氷雪の彼女 3
謎の女セルシウスはおそらくフロアボスだろう。そこに別の誰かが現れた!?そんな折り敵の攻撃をかわしていたライムが意外な事を思いつく。
だから、全員倒れたって諦めない。
俺は、少ないポーションで傷を癒した。応急措置は誰だってできる、僅差で死ぬわけにはいかない。
さっき、少し杖が当たっただけですごい痛かった。知らないうちにあちこちが痛み傷がついている、そして今の状態だ。皆が起き上がる姿を見て生存を確認する。
エルフの二人も生きている!凍っていて感覚がないのか足がグラつく。
「メディシン!」
カタリナが駆け寄り、足に回復魔術を唱えるとシャティは立てるようになった。良かった状態異常はなっていないようだ。
フリージアをかき消せたのはモニカさんのおかげ。あの時の異変は尋常ではない、急にセルシウスが強くなった。温度が下がれば強くなるからフリージアを唱えたのか。こちらの動きを止める目的なのか気を付けなければ。
そこにずっと立つセルシウスは、またぶつぶつと呟いている。
その独り言が止まると杖を振った、また吹雪が起きた。粉雪は雪煙となって舞い上がり目の前はホワイトアウト状態になる。
「ダメージを喰らいすぎるな、かわせ!!」
スカルベさんが注意喚起する。さきほどまでとは比べ物にならない、今度の冷気は正に死の刃。全員が冷気から少しでも遠ざかり仲間同士で近寄る。背中合わせに固まって武器を構える。
「えっ!?」
影が見えた!?
「ええ、またっ!!」
今度は赤白い装束を纏った女が見えた。
「ヘッドウィンド!!」
すぐに風魔術を唱え対応するフィア、視界が開けるまでタイムラグがある。
「うわ」
少なくとも、まだ視界ゼロの状態
「きゃーあー!」
皆とにかく逃げ回る、少しでも動けば敵が狙いにくくなる。
「きゃあっ」
「誰だ!?」
逃げ惑う。光といっても良い前触れとは限らない。死ぬ寸前、光が見えることだってある。それは視界に入る光景であって一寸先は闇かもしれない。
「っつぐう」
仲間の呻き声が聞こえた。
「おわっ」
また誰かとぶつかる。冷たい物体、ちょっと触れただけなのに体がくっつき持っていかれた。俺は地面に手をついた。
「おい、だから」
「きゃあーっ!」
女の悲鳴。
この声はシャティさんかモニカさんだと思う。俺は白い景色に目を凝らした。
「ドスン」
「痛いって、お前は当たり屋か!!」
皆、攻撃を喰らったようだ。その声がした。流石に視界ゼロではかわしきれないか・・。
「くっそぉ、汚い手ばかり使いやがって。飛び道具で接近させない、おまけに冷気に紛れて姿を消す、攻撃の手をやめない・・・」
俺は赤白い女に文句をつけて走っていた。
ホワイトアウトが消えるまでずっと逃げていた。途中で滑ったり、こけたりしたけど直接ダメージは奇跡的に0。
「はあはぁ、痛いわね」
「これは大変、ふぅ~」
「ぜぇはぁ息できなかったわよ」
「ふぅはぁ、死ぬかと思いました」
皆、攻撃を喰らいながらも四人は致命傷を避け生きていた!残る三人は、
「はー、はー。ん、うん」
「ぜぇはぁ、僕も手加減なしのお姉さんに太刀打ちできなかった」
「はぁはぁ、冷気で痛みが消えているぞ侮るなー!!」
もちろん三人も生きていた。
冷気に合わせ攻撃する。それがセルシウスの恐ろしい所だ、攻撃を喰らっても冷気で感覚が麻痺してくるから気づかない。戦っていて、いつの間にか蓄積ダメージがデッドラインを超える。
「メニューでステータスを確認お願いします」
と俺は唱えた。
全員メニューを開き、ステータスを確認した。
視界が開けてきた。自然の風ってやつか、有難い。ホワイトが薄れゆく中に赤白い女がいる!
「お前は!!」
「はぁはぁ、誰!?」
「冒険者か」
「これ以上思議はやめて下さい、セルシウスさん」
カタリナが語りかける。お前の話術で誑し込めるか。
「セルシウスか!」
セ、セルシウス!!
何度も体がぶつかった女がセルシウス張本人だったとは、当の本人は青の装束に戻っている。
間違いない、セルシウスだ!
あの当たり屋はセルシウス!・・・か。人にさんざん迷惑かけて暢気に立っている。赤い唇、赤白い装束を纏い風で装束が捲し上がっている。セルシウスは寒くないのか!?
