第35話 ダンジョン18階層 ダンジョンマスター リリスロード
ダンジョン十七階層でダンジョンマスターは実験的研究をしていた。モンスターの召喚、キメラ合成、ホムンクルス?etc。
しかしダンジョンマスターは部屋にいない。部屋を探すと隠し通路が見つかった。
【第35話 ダンジョン18階層 ダンジョンマスター リリスロード】
(高いな)
十七階層の部屋の天井を抜け、煙突上の穴があいた場所を通って行った。穴は大きく畳九枚分以上の広さがある。途中前後左右に穴が空いていた。奥には部屋があったが俺たちは上を目指した。その部屋には、明らかに異国の物が置かれている。今は物色している暇はない、上を目指すだけだ。
(これだけ高いのなら魔法陣でもつくればいいのに・・)
(僕はこれで十分)
(何回やってもフロート上がるのは慣れませんね)
(ええ。それと研究はまだ終わっていないようね)
(あれがもし俺たちの体の研究だったとしたら、俺たちもそのモルモットになる)
(そんなの反対です、人の尊厳を損なっています)
(マスターにとっては実験材料だな)
(材料・・)
(着いたわ)
天井についた。そして前には通路が一つある。ここで失速、沈没したら大変、とにかく怖いから前の通路に飛び乗ることばかり考えてしまった。
(まっすぐな通路)
人間十人分以上の幅のある通路があった。俺たちはその通路を歩いていった。
(奥に誰かいる!)
通路を歩いていくと部屋に出た。中は差しこめる黄色い光が上からいくつも射すように部屋に入り中を照らしている。部屋は広く天井も輝きに満ちて、とても高い。
「まだ三か所か~。あそこの冒険者がこっちに来ればいいのにぃ~何で動かないのよ。最近、冒険者が強くなってモンスターが不足するから困っちゃうなぁ。
まあ、強くなったって言っても冒険者たちは、まだまだ弱いわけだしダンジョンも進めないわけだけど。
う~~~っ、回収が滞っている。生きた人間の体を大量に確保できなくなってきてるなぁ、いっそ外のモンスターを変えちゃおうかしら。人間を増やすのもさじ加減一つだから難しいぃぃぃ~。
あれっ、あれあれあれ?誰よ、あんな所にエルフを連れてきたのは?一体全体どこにいたっていうのよ?おまけに強いじゃない、あんなに強い冒険者はこれまでいなかったはずよぉ。これじゃ~一人も捕まえられなくなっちゃうぅぅ!!」
エルフ?もしかしてスカルベさんたちか!?いや、まさか短時間のうちにダンジョンの外まで戻れるはずがない。ということは他のエルフ、新しくエルフの職業を選んだ冒険者が入ってきたのか、ダンジョンマスターにとっては想定外の事が起こったようだ。
ローブというよりかはドレスに近い。赤の襟や袖が付いた黒のフリルドレスを着た青髪の女性が玉座に腰かけ愚痴っている。こちらから見えるのは後姿。
魔法使いやヒーラーと同じ長い靴下を履いてる。ハイソックスと呼ばれるそれは黒く艶があった。何かを熱心に覗き込んでいるので、こちらに気づいていない。
「ああ~っ!また逃げちゃった。あんなカスの虫けらなんて作るんじゃーなかったわよぉ。単細胞で同じ動きしかしないんだから。ほらっ、また警戒されて別の道にいっちゃったじゃない、そういうことすると捕まんないじゃないの」
俺たちはゆっくりと近づいた、どこまで行けるかは知らないが油断大敵、果断無敵っていうからな。
(そっと近づこう、そーっと・・)
忍び足で近づく全員、お願い神さま!!気づかれないように敵の背後をとらせて下さいっ。
「女性がいます」
卑怯な俺たちにカタリナが一言、
「!!?きゃっ!どうして人間がいるのよぉ・・・。あれ?あなたたちミノタウロスに殺された奴らじゃない?」
「私たちは生きてます」
「見てわかるわっ!!」
「悪いけど私たちは五人とも無事」
