もし最愛の男性が一夫多妻をしたらどうなるのか
冷たい床に倒れ込んだ私が意識を取り戻すまで、あと何時間かかるだろうか?
……いや、違う。私はただ、少し気が動転していただけなのだ。
回廊の陰で聞いたケンの言葉に、同調するように「改心するよ」と言い放った旦那様――ロンミさんの声。
「王配なんて疲れる仕事だしね。この程度の役得は認めてもらわないと! ぜひケンの妹と一度会ってみたいなあ。でも、どうせならもっとハーレムを作りたいなあ。もちろん、能力とかはどうでもいいからさ」
「ゲンソクトウの有力魔術師でも、身内だけど魔力が低い女の子をお前の第二夫人にしたいなんて奴はたくさんいる。お前が同意してくれれば、この話はすぐにまとまるぞ」
「ぜひよろしく頼むよ」
私の儚い甘い幻想は、最初から存在すらしていなかったのだ。真の現実は、私の想像を遥かに超える最悪な形で、容赦なく私に襲いかかってきた。
『ラツミネさん。今日から僕はこの子を第二夫人にする。でも、ゲンソクトウの古い文化では確か、正妻である帝魔王様には、新しき夫人たちとの「契りの儀」を全て見届ける義務があるんだったよね?』
冷淡な彼の言葉に、私は声すら出なかった。もともと初夜を見届ける文化は帝魔王の任意のはずだ。けれど、冷酷な本性を現した彼は、私が彼のことを心の底から愛していると知った上で、この世で最も見たくない光景を間近で見せつけるつもりなのだ。
考えるだけでもすでに私の心はボロボロなのに、拒絶することなど許されず、私はただ着飾られ、新妻たちの寝所がしつらえられた豪華な部屋の隅へと座らされた。
目の前で繰り広げられたのは、地獄そのものだった。
第二夫人はケンの妹だという若く華やかな女性で、血のように赤く気味の悪い私の髪や瞳とは違う、輝くような金髪と豊かな肢体を持つ美しい少女。年頃の男の子なら一度は手に入れることを夢見るようなタイプだった。
「可愛いな。初めてなんだよね?」
「……だから、優しくしてくださいね」
ロンミさんは、かつて私に一度も見せたことのないような、熱を帯びた眼差しで彼女を見つめていた。
「血みたいに真っ赤な気味の悪い瞳に髪、無駄に大人ぶっているくせに体つきは貧相で気味が悪い……あんな女、見ているだけで吐き気がしてくる。君のように美しく、柔らかな女性こそが、僕の本当の妻だ」
冷酷な言葉が、刃となって私の胸を深々と抉り穿つ。
息ができない。胸の奥が焼きちぎれるように痛い。私がずっと胸の奥で恐れていたコンプレックスの全てを、大好きな彼自身の口から叩きつけられる恐怖。
「やめて……お願いだから、やめて……」
声を出して叫ぼうとしても、喉が固まってかすれた吐息しか出ない。
私の目の前で、ロンミさんは第二夫人の白い肌に貪るように唇を重ね、その細い腰を抱き寄せて純潔を奪う。甘く艶めかしい吐息が部屋に満ちていった。
私が喉から手が出るほど欲しかった彼の熱量。彼に抱かれ、彼に純潔を捧げ、彼に愛されるという奇跡。それら全てが、私以外の女へと容赦なく注ぎ込まれていく。
2人が不慣れながらも心の底から愛し合い、激しく身体を重ね合わせる生々しい行為の一部始終を、私は瞼を開けたまま強制的に見せつけられ続けた。私は嫉妬と絶望で狂いそうだった。
彼が別の女性を抱き、ハグをし、甘い言葉を囁き、激しく身体を求め合う――そのたびに、私の心はバキバキと音を立てて砕け散っていった。
当然、地獄はそれだけで終わらなかった。
ほどなくして第三夫人以降も迎えられ、その度に彼が新しい妻たちと肌を重ね、荒い息を吐きながら愛を交わすところを見せられた。目を背けたくとも、2人の愛に満ちた声が耳を塞ぐことすら許さない。
ある日の夜、第三夫人の白い身体を激しく突き上げながら、ロンミさんは部屋の隅で涙を流す私へ、冷ややかな視線を向けた。
「ラツミネさん? 君はそこで、僕たちが幸せになっていくのを永遠に見届けていればいいんだよ。君のような不気味な女に触れることすら、僕にとっては苦痛でしかなかったんだから。あと数人くらい女の子を作ったら、君とする苦痛にも耐えられるようになると思うけどね」
「あぁ……っ!!」
私と接すること自体が苦痛だと、最愛の人に告げられる。
数ヶ月の月日は、残酷なまでの速さで過ぎ去っていった。
第二夫人が可憐な男児を身籠り、出産の声を上げた時、ロンミさんは涙を流して彼女を抱きしめ、愛の結晶の誕生を祝った。
心臓が裂ける。魂が腐ちていく。
彼がお忍びで別の女性とデートに出て楽しそうに微笑む姿を見るたびに、声にならない悲鳴が胸の奥で弾けた。
隙を見つけては仲睦まじくハグをし、愛おしそうに吻を交わす姿。
初夜以外は見学する義務などないはずなのに、毎夜彼が私以外の女たちの胎内に自分の愛を注ぎ込み、子供を産ませていくという事実が頭から離れない――。
私が欲しくて欲しくてたまらなかった彼の愛の全てが、私以外の女たちによって食い散らかされ、ただ死よりも重い放置と、彼の愛が奪われていく光景を見せつけられる拷問だけが残される。
絶望と悲しみの毒が全身を駆け巡り、もう生きていくこと自体が苦痛だった。私が死んでも、新しい帝魔王がどこからか擁立されるだけだ。
耐えきれなくなった私の心と身体は音を立てて崩壊し、私は屋敷の最上階から身を投げたのだった。




