大フロアでの決戦 3
ステンノー、エウリュアレー、メデューサとの戦闘も終盤を迎えた。敵の異変で負けそうなライム達の戦況が大きく変わる。
ステンノーがメデューサのピンチに駆けつける。だが足が縺れていた、その原因は水を吸った絨毯に足を取られたから。
「バシャッ、トットタ!!」
やはりさっきまでとは状況が違う、この機に悪いが心を鬼にして俺は剣で斬りつける。縦に一刀入れると、剣を横にして受けるステンノー。俺は腹部に蹴りを出すと跳んで縦に斬りつけた。
危なっ!
俺は退き紙一重の所で剣をかわした。今のはヤバかったぞ、お互い対峙して睨み合う、頭の蛇も俺を睨んでいる。
「おい、お前たちは何でそんな事をするんだ?」
「私たちはあなたたちを殺すまでよ、姉妹を痛めつけたんだから許さない」
「キィイン!シュッ!」
俺の剣をはねのけ、斬りつける。すぐに剣を出すが足が滑った、絨毯には水たまりがあり足が縺れる。不意のちょっとした事から心と体が乱れた。
ステンノーの方もライムに剣を振るが腕が鈍る、何かの呪いか異変が起きたステンノーは思うように剣が出ない。
エウリュアレーはエルドラと戦う、エルドラの残HPは戦闘に必要な分が残っていない。
「バシッ、キィン!!」
「ビシ、カァン!!」
「ズッ、ベシッ!!」
「ドッ、ドッ、チチッ!!」
エルドラはナイフをあえて使わず拳や蹴りで攻撃した。攻撃を攻撃で阻止され違った場所に当たっていた。
「ボフッ!!」
「くっぁ!」
エルドラの体に一発入る!華奢な体にその一発は大きかった。三年の修業で筋肉と防御力はついたが、体はまだ大人より小さいので衝撃が大きかった。
「シュッ、カカッ!」
エルドラの反撃、体を素早く斬りつけた。
「お返し」
メデューサが杖を振る。
「スペンサー!!」
アッキーは無謀にも突進した、モニカがファイヤーボウで魔術の相殺を試みる。赤い閃光を喰らいながらもアッキーは斧を振り上げる。
「!」
ファイヤーボウを気にするメデューサは頭をおさえた。それに気をとられたのか金の斧がメデューサの蛇の髪と腕を同時にたたっ斬る!
「あがうぁっ・・ぁあっぁぁ頭が腕がぁぁあ・・・」
メデューサの頭から血が流れ、顔に垂れる。
黙ったままのアッキー、惨殺だがそれでもやらなければやられる。
「ザザザシュッ!!ザクンッ!!」
俺はステンノーの腕を斬りつけた。一刀、斬撃を斜めに二度入れると偶然か胸を斬りつけ足を斬る。それでもステンノーは止まらない、俺は一刀を何度も入れたがまだ動くステンノー。これ以上はやめてくれ、その気持ちを込めとどめを刺すため剣で刺した。
だがまだ、ステンノーは止まらない。俺はその気迫と不気味さに退いた。ステンノーは動けずそこに蹲って下をみるだけ、剣はそこに落ちていた。
「とどめを刺そうか・・」
「楽にしてやりなさい、それが冒険者だと思うわよ」
「もうやめて下さい!それ以上傷つけなくてもライムさんの勝ちで戦闘は終わってます!!」
意見が割れる二人、どちらの意見に従うか。
「シュシン!キィッ!」
「げくっ!」
エウリュアレーに斬りつけるエルドラは体に一発もらう。敵のように耐えきれるHPはない。だから常にかわしながら攻撃に移る。
エウリュアレーとエルドラには大きな違いがあった、エルドラには翼があることだ。滑る床に関係なく翼で旋回攻撃、髪を全て切り落とす。
「ああ“っ・・・」
呻き声をあげるエウリュアレーは何かを失った顔をして動きが止まる。髪は女の命とはいうが、その髪が例え蛇でも切り落とされるのは頂けない、それがリコルチェのように。
焼け爛れて黒焦げで斬り落とされて坊主になったエウリュアレーは悲しそうだった。
「私の髪がぁ!私の髪は、これでも。私は私はどうしてこん・・」
頭が混乱しているエウリュアレーは気が狂って白目をむいていた。そこにエルドラがナイフで攻撃、何度か斬りつけ首を落とす。もうエウリュアレーは命が尽きていることに気づかずに・・。