「なに嫌味たらしい言い方してるの?悪いすごぉ~く悪いわぁ、ああ腹が立つぅぅぅうう。人間風情が私の部屋に土足で入ろうなんて図々しくておこがましい。あなたたちが入ってきたから部屋が汚れちゃったじゃーないの、汚らしい蛆虫野郎どもぉ!」
「そんなに清潔にしてるようには見えなかったんだけど潔癖だったんだー」
モニカさんが言うと、
「目が見えないのは老婆だからよ、年増おばさんっ」
「だーれが年増おばさんだって、老け魔女!」
「ぷちっ、誰が老け魔女だってぇ?」
顎のあたりに人差し指をあてて斜めを見ているモニカ、そして視線をダンジョンマスターに合わせて言い放つ。
「あなたよ、魔女なんでしょ?魔法とかで顔作ってて、本当は四百歳位のご老人なんじゃない?胸もヨタれてるようにしかみえないし、そうだ良い異名を思いついたわ胸なし魔女」
「え!えええ!なに!歳とか胸とか頭にきたー!!吐かせてから楽にしようと思ってたんだけど!すぐに殺してあげるっ!!」
玉座から立ち上がるダンジョンマスターは数段ある階段を降りた。
「やってみなさい、老け魔女に誰がやられるもんですか!」
「やってやるわよぉ」
「ちょっと待ってくれ!!俺は戦いに来たんじゃなくて話に来たんだ」
「命乞いなら聞かないっ、あなたたちには死んでもらう!!」
「きひぃ」
「―」
杖を振るうダンジョンマスターは音速で移動し、俺たちの腹をなぶった・・。
「シッ!バッ、ドッ、ザザッ、バスッ、ガガ」
「痛っ!」
「っ!」
「いたぁ!」
「っく!見えない」
「カッ!!」
しゃがんでアッキーは盾で攻撃を受け止めた。反応が出来たのは一番後ろにいたから。
「あらっ!早かった?じゃあ~っ」
嫌らしい顔をするダンジョンマスター。首を傾げ目を垂らし口を広げ笑窪を出している。
「―」
「カカッ、ッドド、バサリ」
俺は剣で受け流すと見せかけて回避した。アッキーは盾を潜り抜けたマスターの攻撃を斧でガード。エルドラは瞬時に空に飛んで避けた。モニカとカタリナは攻撃が来そうな方向を予測して杖とロッドを据えた。あまりに急だったため二人とも髪が乱れた。
「ねぇ、え~、あなたたちぃ、それどこで手に入れたのぉ?」
ダンジョンマスターの言うそれどこは、カタリナのマイリーロッド、アッキーのヘルメスの斧、俺の紅蓮のマントといった代物だろう。もうダンジョンマスターの未知の脅威となる武具の存在を知られてしまった。
「マスターもそういうの持っているだろ。これはダンジョンで手に入れたものだ、それを街の人が加工して装備している。あとは街や街の周りで手に入れたんだけどー」
嘘をつくとばれてしまう、俺は曖昧に答えた。
「それは街で作れないし異世界の物っ」
こちらを怪しんで見ている。
「異世界?普通に入手出来ましたけど。もし異世界の物なら戦闘で使えないと思いまーす」
強かにこたえる。こういうのは通常ゲームの世界ならバグや裏技と言われる一品だ。入手経路はイベントだし違法(チート:ゲームシステムをいじくったり、外部から改造してつくったもの)でないから使えるのは保証済みだ。おまけに武器を使って敵を倒したし。
「悪魔でも知らないっていうのよねぇ~、そうだ!使用を許してあげる。それで負けたらあなたたちは完全に底に落ちそうだからっ」
「それはご丁寧にありがとうございます、お蔭で勝てそうな気がします」
「きゃーあははははぁ~っ。負けて謝ったって見逃してあげない。せっかくだから冥土の土産に教えてあげる。私はリリスロード、このダンジョンを統べるマスターとして君臨する魔女。これまであなたたちが犯した数々の大罪は万死に値するわ。冒険者たちなんてぇ構っても面白くないけど下の階層の奴らを倒して来たのなら邪魔だから消してあげる。そうだ!今度の獲物は良い研究材料になりそうだからアレをしてみようかっなぁ~、で目はケルちゃんに食べてもらいましょ」
