第百三十五話、ある意味でテンプレな、ダンジョンなどと呼ばれる異世界、あるいは『異世』
のっちゃんが嘘をつかない、特に身近な身内にはその必要性を感じていないと言う事をよくよく分かっていましたので。
わたくしたちは、そんなのっちゃんから与えられし言葉を当たり前の事として受け入れつつ。
それでもまだ不安そうにしているマナさんと可愛らしい妹さん(後で伺うところによると、実際血のつながっているヒロさんと違って、サマルェさんは、マナさんを姉と呼び慕い、マナさんもそれを受け入れている、とのことですが)、誤解と勘違いが絡んでぶつかり合うような事がないように、トゥェルを通して二人共をよっし~さんにお願いしお任せしつつ。
わたくしたちは、のっちゃんの両肩に陣取りつつ。
おっくんたちの元へと向かったのっちゃんの動向を伺い見つつ『念話』を使って実況する事にします。
「ハハっ! ようやく来たネブラザー! ギンさんとはもう既にブラザーのようだけれど、アキラの事は紹介してなかったよな?」
「……初めまして。アキラ、と呼んで欲しい。【水】組に所属している。よろしく頼む」
「ああ、こちらこそ初めまして。のっちゃんです。よろしく」
(おお、なんつーか見た目だけならよっぽどおっくんの方がインパクトあるのに、滲み出てる圧が半端ないなこの人)
(少しばかり主さまも引っ張られているようですが、恐らくその圧はご自身でコントロールできるものではないのかもしれませんね)
アキラと名乗った少年は、黒髪短髪黒目の、一見するとどこにでもいそうな見た目でいらっしゃるのに。
歴戦のつわものを思い起こされる、強いオーラを放っていました。
それに慣れているらしいおっくんとシミズさんはともかく、その威圧感めいたオーラは、周りを遠ざけてしまうようにも見えましたが。
人に対する場合、相手に合わせる事の多いのっちゃんが、似たような雰囲気がありながらも問題なく応対している所を見るに。
そんなのっちゃんのように、名付けるとするのならば『威圧感』のスキルをアキラさんは持っていて。
そのスキルをオフにできないのかもしれません。
裏を返せばそんなスキルで損しているだけで。
のっちゃんとも仲良くなれるような良い人、なのでしょう。
しかも、のっちゃんと似たタイプで真面目そうな方ではあるのでしょうが。
アキラさんは、表情あまり変わらずも、何やらのっちゃんと言うよりも、恐れ多くものっちゃんの両肩に座しているわたくしたちに注目されているようで。
「ギンヤが先輩だ兄貴だと言っていたが、のっちゃんは召喚魔法、あるいは式神使いであったりするのだろうか?」
「その二つとは少しニュアンスが違うんだろう。似てもにつかないが、おれの分身と言う表現が近いのかもしれない。……いや、そうだな。うん。俺にとってみれば彼女らは妹、だな」
「そう……か」
果たして、そのような返しがアキラさんにとって望むべくものであったのかは、アキラさんのみぞ知る、といったところでしょうか。
そんなやりとり一つとっても、女生徒のみなさんに対する時のように、これといって問題が起こること無さそうなのは。
やはり男女別行動にすると言ったのっちゃんの、最良の選択だったからなのでしょう。
「ヌフ。お互いの紹介は終わったカナ? んじゃ今日はこのメンバーでダンジョン攻略に挑むってことでよろしくテ?」
「それは別に構わないが、このダンジョンに入ったらバラバラにされる仕様かもしれんが」
「ぬう、確かにその可能性もあるか。ヨシ! んじゃあ心友となった正にこのメンツで、手をつないで入ろうではないか」
「む、ばらばらになっちゃったらたいへんだ。マイン、コックピットへいこう」
「確かに。戻っているのに越したことはないですね」
「コクピット……気になる」
「って、アキラものっちゃんも普通に受け入れる雰囲気だけど、僕は勘弁して欲しいな。だいぶ恥ずかしいんだけど。おじょ……女の子たちも見ているし」
どうやら、シミズさんも気の置けない仲間たちといると、大分砕けた雰囲気になるようで。
