第30話 ダンジョン14階層 氷雪の彼女
火フロアを出て休憩後、進んだライムたちは正反対のフロアに辿り着いた。
フレイヤを倒し階段をのぼると壁に穴が空いた洞窟があった。そこをしばらく進むと今度は扉があり中には広い岩地の丸い空間、青々とした草原が広がっていた。天井は岩で低く空はない、中の光は空間の中央の白い地面から発せられている。
あっ白く光る地面が揺れた!!これは水の影!どうやら水があるようだ、行ってみよう。俺たちは揺れる光に近づいた。
「あっ泉・・」
「こんな場所に」
その泉は天井をうつしていた。天井は珍しい真っ白な岩がある。
「おい、触るな。罠かもしれないぞ」
シャティさんが迂闊にも水に触ろうとした。上位冒険者でも、こういうミスをするのか。用心に越したことはない、だから汲みたいが飲み水には利用はしない。
どうやら植物が生えているので触れることに関しては問題はなさそう。
「昼食をとろうか」
何も言わなくても『水分が足りない』のは知っている。で全員が賛成した。血液も体も水分が含まれているからな。
「ゴクンゴキュン、ゴクンッ」
「クキュン・・・クキュン」
「コクコクコクッ」
ゆっくりと水を飲むもの、一気に飲み干そうとするもの、思い思い水を飲んで失った水分を補給する、火フロアでは相当熱に当てられたからな。
昼食(水分補給)後、俺たちは体を休めながら話し合った。
「こんなに敵のレベルが上がるとは思わなかった」
「私も~」
俺とモニカさんが草原に伏し体を預けて言った。
「それはそれ」
「これからが本番です」
「それでも俺たちは生き残った。攻撃しうまく敵の攻撃をかわす、お前たちは技に対応し戦闘にいかしていたぞ」
「はい」
「パリッ!」
水分だけでは不足する。塩分のあるカソートルも一緒に食べる。板状の塩せんべいのような食べ物だ。体の機能を働かせるために必要な栄養が含まれている。
一度ここで泊まって明日になってから再出発しようかと俺が尋ねると、食料の関係でスカルベさん達が反対した。
「食料は、もって三、四日分しかない、それまで最上階に着かなければ・・」
「ここはスカルベの意見に従いましょう。帰りはどうしますか?」
「そうだな、仲間に途中ギルドメールでも出しておくか」
「ポンッ!その手がありますね」
十三階層でのHP、MP消費はアイテムで回復し、休憩をとる。
「パシャパシャ!!」
「気持ちいい」
「体が腐りそうでした」
な!!
どこぞのエルフが泉で体を洗っている。と言っても服を着たまま手や足を濯いでいるのだが、これまた良い眺めだ。
「冷た~い」
「澄んだ水ねぇ~」
「アッキー俺たちも洗ってこないか」
「うん」
肌が汗だらけだったので装備品を外し、俺たちも水で体を濯いだ。モンスターの気配はしないが、スカルベさんは周囲を警戒・警護している。
・・・・・しばらく経つ。
休憩後、スカルベさんたちが立ち上がり、合図のようにこちらを見たので俺たちは腰を上げた。
この空間の出口に鉱石の扉がある、開けると通路が続く。ここは風が吹いていた、しかも後ろから前にだ。濡れていた肌が乾いていく。
松明で照らすと通路の壁にはいくつか鉱石が埋まっていた。今は採掘する暇はないが役に立つだろう、先を急ぐ。
行き止まりだ。
また鉱石のドア、これをどっこいしょと開く、かなりの大仕事だった。
誰もいないので中に入る、辺りを照らすとドーム状の部屋があった。平面なつるつるとした床から松明の灯りが反射し、燈(松明)に加え黒と白と青色が混ざる、そしてかまくらのような造形物が俺の頭の中で想像された。
ミノタウロスのようなモンスターを感じさせる気配や匂いはない、湿気と冷気が入り交じり肌寒いだけ。その中の壁に一つ灯りが反射しない場所があった。
「あそこだけ光りが反射しない」