「気持ちが・・」
アッキーが気味悪がる。
怨念で体が動くメデューサの体は絨毯の上を彷徨う、斬られた頭は床に転がり目が開いたままだ。目は充血し血管の網膜が裂けんばかり。メデューサの体も次第に弱まっていく。
アッキーが斧を振り下ろす、体に割れ目が入る。曲線を描き水を吸った絨毯に落ちる、本来なら絨毯に跡を残す血痕も水に薄れてメデューサの死がなかったかのように消えていった。
無惨な三匹のモンスターの死体が床に倒れて消えていった。
周囲を見回す俺たち、
「ふぅ~、勝っちゃったよ」
「はい」
「やったわよ」
「僕たちだけで倒せたんだ。スカルベさん達にギルドメール送ってみるね」
エルドラは生きてほしいという気持ちを込めてギルドメールを送った。
「勝てた・・ 」
雨と激しい動きで乱れたので一度武具を整える。そして傷をカタリナに回復してもらった。
「あいつら何でふらふらしていたんだ?」
「何かの影響としか言えません。モンスターも生きるために戦っているんです、それにモンスターだって良心の呵責はありますっ!」
少し嫌な顔をしてカタリナは話した。
「そうか」
相変わらずカタリナは平等だな、そして頑固で真面目だ。
「いきなりフロアボスだから、立て続けに出現しそうだな。それかダンジョンマスターがいるか」
水だけ補給することにした。体の血を拭い、少し気力を回復すること約15分間、闘志を奮い立たせ次に挑んだ。
「さあ行くか!」
「行こう!」
「ええ!」
「はぃ!」
「行きましょう!」
いつもより早く攻撃、防御、しっかりと見て体を動ける状態を整える。耳で一つの情報も漏らさないで、匂いで敵を察知し、先手をとれる勝機があるのなら攻める。息がきれないうちに間合いと呼吸をとる、決して呼吸は読まれないこと、攻撃するタイミングを知られると反撃にあうから。
全員が威圧的なものを感じていた。言われなくても経験で知れるのだ。
「ああ、震えるーっ」
「信じろ、三年間を!!」
「戻る自分がいた世界に、皆に会うため」
「私は負けない。勝つ、生きるために!」
「生かさず殺さず、いいえ生かして殺さない。戦闘・戦争は永遠に終わらないのを知ってもらうために」
この大フロアの奥に一つの扉が現れた。開かずの扉といったところか。金色の板に赤色の模様と赤の枠、金色の取っ手がついた扉はこれまでにない物だった。
「よし、開けるぞっ!」
「おん」
「はいっ」
「ギィィイイ・・」
扉を開ける。
この先に何があっても俺たちは退かない、さあ何でも来やがれ!
!!
黄色だ。
空が一面黄色で、
首、尻尾、体、爪、顔、一匹の竜が翼を広げ羽ばたいていた。
「エンシェントドラゴン!!」
それは、こちらを見ていなかった。
「入るぞーー!!」
正直に言うと恐く逃げたい。黄色に見えたのは砂で霞んでいるのと空気が濁って光り加減の影響があるからだ。今ここにいるモンスターを知っているのは俺だけ、あの時の、ダンジョンの一階層に出現して全滅した例のドラゴンである。思い出す、今でもあの時の事!
床はコンクリートのような石の厚い板が置いてある。それが天井と床にあるが壁は前後左右ともになくなっていた。空間を渡ったのか後ろの扉だけポツンとある。柱がないので天井は浮いていることになる。ドラゴンは天井と床の間にいない、外にいた。すぐそこにいて羽ばたいている。そこから下を監視していたのだろう。
「気づいてる?」
「ああ」
「えっ!」
もちろん気づいているだろう。こちらを見ないが、以前のあいつは俺たちの行動全てを掌握していた。ドラゴンの目、その眼力の前で誤魔化すことなどできはしない。
「コォォォ・・・」
ドラゴンが正面を向いていた、いつの間に!!
天井を見渡す。とても高い天井、ここでなら戦える。
あの時以来だな。
「おい、エンシェントドラゴン!!」
「スッ・」
「アルスとセイラの借りは返させてもらう」
ドラゴンが翼を羽ばたかせる。前から風が吹いた。来る!?
