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 僕の友人『N』の場合~どうしようもない彼に転機(死に戻りループ)が降ってきた~  作者: 大野はやと
第二章:『雨上がり編』

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第百三十六話、話半分と言うか、無理やり押し付けられた物語でも、思い出せる時は思い出せる





 思い返してみれば。

のっちゃんのギフトとして分け身として行動を共にするようになってからというもの。

ダンジョンなどと呼ばれる場所に向かうのは初めての事ではありました。


よっし~さんの故郷……通称『青空世界』にも似たような場所が『異世』により創り出されていた、とのことですが。

それなのにも関わらず、わたくしに限らずルプレやトゥェルにもダンジョンと言うものの認識があったのは。

やはりのっちゃんの記憶に依るところが大きいのでしょう。


もっとも、そんなのっちゃんにとってみても、実際に肌で体感するのは初めてとのことで。

一見謎かけのようにも見えますが、答えは単純。


もう感覚的には大分昔の話、とのことですが。

のっちゃんの故郷にてダンジョンに挑戦する疑似体験……『ゲーム』にのめり込んでいて。

それなりに回数をこなしていた、とのことで。


その一方で、自分の意思がなかった、はっきり言うと真面目に読んではいなかったけれど。

ダンジョンが物語の主題となる作品を読ませられていたからと。

何だかとても意味深長なセリフをおっしゃっていて。

それに輪をかけるように不思議さが増していったのは。

後半の謎めいたそのお話を、マナさんには内緒にしておいて欲しいとのっちゃんがあえて口にしたことでしょうか。


まあ、のっちゃん本人がそうは微塵も思っていないとしても。

しもべでありながら口が軽いと思われるのも嫌ですから。

言いつけの通りお話することはありませんが、気になるのは確かで。

その辺りのこともこの学園での生活が落ち着いたら、調べてみる必要がありそうですね。


……などと思っている中で。

此度の本題となるダンジョン攻略。

のっちゃんが時のはざまの裂け目からまろび出るようにたどり着いたのは。

白い光沢を放つ石が整然と敷き詰められた、いかにもな場所でした。


ざっと見回した限りでは、他の生徒のみなさんや敵性……この場合モンスターでしょうか……の姿もなく。

教室ほどの大きさのフロアに出口と言うか、別のフロアへ繋がるであろう通路が三つありました。

何故か、その先は暗くなっていて見えませんが……。



『おっ、あっち見てみろよ! あれお金じゃないか? いかにもな小袋に入って落っこちてるし』


ルプレが言うように、部屋の隅っこに白地の……首元を紐で巻かれた袋がおいて、落ちているのがわかります。

ここのダンジョンは、宝箱もあるそうなのですが、それとは別に重要度の低いアイテムがはだかで置いてあるようで。


この世界には、学校とそれに付随する施設しかないとのことですので。

お金はあまり重要ではないそうなのですが、卒業してほかの世界へ帰る、あるいは向かう事になれば役立つ事もある、とのことで。



「……そう言えば、『銭投げ』と呼ばれる強力な攻撃方法があったか」


なんにせよ、ダンジョンでの初めての収穫。

わたくしたちが何言わずとも、ゲットしない選択肢はなかったのでしょう。

わたくしたちにも聞こえるようにそんないいわけ? をしつつのっちゃんは。

ダンジョンでのはじめてのアイテムを手に入れる事に成功していて。



「とにかく、まずはみんなと合流しよう」


のっちゃんは53dtを入手しました。

などといった吹き出しをイメージしつつ。

まずははぐれたみなさんと合流だとばかりにのっちゃんは、三つあった分かれ道……