俺はそれとなく言った。
「そうだな、何だ」
「ゆっくり行きましょう」
そこには扉があった。鉱石の扉だ、他とは違う物質。
扉を開くと明るい光が入ってきた。そして透明で冷たい空気と白い吐息がぶつかり合い、体温を奪うように冷気が体に纏わりついた、かと思えばそれをはがしていく。目を晒すのを躊躇うが前を見ないと警戒もできず、奪われる熱があった箇所には補完するよう冷気がしみ込んでいった。
「ううっ寒っ~、体がしみるぅぅ~」
染み入る冷気が吹いているようだ。
「かなり寒いな」
「ううん、さむい」
冷気が当たる表面体積が多いほど体温が奪われそうだから、身を細め肌と肌を密着させる。
「アッキーあったかそう~ 」
俺が言うとモニカさんとカタリナもくっついた。
「わーぴちゃ」
「どれどれ、むちゃっ」
人間暖房と一緒に外に出る。しかし外ではアッキーの温熱効果が一気に消えていった。この巨体をもってしてもこの冷気の前では役立たず同然、みんなアッキーからすぐに離れた。
外は一面銀世界、視界全体には銀の絨毯が敷かれ、弛んだり盛り上がる皺が寄る。草木は一つもない。空は白く氷の粒が舞い青にも見える。キラキラと輝くので冒険者には幻想的な世界だと思わせるだろう。
だがここはフロア、モンスターがいる。おまけに氷は肌を刺し活動限界まで熱を奪うから安心していられない。ここはどこだ、外からみた俺たちがさっきまでいた部屋、それは丸いドームの中、氷でできた大きなかまくらといったらいいだろうか、雪まつりの会場みたいな建物である。
ダンジョン14階層 氷雪の彼女
雪の中、足元を震わしながら雪と風を押しのけ前へ進む。だが雪が多すぎて進めず、やる気が削げ落とされていった。
「足がもたつくわね」
「こんなのに体力使ったら戦えません」
「大丈夫か」
スカルベさんがスプレッドクローズを切り木の棒を使い、足を覆ってくれた。なるほど『かんじき』のようなものか。面積が広くなった靴で雪道を歩く。
「ザクザクザクザク」
「ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク」
気の遠くなる白い空と雪道を進んでいる、踏みつける雪と割れる氷の足音が実感して気持ちいい。
「バフッッ」
これだけ歩いたのに同じ景色、足元真っ白。思わず雪の中にうつ伏せに倒れこんでしまった。
「はぁはぁ、早く遊んでないで行くわよ~ライム」
俺は身を雪に預け足をバタバタしていた。
「ああ待って。バッカフ、バキッ・・・」
何か踏んだか?気を付けよう、誰も気づいていなかった。
「――→――→→」
白い視界の中から白い氷の矢がいくつも飛んできた。見分けるのは難しいが俺とエルドラは飛んできた矢をタタッ斬って難を凌いだ。
あの灰地での修業を思い出す。暗くなっても棒を振って修業したから、動くものを体で感じられるようになったんだ。
矢はそれで斬り落としたが、どこからか別の音がする。
「さらさらさらさら・・」
「サラサラサラサラ・・」
「ボッボッボッボッ・・・・・・」
「ボボボボボボボボボボボボボボボッ」
「ズズズズズズズズズズズボボ」
どこから音がするんだ、段々と大きくなるなと思ったら左右前後から雪玉が転がってきた。
「うわっ、雪玉です!」
「なんだなんだ、おいおいどんどん大きくなっているぞ」
「罠か」
「飛べない?」
「来ます!」
「羽ばたかせ、風の翼!」
「フロート!!」
空へ逃げる。全員空に浮いたまでは良かった。
な・に!!
雪玉も空に飛んだ!襲ってくるーっ!
モニカさんが空中浮遊の状態で魔術を詠唱・・。得意のファイアウォールを放つ。
なに!!
空中に炎の壁ができるのか、そりゃー壁を作りたいのは俺たちがいる空中だけど・・・
守れない!!
