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氷雪の彼女 2

 氷のフロアは氷のモンスターがたくさん。しかも白や無色透明で景色と混ざる色をしたモンスター。逃げ遅れた原因はそれが理由。

 そういえば下の階層でスカルベさんが天井を突き破った時に空が見えた。もしかしたら俺たちは既に最上階についているのかもしれない。異空間に疑問を感じ俺はスカルベさんに聞いた。

「下の階層で天井を突き破ると空が見えたんですけど、他に変な事ありました?」

 俺たちなら異次元でも多少知識があるから、戻る手がかりにつなげられるかもしれない。


「空とは、これだろ」


「雪、ですか?」


「そうだ、この白い雪が固まりがあった。割れたのは少しだが、崩れ落ちた雪が熱で解けて水になり蒸発した。それで合点がいく」


 白く見えたのは空ではなく雪だったのか。

「ということは穴が空いているのか!」


「それ大丈夫じゃない。雪の下は氷が張っているし、あれは入り口に近かったから、上と地形が一緒なら、もうとーっくに抜けているはず」


「ちょっと見てみて良いですか?」

 そう言って俺は雪の下を掘ってみた。するとかなり分厚い氷が層を作っていた。もし突き抜けたのならここから見てもしたの赤黒いフロアが見えるか?


「これで疑問が解決しました」


 この氷ならアッキーだけでなく俺達全員と雪の重さに耐えられるはず。そして歩いて行くと大きな湖が一つあった。


 言い換える湖ではない、雪が積もっていない氷の湖のような場所。そこに白く青い空が反射され真っ白に映って見えただけだ。以前のセーフティポイントと同じ原理。歩きながら見て得た情報が更新されていく。近寄ると湖は白から灰色や黒に変わった。水面はざらざらとして固く冷たそう。氷に反射され映った自分の顔を見るとなぜか怖かった、氷は厚く底まで深いようだ。


 氷の上を歩きながら立ち止まり眺めていると、遠くにぽつんと段差がある場所が見えた。ほんの少しの間の出来事である。

 さらに、その上に氷の台と椅子、雪なのか白いクッションが置いてあり、一人の女が椅子に腰かけていた。白い肌と青い髪、青白い装束を纏っている。


「待て」

 スカルベさんが声をかけたので足を止めたが時すでに遅し。その女性はこちらを向いている。ぶつぶつぶつぶつと何か呟いている。聞き取れないが口が動いている。


「気づかれたっ」


「こわそ」


「また女のフロアボスですか」

 怪訝な顔をしてカタリナが言う。


「恰好は女だな」

 アークピクシーと同じ女の装い、しかし実際の性別は不明。


 少し戦いにくい、しかし勝算を考えとこちらが有利。戦力・場所・状況・女などを含めると勝機の見込みありとなった。


「見つかったなら行くか」


「はい」


「四人は後方で援護」

 スカルベは女四人に指示する。氷の上でツルツルと滑るので擦りつけながらスカルベの周りに集まる。



 微動だにしなかったが、近づくと女が椅子から立ち上がった。

「私はセルシウス、この氷のフロアの番人」

と言う女、唇が紫色をしている。


「そうだと思った。俺たちは次のフロアへ行きたい」


 交渉したがおそらくダメだろう。


「行くなら行けばいい」


「で、戦うしかないのか」


「そうよ、だってあなたたちは私の敵なんだもの!」


 雪の椅子に置いてあった杖を持ちあげる、透明な杖で背景と同系色で見えにくい。杖を持つと翳した。


「吹け、凍てつく息と凍える風!」

「フリージア!!」


 げっ、魔術使うの!?


 セルシウスが魔術を唱えた。これまでのモンスターやフロアボスとは明らかに違う戦闘スタイル。俺たちの体中から熱が奪われる。心臓の脈が凍って止まる、それほどの冷気が辺りを包む。凍りの大地に風が冷気が吹けば、熱のある物体は急激に温度を失う。


「氷にして殺す気だぞ」


「わかってます」


「さむ~っ!」


「いた・・い」


 全員動けず戦闘態勢に入れない。なぜなら動くと冷気で呼吸ができないからだ。詳しく言うと冷気が口や喉に入ると口の中が凍ったように乾く。また細胞が活動できない温度になってしまった。


 敵の魔術の使い方が異なるのは経験の差。効果上昇のための補助呪文として最初に冷気を起こさせ、別の魔術を使い威力を高める方が俺たちは良いと思っていた。


「ス―――」


「ガサンッ!」

 接近し氷の杖を突き刺すセルシウス、これを俺は剣で受ける!

