設定を話すためだけに未成年キャラが酔っ払う話
学校の片付けが終わり、私たちは夜風に吹かれながら帰路についた。
私の自宅と、淀やコウレ君たちが住んでいる通称『イカレタヤカタ』は方向が同じで距離も近い。必然的に、帰り道はしばらく並んで歩くことになる。
「お疲れ様です、ナキユさん、淀さん」
少し疲れ果てた顔をしたコウレ君が、小走りで追いかけてきて声をかけた。
「お疲れ、コウレ君。で、仕事とあの酔いどれお姉様の方はどうなったの?」
私の問いに、コウレ君は遠い目をした。
「今、職員室の床で盛大に監視管理のもと、強制労働……もとい、『お勤め』していただいてます」
まあ、具体的にどんなお仕置きをされたのかは、あえて深く突っ込まないでおくのが大人の優しさというものだろう。
「それにしても……お二人、意外と仲が良いんですね」
コウレ君が不思議そうに私たちを見る。
「まあ、本名で呼び合うあなたたちほどではないけどね」
私は少しだけ嫌味ったらしい口調で言った。コウレ君は苦笑する。
アビリスターでは高位の能力者同士は、相当親しい関係でない限り兄弟などでも能力名で呼び合うのがデフォルトだ。まあ、外の世界でいう苗字読みみたいな感覚に近い。
「……あの、ナキユさんも、よかったら私のこと『淀さん』って呼んでくれてもいいですよ?」
ふと、淀が足を止めて私にまっすぐな視線を向けた。
「えっ」
「正直、『サイスプリム』って呼ばれるのはあんまり慣れないですし……淀でいいです。敬語も、これからは抜きでいいですよ」
その提案に、私は少しだけ驚いた。
「……それなら、学年も私の方が下だし、呼び捨てとタメ語で十分よ。生務会のメンバーだって、誰も私にそんな丁寧な敬語なんて使わないし」
「わかった。よろしくね、ナキユちゃん」
「ちゃん」付けの響きが少しだけぎこちないけれど、その瞳に宿る温かさは本物だった。
「じゃあ私はちょっとあのファミレスで夜食食べるんで、ここでお別れね」
いくら夏休みとはいえ、すでに日付は変わりかけている。私の養両親はすでに寝ているはずだ。
もちろん作り置きを用意してくれているのは分かっているけれど、それだけでは私の疲労による空腹は満たせそうにない。
「ならよかったら、イカレタヤカタで夜食を食べていきませんか?」
「えっ?」
「ちょうどロルさんやミンネさんも夜食を食べたがっているみたいですし。僕の料理でよければ……」
まあ、ファミレスで夜食だとつい食べすぎちゃうかもしれないし、何より、前からの片付けを手伝う約束を当日になってドタキャンされたのだから、こういう時ぐらい素直に好意に甘えたい。
「では、お言葉に甘えて」
こうして私は、イカレタヤカタへとたどり着いたのだった。
私はロルさんことマスブレイカさん、ミンネさん、淀と共に、コウレ君が作ってくれた夜食のサラダとヘルシーな中華を囲んだ。
コウレ君の料理は、やはり相変わらず美味しい。
「皆さん、飲み物は必要ですか?」
「いえ、私は大丈夫よ。これがあるからね」
私が取り出したのは、いかにも手作り感あふれるガラス瓶に入った、淡く黄金色に輝く液体だった。
「それ、なんだ?」
「片付けの最中に出くわした炭酸ジュースよ。多分屋台の売れ残りで、運営者に聞いたら『覚えてないから好きにしていい』って言われたんだから、これくらいの役得は認めてもらってもいいでしょ?」
「美味しかったら、俺たちにもくれよな?」
マスブレ殿の目から見ても、それはなかなかに美味しそうに見えたらしい。
私は疑うこともなく、その瓶のフタをパカリと開けると、グラスにトクトクと注いで一気に喉へ流し込んだ。
その瞬間。
「……っ……!?」
舌の奥がジリジリと焼け付くような、炭酸とは似ても似つかない強烈なアルコールの刺激が胃袋から脳天へと突き抜けた。甘い果実の香りの裏に隠された、まぎれもない高純度の蒸留酒の暴力。
「なっ……これ、サイダーじゃないっぽいんだけど……!」
「まさかとは思うけど、お酒でしょうか?」
「でも、なんでオクスタンの文化祭にこんなものが……」
「コウレ君、淀さん、ロルさん。どうやら瓶に答えがありそうですよ。よく見るとこれ、オクスタン高が備品で使っているタイプの瓶です。そして底には、ご丁寧にアルコールのマークが……」
私はある恐ろしい可能性を頭の片隅で思い浮かべてしまった。
コウレ君とマスブレイカさんもそれに気づいたのか、冷や汗を流しながら無言で顔を見合わせる。
オクスタンに来て日の浅い淀だけが、純粋に不思議そうな顔をしていた。
「……まさか、オクスタン高が酒を密造してるんでしょうか」
「はは……冗談だろ? いくらオクスタン校だって酒の密造なんてあり得ないだろ……いや、あの学校ならあり得るけど……!」
ミンネさん自身もドン引きしながら、自分のポケットからとある紙きれを取り出した。
「……ちなみに私は、昨日のお祭りで偶然こんなビラを拾ってしまいました」
そこに書かれていたのは、いかにも怪しげな構文。いかがわしい歓楽街の路地裏あたりで配られていそうな、密造酒の販売ポップそのものだった。
「とにかく、早く水を飲んで酔いを覚ますべきです!」
コウレ君が慌てて私に水を差し出そうとするが、もうすでに手遅れだった。
私の視界は激しく歪み、床が斜めに傾き、頭の中の思考回路がプツンと音を立ててショートした。未成年だし、もともとアルコール耐性が皆無に近い私の体に、オクスタン高の闇が生んだ危険な液体が一気に回り始めていたのだ。




