ナキユ「夏休みの夜の学校に美女2人というアダルトなようでそうではないシュチュエーション」
私の名前はテンショウ・ナキユ。自分でも言うのもなんだけど、このアビリスター屈指の名門校――オクスタン高の生務会長。
今日は夏休みの夜だけど、昨日オクスタン校を会場にして盛大に行われた祭りの片付け中だ。生務会の役員自体は少なくないのだけど、もともと推薦などをもらうこと目当ての子も多いので、こうした地味な片付け作業となれば、見事に誰も彼もが雲隠れするか、「用事があるので」とそそくさと帰ってしまっている。
それに私自身も秋の文化祭の打ち合わせなどがあったせいで、祭りは昨日だったのに、片付けが本格化したのは今日の夕方からだ。おかげで一人で絶望しかけていたのだけど――そろそろ、強力な助っ人が来るはずだった。
「あの、手伝いましょうか?」
そんな溜息を飲み込んだまさにその時、背後から声をかけられた。
振り返ると、そこには見慣れない制服を圧倒的な着こなしでまとった少女が立っていた。
声をかけてきたのは、コウレ君ではなく、最近編入してきたばかりの転校生の浅利淀――そして、何やら物騒な二つ名めいた響きを持つ、浅利淀・サイクロンスプリム。
私は昼間、アギ(実際はコウレ君とミンネさん)のちょっと面倒くさい昼食会のときにチラリと紹介されたばかりだった。
改めて見ると、思わず息を呑むほどのエグいほどの美形だわこれ。
まあ、これはマスブレさん以外のステップ9全員に言えることなのだけど。
「あの、サイスプリムさんですよね? なんでここに?」
「コウレ君の代理です」
私はちょっと唖然としてしまう。私の驚きを察したのか、淀は小首を傾げた。
「どうして……貴女が?」
「コウレ君は今日の昼くらいにかき氷を食べ過ぎて寝込んでるアギちゃんの看病で行けないって、聞いてませんでしたか?」
確かに携帯を確認するとその連絡がきている。まあ、いつものアギだわね。彼女は不登校だけど、メイドのミンネさんに付き合わされて来るには来るし。
「まあ、コウレ君に比べたら戦力にならないかもしれませんが……」
「いいえ、そんなことないですよ! ステップ9なのに、こんな雑用引き受けるなんて人がいいんだなあと……」
まあ、それは私の正直な本音だ。
「……ステップ9だから、引き受けちゃいけないんですか?」
本気で不思議そうな顔をしているあたり、彼女はそういう肩書を一切ひけらかさないタイプらしい。
「それとも、コウレ君のことが好きなんですか?」
淀の繰り出した直球すぎる変化球に、私は危うく持っていたホウキを取り落としそうになった。
「なっ……ななな、何を急に言い出すのよ! 好きとかそういうのじゃないわよ! 勘違いしないでよね!」
だいたい、コウレ君に対して全く何も思っていないかと言われたら、それは嘘になる。だからこそ余計に、図星を突かれたような気がして不自然に感情が高ぶってしまう。
「ふうん……。まあ、とりあえず、この段ボールの山を片付ければいいんですよね?」
淀は不思議なのか面白がるのかわからないような含み笑いを浮かべると、ヒョイと軽やかに巨大な段ボール箱を持ち上げた。
その身のこなしは華奢な見た目に反して全くブレがない。
実際、作業が始まると彼女は言葉通り、真面目かつコウレ君に負けず劣らずテキパキと仕事をこなしていった。
「……私、やっぱり作業遅いですか? それとも何か間違いとか……」
「いいえ! むしろ早すぎるくらいよ。その道のプロみたい……」
「これでも一応、母星ではメイドでしたから……」
「……貴女、まだ17歳よね?」
「親が借金作って……でも、仕えた家の人はそれなりにいい人でした」
その時、ふと彼女の携帯のストラップに私の目が留まった。
「そのストラップも、その人からの貰い物とか?」
「えっ?」
「素人目だけど、なんだかちょっと珍しいものだから……」
服装などはステップ9らしかぬ質素というより機能性重視なのに、そのストラップだけはやけに生活感があってアンバランスだった。
「ええ……そうですけど。もらったのは、付き合うようになってからですけどね」
「ええっ!」
私は思わず、あからさまに声を裏返してしまった。
「サイスプリムさんって、元ご主人さまと付き合ってるの……!?」
「ええ。まあ、私が宇宙に留学しちゃったので、遠距離恋愛――なのかどうかも呼べるか分からない状況ですが」
「……ちなみに、告白はどっちから?」
――って、我ながら他人の恋愛事情に首を突っ込みすぎだとは分かっている。分かっているけれど、この桁外れな美少女の恋愛事情なんて聞かされたら、生務会長のプライドをかなぐり捨ててでも好奇心が勝ってしまう。
「向こうからですよ。まあ、どこまで本当か分からないんですが……幼少の頃から、お前しかいなかった、とまで言われて……」
淀は少し遠い目をして、どこか照れくさそうに首を傾げた。その無防備さに、私は内心で(それ、100%本気のやつじゃん……!)と頭を抱えたくなる。
「幼少ってことは、年下なんですか?」
「同い年ですよ。お互い、小学一年の頃からの付き合いです。もちろん、『仕える』っていう本来の意味から、恋人として告白されたのはつい最近ですけどね」
「単なるメイドっていうより、コウレ君やミンネさんみたいに、私生活そのものの世話を丸ごと焼いた感じなわけ?」
「まあ、あちらの事情や性格もあって、コウレ君やミンネさんほど過保護ではありませんけど……」
「……ってことは、いつも一緒にいたわけよね?」
「ええ。だから、周囲からは『もう夫婦みたいなものだ』とかって、よく冷やかされましたよ」
――それが単なる冷やかしだなんて、本気で思っているのは世界中でこの天然美少女本人だけなのではなかろうか。
私は思わず、目の前で涼しい顔をして段ボールを片付ける淀を凝視してしまった。