 予想通り、先が尖がった杖は槍と同じ使い方をすることが想定される。そして杖は突き刺す方が振るより効果的な使い方。


「・・・・・・」


「一度退却だ」


 氷の上では戦いにくい。氷を滑りながら温かい手で鼻を保護しての鼻呼吸のみでぜぇぜぇはぁはぁと、その場から逃げ出した。一定以上離れたところで襲ってこなくなった。フロアボスの守る範囲は氷の上だけ。


「はぁはぁはぁ、助かった~」


「す~っふぅ~息もさせない気ぃ」


「ぜぇぜぇ~かぁはっ~」

 アッキーの呼吸は器官から漏れる音と声を合わせて出しているように聞こえた。喘息のような呼吸である。


「ふぅ~っ」


 全員の呼吸を整うとスカルベさんが言葉を発した。


「一度作戦を考える」

 円陣を組んだ。それにしてもよくフロアボスから逃げられたと思う。追いつかれなかったし。


「まずモニカ、お前は炎の魔術で先制してくれ。その隙に俺とエルドラが翼で飛んで距離を詰める」


「火魔術は任せて」


「そしてシャティとフィアが攻撃する。そしてお前達」


「私とフィアは弓矢を放つからライムとアッキーは私たちを護衛して。合図したらスカルベ達を手伝う、カタリナは常に回復の準備をしておいて」


「回復ですね」


「どれが一番通じるか、通じるたものを優先するぞ」


 一同頷いた。もう一度、氷の上に足をのせる。


「ファイヤーボウ!!」


「アイシクルランス!!」

 セルシウスが魔術を唱える。炎矢を氷槍で相殺!!氷のフロアなので少し炎の威力が弱まっていた。発動後秒数が立てばたつほど弱まって行く火魔術。


「どうしよう~!」

 モニカは慌てた。


「もう一度、お願いしまーす!」


「ファイアボール!!」

 火の玉の軌道を読み二人もついていく。


「スタンコールド!!」

 セルシウスは冷気を纏った。

 そして誰もいないのに杖を振ると吹雪が吹いた。冷気の効果がある杖なのか、これではこちらが思う様に動けない。


「ブンッ・・・・キャシャリシャリシャリ!」

 杖を振る、今度は氷が飛んだ、氷は空を飛んでいるスカルベとエルドラの武器を繋ぐように張り付いた、やっかいな杖である。


「パキン」

 飛ぶのを止め地上で武器を軽く振って氷を落とすスカルベとエルドラ。



「・・ま」 

 目をカッと開いたセルシウスは、杖を翳し魔術を詠唱する。

「ダイヤモンドダスト!!」


 凍てつく冷気が肌を刺し凍っていく。高速で飛翔は出来ない、空は地上より凍結の影響が強い、結局走って逃げるしかなかった。


「アッキー加勢するぞ」

 走る、身勝手な行動だが眺めていてはいけない。急げ早く!


「アイシクルランス!」

 スカルベさんたちに氷柱の槍を飛ばすっ!


「か!」

 スカルベさんは体に氷がついたまま氷柱を切り落とした。それにはかなり力がいるようだ、息が荒れている。


「フリージア」

 ならと、セルシウスは追い打ちをかけるように魔術を唱える。そして冷気が辺りを包む。


 外気は冷気なので、一度鼻を通すか口の中で温める。そうしないと肺が痛む。動くには酸素が必要だし。


「あら、これは?」

 片腕を前に出したセルシウス、風を確かめる。

 これは、ティルウインドの風である、追い風が加勢した。フロア全体的の方がまだ温かい、いや言うなら冷たくない、漂う冷気を吹き飛ばした。



 杖を激しく振るセルシウス、


 すると突然!花のような氷のクリスタルが角を出した!


