている。


「なぜこんな高い建物が、街から見えないんだ?」

 アルスが不思議そうに呟いた、確かに怪しい。


「なんか怖い」

 セイラは不安そうな顔をしている。古代の建物にしては高く大きすぎる。


「おい、中はどうやって入ればいいんだ?」

 扉に近づく俺をエリスは制止した。


「・・・」


 どうした?


 ああ、そうだったテントさんがいる。俺はテントさんに声をかけた。

「テントさん、テントさんはここまでです」


「そうかそれは残念じゃ、こーんな大きい家を見れてわしは大満足。後は一人で帰るから心配いらんぞ」


「いいえ、それは出来ないわ。私たちがここまで連れてきたんだから、せめて岩壁まで送る。アルス?テントさんをおぶってそこまで行ってきて!氷はまだ解けてないはずだから」


「そうだ!ここまで付き合ってくれたお礼にこれを」

 といってセイラはテントさんの体にマダムパルファムをふりかけた。

「これは、ご婦人方がよく街の外に出る時に使うアイテムです」 


「これは私から」

 さらにエリスが魔術を唱える。


「集え、身にまとう風!」

「ウィンドサークル!!」


 目に見えないがテントさんの体を纏う風が吹く、その証拠にエリスのローブが揺れた。

「これでいいわよ」


「皆、世話をかけたな。また一緒にご飯でも食べようか、用が済んだら我が家に寄ってくれ」


「はい」


「わかりました」


「もちろん」


「楽しみにしておるぞ!」


「おし、行くぞ!」

 アルスはテントさんを背負って来た道を戻っていった。




「これで安心ね、アルスがテントさんを送って戻るまで待ちましょう。お城、好きなだけ見てて」


「お、おお」


「はい、これ・・」


「罠があるかもしれないから、壁には触らない事」


「すみません・・」




 それから、アルスは三十分位で戻ってきた。


「意外に早かったですね」


「ああ、痛めた腰が良くなったとかで岩壁の下もすんなり通れたからな」


「言われた通りあそこからは、ラクーダに走ってもらったよ。ラクーダは来たときの2倍の速さで帰っていった。上空からみても布に覆われているからモンスターには見つからんだろう」


「それはよかった」


「それじゃー門の中へ行こう!」


「おお!」



「カチャカチャ!」

 剣を扉に当て罠がないか確かめる。

「罠はなさそうだ」


「そうね。ライム扉、開いてみて」


「よーし、うぉおおおお!!」


「全然だめだ、俺の力では」

 押しても引いても、横に開いても扉はビクともしない。ダンジョンと同じように門が大きい・重いから開かないのか。ダンジョンの門は人間六人分位の高さ。


「それ鍵がかかってるのよ」


 ちっ、俺の早とちり。


「解き解け、暗号の糸!」

「アンチロック!!」

 手の平を門にくっつけた魔術を唱えるエリス。ワンドから赤い光が出てきた。


「なんだ?」

 扉の中にとび込んでいった。


「カタカタカタタタタタタタタタタタ!!」

 扉の中から、ミシンのボビンが周るような音がする。


「カチカチカチッ、カチカチカチッ」


「カチッ、カシャン!!」

 開錠の音が聞こえると、赤く光っていた光は消えた。




「ズ」



「ズシ、ズズズズズズズズ、ガタン!!」

 扉は音と振動を立て開いた。埃が辺りに舞い散る。


「開いたわ!」


「エリス、それ変わった魔術だな」


「魔属性の魔術は珍しいかも」


「ふ~ん」


「・・・・」

 エリスはいつも必要以上に話さない、だから余計に気になる。




 気を取り直して、

「いざダンジョンへ」


 そう言うと皆が俺の方に集まった。エリスは何食わぬ顔で前を歩いていく、後に続く俺たち。


「ここからが肝心よ」


「おお」


「そうだな」


「はいっ」


「絶対一人で行かないで、走ったりもしない事」


「大丈夫、みんな勝手な行動はしない」


 ダンジョンの門から少し歩いて足を止める。長い間、門が閉じていたせいか、獣のような異臭がすごい漂う。また姿や音、息遣い、痕跡といったものがないのに獣の存在を感じさせた。

 建物と扉の構造から人間の手が入っているように感じた、それならこのダンジョンに主みたいなものがいてもおかしくないはずだが・・。


「主は獣か?」


「静かに!」


 危険なのか、俺は話はやめた。


 ・・・。



 100m進んだ所だった。


「おっ・・・・?」


「おい、あれ何だ?」


「どこだ?」


「なに」

 茶色の長い草が生えている方向をアルスが指さす。


「あそこに怪物がいるぞ。今まで見た事がないモンスターだ。しかも四体」


「あれはトロリンよ、見つかったら厄介だから隠れて」

 エリスは小さな声で言った。



 トロリン・・!?エリスが、そのモンスターを知っていた。



「ダメッ!そこには行かないで」


「伏せて」


「ウガウガウ!?ウー」


「遅かったか」

 トロリンというモンスターが俺たちの隠れている草むらを見た!


