行成「遠距離恋愛の究極は星と星を介した愛です」
「――そういうことだから。学園でも探偵卿としての依頼でも、未早矢とはうまくやってるよ」
何光年もの宇宙を隔てているが、テレビ電話の画像はそれを感じさせない。遠い星――超能力者たちが集う星アビリスターにいる愛しの相手、浅利淀の美しい声と顔をじっくり堪能できる。もちろん、実物には遠く及ばないのだが。
『未早矢さんともうまくやれているようなら良かったわ。彼女、私の後任としてちゃんと行成のメイドに向いてるか心配だったのよ』
「ああ、気配りも完璧だし申し訳ないくらいだ。……まあ、お前が淹れてくれる紅茶の味には、まだ少し及ばないがな」
『ふふ、お世辞でも嬉しいわね』
淀の小さく笑う声が聴こえる。
俺たちは元々、主人とメイドという関係で、つい最近、晴れて恋人同士となった。
……しかし、運命というのは意地悪なもので、恋人同士になった直後、彼女は己の内に眠る『能力の素質』を開花させるため、アビリスターへの留学を決意してしまったのだ。当然、俺や淀の両親は反対したが、淀の決意は固い。結局俺たちは、名実ともに全宇宙レベルの超・遠距離恋愛を余儀なくされることとなった。
ちなみに、最初こそ「とっとと地球に戻ってこい」と毎日説得しようと思っていた俺だが、彼女から聞いた話によれば、アビリスターでの彼女の能力ランクは『ステップ6』とのこと。日常生活でギリギリ役に立つ程度の気圧・空気制御らしい。
アビリスターはそもそも能力を持たない『ステップ1』が人口の半数を占める(これには魔法師の移住者や研究者なども含まれるらしいが)ため、ステップ6でも十分に上澄みの部類に入るそうだ。まあそれ以外の詳細な生活のことはあんまり教えてくれないのだが、向こうで伸び伸びとやっている報告を聞くうちに、半ば諦めと見守りの境地に達していた。
――だが。男として、恋人として、これだけは絶対に釘を刺しておかなければならない。
「……おい、淀」
『なぁに? 行成』
「お前……向こうで、他の男に言い寄られたりしてないだろうな?」
思わず声が低くなる。アビリスターにはいろんな星の出身者や能力者がいる。淀のような超美人に妙な虫がついていないか、離れているからこそ気になって仕方がないのだ。
『まさか。私にそんな余裕ないわよ。……それより、行成こそどうなのよ? 特に未早矢さんとは、毎日同じ屋敷にいるんでしょ。それに行成の周りなんて、放っておいても言い寄ってくる女の子なんていくらでもいるじゃない』
少しだけ、嫌味っぽい口調。俺を信用しているからこその軽口なのだろう。しかし少し心外だ。俺がモテるのは事実だが、俺は幼少期に淀を一目見た瞬間から、ずっと彼女だけに心を奪われ続けているのだ。
「俺が他の女を愛するなんて、逆立ちしたって考えられない」
画面の向こうで、流石の淀も気恥ずかしそうに息を呑む気配が伝わってきた。
淀が彼女の両親の作った巨額の借金を返すため、一大寺家のメイドとしてやってくる際、両親から「顔を合わせてやってくれ」と頼まれたのが最初の出会いだった。
正直、当時の俺にとってはメイドが誰になろうと知ったことではなかった。同い年くらいの女の子だろうが興味もない……そう思っていた。
――彼女の姿を見るまでは。
淀が一大寺家のメイドになってからの最初の数週間、俺は彼女とまともに目を合わせることすらできなかった。自分でも呆れるくらい、絵に描いたような一目惚れだったのだ。
『行成様。お飲み物はいかがでしょうか?』
『……淹れたいなら勝手にしろ』
そっけない態度を取りつつも、このまま拒絶し続けて嫌われてしまったらどうしようという焦りが募り、ようやく普通に顔を合わせて会話ができるようになった。世間話程度ならこなせる関係にはなったものの、今度は「少しでも淀と一緒にいたい」という思いが強すぎて、学校に行く足が重くなってしまったほどだ。
しかし、ある日の登校路でのことだった。
「なんでお前がここにいるんだ?」
俺と同じ通学路を、淀が歩いていた。
「だって、私もこの小学校の生徒ですから当たり前ですよ」
「……お前を学校で見かけたことなんて一度もないぞ」
「今までは親の仕事の手伝いやら、借金取りの対処やらで不登校でしたから」
「……」
そんなことまで小学生の娘に任せていたとは、聞きしに勝り察しにも勝るろくでなしの両親だ‥
「でも、私が一大寺家で働くようになって、ようやく私も普通に通えるようになったんです」
少し誇らしげに微笑む淀。その横顔に見とれていた俺の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「へえ、この子だれ? すっごく可愛いじゃん!」