「・・・・・・・」
全員が沈黙に包まれる。
現実のアプリゲームならトランペットで祝いのファンファーレでも吹いてあげるだろうが、死と背中合わせだろ、本当冗談じゃないぞ!
「コホンッ」
ああ喉がいたい~。素敵スキルは好きだが冷たさで頭と脳が働かない上に、雑念まで入れるとは恐ろしい。俺のステータスにある履歴欄には『セルシウスはファーレンハイトした』と載っていた。
カタリナの周りに寄り添うみんなに本人はマクスレイズヒーリングを唱えた。全員の傷が回復し命を繋いだ。
「死にぞこないの冒険者、まだ私に殺されない気。一体いつまでここにいて私の時間を奪うつもりよ!」
「スタンコールド!」
セルシウスは効果が消えたので、もう一度冷気を纏う。そして素早く襲い掛かってきた。俺達のHPは回復したが、先手を相手にとられ押され気味で気持ちが負けていた。
俺達が距離を詰めれば冷気と杖による攻撃、距離をとれば冷波を放ってくる。
「フリージア!」
セルシウスはかわすだけで精一杯なライムたちを見て、杖を翳し魔術を唱えた。
魔術を阻止したいが既に遅い、こちらは戦闘態勢が完全に崩されていた。セルシウスが杖を振るとホワイトアウトが起きた!
赤白い女!
「バシッ!バシッ!ダダダ!」
「キィーーーン!カカッ!」
早く冷たいというものではない、凍てつく痛みそのものが動いている。
「どうするの~!骨折れるかと思ったわよ」
モニカさんが横にいた、攻撃されたのか太腿を擦っている。
「もう一度あれを喰らって立っている自信がない・・」
自信がない言葉で目を伏せる。
「があっ」
「危ない!」
「テンペスト!!」
危険を顧みないシャティさんは魔術を使った、仲間ごと巻き込んで。言っておく、魔術攻撃は自分もダメージを喰らう。嵐に仲間が巻き込まれる。俺も一緒だけど・・。
「ぐぁあ~!!冷たぃ冷たぃ、おいおいおいそこはまずいぃ~!!」
「ああああっ、ぼぼぼぅ、ぅぅぅう~!!」
「きゃーあああああっ・・・・あっうううぅう!!」
嵐に飛ばされる。息が出来ない、地面に叩きつけられる、雪が装備品の中に入ってくる、雪に体温が奪われる、冷気が押し寄せる。
「・・・サクッ」
気づくと硬い氷の上ではなかった、あれだけフリージアやホワイトアウトをしたんだ。硬い氷の上には少しの雪があった。そして助かった、たくさんの雪と冷気とダメージを喰らい。
セルシウスがそこで話した。
「あなた達は、まだ死に出会っていない。でも待ってくれない。死にたくなくても私が誘う」
「あん?」
な、なにを言っている。よく聞こえない、片目の視界で耳まで片方しか聞こえていない気がする。もう一つの目は冷気が触ったので痛かった。
セルシウスの呟いている時、カタリナは走った。そして周囲にいる仲間にマクスレイズヒーリングを唱える、時間と(仲間までの)距離から可能な二回。
「もうこれ以上はあなたたちを見たくない、だから私の最高魔法で片づけさせてもらうわ」
「ちょっと待って下さい!」
モニカさんが手を出して待ったするが続けて喋るセルシウス。
「やりたいことが出来ない。出来ることだけしてもいけない。今まで私は過去に浸っていた。誰もいないこの地で思い出に縋りながら、ずっと耐えてきた。それもずっとぉぉっ。でも時間は止まってくれなかった、そして年月が立ち歳をとった。
あなた達が存在する限り、始末するため私はここに留まらなければならない。私は自由になりたいと思う気持ちを持ってはいけない、全ての思いを冷却し心を凍らせた。その私の苦しみを味わいなさい!!」
「えっ、どういうこと?」
モニカさんがパニくる、頭を抱え混乱状態。
「俺もわからない」
話がよく見えない、言葉が通じたって気持ちが伝わらないとダメなんだぞ。俺達はお構いなしにセルシウスは魔術の詠唱を始めた・・。
「来るぞ」
「抗えん、永遠に体を礎に磔る氷地獄よ!」
「コキュートス!!(封閉の氷地獄)」
「キャラン!!キャラキャラキャラキャラキャラキンキンキンキンキン!!!!」
詠唱が始まった時、スカルベさんが声をかけた。
「モニカあれに対抗するには最高火魔術を使うしか手はない」
「ええっ!たて続けに最高火魔術を使わなくちゃいけないの?でもここぞ私の出番ってわけか、引き受けましょう!」
モニカは頼もしかった、エナジードリンクでMPを一気に回復し魔術に全魔力を投入する。
「敵を滅ぼせ、メギドの丘で終末を告げし業火よ!」
「メギドフレイム!!」(黙示録の業火)
炎最高魔術である、これがこちらの切り札だーー!
