大フロアでの決戦 5
エンシェントドラゴンには攻撃も魔術も通じない。だが生きて元の世界に帰るために諦めないで戦うライムたち。せっかく生まれたチャンスもドラゴンの装甲に阻まれピンチへ変わり、やがて・・。
アッキーは死んでいなかった、自分の斧を見て初めて理解した。
崩れた斧の内側から白い刀身を見せている。どうやら上から金のメッキ加工がされていたらしい。素材はプラチナ(白金)に似ている。まさか表面が剥がれ落ちるとは。それが当たってドラゴンを攻撃、そこで自分の命が死から生へと変わったことを知った。
アッキーがメニューを開いて武器の名称を確認する。
“ヘルメスの斧”それは神話に出てくる神の所持品で伝説の武器だった。
「神の武器がどうしてここに、この世界に存在するんだ」
俺もメニューを開いていた。俺がいた世界で聞いたことがある名前だ、俺が知っているのは靴の方だけど。
ドラゴンの怒りに火が付く、口を大きく開けたドラゴン。炎を吐く気だ!
「かわせぇ~!」
「ボフォォオオオオーオオオ!!」
赤い炎、熱が空気を焼く。空中を焦がす灼熱の炎は飛び火する。少し触れただけでもナイフに刺されたかのように肌を刺す。メニュー履歴確認、ドラゴンの炎は【焔の射光】と言う技だった。
「飛んでくるぞ!!」
「あんなに炎が広がってる」
身を屈め走って逃げながら見るカタリナ。
「アッキー!それどころじゃない。斧は後にして」
「あぶちっ!!」
アッキーが火傷しかかった。気を付けてくれ、食料行きになるぞ。
「熱が残っているから飛べない」
手を上げて空気を調べてみたエルドラが言う。
「それより斧だ!」
「まだ斧言ってるの?」
「重要な事なんだ、このままだと負けるぞ」
「神話の世界の武器ですよね、ゲームからきた影響じゃーないですか」
カタリナが首を傾げ言う。
焔の斜光を吐いた辺りは、まだ熱が籠ったままである。
「ゲーム性か、それをこのダンジョンにどうしてマスターが含めたのか不思議だな。だってそうだろ、そんなことしたら簡単に攻略されてしまう」
暴れるドラゴンは旋回した。
「そんなの、つまらないからじゃない!!」
「そんな事ありますか!!」
照りつける熱、高炉の熱のような空間に跳びこむなんてできないぞっ。
「はぁはぁ、これ以上逃げれませんよ」
追い詰められた、炎の熱でフロアが満たされている。
「僕がやる!!」
とエルドラが言った。
「開いて、空高く雨乞う声!」
「レインコール!!」
天井はコンクリートのような板があるが、雨が順調に降っていた。雨が熱を冷ます、多少足元は覚束なくなるが構わない。
俺たちは体勢を立て直した、勝機が見つかった気がしたからだ。これならいけるかも!そして剣を強く持つ、雨で滑らないように!
モニカが魔術を詠唱、最少MPで最大効果のある魔術を探す。そして、
「うちおとせ、空より雷電柱!」
「サンダーボルト!!」
体の中に雷が流れていく。
「グォ・・」
エルドラがナイフを引っ提げて走る、その俊敏な動きはまさしくエルフ!ドラゴンの周囲を回り走るかわす走るかわす走るかわす走るかわす飛ぶ!!空に上がると旋回する、ただそれだけでは先を読まれて反撃や打ち落としを喰らうので少し乱雑に飛んでいた、チャンスと見ればアッキーが傷つけた場所を狙って何度も斬りつけ、刺す!!
「カシュッ!タッタッタッタッタッタッ」
「フワッ、ズフッ!!」
ドラゴンの治癒能力で傷が塞がらないうちに攻撃する、傷口をさらに広げるのに成功!一進一退の攻めぎ合い、ドラゴンは傷口を狙ってきたから次も狙われるのを知ると、わざと隙を見せた。そして攻撃してきた所を狙って爪で挫く!!