熱い炎の壁に体当りした、体が解ける雪だるま。しかし塊全てを解かせず、一部が俺たちを直撃、フロートが破られ雪の下に決死のダイブ、
「ズボッツ、ズスッ」
「ガサッ、ドサッ」
体から落ちて危なかったが全員が無事に済んだ。
「あ、いてててて」
ヒーリングを詠唱するカタリナ。空は逃げるのに適さない。襲ってきた雪玉の名前はスノーマン、ダイブした俺はすぐにメニューを確認した。
地面に下りた俺達にスノーマンは一斉に襲い掛かってきた!
「ガキ!」
「ゴッ!」
スノーパンチ、固くしまったパンチは石のように固く重い。それを剣で受けきれずクロスガード(手を交差して防御)する。骨が折れたのか鈍い音がした、折れてないか?かなり痛いぞ。
例え回復しても脳裏に刻まれる痛みを喰らうのは、もうご免だ。剣を振るが効いているのか動きが止まらない、今度は一刀を放つがそれでも倒れないスノーマン。
スノーマンは一辺倒の攻撃で直線的な攻撃しかできないようだ。スカルベ、エルドラ、アッキーは攻撃をうまく掻い潜る。
火魔術が得意なモニカさんだけが頼り。ファイヤーボウ詠唱止めで松明に火をつけそれを皆に配った。
これなら魔術節約、弱点を突く攻撃だ!!それをスノーマンに向けると見たこともない炎に焦った。正直な反応w。
「ボゥ!」
「ボボゥ!」
スノーマンの顔から汗が垂れる、スカルベは隙を見て翼で旋回しドラゴンパンチで次々と体を吹っ飛ばした。
さらにティルウィングでタタッ斬る。この巨大化を野放しにしたらとてつもない破壊力と命中率になる危険大。大きくなる分当たりやすく、力も上がるから即死間違いなし。スノーマンの硬度は氷以上。スカルベさんはタタッ斬れるが俺では力が足りないのか・・。
とりあえず出現した四匹を倒したので先を急ぐ、モンスターが出現するのなら行先に間違いはない。
またまたスノーマンが転がってきた。しかし警戒のため、飛翔していたにいた偵察のスカルベさんが
「来たぞー」
と叫ぶ、
「また出てきそうだ・・」
嫌な予感、見ると一目散に逃走、レベルとかそういうのは余裕のある時考えることだ。今は次の階層まで行くのと睡眠をとる場所を探すことが先決である。
逃げ切れず・・・、
さらに不意打で攻撃!!雪の下からアイスマンが出現、氷の銛で刺してきた。この絨毯の下には一体どんなモンスターが眠ってるんだ?清廉潔白・純真無垢どころか、心どす黒い汚い手ばかり使うモンスターが攻撃して来たぞ。モンスターたちは俺たちの行く手を阻む。
「危なっ」
銛に刺される所だった!急所の目を狙われたら再生不可能な致死的ダメージを受ける。
「シュラッ!!」
俺は腕を伸ばし剣で攻撃する。さっき少し体に触れただけで体温が急速に下がった、どうやら冷たくて力が入らなくなるようだ。
「冷っ」
「きゃっ」
「このーっ」
「くぅうう」
「ていやぁーっ」
「ピシッ・・・・・パキッ、パキパキパキ、キッ」
エルドラのウィンドウィングとクイックカットのコンビネーションでアイスマンの体を斬り裂いた。傷から割れ目が生じ裂けて壊れる。氷の少年は美技で優雅・華麗に雪の上を移動して倒した。
「スト・・・ン」
俺は体の傷に沿う様に、剣を素早く入れる、そしてスノーマンの体を破壊することに成功、倒し方を学んだのである。
「パシッ!」
アッキーは金の斧の効能かスノーマンをつんざく。自業自得だな、雪でも動けば多少の熱が発生する。とりあえず攻撃で喰らったダメージをカタリナに回復してもらい、すぐに移動した。
それでもモンスターは絶えず現れる。夢か幻か、現実だ!ここまで来て一面の絨毯は遂にベールが剥がされた、絨毯の下はモンスターがいっぱい隠れていたw。
これが異世界か?どうせならハーレム出しやがれ!
