CMみたいに主人公の恋人との過去回想を挟むやつ
「――いいですか、アギさん、サイスプリムさん、そしてロンミさん。釣りというのは単に糸を投げて待つ作業ではありません。水面の揺らぎ、風の匂い、糸を通じて伝わる微小な振動……それらすべてと対話する紳士淑女のスポーツなのです」
ロンミさんたちの目の前ということもあってか、珍しくかしこまった敬語で講釈を垂れるピラーセル君。彼はアビリスターに送る前には極貧生活だけどサバイバル以外の雑学教養も豊富だ
その隣では、ラツミネさんが柔らかい笑顔を浮かべながら、手際よく仕掛けの結び目を整えていた。
「ふふ、ストテレシスさんの言う通りね。特にこの手の湖の魚たちは勘が良いわ。無理に力で手繰り寄せようとせず、魚が引いた時には優しく糸を送り出し、疲れた瞬間に一気に引き寄せるの。ロンミ君、少し後ろから手を添えるからやってみましょうか」
「うん! よろしくね、ラツミネちゃん!」
ラツミネさんに後ろから包み込まれるように手を重ねられ、ロンミさんの顔がパッと華やぐ。
「相変わらずこの二人の周りだけピンク色のオーラが漂っているな」
「でも指導そのものは恐ろしいほど的確。その手のインストラクターの素質もありそうね」
「淀さんも、基本のフォームはバッチリですよ。地球での経験がおありなら、あとはこの星の魚の『引きの強さ』に慣れるだけです」
「はーい、頑張ります!」
私たちは5人並んで実戦を始めた。
左からアギちゃん、ピラーセル君、ロンミさん、ラツミネさん、そして私。
「サイスプリムさんは本当に釣り初めてですか?」
「ヤブから棒になんですか?」
「だって初心者のわりには上手じゃないですか」
「私がアビリスターに来る前、お世話になってた家の人にクルーザーで海へ連れていってもらって、何度かやったことがあるんです。でも『経験』と言えるほど大したものでもないので、そういう意味では『ほぼ初めて』なんです」
普通(?)の中学生として地球で暮らしていた頃、まだ私の主人の一人(夫ではなく仕える相手)であった行成と一緒に、その母親である伊葉さんの太平洋での釣りに付き合ったことがある。ちなみに、一大寺家の分家のお嬢様である江初も同行していた。
『まさかクルーザーまでお持ちだなんて驚きました。メイドの私まで連れてきてくださってありがとうございます』
『どういたしまして。淀ちゃんも楽しんでね』
『まったく、人気のない殺風景な海だなおい』
船上から見える岸の方は、豪華なクルーザーや美形の母息子にはお世辞にも似合わない、知名度の低い田舎町だった。
『行成様、お茶をどうぞ』
メイドらしくトレイに乗せたお茶を差し出す。
『なら淀が大勢の男の子の目に触れるような、賑やかなビーチの方が良かったのかしら?』
江初が意地悪そうな笑みを浮かべて意味のわからない冷やかしをしてくる。
『……な、なんでそこで淀の話になるんだよ!』
行成はなぜか真っ赤になって明後日の方向を向いた。今思えば、これも一種の照れ隠しだったのかもしれない。
そんなことを思い出していた直後のことだった。
波に揺れる船体が不意に大きく傾き、私が体勢を崩してしまう。気候自体は普通なので
『わっ……!?』
『おい、危な――ぐふっ!?』
倒れそうになった私を慌てて支えようと手を伸ばした行成だったが、足元に置いてあったタックルボックスに引っかかり、二人まとめて甲板に倒れ込んでしまった。
ドサリ、という重い音と共に重なる体。
……私の顔のすぐ目の前に、行成の顔があった。しかも、彼の両手は思いっきり私の胸の上にしっかりと乗っかっている。
『……っ!?』
『〜〜〜〜っ!?』
一瞬の静寂。行成は開いた口が塞がらないといった様子で固まり、手のひらに伝わる感触に気づいた瞬間、茹で上がったタコのように顔を真っ赤にした。
『無無無、無意識だ! 事故だぞ事故! 故意じゃないからな!?』
『あ、あの……行成様、手が……っ』
『ひゃああっ!? す、すまん!!!』
江初もニヤニヤ生温かい目で見守ってる。
『謝るぐらいなら一刻でも早く手をどけたら?将来的にはこれぐらい日常のスキンシップになるのかもしれないけど』
弾かれたように跳び起きた行成は、そのまま船の手すりに勢いよく頭をぶつけ、、何とも甘酸っぱくも散々な目に遭ったのだった。
(……あの頃は、行成に告白され恋人同士?になり自分が異星に留学して『ステップ9』なんて化け物みたいな能力者になるなんて、夢にも思わなかったなぁ……まあ反対押し切ってアビリスターに留学決めたのは私自身だけど)
行成たち、今頃どうしてるかな。
そんなことを考えながら私は午後の釣り時間を楽しんでいた。




