本当の夫婦になってから数年後に子供が産まれる2人
旦那様は、ケンの不躾な一夫多妻の提案に対して怒鳴りつけ、ラユキを呆れさせた。
しかしラユキは溜息をつきつつも、どこか気分が良さそうだ。
「そういうことなら勝手にしてくださいませ。私はちょっと予定がございますので、一旦引き上げます。お姉様の容態も回復してきているようですし」
去っていくラユキ。部屋には二人だけが残された。
『ラツミネさん、まだ起きないのかな……』
(……もうとっくに起きられているけれど、私の心は別の意味で熱くなっているの)
その瞬間、心から安らぎを感じていた。けれど、あの迫真の怒号と愛の告白を聞いてしまった直後だ。あまりにも嬉しく、そして恥ずかしすぎて、どうしてもその場でパッと目を開けて顔を合わせる勇気が湧かなかった。
目覚めないフリを決め込みたいところだけれど、これ以上彼を心配させるのも嫌だ。刺さったトゲは思い切って早々に引っこ抜こう。
「……あれ、ここはベッド? 私は確か、回廊で仕事をしてたはずじゃ……」
それっぽい演技をしながら体を起こす。
「よかった……! 過労で倒れていたんですよ」
「看病してくれたんですか? ありがとうございました」
「いえいえ!」
当たり障りのない挨拶をして、私は一旦自分の仕事へと戻った。
私は過労からすっかり回復した今夜くらいはゆっくり休みたいし、もっと綺麗になりたいと思って侍女に伝えると、何かを察したのか、いつもとは違う特別な美容液を用意してくれた。
ちなみに私は、お風呂などに関しては保守派の反発を抑えてでも、同性の侍女であろうと遠ざけ、一人になれる時間を確保している。
月明かりだけが差し込む静かな寝室。
いつもと変わらない部屋着に身を包み、彼との寝所へと向かった。
「具合、大丈夫ですか?」
「ええ……すっかり良くなりました、ロンミさん」
部屋に入ると、彼はやはり私と目を合わせられず、おどおどと真っ赤になって固まっていた。
けれど彼だって、普段の私とはどこか違う雰囲気に気づいたはずだ。
「っ、ラツミネさん……!?」
いつの間にか私は、単に顔が赤くなって身体が熱くなるだけじゃなく、ボロボロと涙を流し始めてしまっていた。
(……クソ! これじゃあ、気持ちを伝える以前の問題じゃない……!)
私はそんな彼の目の前まで歩み寄ると、逃げられないように彼の部屋着の袖をキュッと掴んだ。
「あのね……ロンミさん。大事な話があるんです」
「えっ? 大事な話って……何を?」
「私……本当は、あの時、回廊でのケンとの会話を聞いていたんです」
「っ……!?」
「い、いつから……!?」
「最初から最後まで、全て……私が倒れたあとの、ベッドでの会話も含めてです」
彼は言葉を失い、黙り込んでしまった。
ロンミさんの顔が、一瞬でリンゴどころか熟したトマトみたいに真っ赤になる。端正な青い髪とのギャップが、正直言ってすごく可愛い。
「あ、あ、あの……違うんです! 君を困らせるつもりはなくて、その、つい興奮して……っ!」
彼が次の言葉を思いつくより先に、私は言葉を重ねた。
「違います……。私……ずっと自分の気持ちが分からなかったんです。ただの依存なのか、寂しさを埋めるための甘えなのか……。でも、倒れた時の悪夢の中でロンミさんが私以外の女の人と仲良くしているのを見て、胸が張り裂けそうなくらい辛かったんです。それこそ、死んでしまいたくなるくらい……。そして目覚めた後に、ロンミさんが私を守るために叫んでくれた言葉を聞いて、さっきまであなたが離れる夢を見ていた自分自身が恥ずかしくなるくらい嬉しかった。そして、ようやく気づけたんです。これがあなたへの、真実の恋を超えた『愛』だって……!」
「ラツミネさん……?」
私は彼の目を真っ直ぐに見つめ、涙を拭って笑ってみせた。
「私、ロンミさんのことが大好きです。一人の男性として、心から愛しています。……私を、あなたの本当の妻にしてください」
「……っ!」
ロンミさんの目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。嬉しさによる涙。恥ずかしがる顔より、こっちの顔の方がさらに愛らしい。
次の瞬間、私は彼の強い腕によって、折れるほど抱きしめられていた。
「もちろん……もちろんです!! 僕も、僕も一生君だけを愛します!!」
私たちは、初めて本当の恋人同士――いえ、夫婦になった証として、吸い寄せられるように唇を重ね合わせた。
その夜、私たちは初めて本当の夫婦になった。
「これからはさ……お互いどうしても必要な場以外では、敬語をやめませんか、旦那様? 二人きりの時とか、もっと普通の夫婦みたいに話したいんです」
「……うん、そうだね。じゃあ、呼び方も変えていいかな? ラツミネちゃん」
ちょっと照れくさくて、くすっと笑ってしまう私。
「なら、私は『ロンミ君』でいいかな」
「うん、改めてよろしくね、ラツミネちゃん!」
そうやって照れながら笑い合った夜から、私たちの本当の物語が始まったのだ――。




