メイド淀と親族令嬢江初の出会い
「――へえ、この子だれ? すっごく可愛いじゃん! 転校生?」
初めていっしょに登校する淀と俺に、能天気に声をかけてきたのは、一大寺家の一族の令嬢に当たる和宮江初だった。俺、そして今日から淀が通う小学校の同学年の生徒でもある。
「……まあ、そういうことになるのかな。私は浅利淀」
「私は和宮江初。行成君とは遠い親戚でね」
「そうですか。今後ともよろしくお願いいたします」
主人の親族とわかったので、淀はメイドターンとなり丁寧な敬語を使う。
「ってことは、まさか彼女が一大寺家の新しいメイドさんなの? まあ、伊葉(俺の母親)さんに『まだ小さなかわいい女の子が住み込みで働くことになった』とは聞いてたけど……」
「改めてはじめまして。お陰さまで、こうして一緒に学校に通えるようになりました」
「冗談でしょ? ラノベじゃあるまいし、こんな駆け出しの美形子役タレントみたいなメイドさんがいるわけないでしょ!」
いるんだよなこれが…
江初が面白がるようにパチパチと目を丸くするのに対し、当の淀自身はキョトンとした顔で首をかしげるばかりだ。
「それが、いるんだよ。それどころか、転校生ですらない。今まで不登校だっただけで、入学式から数日はちゃんと名前は呼ばれてたはずだ」
「まあ、親の借金返済のために一大寺家で働くようになったから……」
淀にとってはあまり他人に大っぴらに言われたくない過去だろうが、こいつに変な誤解をされて冷やかされるよりはマシだ。それは淀自身も分かっているようだった。
「それにしてもメイドさん」
「なんですか? 江初さん」
「学校ではあんまり『行成様』とか『おぼっちゃま』なんて呼ばない方がいいんじゃないの? 変に目立つでしょ」
まあ、それもそうだ。
「なら、学校内では呼び捨てとタメ口でもいいぞ」
「えっ? でも、私はいちおう一大寺家のメイドですし、ご主人様を呼び捨てにするなんて――」
「家の中ならともかく、学校では変なウワサが立つだろ。つーか、そう呼んでくれなきゃ困る」
「……わかりました。じゃあ、学校では『行成さん』でいいですか」
「ああ、頼む」
「じゃあ私は江初でいいわよ。メイドさん、いや淀。あなたはあくまでも一大寺家のメイドなんでしょ?」
「わかったわ、江初。よろしくね」
淀も柔らかい表情で微笑む。
すでに教師には事情を説明してあったので、転校生ではないがクラスへの紹介などは滞りなく進んだ。
「それにしても、私や行成君と同じクラスだとはね」
クラスの他の友達もすぐに増えたが、やはり俺が主人ということもあってか、一番距離を縮めたのは江初だった。
淀は当時から相当な美人なのは確かで、何より性格もいい。今まで不登校だったとは思えないほどすぐにクラスの人気者になった。もっとも、特別変な誤解を解く必要がある時には、自分から「一大寺家のメイド」という事情を明かしていったので、淀がメイドなのを知る人間も増えていったが変に冷やかすやつはいない。
***
――時間は、遠い星の彼方から届く回想から現在に戻る。
こんな懐かしい記憶を思い出しながら、俺は宇宙の向こうにいる淀と、なんだかんだで長々話し込んでしまった。まあ、お互いの休日を合わせているし、多少時間をかけたってバチは当たらないのだが。
「……流石にそろそろ、俺は溜まった課題とか報告書やらなきゃいけないんだが」
『わかったわ、行成……できれば今度は江初とも話したいなって思ってたところだし』
「江初なら、ちょうど今俺の屋敷に来てるよ。お前の時間が許すなら、代わろうか?」
『本当? 呼んできてもらえる?』
スマホの画面越しに淀が嬉しそうに微笑む。
返事をしようと背後を振り返ると、そこにはいつの間にか仁王立ちしている江初の姿があった。
わざわざ呼びに行くまでもなく、途中から会話を聞いていたらしい。俺は苦笑いしながら席を立ち、画面の前を江初にゆずったのだった。