「ケルちゃん?」
俺は皆を見た。
「ここに来るまで合わなかったあなた達は幸運ね。全身に燃えるような焦がしが入った尻尾が七本ある黒い獣がいたんだけど・・、まっ、ケルちゃんは遊び好きだしこんな奴ら見つけても面白くないかぁ~」
「言いにくいんですが、そのケルちゃんなら俺の仲間が倒してるかもしれません」
俺は大口をきった。
「そうそう、あんなの置いたって番犬代わりもならないわ」
「私のケルちゃんに会った?えっ、それじゃあケルちゃんはやられたって言うの?そんなはずはない!」
「見てなかったお前が悪い」
「悪い」
「うん」
「うるさいうるさい、あなたたちを八つ裂きにしてあげるっ!」
そしてリリスロードは、大きく退き魔術を詠唱した。
「魂を喰らえ、生気がなくなるまで吸いつくし!」
「ソウルゲート!!」
「欲しいのは体だけ、魂は頂くからっ!」
俺は速攻のため走るっ。モニカはファイヤーボウを詠唱、だが敵の方が早く間に合わない。敵の魔術が先に発動し阻止が失敗する!
冷たい風が吹く。扉を開いた人間が四人分位通れる門がリリスロードの前に現れた。風は吸い込まれるように門の中に入っていく。
先程まで後ろにいたリリスロードが辺りから姿を消した。TVなどの手品師みたいな光景が目の前で繰り広げられる。
「すごい強い風だー!!」
「吸い込まれる!!」
「危ない!」
「逃げましょう」
「きゃははは!驚いても、もう遅いっ!これは普通の門じゃーないから。嘘だと思ったら中に入って確かめてくればぁ~?きゃーははははぁ!」
「ズザザザッ!」
「ズズズズズッ!」
立ったまま体が吸い込まれる。足だけでは風に逆らえない。風から必死に抵抗する皆。足元が何者かにひきずられているようだ。床は大理石でどこにも捕まる場所がない、俺は身を屈めて手で地面を掴もうとする。少しでも摩擦面積を増やさなければ。
「ズズズズズッ・・」
「ザザザザザァー・・」
門に近づくにつれ、何かの気配がする。
「死者の門、魂をもっていかれるっ」
アッキーが何か言っている。
「中に吸い込まれたら終わりだ!!」
「ああっ、もう力が出ない・・」
必死に抵抗を続けていたカタリナが力尽き、前に倒れてしまう。
「お姉ちゃーん。だいじょう・・・うっ」
エルドラも膝をついていた。
「ザッ」
「ああっ」
抵抗するが、そのまま体の血か水分が乾いていく。
「ダメだ、呼吸する気力すら起きない」
息ができず酸素が不足してきた。
「バタッ!!」
俺の隣でモニカさんが倒れる。
「バタッ」
「パタッ」
「ああっ、ズササッ・・」
全員が力尽きて倒れていった。床に伏している全員。そしてソウルゲートの方に引きずられ続けていた。こんな魔術を使われたらひとたまりもない。いくら修業しても意味がない。
「ザザッ」
「ズザザザッ」
そして正気を失い、意識喪失したライムたちは門の前まで吸い寄せられていった。
「ザザッ・・」
「ザッ」
「――」
「死ぬまで、後少し」
ダンジョンマスターは待っていた。
全滅した、全員が死亡まであと数分といった状況になる。魂の門まで2m位だろう。全員が息絶えたかのように思える静けさの中、
「タッ!」
一つの音がする。
「タタッ!!」
もう一つの音がする。
「タタタタタッ!!」
足音がしてリリスロードに向かっていった。
「きぇえ!ええええ―っ!」
驚嘆するリリスロード。狐につままれたように目をまん丸に開けてぽっかり口を開けていた。
「ガッ!!」
「!」
「うぐぐぐっ!!」
「何であんただけ動けるのよ!?」
「・・ぐぐ」
アッキーは門の前まで歩いた。そして力を入れたままソウルゲートの前に立ちはだかる。さらに扉の両端を掴んで門を閉じようとしている。
「答えなさいよ!何であなただけ動けるのよ!」
「っぐぐっ・・・」
「キィィー」
扉が少し動いた!
