巨大生物とラッキースケベは忘れた頃にやってくる
湖の沖に釣りのためにやってきたけど巨大生物と遭遇してしまった私たち。
「帝魔王夫妻を引き受けるよ、淀」
「えっ?」
「こういう場所での戦闘は、君の能力が一番得意だろ。あいにく近くに足場もないし、下手に暴れられると余計に厄介だ。この場で一気に急所を仕留めるのが確実だよ」
「わかったわ。ピラーセル君!」
二人をピラーセル君に託し、身軽になった私は単身で巨大生物へと接近する。これほどの巨体なら、小回りの面では私の方が圧倒的に有利だ。水面スレスレを高速で旋回して相手の視線を撹乱し、隙が生まれた瞬間――一気に上空数メートルへと急上昇。そのまま体術任せに、高威力の蹴りを巨大生物の頭部へと直撃させた。
『キュアアアアアアァァァ――!?』
巨大怪物体が脳揺れを起こして絶叫し、激しく身悶えて怯む。
「今だ、サイクロンスプリームっ!!」
ドズンッという音を立て至近距離から怪物体に直撃し、巨大生物の息の根は完全に止まった。
続けて私は、さっきアギちゃんを救い出したのと同様の要領で水流を押し開いて湖面にポッカリと空間を作り出すと、沈んでいたゴムボートと荷物をすくい上げた。さらに表面に付着していた水滴を微細な振動で弾き飛ばす。
「みなさん、どうぞ!」
ピラーセル君たち3人を、乾いたボートの上へと着地させる。
「やっぱりサイスプリムさんはすごいんだね!」
「ふん、まあ少しくらいは関心してやるわ」
「……それで、この巨大生物はどうします?」
ロンミさんの問いかけに、ピラーセル君が答える。
「どうせなら、イカレタヤカタに持ち帰りませんこと? 記念になりますし」
それを聞いたラツミネさんの食いしん坊そうな笑顔が可愛い。確かに地球で言えばサメやクジラに似ていて、ちゃんと調理すれば普通に美味しく食べられそうだ。コウレ君やミンネさんなら手際よく解体してくれそうだし、私だって地球にいた頃、一大寺夫妻に頼まれて魚の捌き手伝いくらいは何度かやったことがある。
ラツミネさんとピラーセル君が手際よくロープを巻きつけ、巨大生物の巨体を固定してくれた。
「サイスプリムさん、ありがとうございます。……すみません、僕が沖に出たいなんて言い出したから、こんなことに……」
ロンミ君が申し訳なさそうに、けれど丁寧に礼を言ってくれた。
「そんなの気にしなくていいですよ。だからこそ、こうして奥さんの嬉しそうな顔が見られたんですから」
私が少し茶化すと、ロンミ君は照れたように少し顔を赤くした。
――だが、それより遥かに顔が真っ赤になるハプニングは、直後に唐突に訪れたのだった。
**ゴオッ――!!**
突然、あまりにもご都合主義的な突風が吹いた。
「わ、わあぁぁっ!?」
ボートの端に立っていたロンミ君が派手にバランスを崩す。
「あっ、ロンミさん危な――ぐふっ!?」
咄嗟に彼を支えようと身体を寄せた私だったが、勢い余ったロンミ君と空中でもつれ合い、体勢を崩してそのまま重なり合う格好で宙に投げ出されてしまった。
そして、その拍子にロンミ君の両手が――。
**ガシッ。**
「……っ!?」
私の服の上から、**左手が胸にガッツリと食い込み、右手が足の付け根――股間付近を完璧に捉えていた。**
当然、異変に気づいたピラーセル君、アギちゃん、そしてラツミネさんの3人も、空中でもつれ合う私たちをバッチリと目撃している。
一瞬の静寂。
空中浮遊のフワリとした感覚も相まって、お互いの体温と柔らかい感触がダイレクトに伝わってきた。
「……っ、あ……ロンミ、さん……?」
「……旦那様?」
私の気まずすぎる視線と、ラツミネさんの殺気に満ちた目線。
「ひ、ひゃああああっ!? ごごごごめんなさい淀さん! わざとじゃないんだ、バランスを崩してつい手が……っ! すごく柔らかくて、あたたかくて――じゃなくて!!」
ロンミ君は顔を茹で上がったタコのように真っ赤にし、私の胸と股間に触れていた手を弾かれたように離した。宙でお互いに真っ赤になりながら見つめ合う、どことなく甘酸っぱくて気まずい雰囲気。
「ふふふ……今の光景はしっかりと脳内に記録したぞ。いい不倫ラブコメ新作の元ネタになるからな……」
アギちゃんが、半目になりながら遠い目をしてニヤニヤと呟いていた。
夕方。すっかり茜色に染まった「セントカクラ家の人工湖」の岸辺。
私とピラーセル君が行きと同じ方法でロンミさん、ラツミネさん、そしてアギちゃんを運びつつ、捕獲した巨大怪物体をロープで引きずって、無事に陸地へと帰還した。そこには、すでに釣りを終えて片付けを済ませていたBチームの面々が待っていた。
「おかえりなさい! ……って、なんですかその巨大なモンスターは!?」
目を丸くして顔を見合わせるコウレ君、ミンネさんと、驚きつつも手際よく出迎えてくれるロル君とナキユちゃん。
「いやー、沖合にこんなのがいてね。なんとか捕獲したんだけど……そっちはどうだった?」
私が尋ねると、Bチームの足元には、バケツから溢れんばかりの「何か」が転がっていた。
しかし、それは魚というよりは――どろどろと不気味な光を放つ紫色の怪魚や、地球の古代の呪いの伝説に出てきそうな禍々しい姿の魚など、見るからにヤバそうな物体ばかりだった。
「……ねえコウレ君。これ、一体何を釣り上げたの?」
私が引きつった笑顔で尋ねると、コウレ君はいつもの爽やかな極上スマイルを浮かべ、人差し指をスッと唇に当てた。
「――禁則事項です。」
「……まあ、聞かなかったことにしてくれ」
ロル君も遠い目で肩をすくめる。
「……うん、聞かなかったことにするね」
その時、ナキユちゃんがチラリとラツミネさんとロンミさんの方を見やった。
「ねえ。ロンミさんとラツミネさん、なんだかちょっとお互い気まずそうじゃない?」
空中で私の胸と股間を触ってしまったロンミ君と、それをバッチリ目撃してしまったラツミネさん。尚更気まずさを増してモジモジとする二人に対して、私は助け舟をだした。
「――禁則事項です!」
「「……」」
こうして私たちの賑やかな釣り日和は、いくつかの謎とハプニングを残したまま、静かに幕を閉じたのだった。