今いるフロアから別のフロアへと続くであろう、しかし先の見えない通路のうち、右側伸びる道へと、迷いなく歩み行くのっちゃん。

恐らく、その選択も最良であると疑ってはいませんでしたが。



『むむっ、あのいかにも強そうなオーラはっ』

『ええ、アキラさんですね。『虹泉』の様子を見ても、近くにいらっしゃるとは思っていましたが』


のっちゃんとしては、まずは手早くお味方と合流したかったのでしょう。

それは、アキラさんの方も同じであったようで。



『やっぱりなんて言うか迫力がすごいなあ。あれが常在戦場ってやつなのかな』

『うーん、それは。どうなのでしょうか』


わたくしとしましては、先程申し上げたように。

のっちゃんの【挑発】スキルのように、アキラさんを包んでいるオーラのようなものは。

オンオフができないといいますか、そもそもアキラさん自身が、周りを威圧する力の自覚がないように見えるのです。


よくよく考えてみますと、ギンヤさんも含めて男子生徒のお友達の皆さんは、中学生くらいでしょう。

年齢不詳、しっかりお兄さんに見えるのっちゃんとすぐに会うことができて。

ただただ、頼りにしていますとばかりにこちらの駆け出してくるのがわかります。



「……良かった。動くべきか迷っていたんだが、のっちゃんが同じ裂け目から出て行くのがみえたからな」

「ああ、おれも同じ事を考えていたんだ。何せダンジョンなんて初めてだったから、動かずにいてくれて助かった」

「いや、俺は……どうするべきか迷っていただけだからな。助かったのはこちらの方さ」

「そうか。それじゃあまずは改めて攻略探索を始める前に、みんなと合流したいんだが。それまでにダンジョンの基礎について教えてもらってもいいだろうか。ダンジョン自体は知らないと言う事はないんだが、こうして体験するのは初めてなんだ」

「……っ、ああ。それは、そうだよな。俺もダンジョンに入れるようになって数ヶ月程度だが、それでもよければ」

「よろしく頼むよ」


元よりのっちゃんは周りの人にぞんざいな態度を取る事はない(インパクトの大きすぎたマナさんはのぞく)とはわかっていましたが。

それでも丁寧で先達を敬う様子に、アキラさんとしてものっちゃんに対してそう悪い印象を受けてはいないようで。

なんとはなしにそれも、のっちゃんが最良の選択肢を進んだ結果なのでしょうか、なんて無粋なことを思っていたわけですが。



『ああ、あれだな。アキラくんは主さまに似てるっつーか、立ち位置的なものが近いのかな。

ほら、アキラくんってこういっちゃなんだけど、主さまに負けないくらいモブか、顔が見えなくなってる主人公っぽいだろ?』

『……なるほど。少し選択肢にばかり気を取られすぎていたのかもしれませんね。つまりは友達、仲良しになれそうな相手、というわけですか』


見た目、纏う空気が似通っているシミズさんにギンヤさんにおっくんさん。

わたくしたちから見ても、物語に登場する主人公といってもいい方たち。

当然アキラさんにも、そういった雰囲気を感じ取っていて。

このジャスポースと呼ばれる学園が、そう言った方たちばかりを選抜して呼び寄せていると言う事実を知ったのはそれからすぐのことで。



「それじゃあ、次の試験もダンジョンで行う事になるだろうし、今いる『異世界への寂蒔』のレプリカダンジョンについて知ってる事を。このダンジョンは、全15階で、トラップの類は3階から。持ち込みアイテム装備の制限は、今回はないけれど、結構ドロップアイテムは豊富だから、なるべくストレージは開けておいた方がいいと思う。普通のダンジョンなら、モンスターは階層の数が増えるほど強くなる傾向だけど、ここはそんな常識は適応されないと思っていいかな。運が悪いと、モンスターレギオンに巻き込まれる可能性もあるが、今回は試験の前の準備とも言える授業だから、15階まで到達せずとも、脱出するためのアイテムは見つかると思う。今回が初回ののっちゃんに言う事ではないかもしれないが、そう気負わなくてもいいだろう」