我も欲も精も強く純粋なアッキーは闇の魔術に強い力を発揮し悪魔の誘いに耳を貸さず死の言葉にもたじろがないで死神の手を拒んでいた。
「ザュ」
精神攻撃のような斧に切られデブと自己管理不足的扱い、また豚扱いされたとしても、耳を貸さず真面目な人間であろうと思い続ける。
「ブュ」
肉と血のない飢えた嫉妬にあふれた手で心を引き抜かれても心を許さず踏みとどまる。
半ば家族にも見放され、理解されず働かない阿呆に見られても、生きて、生きるための活動を起こそうと試みている。
「デュ」
そして俄然毅然歴然悠然として立っていた。
「そこの気持ち悪いデブ、なんで我も欲も精も揺るがないのよ。おまけに戦士の癖に魔法防御が桁違いに高いって気持ち悪くて鳥肌たってくるしぃ~」
見たことのない人間の性格や性質に恐怖するリリスロード。
RPGのゲーム設定ではおそらく魔法使いは魔法防御が高い。だが、なぜか戦士のアッキーは闇の魔術に桁違いの耐性(抵抗力)をもっていた!!
「・・・っぐぐ」
「僕が必ず皆を」
門の前にたって動かないアッキーが未だ扉を閉めんと立ちはだかっている。アッキーの活躍で魔術の効力は弱まりつつあった。皆は気絶したまますぐそこで眠っている。
俺は一人の女を見ていた。裸体で俺の手を引いていた、俺は抵抗することもなくその女の方へ歩いていた。
アルバイト人生万歳、コンビニ生活万歳。何を期待したって結局最後は死ぬ、老後にのたれ死にするのなら俺は今死んだ方がマシだ。ここには女がいる。一生掴むことのできない生活がここにある、遊びに行ってご飯食べて付き合って結婚、マイホーム、人生設計も立てられず立てても過ぎて後の項目が増えて山積みになった、それで立てた設計図は少しずつ崩壊、そして人生も崩壊していくだろう。親父とお袋に迷惑かけ続け、脛を齧っていたら時が経っていつの間にか抜け出せない穴にはまっていた。ライムはこれまでの生活と戦闘で苦しんでいた過去から解放された、もう苦しまないでいい、ここは楽しい。
「救う!!」
俺の前に巨体の男が突然現れた。こいつは誰だ?何しに来たんだ?さっきまでとは違う場所に俺はいた、ここはどこなんだ。俺は真っ暗な世界にいた。そしてさっきから俺のゲーム名を呼ぶお前の事を思い出した。アッキーどうしたんだ!?
アッキーは真面目な顔をしていた。そんな顔して何を見ているんだ?必死だ、俺より必死に何かに耐えて戦い凌ぎ防いでいる。
俺はどうなんだ?
アッキーを以前から見ていて知った、またエリスと深夜話していたのを聞いて俺は思う。お前の積み木の方が遥かに難解に積んでいる、しかも高く。
もしかしたら何回積んで崩れた後かもしれない。人生積んだお前が、なぜそんな頑張れるんだ?あるのかその方法、それなら知りたい。それとも単純に考えていない?考えるなんてナンセンスだなw。
今の俺の状況はなんて情けないんだ。まだ若いのに・・。アッキーの事を思うとやる気が湧いてきた。そして気付いた、今戦闘中だったことに。
俺は魂が腐ってた、俺はアッキーを見習いたいと思った。
最終話、ここまで読んで頂きありがとうございました。最後まで読んで頂き嬉しいです。