「っ」

 カタリナの腹部のローブを裂いて肉を切る、血が氷のクリスタルの上にドッと落ちた。カタリナは氷の上に倒れた。


「カッ」

 かわすエルフの二人、モニカさんは手から血が垂れる、トクンと落ちたのは氷の角の先端。赤い血液が無色透明な氷の上で屈折・反射し、クリスタルは異様な異彩を放つ。万華鏡のように血が付いて流れるたび変わっていく。


 メニュー確認、それは冷波の仕業だった。鋭い角がモニカさんを突き刺していた、他の二人に怪我はないようだ。


「お姉ちゃん!」

 エルドラが叫んだ。


「・・・・ぶ」

 私はまだ戦えると言わんばかりにセルシウスの方を見るカタリナ、血で滲んだ腹部にロッドをあてマクスレイズヒーリングを唱えた。致命的な一撃だった。そしてすぐにモニカにマドレヒーリングを唱えた。唱える魔術は見目で適当。


 俺は急いでカタリナ達の方へ言った。走れないから滑って、この際スケートの要領で滑って歩いた、俺は環境を受け入れる男だ。


「大丈夫か?」

 俺が言葉をかけると二人とも頷く。


「心配ないようよ!」


「回復した!」

 俺がそういったのでエルドラとスカルベは目を離した。


 気を取り直して戦闘の続きだ、残りの戦力でどうすれば勝てるか。


 杖を振るセルシウス、クリスタル(氷の花)が幾つも咲く。俺達は、あっちこっちと移動してかわした。

 俺は相手のMP消費を増やす狙いでやり過ごしていた。だが少し考えるとあれは攻撃だったのだ、必要なのは最初のスタンコールドだけのはず。

 こちらに敵の真似は不可能、他に考えるとすれば魔術による攻撃をどう止めるかである。


 待てよ、どうしてセルシウスは魔術を詠唱できるんだ。スタンコールドは神の魔術だとモニカさんは言っていた。悪が神の魔術を行使できるはずがない、それともセルシウスも人間なのか!


 あ~くっそぉお、問題が山積みである。


「はあはあ」

 ありったけの息を吸い、


「お前は人間なのか!!」

 俺は思いっきり叫んで聞いてみた。動揺してくれればしめたものだけど・・。


「・・・」

 声が返ってこない、無反応で顔にも全く出ないからやめだ。


 それならと頭をフル回転する、氷の魔術が通じるか試していない事に気づく。


「モニカさん」


「何よ」


「氷魔術が通じるか試していません。ライティングで意表をつけばいけると思います、あとは氷魔術と火魔術を何か一つ追加で放って下さい」


「放てばいいのね」


「了解」



「エルドラ、スカルベさんーこちらを見ないで下さい!!」


 おっ、手を振っている。


「ライティング!」

 俺も目を閉じなきゃ。


「アイシクルランス!」


 光源は小さくセルシウスまで距離があった、湖の氷は大きかった、黒杖から放たれた光は湖の床に反射され見事セルシウスの目を焼くことに成功!!苦しむセルシウス、そこにアイシクルランスの氷柱が飛んでいく。


 が!! セルシウスの体に氷柱が刺さっていない。


 氷は弱点どころかむしろ美点。氷柱はセルシウスの足元に落ちていた。だが、まだ望みはある。ファイヤーボウが突き進む、これにかける!!ファイヤーボウは漂う冷気に熱を奪われ威力激減、全く効かず終わる。


「あなた達さえいなければ、こんなに悩まされることはなかったのに」


「なんだ、何を言っている」

 ぶつぶつとセルシウスは喋っている。


「怒ってる」

 エルドラがそう教えてくれた。


「どうして私がここにいなくちゃならないの。毎日毎日毎日毎日なんでなんでこんなことばかりしないといけないっ」

 ヒステリーなセルシウス、切れている。


 チャンスと考えたのかトマホークを使ったアッキー、届かないアイスウォールで壁を作るセルシウス、トマホークは止められてしまった。


「そんなに氷が好きなら氷漬けにしてあげる」

「跳べ、波紋の水滴!」

「ウォータースプラッシュ!!」

 シャティの放った水がセルシウスに目がけて飛ぶ!はずだった。冷気と地面の氷が邪魔をして水が跳ねない、魔術が発動した直後から氷は水に吸着し熱を奪った。そして水飴のような粘ついた形で固まってしまった。

 術者シャティの指先が(かじか)む、手が凍ったように俺の目に映った。


「キィーン、スィーン、スィーン」

 セルシウスが杖を振る。


 冷気の風が来る!