「……ふむ。どうやら体験したことはないが、よく知っている類のものらしい。とりあえず、ハウス……レギオンに巻き込まれないようにしないとな」


アキラさんとのっちゃんは、知っている事を再確認、復習していました。

もしかして、わたくしたちに教えてくださったのかも、なんて思っていると。


ダンジョンのついてのお話し合いは終わったのか、何やらアキラさん、のっちゃんに聞きたい事がある様子で。

その、躊躇い言い澱んでいる様は、正しく年相応に見えて。

のっちゃん、気づいてあげてくださいと声を上げる前に。

それでも意を決したアキラさんが口を開きます。



「……つかぬことを、聞いてもいいだろうか?」

「ああ、構わないが」

「のっちゃんは……その、この場合故郷と言っていいのかだが、地球の日本からこのジャスポース学園へやってきたのだろうか?」

「途中にひとつ挟んではいるが。生まれ故郷は……うん。ここのように幻想の力を、そのものを体験するような事はなかったな。まあ、物語は無数にあったことだし、おれが気づいていなかっただけでなのかもしれないが……」

「やはり。そう、だったのか。でも、そうか。のっちゃんの言う通り俺自身も気づいていなかっただけなのかもしれないな……」



ちなみに、出身県は。

なんだ、すぐ隣の県じゃないか。

もしかしたら、出会った事があったのかもしれないな。

続き、そんなやりとりをしていて。

傍から見ていると、お堅い議論を交わしているようにも見えて。

その実地元のお話で、熱く盛り上がっていました。


故郷の事についてお伺いを立てていましたので、わたくしたちの知らないのっちゃんの事を知れるのかと思いきや、よくよく聞くところによると、アキラさんはのっちゃんと同じように、自らの意思をもってこの幻想の、英雄を育て上げるという学園にやって来たわけではなかったようで。

そう言う意味で似た者同士と言うか、話の分かる人を探していた、とのことでした。


おっくんさんもギンヤさんも、シミズさんも前述しました通り、物語の主人公のように個性抜群で住む世界が違っているように見えてしまって。

幻想ファンタジーを夢見るしかなかった現実を生きてきたもの特有の悩みめいたものを吐き出したかった、とのことで。


「とはいえ、のっちゃんはすごいな。あのような眩しくて直視できない女の子たちと、然と向き合えているのだから」

「……ひと昔前なら、おれ自身向き合えてなどいない、周りがお節介にも近寄ってくるだけだ、などとのたまっていただろうと思う。だけど、いい加減気づいたんだろう。逃げてばかりじゃいけないと。自らで動き出さねば……とね」