効率を重視するのっちゃんとアキラさんが、おっくんの意見……みんなで手をつないでダンジョンへ入るというものを、
あっさり受け入れている事に不満があるようでしたが。
パーティーを組んで向かっても、バラバラにされてしまうのでしたらそれも吝かではないと言いますか、
そのような素敵な光景を特等席で見るためにと、ルプレの何気なくついて出た言葉に一にも二にも頷きます。
そして、興味津々な様子のアキラさんに後ろ髪を引かれつつも。
のっちゃんが戻っていてくれと頷くので、のっちゃんの内なる世界へ戻る事にしたわけですが。
どうやらシミズさんがクラスにいた時と様子が違っていたのは。
ユサさんに対して、格好つけたかったらしく。
なんやかやあって戯れあいあって。
結局合流するのは、ダンジョンに潜ってから、と言う事に落ち着いたのは。
正直申しまして、残念なところではありましたが……。
※ ※ ※
最早、お馴染みと言ってもいい七色……12色の泉による移動装置。
魔導機械とも言われるそれは、あるいはわたくしたちと同じように生きている、と言う事で。
後々にのっちゃんアニキの指導のたまもの(特に何かを教えた覚えはない、とのことですが)で。
ギンヤさんの家族……ファミリア、ギンヤさんの言い方を借りれば『つくもん』と呼ばれる方たちの一員として活躍するようになる、とのことですが。
そんなギンヤさんでなくとも『虹泉』とも呼ばれる移動装置、泉の中に住まう存在に出会う事もあったようで。
どうやら彼、彼女らは、異世界へ移動できる力を持っていて。
今使わせてもらっているような、出口のある『虹泉』でなければ、どことも知れぬ……あるいは知っている場所へ連れて行ってくれるそうなのですが。
その場所とは危機や困難、問題のある世界、とのことで。
のっちゃん自身、繰り返しの中で『虹泉』に住まうものの導きにより、異世界移動するかどうか迷ったそうですが。
何も成していないのに、帰るわけにはいかないと。
皆を置いて帰るわけにはいかないと断ったそうで。
また、そんな『虹泉』の中の世界の住人にも会う事もあるでしょうが。
その時はまた改めましてご挨拶することにしまして。
とりあえずのところ、シャーさんの力を借りずとも、故郷へ帰れるかもしれない算段はついたものの。
今はその時ではない、とばかりに今回、そんな『虹泉』に住んでいると言う『つくもん』さんと出会う事はありませんでした。
のっちゃんの内なる世界、コクピットからの視点で隅々まで見えなかったのもありますが。
七色……12色の濡れない水の渦にさらわれてしまって。
眼力の強い目をぎゅっとつむって、くるくる回っているおっくんが画面を支配していたので、
わたくしたちによく似ているらしい『つくもん』さんを見つけられなかったためです。
(もっとも、わたくしたちに似ていると言うのは、あくまでものっちゃん的観点で、
一般的に大仰な見方をすれば、むしろわたくしたちよりもおっくん寄り、とのことで。
そう思って探していなかったので、ある意味見つかるはずもないといった結果がついてきたわけでして。
そんな訳で此度も特に何かが起こるような事もなく。
12色の水の奔流に飲まれつつも。
見えてきましたのは、出口らしき外の世界が覗く裂け目で。
よくよく見ますと、それは複数あって。
もしや、同じ裂け目から出て行かなくては文字通り離れ離れになってしまうのではと気づかされた時には。
目をつむったままでいた、おっくんが裂け目の向こうに飛び出していくのが見えて。
それに、慌てた様子でついていくシミズさん。
そんな二人に、のっちゃんもアキラさんも追随しようとしますが。
それを邪魔するみたいに流れが強くうねって。
(水の中ではありますが、やはり息継ぎはできるようです)
不意にカットインしてくる、別の裂け目。
なるほど、意思があると言われてもおかしくないその動きに。
それでも初めから分かっていたのか、のっちゃんは動揺することなく、おっくんさんたちとは別の裂け目に飲まれていって……
(第136話につづく)