「ゾワゾワゾワ・・ボファァアアアアアアアアアアアア!!!!」
「シュッ!!ジュゥウウウウウゥウ!!ウウウウウゥウゥゥ!!」
「・・・・ピタリ」
セルシウスを囲む炎、だが火力が足りないかも。熱量の関係からして氷を溶かし水にしてそれを蒸発させるまでは必要ないはず。なのにセルシウスにはその炎が効いていない。氷の弱点は炎、炎の弱点は水のはず。
この環境では黙示録の業火も威力激減なのはわかるが、こうも効かないとは。メギドフレイムは消えていった。
「キャラキャラキャラ・・・」
そしてコキュートスの魔術を阻むものはなくなった、氷の石が積み重なり一つの室をつくる、その氷塊は俺たちを覆って一つの氷と成していく。
「僕ら死ぬの?」
「そうかもな」
「痛いかな」
「痛くはない、ずっと苦しむだけ、氷の中であなたの時間が永遠に止まるから」
「へっ?」
「セルシウス、質問と答えが合っていない」
何も答えてもらえないか。フレイヤのようにはいかないようだ。
それでも俺は必死に逃げ回る、早く早く、運良くか運悪く炎は雪と地面の氷を解かしていった。
「ここから早く逃げないと」
「逃げ道がない」
「考えて」
シャティとフィアが話す。
俺はがむしゃらに走った、すると滑った。氷上は炎の熱気で溶けた水が少しあり表面が滑りやすい状態だった。スケート選手さながらダッシュ、ターン、サルコウなーんて上手くはないが。
抜けた!!
室に閉じ込められる前に奇跡的に抜け出した。スキルは使えない、なぜなら滑るから。だから皆、閉じ込められている。
「まとえ、魔術の防護布!」
「マジックバリア!!」
室の天井が完成した。もし周囲の一部が完成したら抜け出せない、中でモニカは対抗するため魔術を唱えた。
湯気のような冷気が漂う、その冷気は体に張り付くと体温を奪っていった。
「ドラゴンクロウ、ドラゴンパンチ!!」
必死に抵抗するスカルベ。
「クイックカット!」
「何だよこれ」
エルドラはスキルで氷を斬る、魔術の氷はそうやすやすと切れず驚く。りゅうせいのやりを使うには狭すぎる。
カタリナがシエルアトモスフィアを使う。中の冷気は一時的に常温と変化したが、また中は凍てつく冷気で満たされていった。
抵抗してもビクともしない。薄紙を剥ぐように、さらに冷気は体温と動きを奪っていく。
「どうしよう体、固まっちゃう!」
「助けて!お姉ちゃん」
凍りついていく全員の体。
「一人いない!?」
セルシウスが驚嘆の声を上げた。
時間が惜しいのか、眉を顰め逃げ出した俺をうざがっている、俺は逃げるため氷上をつるんと滑った。
「あっ!」
見つかった。
セルシウスは冷波をこちらに飛ばした。俺はターンダッシュで曲線を描き滑りかわした。まではよかったが、止まる事が出来なくなった。
「うわぁああっー助けてくれー。うわっ、おおっ、危ない!はい、よっ」
そして自制できない状態になる。
「えっ、ええええ!!」
「まずいまずい」
「だめだめだ」
「―――――」
「バタンッ&!!」
「!」
こちらをみる青い瞳、セルシウスの体に飛び込んだ俺は彼女を抱いてしまった、さらにその勢いで後ろに押し倒してしまう。
「ドンッ」
倒れ見つめ合うライムとセルシウス、
「パリィン!!」
小さなガラスが割れる音がした。
その瞬間、振動を許さない絶対零度が破られた。
セルシウスは青い瞳をパチリと開いた。パリパリパリパリと胸に亀裂が入っていく感じがしたからだ。溶ける心に解ける心臓。ライムの脈打つ鼓動が絶対零度のハートに熱を送っていた。誰も近寄ることなく接することなく触れることなく、ここに幽閉されてきた日々が嘘のように否定される。
-273、-272、-271、セルシウスの中に熱が入っていく、そして温度が上がっていく。それとともに振動が一つ二つと鼓動する。そして心に感情が湧いた、セルシウスはダメージを負ったのか胸を押さえている。
