とある大領主の50人近い子供の最後の4人という高貴かそうでないかわからない身分
間違って飲んでしまったオクスタン高の密造酒で、私は完全に酔っ払っていた。
よく考えれば屋台の残り物だったのに、売っていたはずの屋台主が「覚えていない」と言った時点で、何かしら訳ありだと疑うべきだったと、後になって心底後悔した……。
コウレ君は慌てて私に水を差し出してくれる。
「とにかく水でも飲んで落ち着いてくださいよ!!」
「うるさいわね! なんですぐ水なのよ! もっと酒持ってきなさいよ!」
私はもうすでに落ち着くどころか、「もっと酔って現実逃避したい」とすら思ってしまっている。完全にブレーキが壊れていた。
「絶対ダメですよ……ここまで酔う時点で、ナキユさんが未成年ということを差し引いても酒癖悪すぎです!!」
「とにかくちょっと落ち着きましょ。ね?」
コウレ君と淀さんも必死に止めようとしてくれる。
2人は冷や汗をダラダラとかきながら、必死に私の暴走を抑えにかかった。
けれど、アルコールの回った私の脳内はすでに倫理観の回路がショートしていた。
「くだらない御託並べてないで、とっとと持ってきなさいよ! 持ってこないと、ここで服脱いじゃうわよ!」
……たぶん、今日のこの経験は、私の人生における最大にして最悪の黒歴史になるだろう。
「どうするんだこれ……」
「ナキユさん。ここはイカレタヤカタのリビングですよ!」
「なによ! コウレ君と淀は、とにかく兄弟の目の前なんだから全裸でも問題ないでしょうが! ミンネお姉様とロルお兄様だって……」
「…全裸って」
酔っ払った勢いで自然に飛び出した「全裸」という単語と「お兄様」「お姉様」という呼び方に、淀はドン引きと驚きが混ざった表情になる。他の3人は、この尊称が飛び出した時点で私の酔いが深刻すぎることに気づいたらしく、さらに行き場のないような、複雑に困った顔をした。
「お兄様だから全裸でも問題ないなんてのは、その手の同人誌の世界だけです!!」
「なんなのよ! 生務会長の私が、問題ないと言ったら問題ないのよ!」
私は呂律の回らない舌で、のんびりとそう答えたのだった。
そして、自分の服に手をかけようとしたその瞬間、私はミンネさんと淀の両名によって力づくでガッチリと取り押さえられたのだった。
しかし、そんな周囲の必死の心配も束の間だった。
限界を迎えていたのか、あるいは酒の効き目が急激すぎたのか。糸が切れたように、私はそのままバタリと意識を手放してしまった。
***
それから数十分後。
イカレタヤカタの居間の座布団の上で、私は頭をガンガンと金づちで殴られているような激しい頭痛とともに目を覚ました。
(うぅ……頭が割れそう……)
とはいえ、こういう頭痛は時間をかければ治るものだと分かる。むしろ、あの暴走の割にこの程度の二日酔いで済んだと、ある意味で感謝すべきなのかもしれない。
しかし、さっき自分がしでかした全裸宣言や数々の蛮行を思い出すと、死にたくなるほど恥ずかしい。私はまだ目が覚めていないふりをしたまま、天井を向いたまま息を潜め、近くで話すみんなの会話に聞き耳を立てることにした。
「そういえばさっき、ナキユはあんな風に呼んでましたけど……本当に、兄弟なんですか?」
答えたくないなら無理に答えなくていいと言わばかりに、淀が小声でコウレ君たちに尋ねている。
「まあ、ナキユさんの母親は、私とロルさん両方の親とはまた別の人物ですがね……」
ミンネさんが小さくため息をつく。
淀は気まずい顔をしながら、「それと……」と何かを言いかけ、しかし結局その言葉を引っ込めた。
「ロルお兄さん、ミンネお姉さんって呼んでるってことは、他にも兄弟がいるのか……ってことか?」
マスブレイカ殿には珍しく、こういう時の察しの良さが光る。
聞いてはいけないことかもしれないと思いながらも、気になってしまい、さらにそれを見透かされて戸惑う淀。
「存在が確認できるだけでも、私たちの兄弟姉妹はざっと約40人ぐらいはいます。もちろん、父親だけが同じ場合ですけどね……」
ミンネさんの自虐気味な口調に、マスブレイカさんとコウレ君も苦笑交じりに肩をすくめた。
「……40人」
淀が言葉を失い、息を呑んだ。
「まあ、俺たちはその中でも最後の数人ぐらいの世代だけどな。……もっとも、俺たちの父親も、それぞれの母親も、他の兄弟も、ほぼ全員が俺たちが生まれた前後にまとめて殺されてるけどな。もっとも、ほとんど奴と顔を合わせたことないけど」
当然、淀はさらにドン引きした表情を浮かべた。事情をすでに知り尽くしているコウレ君は、無言のまま淡々とした冷めた顔を崩さない。
「まあ、信じられない話なのは確かですが……私たちの父親は、母星では一国の領主様でした。もっとも、私たちが生まれた前後にその母星ごと滅亡しましたがね」
「医療技術も発達していないような荒れた環境だったから、一夫多妻は常識だったんだ。……それでも、俺たちの父親の女好きと無責任さは、その中でも群を抜いていたけどな」
「……」
私は、ちょうど淀の表情が完全に凍りついたこのタイミングが「起きるべき絶妙の瞬間だ」と判断し、わざとらしく大きく伸びをしながらガバッと起き上がった。
「ナキユさん……!」
「ナキユ。もう起きて平気なの?」
淀たちがホッとしたような、どこか安心した表情を向けてくれるのは、素直に胸が温かくなる。
「まあ、ミンネさんと母親が同じお兄さんもいるんだけど……その人はちょっと、簡単には会えないところにいるのよね」
「……そっか」
淀は申し訳なさそうな、気遣うような顔をした。
「いえ、あなたが思っているような、理由(亡くなっている)じゃないわよ」
そう。いろんな意味で、このアビリスターとは全く違うようでいろんな意味で同じ場所にいる。