「むっ」
スカルベさんが反応する。
何か走ってくる、しかも可愛いもの。
無限に広がる雪の中から夢幻のような色をした狐が怪訝に走ってきた。雪の上をあんなにも早く、どうしたんだお前は何を急いでいる。
フィアさんが下に弓を構え矢を射る。
「ビィン――」
静かな場所なので音が響く。
「パキン」
矢は体に当たって弾かれた。
夢幻の狐は、ダイヤモンドかスワロフスキーのような七色に光る角ばった狐である。狐?近くで見ると氷の彫刻にしか見えないぞ、でも動いている。
目で見ると眩しい。ゲレンデの美貌を直視させないモンスター、よく来たなと言いたいところだが生憎俺はそんな気分じゃない。
おわっ、狐が跳んで向かって来るぞ!
アッキーは盾でガードする。だが盾の上を飛び越えた狐はアッキーの頭に直撃、アッキーは頭を抑えていた。狙った?鎧がない頭は一番防御力が弱い箇所だ。地面に下りるとシャティさんの方へ走った。
そして爪と牙を出してシャティさんの肌を挫いた。接近戦に素早い動き、かわしきれないシャティ、腕から血が出て立膝をついていた。毒があるのか、体がふらふらとして、瞬きが長い。
「カシィン!カッ、カシッ、カカカカカカ、カンカンカキン!カカカカカ、カィン!カカッカッカカカ、カタカカッカタッ」
「カシィッ、カシィン!カスッ」
「カシッ、バサッ」
エルドラが攻撃、狐は雪の上にとばされたが、すぐに起き上がる。
剣で狐を斬るがまったく受け付けない。ゲームの醍醐味なら経験値も多いはず、倒せば高い経験値を獲得できるかもしれない。
メニューを開く、
≪ブリリアントフォックス 五十八面体狐≫
と明記された狐こそ、まさにアート。ダンジョンマスター様は寛大だ、感謝と敬礼をする。
「逃げるぞ」
スカルベさんが言うが俺は食い下がった。
「あの体の装甲見逃せません、弱そうですし倒しませんか?」
「目的はダンジョン攻略だ」
「ですが経験値とレベルが必要ですし」
「ライム、それはあなたのわがままです」
「ほっときましょ」
「ライムさんこだわりますね」
「可哀想だから・あまり」
「来たぞ!!モンスターだ、せいっ!!」
「だけど・はっ」
長い戦いの末、アッキーのディスクストライクが決まる、その五十八面体の一面が崩れ落ちた。
「割れたら楽勝だな」
ブリリアントフォックスはバランスを崩し次々と崩れる。最後には散って消えた・・。
「ふぅ~っ・・・っと」
「はぁはぁはぁ、何とか倒せた」
「はぁはぁ、よくやった」
スカルベさんがアッキーを褒めた、得物が大きく回転力があった上、体重が威力を倍増させたから装甲を破れたのだと思う。
戦闘後、経験値を確認する、経験値は7だった。たった7であんなにダメージを受けたとは、リーダー失格。もうダンジョンマスター最低だな。
「7だって経験値」
「そうだろ俺もラッキーセブンだった。ダンジョンマスターにだまされました。あははははは」
「・・・・」
済まされない俺は皆のジト目を感じた。
その目に当てつけられ俺は体が熱くなった。怒り倍層で体温&戦意倍増計画成功!である。
「体が温まりやる気が漲ったなうんうん、さあ行こう!」
こうやって、たまーにリーダーらしいことをする。俺は先頭を歩いた。
「ビシッ」
雪の球が俺の後頭部に当たった。
「なっ」
モンスターではない、俺は後ろを見たが誰もそれらしい人物は見当たらない。モニカさん以外やる人はいないと思うが意外とエルドラもありえる。
人間不信を感じながらモンスターとの戦いを除き二時間ほど歩いた。
当初は氷のフロアが先でした。