「風で臭いが・・」


 伏せれば臭いが風で運ばれないと思ったが読みが甘かった。密封されていた門が開いて中に空気が入る。そこで風上と風下が生まれ、敵に臭いを嗅ぎ取られてしまった。


「気付かれた!!」


「ウガーッ、ウガーッ!!」


「ウガァアー!!」


「ガアー」


「ウグ」


「はやく!!」


「逃げて!」


 トロリンがこっちを見て、走って来た!この異臭のすごさはトロリンだけでなく、まだいる大量のモンスターの異臭だ。


「おい、来るぞぉーっ!」


「きゃああっ!!」


「はいっ!」


 俺とエリス、アルス、セイラ、全員が猛追するトロリンから逃げるため入口の方に向かって走る。


「逃げろ、急げ!」


「はぁはぁ、逃げないと」


「もっと早く」


「はぁはぁ、逃げろ逃げろっ」


「!?」


「なんだ!?」


「黄色」

 入口が一面、黄色の壁で塞がれている。扉か?扉は開いている。のに何で、


「違う、体だ!!」


「体が扉に!?」


「ドラゴン!!」

 エリスがそう言うと、扉からドラゴンが顔を出した。


「大きい」


 金色の顔と長い首・体・尾があるドラゴンは赤い目でこちらを凝視した。ゆっくりと体を動かし戦闘態勢をとっているのか?おもわず見入ってしまう。


 ドラゴンが翼を一度羽ばたかせた。


「!!」


 瞬き一つのうち、物凄い速さで移動したドラゴン。エリスの目の前まで来ている。


 すぐに跳び上がり身をかわすエリス。エリスは、もはや魔法使いの動きではないから目で追えない。


 ドラゴンとエリス、右、左、前、俺たちは早すぎてどちらに行けばいいかもわからない。後ろからトロリンの群れが来ている。


 ドラゴンが動きエリスの横を抜けた時、


「逃げて皆!」

 エリスは、こちらを見て逃げろの指示を出す。


 ドラゴンがこちらを睨みつけた。俺たち全員は、その目の瞳孔に委縮したのか立ちすくみ震えてしまった。


 すぐにドラゴンは入口の方へ飛んだ。


「ああっ、皆動けない!」

 ライムたちが動けないから、ドラゴンを引き離すためエリスは入り口の方へ走った。扉まであと少しという場所まで移動する。エリス一人なら簡単に逃げれただろう。


 入口に飛んだドラゴンは着くなり、体勢を一度整えるよう入口前で足をついて向きを変えた。



 逃げなければ。しかし入り口の扉の前には金のドラゴンとエリスがいる。奥にはトロリんがいて俺たちはその間で挟まれている。


 ああっ、動ける!動けるぞ!

 しかし、俺たちは仲間を呼んだトロリンの大群に囲まれてしまっていた。


 どうするか、考えろ。エリス・・


「けちらせ、樹形雷!」

「ライトニング!!」


「――/\―――――」

 音のしない閃光が走り一瞬沈黙を貫いた。


「ピッシャッ、ゴォゴゴゴオウン!!」

 沈黙を破る、金のドラゴンの頭上から無数の線光が根のように足をのばしドラゴンを蹴散らす。


 しかしドラゴンの固い表皮はそれを凌駕した、全てを耐える。



「戦うぞー!」

 隣と同様に戦闘モードに俺は入った。上下左右、四方八方、手前奥、縦横斜め、全て敵敵敵の嵐。帳尻を合わすように全員で囲み距離を詰めてくるモンスター。


「ウグアアァアー!!」

「ウガッウガガッ!!」

「ガァー!!」


「パン、パパッ、バババ!!」

「バン、ズカッ、ズカカッ!!」

「ドッ!!バシッ、ドッ!!」


「ううっ」

「おあああー」

「ゃっ・・っく」


「うらぁああ!」

 アルスが頭上から振り上げる剣を振りおろしトロリンをぶった切る。


「振落!!」


 さらに囲まれたトロリン三匹に剣を横に振る。

「おりゃあああ」

 一気に三匹の胸をぶった斬る。


 俺もロングソードで一刀する。


 だが敵は横から後ろから、次々と現れ棍棒を振り下ろした。


「バチッ」


「ガツッ」

 破裂音や鈍い音が俺たちの体から発せられる。敵はどこに、どう当たるかなんて考えていない、当たればどこでもよい。


「ガガガッ!」


「ガスッ!」


「せっかく修業したのに」


 黒山戦術、数の暴力、これが戦闘というものなのか。

 否応なしに一方的な攻撃が続く、体を殴られ擦り切れ抉られた肉から血が流れ落ちる。ヒーラーの回復が全く追いつかない。回復回数と回復力を上回る、攻撃回数と蓄積ダメージ!