「トクン、トクン、トクトクトクク」
ダメージ1、2、3、4、
「はなして!」
「バシッ」
ライムを突き飛ばしたセルシウス。
何か気まずい雰囲気だった。皆は・・まだ大丈夫か。
「パキィィン」
「!」
セルシウスが関係するのかコキュートスの室にもヒビが入っている。それとも一点集中でヒビを入れたのか?氷の室にぽっかり穴が空いていた。
「みんな!」
俺は嬉しくて思わず声をかけた。
「今いく」
「ちょ、ちょっと出られない」
皆急いでいるw。
いつぞやと同じで、またアッキーだけ抜けられなかった。
「どうする?」
「どうしよう」
「これ以上体温を奪われると命が危ないわ」
モニカさんが叫んだ。
「あなたたちさえ来なければ。この世界にあなたたちのような冒険者がいるから私が連れてこられたのよ」
頭を振るセルシウス。
「何だそれ」
「おい、時間がない!」
アッキーが凍っていく。
「待ってくれ。お前はどうしたいんだ」
「どうしたい」
セルシウスが迷う。
「キャラン!サン!クィン!」
フィアがアイシクルランスを唱えた。同じくセルシウスもアイシクルランスを唱える。ぶつかる氷柱と氷柱。シャティがウォーターガンを唱え移動する。杖を振るセルシウス、鉄砲水が空中で固まった。
温度-200、-199、-198、
モニカがファイヤーボールを唱える、セルシウスは杖を振って冷気で防いだ。
「アッキー兄ちゃん、凍っていってる」
足をバタバタするエルドラ、
「ライム!!」
スカルベが翼を羽ばたかせ体にドラゴンパンチ×3、
「パシ」
「くっ」
手が少し凍りつくスカルベ。
ダメージ20、30、40、
カタリナはメディシンを唱えスカルベ凍結を治癒する、続けてマドレヒーリングを詠唱。
セルシウスが杖を振るとホワイトアウトが起こった。そしてファーレンハイトで攻撃、続いて冷波を連続で飛ばす。
「うおおっ」
「プスプスプスプスッ」
冷気の数多の針がスカルベの体を刺す。
「きゃあっ!・・・ああ~っ」
シャティの足が冷波に巻き込まれた、痛みで立っていられない。
「バシバシバシ!」
「うわっ!ピシ!ううう」
エルドラがセルシウスの素早い杖の連撃を喰らい肩が凍りついた。カタリナはメディシン、マドレヒーリングを唱えた。
「死ぬぞ、アッキー!!」
温度-50、-49、-48
「悪いな、ズシュッ、ズボッ」
スカルベのティルウィングがセルシウスの胸を斬りつけ、ドラゴントラストが体を貫いた。
「ごめん、シュッラン、シィィィ、キィン!」
エルドラのロンドナイフが体を切っていく。
「くぅっ!!」
セルシウスは体を庇うように手でおさえる。
そして、
今まで一滴の血さえ出ることがなかったセルシウスの体から血が流れ出た。赤黒い普通の血で人間と変わらない。
「私は・・・」
「――――」
温度0。
「考えたんだがセルシウス、お前はもっと燃え滾ってもいいんじゃないか?こんな場所で一人で待って考えていたってつまらないだろ。もし今度会えたら一緒に冒険しようぜ、って臭い台詞だけどな」
「もうライムは女に甘いんだからー、このっ」
蹴りを入れるモニカさん、それって酷すぎっ。
「スケベ熱には、セルシウスさんでも勝てませんでしたか」
カタリナもあいからわずひでぇな、嫌がらせ列伝に磨きがかかり極まる。
「ライムたちはいいわよね、この凍える世界で笑ってられて」
シャティとフィアが他人顔で見ている。
「勝てたら嬉しいもんね」
「待て待て。なんだアッキーお前俺が触ろうとしたら手をはなしたな」
「寒いから」
「それはないぞー、暖房キャラのお前まで俺を見放すってのか、俺もフロアボスになろうっかな」
「嫌だ」
「二人とも仲良くしろ!」
スカルベさんから喝が入る。
氷漬けになっていたはずのアッキーは、もう暖かくなっていた。お前は暖房キャラで決まりだと思う。
絶対零度の世界では振動が止まる。よって攻撃や魔術が止まりダメージ0となる。