「やっぱり人生の先輩、いや。師匠と呼ばせてもらってもいいだろうか」

「そんな器じゃあないが、アキラ君の好きなように呼んでもらっても……む」

「モンスターも少しは時期を読めるらしい。ようやっとお出ましか」


やってきた道をのぞけば、二つの分かれ道が伸びているフロア。

一方で背を向ければ、何故か通路にだけ揺蕩っている闇が、フロアに押し出されては溶け消えていっているのが分かります。

一体全体どのような仕組みなのでしょうかと、興味津々とのっちゃんの視点を借りて見つめていると。



『うわっ!? ど、ドラゴン!? ここって一階じゃなかった? こう言う場合って赤とか青のスライムとかじゃん!』

『大きなお顔……おや、よく見ると首元までしか見えませんね』


そんな別れ道に一つから、その通路の幅いっぱいの大きさのドラゴン……の頭だけのモンスターが飛び出してきました。

当然、のっちゃんのリアクションはわかりませんが、端に見えるアキラさんの瞳が、結構見開かれてるのがわかって。



「ドラゴンヘッド! 13階層以降に出現するモンスター、か。成る程。師匠はやはり、持っているようだ」

「ハードラックとか、そういった類かな。確かに運はあまり良くはない方か。せめて踊らないよう気を付けよう」

「バイクがないから踊れないのは道理か」


恐らくきっと、幻想のたぐいは夢の中にしかない世界の人たちにしかわからないかもしれない、そんな二人のやりとり。

特に何かを取り決めていたようにも見えないのに、のっちゃんはマグマの災厄改め、

実はわたくしたちに続くギフトになろうとしている【フレッシュ・アンフラメ・フレイム】からラーニングした溶岩のつぶてを打ち出すと。

それに追随する形で駆け出していったアキラさんが【ウルガヴ】属性でできているらしい凍りつく刃、剣を生み出したかと思うと。

その剣先をどんどんと伸ばしていって……。




「グゥォワッ!?」


溶岩弾をまともに受けて仰け反り、怯んだドラゴンヘッドの首元を、深く抉る一閃。

のっちゃんの、徐ながら隙のない先制攻撃だけでなく。

続くアキラさんの凍える剣が弱点をついた……クリティカルであったようで。

ドラゴンヘッドと呼ばれるモンスターは、何もさせてもらえないままキラキラエフェクトとともに煙立って、所謂ドロップアイテムを残していました。



「蛇の抜け殻、薄い鱗×3か。中々に渋いな」

「すまない。十中八九おれだろう。基本的におれは運が悪いからな」

「いや、それなら俺もそうさ。とは言っても学園のダンジョンだからな。ドロップアイテムの類は、そのものが必要としている者が出ると聞いている。きっとドラゴンヘッドはそういったものを持ち合わせてはいなかったんだろう」

「ふふ。アキラ君は良い奴だな。モテそうだ」

『おおっ? のっちゃんから出たとは思えないお言葉だぜ!』

『そうですか? 最近の、レベルアップしたご主人さまなら、ありえそうですけれど』


そう言った人と人との機微に興味を持つようになったと言いますか、しっかり目を向けるようになったと言いますか。

レベルアップを幾度となく繰り返したことによるもの、経験の賜物であろう事は間違いなさそうで。



「な、何を言い出すんだ。俺なんてさっぱりだよ。目を合わせたら嫌われたり怒られたり、なんてことザラだからな。それこそのっちゃんにコツを教えてもらいたいくらいだよ」


年齢不詳に見えまして、のっちゃんは実際それなりに年をとって……年上ではあるので

そういったところは年相応なアキラさんからしてみればのっちゃんが頼もしく見えるのでしょう。


「おれにコツだって? うーむ。そう言われると……そうだな。おれの場合、いきなり前言撤回になってしまうが、運が良かったんだろう。おれは正直、出会いに恵まれているんだ。前向きになって進まなければと思わせるくらいには」

「そう、なのか。……うん、きっと。そう言う風に言えるのっちゃんだからこそ、なんだろうな」


俺にはそんな出会いはなかった、なんて思ってしまっている時点で駄目だったのかと。

気落ちした様子を見せるアキラさん。



『うーん、主さまの言葉じゃないけど、アキラくんってけっこうモテそうだけど』


なんてルプレの呟きが聞こえたのか。

少々癪だが珍しく思い出したぞ、などとぼやいた後。

のっちゃんはそんなアキラさんにフォローを入れていました。


「それは……アキラが未だ出会っていないか、当たり前すぎて気づいていないだけだろう。実は、突拍子もない事ではあるんだが、アキラ君が想い追いかけられる様子を見た……思い出したんだ。しかも、結構な数だった。つまるところ、アキラの心配は杞憂、と言う訳だな」

「そうか……【リヴァ】魔法! のっちゃんがそう言うのならば、俺も前を向くとしよう……と、お客さん、いや、それはこちらか」

『のっちゃん、そんな人の未来? 見る力、どこで覚えてきたんだろう? マイン、使えるのか? わたしは覚えてないけど』

『いえ、それは魔法というよりはわたくしたちの知りえないご主人様自身の記憶なのかも』

『記憶だって?』

『ええ、もっともご主人様からしてみれば本意ではなさそうですが……』


何せ、それを認めてしまったのならば同志、同郷だと認めあっていた事が、揺らいでしまうかもしれない。

なんて思っていたからなのかもしれなくて。



『ああ、またその話かあ。主さまもいつかは話してくれるかな……って、出た! 青スライムと赤スライム! 可愛い系のやつだぜっ!』


ルプレの言葉通り、いつかそのような機会が訪れますようと願っていると。

やはり先程のドラゴンヘッドは、のっちゃんの運のたまものであったのでしょう。

思えば初めて出会うのに、のっちゃんの記憶がそうさせるのか、とっても仲良くしたい、懐かしさを覚えるスライムさんたちが向かってくるのが見えて……。



     (第137話につづく)







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