俺も見ていられない、即効攻撃を仕掛ける。狙いはない、だがこうやればいいだけだ。
「アッキー、お前の攻撃は通じるからもっと攻撃してくれ」
体中に攻撃が入れば、今よりもっと戦いやすくなる。弱点も増えるというわけだ。
「わ、わかった、やってみる!!」
そういうと勇気を奮い起こしアッキーは斧を体の後ろに構えて走り出した。その姿は今までのアッキーと違って凛々しく立派な戦士に見えた。
「気をつけろ!!」
こういった時に油断と隙がうまれる、うまくいっている時でも注意は怠らない。
「うん!」
ドラゴンの攻撃をかわす、アッキーは体が大きい、距離を詰めるだけでも皆より動かなければいけない、何度も見て進む。
左上から右下に斧を振り下ろすアッキー、身を引きかわすドラゴンは体を支えていた左手を前に出した!!
「アッキー、危ない!!」
カタリナが遠くで叫んだ。
アッキーは既に後ろに逃げたが迫る爪をかわせない!!
「ドテッ」
アッキーが躓く、それが幸いし奇跡的に爪が当たらなかった。
ドラゴンはそれに気づき前に出て翼を羽ばたかせ脚の爪で突いてきた!!アッキーは斧をしっかりと持ち盾がわりにドラゴンに刃を向けた。
「ブンッ」
「グシュァ!!」
「ギォオォオオオオ・・!!」
アッキーは跳ばされた。しかしドラゴンの強烈な一撃も装備と斧、太った体で衝撃を抑止することに成功!ダメージも高くはならず済んだようだ。
カタリナがドラゴンの体を潜り阿弥陀籤のように抜け、詠唱しながら滑り込む。タッチ、
「マクスヒーリング!!」
アッキーの傷が回復した、そして急いで逃走する臆病かつ賢いヒーラーだった。傷が治った所でモニカは傷口を狙いファイヤーボウを放つ。
「ボシュッ」
「ズズッ、ジュルブブブ!!」
「グャガァアアア!!」
傷口を焼く火の球、皮膚の奥まで熱が通ったようだ。小さな魔力消費でも衝撃とダメージは大きい。
「MPが足りない」
慌てるモニカさん、長期戦はこれ以上避けたい。
「私の方も、もう回復は数回しか」
カタリナも同じような状況。
「アッキー、もう一度攻撃を頼してほしい!」
このままでは傷口が少ない、そして治癒能力に勝る攻撃が出来ていない。
「わかったよ」
危険を承知でアッキーはドラゴンに向かって走る!
「エルドラ、アッキーの援護を頼む」
「援護だね」
俺も援護に加わる、アッキーが倒されれば斧を使えるものは誰もいない。武器は持てないことはないが持ってもステータスが上がらない。つまり素手と同じになる。
アッキーが斧を肩に乗せ足に力を入れて小走りにドラゴンに向かった。真正面を避け常に横か真後ろとなるように足を進める。
エルドラと俺はドラゴンの意識を自分たちに向けさせた、傷ついた場所を狙えば、ドラゴンも集中力が途切れる。ドラゴンの血液の減少や神経の痛みによる体力消耗も十分にあり得る、だがらドラゴンは傷口を庇うように動いている。
「シャンッ!!」
アッキーは尾を斬りつけた。先っちょの所だったから尾が切れている。切れた部分から紫の血が垂れ、少しずつ傷口が治癒するように乾いていく。再生力も傷口が部分が多いほど遅くなる。
暴れるドラゴンの尾からアッキーは体に飛び乗った、斧を振り下ろし斬りつけていく、尾の付け根、背中左下部分、背中中央と斬れたがドラゴンが暴れ回りアッキーは床に落とされた。そこを狙うドラゴン。
「転がれアッキー!」
「ゴロゴロゴロゴロゴロ」
アッキーは床に転がって逃げた、そんな避け方が早いとは思わなかったが意外と早かった、すごい回転!