「かわせー!!」
俺はそう怒鳴り回避体制をとった、誰もその声を聞き逃さない。
一瞬でドラゴンは俺たちの正面まで来ていた。右に俺とモニカさん、左にカタリナとエルドラ、アッキーが逃げる!
「大きいが速いぞっ!」
先に言うべき敵であるのに、想定外の出現だったので言いそびれた。他のフロアボスかと思っていた。ということはダンジョンマスターは近い!!
俺たちを睨むドラゴン、俺のいる右を見た。その目の瞳孔に足が竦む、思うように足が動かせない。呪縛のような金縛りに背く意思が出せず動けない。
意識を取り戻せ、俺は集中を自分に向けた。足が重いのを気づかれないうちに、早く早く!!
動かないほうが良いと体の防衛本能が働いたのか足は動いてくれず・。
そ・し・て・攻撃がくるかと思われたが、
今度はエンシェントドラゴンがエルドラの方を睨みつける。その間4秒、確実に息の根を止める算段だ。賢く巧妙かつ確実に行う。
「バサッ」
「うっぐぁああ!!」
「ぎゃっはぁ!!」
翼を動いたのが見えたら俺たちは吹っ飛んでいた。そして空中に浮いた俺たちに爪と牙を剥ける!!
修業の成果で、何が来るかはっきりと見える、だがそれを止めることが出来ない!!俺は剣を少し出してみたが意味がない。
「ブァバサッ!!」
「たぁっ!」
「バサッバサッ!」
「ドサッドタタッ、カッカッバタッ」
「うわっ」
「ああっ」
エルドラが空中にいる二人に体当りした。地面に落ちた衝撃はあったが最小限のダメージで済んだ。
ギロリ・・!!倒れた俺とモニカさんを見るドラゴン。普通の目でも怖い、この隙を狙われたらと倒れていられない。
ドラゴンは倒れた俺たちから目を移し、アッキーとカタリナの二人を見る。弱い方を狙う気だ!
「ズサッ!!」
「ザザザザーッ!!ザザッ!」
ドラゴンは高速接近、アッキーは防御体制だけはとった。横のカタリナを庇いその追突衝撃を一身に受けた。
その時、俺は何かを擦る音が聞こえた。灰色の床に赤く擦った線の跡が付いている。血だ!!血の跡は何十メートルも続く、あそこまで擦れたのかと心に痛みが走る。すごい速さでとばされたので血の量は多くはないが、肌が擦れてどうなっているのか想像できない、したくない。
ガード体勢を続けるアッキーの下からは血が漏れ出ない、広がらない。何せ庇ったそこのカタリナはヒーラーだからな。それもこの世界一のヒーラー、今や修道士の誰にも、ヒビアゲルにも負けない。
「ブンバサリッ!」
「ザザッ」
「ズザザザザーッツ」
「バサリバシューッゥ」
ドラゴンはアッキーたちがとばされた場所に突進した。アッキーとカタリナは共にかわしている。
汚い!!なんてやつだ、弱い方に目をつけたのだ。
俺たちの呪縛は既にとけていた。アッキーの擦りちぎられるような痛みを共に感じた。共感覚のようなもの、動いて俺たちの体が助けたいと思った、願った。
一つ疑問がある、何故カタリナとアッキーは呪縛が解けていたのか?ということだ。
「ブンバサッツ!!」
「ザザザザッ・・」
「ズザザザッ・・」
「くあっつ!!」
「ああーっ!!」
「痛っあっ!」
それを四、五回と続いた。敵は動いてしかいない。これでは咆哮が来たら終わりだ。
「おい、こっちだ」
「はぁ、ありがとう」
「あひぃ~」
かわすだけで精一杯、全員が合流。全員がドラゴンの攻撃をかわすとは思っていなかっただろう。羽ばたく風を感じることくらい全員楽勝だ。
それでもドラゴンは余裕である。
「よくも二人を殺そうとしてくれたわねー、反撃開始よ!」
「けちらせ、樹形雷!」
「ライトニング!!」
「__/\___!!」
ドラゴンの頭上から閃光がとめどなく足を伸ばしドラゴンを蹴り飛ばした。しかしドラゴンはちょっとピクと動いて何事もなかったのようにこちらを睨みつける、あの目の形は!!
