淀「ちょうど10話ぶりの出番です。何の話を聞いたかは前回までを参照
「――ふぅん。で、今はその約束通り、ラツミネちゃん&ロンミ君ってわけですね」
甘すぎて耳から砂糖が出そう……私はそう言って肩をすくめながらも、どこか嬉しくなって口元を緩めた。
私の名前は、浅利淀。地球からアビリスターに留学し、この星でサイキョーの能力者とされる『ステップ9』になり、現在魔法師の星の帝魔王夫婦と午後を楽しんでいるどこにでもいる(?)女子高生だ。
なぜ私が、こんな甘々すぎる二人の馴れ初めを聞くことになったのか。
話は今日の朝に遡る。
朝から『イカレタヤカタ』には、見慣れない人がいた。私たちが通うオクスタン高校の生徒会長であるテンショウ・ナキユちゃんだ。
そして、庭にはこれまた見慣れないバーベキューセットが用意されていた。ミンネさんやコウレ君がテキパキと準備を進めている。ナキユちゃん自体はバーベキューそのものにはあまり興味がなさそうだし、アギちゃんの趣味にしては椅子や料理が無駄に凝っていることに気づく。
「……着くのは、今日の昼頃とのことです」
そう言ったのは、ナキユちゃんの異母姉にあたるミンネさん。やっぱり来客らしい。
「あいつらと会うのも、久しぶりだな」
そう呟いたのは、ナキユちゃんの異母兄にあたるロンミ君。
「今日は誰かお客さんが来るの?」
「まあ、客と言ってもあいつだがな」
何かに慣れたような口ぶりで答えたのは、現在「名目上のロンミ君の妻」であるアギちゃん。
「そんな言い方はないでしょう。一応アギにとっても名目上の相嫁であり、作品の数少ない理解者でもあるんですから」
言い方はアレだが、本当はなんだかんだで親しい相手であることを分かっている口調で、アギちゃんの執事であるコウレ君がフォローを入れる。
「ってことは……こないだ言ってたミンネさん、ロル君、ナキユさんのお兄さんってこと?」
私がそれを尋ねた直後、イカレタヤカタの重厚な呼び鈴が鳴り響いた。
私たちは全員で玄関へと駆け寄る。
「久しぶりだな」
ドアを開けると、そこには爽やかな青年が立っていた。顔立ちはミンネさん、髪色はロル君と似ている青髪の彼。一目で彼らの異母兄だと分かる。
しかし、彼の顔を知って満足した私の目は、すぐにその隣にいる女性へと吸い寄せられた。血のように美しい赤髪をした、とても可愛らしい女性だ。
「正確には『兄夫婦』ですよ」
私が尋ねるより先に、コウレ君が教えてくれる。
「はじめまして。セノースクション・ラツミネと申します」
「久しぶりだな。まあ、とりあえず上がれ」
二人は案内され、庭のバーベキュー会場へと向かった。
今日のバーベキューのメンバーは、私、ロル君たち4兄弟(ロル、ミンネ、ナキユ、ロンミ)、コウレ君、アギちゃん、ピラーセル君、そしてラツミネさんだ。
「うわ〜! この大きな鉄板は何?」
「何って……バーベキューじゃないですか?」
「バーベキューってなに?」
真顔で純粋な疑問を投げかけてくるロンミ君。
「薪や炭、豆炭などの弱火によって肉や野菜、魚介類などをじっくり焼く料理、もしくは煙で燻す料理のことよ」
間髪いれずに即答するラツミネさん。それを他のイカレタヤカタのメンバーは、「やれやれ」といった表情で見守っている。彼はどうやら、少々世間知らずな人らしい。
「ちなみに、空輸したばかりのマグロやフグ、松茸のキャビア添えがデフォ(定番)だぞ」
「季節によってはズワイガニを入れるのもアリですよね」
……そういえば忘れていたけれど、これでもアギちゃんとコウレ君は、超大富豪のお嬢様とそれに仕える執事なんだった。スケールがおかしい。
「へえ〜! そうなんだ!」
と、妙に感心して納得してしまうロンミ君。
待てよ……それを見ているうちに、私も地球にいた頃の記憶が蘇ってきた。
「しかし、こうして見ていると、やっぱりバーベキューってちょっと怖い料理ですよね」
「えっ、何が?」
「たとえば……使っている包丁が実は人を刺すのに使われたものだったり、食材を入れる冷蔵庫に死体が隠されてたり……」
言った瞬間、空気が凍りついた。
ロンミさん、アギちゃん、コウレ君どころか、その場にいる全員が引くレベルでどん引きしている。おかしいな、どんな星の学生でも平均的な『バーベキューあるある』だよね、これ……?
「……それ、絶対に特殊だと思う」
普段冷静なピラーセル君にすら、引きつった顔で突っ込まれてしまった。
「……ねえ。そういえばアギさん、最近私の星で、私の一推しの漫画作品がまた現れたのよね。読まない?」
「貴殿の一推しなら、ぜひ」
ちょっと寒くなってしまった雰囲気は、なんだかんだですぐに和やかさを取り戻した。
一通り食べ終えると、ロンミさんが私を見つめつつ、コウレ君たちに話しかけてきた。
「そういえば、彼女は見慣れない顔だけど、新しい住民かな?」
「オクスタン高とアビリスターが誇る、12人目のステップ9『サイスプリム』浅利淀さんですよ」
「まあ、一応……」
「自己紹介が遅れてすみません。いつもマスブレイカーたちがお世話になっております。マスブレなどの庶兄のロンミと申します」
そう言って、二人そろって丁寧にお辞儀をしてくれる。
「誇る」なんて大層に紹介された上、丁寧にお辞儀までされるとちょっと照れくさい。私は話題を逸らすことも兼ねて、素朴な疑問を口にした。
「お二人って、ご夫婦なんですよね?」
「はい! もちろんです」
予想通り、どこか気恥ずかしそうにするロル君とは違って、「夫婦」と言われて本当に嬉しそうな顔をするロンミ君。実際、バーベキューの最中も二人は片時も離れず、見ていて微笑ましいほど仲が良い本物の夫婦だと分かる。
「まあ、俺とアギと同じで政略結婚だけど、すぐに距離が縮まったよな」
ロル君も肉を突きながら口を挟む。
「でも、僕はすぐにラツミネちゃんのこと大好きになったんだよ? ラツミネちゃんだって、僕のことすぐに大好きになってくれたでしょ?」
「……っ、そうだけど」
真っ赤になりつつも、即答するラツミネさん。
――気になる。これは猛烈に気になる!
「その話、詳しく聞きたいです!」
……そして、話は冒頭の「甘々すぎる二人の回想」へと戻るのだ。