「パシュ」
「カキィ・・」
エルドラはドラゴンの視線がアッキーに向かった隙にドラゴンの左目を狙う。目を瞑るドラゴンの瞼を突き刺すのは失敗に終わるが視野を狭くするのに成功。平衡感覚が鈍った状態でドラゴンはアッキーに跳びかかった。
「トン!」
「シャパーッ」
爪のある腕を伸ばす。
ライムは傷口にリフューズソードを突き刺す。ぐりぐりと押して傷口を広げている。剣が折れてしまわないか心配だったが、一度戻って武器を持ってくるのでもいいと考えて。
ドラゴンの視界から消えたアッキー。片目から見える視野はドラゴンと言えどそんな広くない。アッキーは起き上がって走っていた。巨体とは思えないほど俊敏に動いて。
「ザクッ、ドパッ!!」
飛沫を上げる紫の血が出る。誰も攻撃の手をとめない。
「ザクッ、ドパッ。ズズズズ、ザクッ、グニャッ!!」
「バタンッ!!」
「ギャァアーッ」
ドラゴンが暴走する。左翼を半分斬られ、金の体から生々しい肉と骨が見えていた。骨まで折れているのか動きがおかしい、中は意外と脆かったようだ。
「シュパッシュパッスパスパスパスパパパパッ」
エルドラが青の銀河を使い暴れるドラゴンの左翼にナイフを入れる。傷口から肉を斬り骨を断つ。骨は硬く切れないが肉体を再生する前に斬る、手の甲を右から左、手の平を左から右に。
「ザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッ!!!」
俺も傷口に斬撃を縦横斜めに入れる。傷口が広がるとドラゴンは退いた。
「効いているぞ!!」
アッキーは斧を手に置き走ってドラゴンに向かった、全員が勢ぞろいで戦う。
「はいっ!せいっ!たあっ!らあっ!そぅっ!」
「わぁっ!たぁ!」
「ボフゥン、ズジューゥゥウウ!」
「ふんっ!ふあっ!ふぃっ!はぁっ!んぬっ!」
ドラゴンの体は傷だらけになる。普通にどこを攻撃していても傷口に剣の刃が触れた。
ジリジリと後ずさるドラゴン、攻守交代だ。さらに剣を入れる。
「ぬんっ!ぜあっ!」
「そらっ!せんっ、はぁっ!はいっ!そらっ、どぉだ!」
「うりゃっ、りっ、はあっ、たあっ!たぁっ、けいっ、せっ、どぉだ!!」
「ガタ・・・ガタタッ・・」
三人はドラゴンを壁のない床の端に追い詰める!!
「カッカッカッカッ、ダダッバババ、フワッ・・・」
傷だらけのドラゴンは壁のない空から下へ落ちていった。
「ドラゴンが沈没したぞー!」
「まだよぉ!」
「ファイアボール!!」
「僕も!」
「アイシクルランス!!」
「ブゥウーーーーン、ボファウンッ!カシカシッ!」
「ウゥウゥン~!」
「――――――」
「――――」
「―――」
「・・ 」
音が聞こえなくなった。
「やったわね」
「やりました」
「やったー、いぇーい、わぁーい!」
「よし」
アッキー大活躍である、神の武器が俺達を助けてくれた。
「もう戻ってこないよな」
恐る恐る俺はフロアのそこにしゃがみながら顔を近づけ下を眺めた。少しでもバランスを崩せば自分まで落ちるから屈んで覗く。
「大丈夫ライム?」
「もちろん。敵の姿はもう見えない、あれだけ傷を負って、ここから落ちたら助かることはないと思います」
「それなら安心ね、よかった・・」
「おいアッキー!お前が倒したんだぞ」
「な、なんとか倒せた・・」
「アッキー兄ちゃんすごい!!」
「い、いや、この斧があったから」
「これで命拾いしたわぁ~、やったぁー生きている~、う~んっんんんっ」
「アッキーさんお疲れさま」
カタリナがキャメルタオルを渡した。
「ん?ありがとう」
汗と血を拭うアッキー。メニューの履歴を見るとエンシェントドラゴンは消え去ったと書かれていた。そう表示されていたので、それなりのダメージは与えられたようだ、自由もきかないくらい弱っていたみたいだ、安心していいだろう。
休むことなく安全な場所へ進む。ここにいたら他のボスが襲ってくるかもしれない。なんせダンジョンの外とこちらは筒抜け状態だから。
「十七階層に行くにはどうすればいいんだ?」
「どうすればって?う~ん何も見当たらないわよねぇ~」
さっき斬り裂いたドラゴンの左翼が消えていった。