 その圧倒的な強さの圧力に、声を出す気力も起こらないで士気が落ちていく。


 なんとか声をつむぎだして発するが、


 「に、にげ ろおおーっつ!!」


 声が枯れていた、のどがカラカラなのか吐血や逆流した鼻血で喉が塞がっているのか?自分の耳にやっと聞こえる呻き声しか出ない。


「・ぁ・・ぁ」




「時間がない、みんな・・」


「・・っ」


 ここで負けるわけにはいかない。


「これなら、どう!?」

 得意の呪文を解き放つ、

「裂けろ、空を破る無数の岩石!」

「メテオライト!!」


「バシュッツ!」

「バシュッツシュッ!!」

「バシュバシュバシュシュバシュシュシュシュシュシュジュワワアアァァァ!!!」

 金のドラゴンの表皮を焼き付け傷を刻んでいく、だが燃やし焦がす傷口から血が出ては、ふさがっていく。ドラゴンの血の治癒力がその魔術に勝った。



「ええ!?でもこっちは弱いはず、続けて」


「爆ぜろ、消えた竜巻を集めて重ねて!」

「エアブラスト!!」


 竜巻が幾つか、くねりながらぶつかって破裂する。爆風は敵を空へ吹き飛ばした。


「現せ、怒りと熱の化身よ!」

「エクスプロード!!」


 ライム、アルス、セイラを取り囲んだトロリン、ゴーブその他のモンスターを空で爆発させた。空に飛んだモンスターは燃えながら爆風で舞っている。


 それと同時期、

「ス、クォオオオオーン・・・・ンン・・ン」

 金のドラゴンが咆哮を溜める。


「えっ・・何で体が動かないの」

 エリスの体は、ドラゴンの目と不思議な力で捕縛された。


「ブワァアアアアアア!!!」

 ドラゴンが咆哮を放った。


「え!!」




「修業してもできなかった・・・」


 エリスに一掃された奥から、モンスターがまた走って来た。


「にげぇ・・・・・・ろ!」


 散らばった俺たちは敵の攻撃を待つだけ・・・。


「バシッ、カカッ!!」

「ゴッ、ゴキッ!!ゴガッ!」

「・・チュ!!」

 ちょうど砂地の上、アルスの腕がトロリンの棍棒でたたきつぶされた。


 血が出ても汗が出ても砂がそれを覆い隠そうとする。涙が出ると視界を奪うように目に砂が付いていった、風に運ばれ、またトロリンの足で舞う砂だ。何もしていない無抵抗なアルスに、しきりに棍棒を当て続けてるトロリン、動かなくなるまで叩く気か。


 セイラは顔と手先が血か何かで黒くなっていた。近くにはゴーブがいる。回復魔術は目も手もふさがっていて、どこに唱えればいいのかすら判断がつかない。



 モンスターの大半はエリスが倒した。だがその後すぐエリスはドラゴンの咆哮を食らって倒されてしまった。体が焼け焦げたトロリンたちの死体につぶされるようにエリスはその山の下敷きになった、肉の焦げた臭いが漂っているのが鼻でわかる。



 俺のピクピクと動く脈だけは、動いていた。生きているが、どうにもできない。


 逃げる。逃げる逃げる逃げる、選択肢を並べ立てても思うだけ。

 仲間と冒険のように戦闘をしてダンジョンに来た。攻撃、魔術、防御、アイテム、逃げるの最後の手段すら選択できず無意味に終わった。


 モンスターがこちらを睨む。

「グフファアアア!!」

 雄たけびを上げる。


「ウガガッ、ウガガアァ!」

 もう枯れた水に近いものが俺の体から再び流れる。


 逃げる。

 俺は遠ざかろうと体を揺さぶってみたがどうにもならない。


 後ろから音がする。


「ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!」

 地鳴りのような足音が後ろから聞こえてくるが、振り返れないし振り返りたくもない。何も聞きたくない。


 この世界で俺はどう生きようか、考えていなかった。ただ元の世界に戻った時の事ばかり考えていて夢見てここまできた。


 ああ、何でゲームなんてやったのか?


「ガッ!」

「バチッ!」


 あっぐぅう、殴られているようだ、頭が痛い。


「あがあがが、いたがあ」


 終える、終わる体を無理やり強制的に起こすように殴りつけたせいで、俺の声が出ている。


 体が痛みに支配され・・、


 お父さん、お母さんありがとう。


「ドス!!ゴッ!ドッ!ゴスッ!!ガッ!ゴバッ!!!」

「グシャリ」

 修正するだけにしたかったのに、魔術の詠唱を考えるとあれやこれやと一時間がかかりました。

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