漫画の釣り回と現実世界の初心者の釣りを混合してるお嬢様
釣り場行きの車内。セントカクラ家が所有する大型のリムジン仕様車――ではなく、なぜか無骨な「軍用車」の中は、すでにちょっとした遠足状態?なのだろうか。
「……なぁ、なんで軍用車なんだ?」
素朴な疑問を投げかけるロル君に、コウレ君が運転席(自動だけど)のハンドルを握りながら答える。
「流石のセントカクラ家でも、未成年の僕達が大勢で乗れるような普通車の配備はそう多くないのですよ。だから特別工務隊の軍用車をお借りしました」
どうやらこの軍用車、特別工務隊の共有物ではあるものの、そこまで隊員を頻繁に運ぶ用事もないため、隊員への手当(兼・車両の維持管理)として非常時以外は私用で自由に使っていいらしい。相変わらずアビリスターのガバガバな運用基準には頭が下がる。
「すみませんコウレさん。釣り竿まで貸してもらっちゃって……」
後ろの席からロンミ君が控えめに話しかける。
「いえいえ、お気になさらず」
後部座席でラツミネさんの隣にチョコンと座るロンミ君は、彼女が勧めてくれた釣り系の動画をタブレットで観ながら、「へぇー、こんな風に糸を垂らすんだ……」と興味津々に呟いている。世間知らずではあるけれど、その分好奇心は人一倍旺盛な方なのかもしれない。
「セントカクラ家の湖は最深部が五十メートルを超え、底層には水温の低い湧水層が存在します。ロルさんのおっしゃる通り、建設当初の動機こそ……少々倫理観を疑うような不純なものではございましたが、生態系に関しては無駄に完璧を期しております」
苦笑いを浮かべながら解説を続けるコウレ君。
当の提案者であるアギちゃんは、その横で腕組みをしながら「ふふん、望むところだ! 漢、いや美少女と魚の一騎打ちだな!」と鼻息を荒くしていた。
やがて私たちは、「風光明媚」と呼ぶにはどこか怪しげな雰囲気を醸し出す、広大な人工湖に到着した。刑事ドラマとかで遺体が発見されたり、犯人と最終決戦でもやってそうな雰囲気とでも言うべきか。
さて、まずは各自の仕掛けと釣具選びなのだが――ここでさっそく問題が発生する。
「あいにく私の釣具は、フライフィッシング用のものしか持ってきておらんぞ」
堂々と言い放つアギちゃん。
「……いきなりそんな難易度の高い釣法を。お嬢様、経験はおありなのですか?」
『漫画でないことは百も承知ですが』という枕言葉が(かっこ付き)で吹き出しに見えてきそうな顔で、ミンネさんが尋ねる。
「案ずるな! 釣り系漫画どころか、日常系漫画のキャラですら『漂流』さえすれば、釣りに関しては0点常習犯のメガネの少年でもそつなくこなしておるだろう! この世の絶対的な理から、私が逸脱しているとでも言いたいのか!?」
「……まず、漫画と現実は違いますよ」
「そもそも漫画などの漂流生活の釣りは、基本的に時間に身を任せた単純な仕掛けばかりだ。お前なら途中で飽きて眠るのがオチだろうが!」
「どこの誰が、漫画と現実の区別もつかない方の『悪い意味でこの世の絶対的な理から逸脱していない』なんて台詞を信用するのですか!」
コウレ君、ロル君、ラツミネさんによる、至極真っ当なツッコミ3連コンボ。いつも以上に容赦はない。
「じゃあさ、より国民的な漫画の漂流回みたいに、普通の練り餌とか使おうよ。僕だってほぼ初めてだし、もう少し色々と教わりながらやってみたいな」
アギちゃんのようなサブカル好きの顔を立てつつ、ロンミ君が平和な折衷案を提案してくれた。
もともとこの大人数でひとまとまりになって釣るのは無理があるし、初心者が多い以上「教える人」と「教わる人」のペアを作る必要がある。
というわけで、ロンミ君の提案を基準に、以下のチーム分けで釣りを開始することになった。
**【Aチーム】**
* **教える人:** ラツミネさん、ピラーセル君
* **教わる人:** ロンミ君、アギちゃん、私
**【Bチーム】**
* **教える人:** コウレ君、ナキユちゃん
* **教わる人:** ロル君、ミンネさん




