タイトル案ないときはpixivとかでも書いてるとか宣伝でも載せておく
私とピラーセル君の「ステップ9」の飛行能力によって、ゴム製イカダごと一行は湖の真ん中――誰も踏み入れたことのない『沖合の最深部』へと空中を優雅に……ではなく、イカダをロープで繋いで前後から私たちがよいしょと持ち上げる、ちょっと締まらない構図で移動した。
「うわあ……! すごい、岸が遥か遠くに見えるよ!」
イカダの上にちょこんと座り、ロンミさんが目を輝かせて周囲を見回す。ロンミさん以上に張り切っているのがラツミネさんだ。
「ちょっとアギさん? 絶景ですよ? 見ないんですか?」
着替えてすっかりサッパリしたアギちゃんのほうは、イカダの上でスマホの配信漫画を読んでいる。
「あのアホな母親が作った湖の景色なんて絵にならんわ。このレベルの広さと景色なら、私が住んでいた屋敷の庭の湖より下だしな」
ちゃっかり某自慢大好きお坊ちゃんも真っ青なマウントを取るアギちゃん。
「――では、ゴム製イカダを水面に浮かべたままでいいか。結べるような岩などもないしな」
私たちが静かに手をかざし、宙に浮いていたイカダを水面へとふわりと着水させた。
私たちもそれぞれ自分の竿に餌をつけ、期待に胸を膨らませながら水面へと糸を垂らしたのだった。
――だが。
「……あれ?」
十分が経過し、二十分が経過し、さらには三十分が経過しても、誰の竿にもビクともアタリが来ない。
プロ級の腕前を持つラツミネさんやピラーセル君の竿すらも、まるでピクリとも動かなかった。
「おかしいわね……この水深なら、もっとこう、爆発的な反応があってもいいはずなんだけど」
「魚の気配自体が消えているというか……まるで、水底の何かに怯えて隠れているような……」
ラツミネさんとピラーセル君が怪訝そうに眉をひそめる。
「おそらく、身を隠す障害物がないから、釣りに適したほどよく小さな魚や身を守る場所が必要な魚にとっては住むのに向かないんじゃないかな」
「大型魚ってなると、この餌では引っかからないわよね」
ラツミネさんの言う通り、あいにくここにいるメンバーの中に、専用の仕掛けや特殊な餌を用意してまで大型魚を解体して食べるような趣味の持ち主はいない。
釣りは諦めて、無難に景色を見ながらお茶でも飲もうとしだしていた、その時だった。
**――ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!**
突然、私たちが乗るイカダの下――湖の底から、底知れぬ地鳴りのような重低音が響き渡った。
「っ……! なになに!? 地震!?」
「違うわ! 水底から凄まじい質量が上がってくる……!」
湖面がまるで沸騰したかのように激しく泡立ち、中央から巨大な水柱がドガシュウッ!と盛大に吹き上がった。
水飛沫が引いたその瞬間、私たちの目の前に姿を現したのは――。
「な、なんだあれは……っ!?」
それは、全長十メートルをも超える、地球でいえばクジラかサメに相当するような未知の巨大生物だった。
『キュアアアアアアァァァ――――――ッ!!!』
地響きのような絶叫とともに、怪物体が巨大な触手をビュンと振り上げ、私たちのイカダめがけて叩きつけてきた!
「なんで湖にこんなのがいるのかしら!?」
「危ないっ!!」
咄嗟に私がアギちゃんを抱え上げ、ピラーセル君がロンミさんとラツミネさん夫妻の手を取って瞬時に空中に退避する。当然、足元のイカダや荷物は置き去りだ。
「うわ〜、私の携帯が〜」
「今そんなこと心配してる場合じゃないでしょ‼︎」
空中から沈みゆくイカダを見下ろしているアギちゃんに対し、ラツミネさんの鋭いツッコミが飛ぶ。
「まあそうだな。耐水仕様だし、発信機もついている」
「……そこじゃないでしょ!」
アギちゃんらしいマイペースすぎる回答センスに、私は心の中でズッコケた。
「あっ、さっきまでここにほとんど魚がいなかったのって、この巨大生物からの捕食を逃れるためだったんだね!」
「私たちも捕食対象なのよ旦那様‼︎」
私とピラーセル君は、3人を両腕に持ち上げたまま、ひとまず巨大怪物体から距離をとって旋回する。
「ひとまず逃げることはできたけど……これからどうする?」
「このまま岸に帰るんじゃないの?」
「まあ、荷物を諦めていいのならね……」
苦笑いしながら話す私たちだったが、下を見下ろしていたピラーセル君が静かに、けれど重大な懸念を口にした。
「……いえ、このまま野放しにしておくのは危険です。これほどの巨体となれば、浅瀬の魚や陸の餌の匂いを察知して、いずれ岸寄りのポイントまで進出してくる可能性が高い」
「えっ……それって」
「ええ。そうなれば、あちらの浅瀬の生態系も無事じゃ済まないだろうね」
ピラーセル君の言葉に、私はハッと息をのんだ。
「……荷物の回収だけじゃ済まなくなっちゃったね。あいつ、ここで倒すか捕まえなきゃダメみたい!」
空中で3人を抱えたまま、私とピラーセル君は視線を合わせ、巨大怪物体との本格的な決戦に向けて覚悟を決めるのだった――!