 修業で流れる冷気の予兆位感じ取れるようになっている。全員かわしたが空気は熱を奪われた。奪われた空気は俺たちの熱を奪い肌を刺す、そして寒さで体が委縮した。


「はぁはぁ」


「スッ、スッ」

 疾風のごとくエルドラが左右にウィンドウィングでクイックカット、ナイフを巧みに使う。ナイフの変形する刃を活かすが体に刃が当たったところでセルシウスの体に傷一つつかなかった、攻撃後エルドラは退いた。


 メニューを確認、履歴に『セルシウスの絶対零度の体にはダメージを与えられなかった』とあった。


 スカルベは翼を羽ばたかせ高速で接近、斬りつける。セルシウスは杖の一振りで冷気の流れを起こす。


「ぐぁあ」

 翼が冷気の風に当てられた。羽が凍りづき吹き飛ばされた。

「ぐぬぬっ」



「フリージア」

 セルシウスは魔術を唱えた。辺りは冷気が包んだ、そして何度も杖を振って冷気の流れを飛ばす。すると風と粉雪が飛び交い、霧のような雪の煙が生まれ辺りはホワイトアウトの視界となる。


 悪いことばかりではない。こうやって吹雪いてくれれば氷の上に雪が被さるわけで、足元の自由が利くようになった。


「――ゴッ」

 どこだ、俺の背中に違和感が走った、肩の骨が衝撃で砕かれた!?縮んでいる、何だ何が起こっているんだ。

 冷気で麻痺していた神経、麻痺は徐々にとけていく。血は体内を循環する、痛みは神経から脳へ情報を伝達する。それらの機能がゆっくり伝えたようだ、俺の背中と肩に激痛が走った!


「痛ぃっ・・」


「――ブンッ」

 倒れた音、皆戦っているんだろうけど、この視界では見えない。


「――ス、―――キィン、――――キ」


「キィーン」


「シュッ、カシッ」


「サシ、バタッ」


「ダダッ、カシッ」


「ブンッ、ブンッ、ドグッ」


「・・・バシッ、ザザザザーッ!」


「キィン!バシバシッ、バタッ」


 音がどこかから何回も聞こえた、目の前にセルシウスの影が見えたかと思うと赤白い装束の人がいて消え、また見えたかと思うと栄えた赤い目の人がいて消え、また見えたかと思うと赤い唇の人がいて消える。一瞬こちらを睨んだが、俺の勘違いのような気もする。


「誰だ!」

 俺は叫んだ。仲間か敵か誰なのか?


「―――」


『頭上の白は只の白ではない』と感じ俺は剣を上に上げた。

「キィン!」

 硬い物を弾いた、俺の手応えでは杖のあたり。来た!白い部分を近距離で見分けて剣で返す。違う!カタリナのローブだ、雪まみれで飛んできたので剣を止める、危な!体を少し斬りかけた。


「はぁはぁはぁ」


「はぁはぁ」

 思うように戦えない。


 モニカは何度攻撃を受けても痛みに耐え、冷たくなった黒杖を決して放さなかった。その杖を翳し唱える。


「ヘッドウィンド!」


 風を吹かせホワイトアウトを消し去る。


 アッキーは地面に腰かけ激しく呼吸していた。モニカさんは魔術詠唱後の状態、シャティとフィアさんは氷の上に倒れていた、スカルベとエルドラは構えた姿で立っている。みんな疲れた顔をしている。


 俺の目の前のカタリナは・・・意識を取り戻し目を薄らあけた。

「ヒーリング唱・・た」

 目がまだ半開きで口もおぼつかない、寸前に応急措置のヒーリングを唱えたようだ。


「バシッ、きゃあっく・・」

 セルシウスは杖で攻撃し冷気をモニカに当てた。


 風魔術を阻止する目的!それでまずはエルフ二人を攻撃したわけか。その二人は倒れていた、動かないが大丈夫そうだ。

 氷雪の彼女の名はセシウスの方が良かったかな、それだと解けた感じがしませんか?

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