「青の銀河!」
エルドラの目を見ると青と黄色の粒々が瞳の中に無数に浮かび上がった。その綺麗さと神秘さに魅了される。俺は一瞬エンシェントドラゴンの目に体が縛られたが、同じような目つきでエルドラが俺達を睨むと体が軽くなって普通に動けるようになっていた。
ドラゴンの睨みを打ち破る目である、異彩を放ち恐怖を反転させるのである。
「ブンバサリッ!」
ドラゴンが翼を羽ばたかせた。
攻撃体勢で迎え撃つ。こちらは動けるのを敵は知らない!!
俺たちは目の前に来たエンシェントドラゴンの爪をかわし、手と腕と体を斬りつけた。だがその刃は通らない。
アッキーは腕に振落をする、俺は手に一刀、エルドラは体にクイックカット。これが最初の様子見の一刃だった、結果は刃が当たっただけでほぼノーダメージ!!
「ファイアボール!!」
モニカさんが顔に火の球を放った!
「バゥン、バッフッ」
音すら起こらないで没した。
ドラゴンは、
「ドン」
と跳び上がり移動し尾を振り回して攻撃する、羽ばたくのをやめる。巨大な体は頭から尾を伸ばすとざっと100mもありそうだ、防御不可、回避限可!
「おおおっ!あ・・・ドッササササーッ。ああああ痛いっ!」
俺は、剣を当てて間合いをはかったが、巻き込まれ床に叩きつけられてしまった。大きさから敵との間合いがはかれない。
「うっぐぅぅっ!!」
アッキーは跳ぶより屈む方が良い事を知っている。ので地に伏せた。しかしドラゴンの目はそれを逃さない。尾が鞭のようにアッキーの体を打つ!!それでも受け身と防御体勢をきちんと取ったアッキー。カタリナは細いので身軽である、また回避する修業を人一倍したので難なく回避。ただアッキーの回復のため目が離せなかった。
モニカが頭を叩かれた。
「いったいわねぇ~、なによ!」
エルドラが飛んだ、あまりに早い尾の振り回しで右往左往した、当たりそうで一度落ちかける。
エンシェントドラゴンは足を伸ばし爪を立てた。エルドラはブリンクして移動、エンシェントドラゴンの後ろに隠れた。
「らぁあぁぁぁっ!」
「りゅうせいのやり!!」
「いっけぇええ~!!」
「キン☆\」
流れる星のように願いを込めてエルドラは槍を放った。竜精の槍がドラゴンの首の付け根あたりで回転する、その勢いはしばらく続いたが表面から5cm入った所で止まった。槍は空しく空に消えていった。
ドラゴンがこちらに振り返る、少しダメージを負ったので攻撃対象を変えたようだ。
「怒った?僕も同じだよ、怒ってる!」
ドラゴン同士の闘志の争いだろうか?エルドラはまだ子供だが完全な大人のドラゴンにも引けを取らない。それだけ頑張ってきた。
エンシェントドラゴンの傷口が小さくなっていく。
「ドラゴンの傷が治っているぞ!」
俺は状況を皆に伝えた。
「見えてる!」
「ブンッ、ブォッ、ブゥン、ブォッ!」
エルドラもお手上げ状態、ウィンドウィングでエンシェントドラゴンの爪をかわす。
気づいたらカタリナが俺の隣にいて手を当てていた、対応が早い!
「ありがとう、カタリナ」
「モニカさん、サンダーアークをお願いします!」
「ちょっと待って、その前に!」
「流れる、帯は幾重に大波!」
「アクアウェーブ!!」
モニカさんが魔術を使い敵の傷跡を濡らす。
「サンダーアーク!!」
さらに、次の魔術を出来る限り早く唱えた。
電狐が床を走りライムの剣に跳び移る、剣に雷弧が巻くついた、ドラゴンの傷口に剣を突き刺す!!
「魔術剣!」
「ズフッ!!シャシャシャリィリー!」
傷口から肉が削げ落ちていく、だがそれ以上押しても剣が刺さっていかない。
「このぉおっ、このぉおおーおおおおっ!!」
ゴールドドラゴンをドラゴンと呼ぶこともあります。