「あそこ!」
アッキーが指さす方に黄色く光る階段が現れた。
「よし、行こう」
「僕が確かめる、もし階段から落ちたら飛べるし」
エルドラが先頭をいく。
続いて俺たちは階段をのぼった。
階段を渡ると黒い部屋があった。位置的に言えば十六階層の天井の上にあたる。あの三姉妹の部屋か、意外と広い。俺達は、ここで休むことにした。
いつものようにメニューを開き履歴を確認する。
「どうやらモンスターはいないな」
気配もないし確認もとれたので全員が腰を下ろす。
「ふぅ~っ、いつもながらぐったりするわぁ」
「モニカさんは、普段動かない生活をしているんじゃないですか?」
「何ぃ~!カタリナ明日覚えてらっしゃい」
明日になると忘れているだろう。なんせドラゴンの次に出てくる敵を考えればそんな心境ではいられないから。
休憩しながらステータスの確認や武具を手入れする。そうしておけば使いやすい。
「まさかドラゴンを倒せるとは思わなかったわ~」
「俺も思っていませんでした。でもそう考えて動くと何も変わらないんです、だから倒せなくても勝つことだけを考えました」
例え倒せなくても誰も死なず重傷を負わず次へ進む、そうする方法を俺は考えた。
「僕はどっちが倒されても仕方がないと思っていました」
「そんなの終わってみたらどうってことないじゃない?」
それは勝てたからの話だ。
「さあ夕食を食べましょう、ご飯ご飯っ」
何だかアッキーの胃袋のようなモニカさん。
「またモンスターを殺めてしまったんですね、はぁ~っ」
「そういうな、カタリナこれが戦闘なんだ」
「そうよカタリナ!」
「そんな声出さないで下さい」
「そんな事してたら殺されるわ」
目が恐いモニカさん。
「はぃ」
夕食をとる。
「食料少し置いてきちゃったから、もうこれしかないよ。明後日は帰るんでしょー」
「そうだ。でもあれが置いてあれば、俺たちの食料にすればいいんだぞ」
「回収するのね」
「次も戦闘ですか」
「はぁ~」
「それは考えるのをやめよう。作戦はあとあと。それより食事だ」
包み紙を開けるとなんと今晩はエクセアブレッド。この非常食なら縁起がいいかもな。
「いいのあるじゃーないか」
「うんうん」
「これは皆さんの思いが詰まっています」
「それは僕たちのギルドで長持ちする食べ物だよ。それフィア姉さんが作ったの」
「何でわかるんだ?お前、俺と一緒にいただろ」
「フィア姉さんは持ち手を真っ直ぐにするんだ」
「へぇ~そうなんだ~」
「ここを真っ直ぐにすると持ちやすくて好きって言ってた」
ほかの部分が千切れやすくて食べやすいのかな~?
「持ちやすいか。俺はこのクルクル感が懐かしくて好きかな」
「僕も好きー」
「これもフィアさんが作ったの?下側焦げているけど」
「ん!どれー?それはフィアさんのかなー?」
「どれですか?見せて下さい」
生地の下側は焦げていて捩じってあるのか真っ直ぐなのか判別できなかった。
「それは失敗作だよw」
「フィアさんでも失敗するんですね」
「私だけ。よぉーしみんなでフィアさんにダンジョンから戻ってたら聞いてみましょう!」
「おぉーっ」
カタリナが声を上げる。どうやらモニカさんも列伝が板についてきたようだ。
「うぇーい!!」
「ははははは」
「ふふふふふー」
食事は大盛りあがりで終わった。
はぁ~っ、メニュー確認。敵の有無を調べる。この状態で敵が襲来したら即全滅かもな。ちょっと行ってくる。
この先を進むと扉があった。扉には鍵がかけてあった。ということは敵の方から襲ってくることはまずないということだ。来るのなら意味がなくなってしまうから。
「どうだった?」
心配そうに顔を上げるモニカさん、
「特に変わりはない。鍵もかかっているし。さあ眠ろう」
そう伝えられてよかった。
明日こそはダンジョンマスターに会う!俺達と分かれた仲間と街の人と自分の家族の事を少し考えて眠りに就いた。万全の体制で挑まなければ、まず勝てないと思うから。
ドラゴンは意外に弱かったのではと思います。だがドラゴンはこの世界でずっと戦闘か何かしらやっていたわけで他のモンスターより高齢だった。




