漫画以外はやる気をだせば出すほど迷惑なお嬢様
お客様達は無事満足してアギお嬢様の食事会とお祭りは無事終了しましたが私たちには、まだ後始末が残っています。
本当に危険だった「本物」の料理の後始末が。
アギお嬢様が上機嫌で広間を後にしたあと、私とコウレ君は厨房の奥に戻りました。
「⋯どうしますか?コウレ君。」
紫黒のシチューと泥のようなピザ、見るたびに胃が軋みます。正直2人で処理するどころか危険物処理班でも呼びたいぐらいです。
「ロルさんの能力で分子レベルに解体してもらってヒゾラさんの能力で川にでも捨てましょうか?」
「コウレ君。ゴミの不法投棄は犯罪ですよ。」
まあもちろん本人達に頼んでも断ってくるのは承知です。
「う〜んどうすれば⋯あっ確かセントカクラ家には確か有機物を家畜や畑の肥料などにリサイクルしてくれる業者さんがあったはずです。」
「それもどうかと思いますけどね。少なくとも私はそれが具材となった食べ物を食べる気は起きないです⋯」
「いいに決まってます。それともそれ以上にマシな処理方法なんてあるのでしょうか?」
コウレ君は苦笑しながら、業者に連絡をとっています。
その時です。
なんとアギお嬢様もこの厨房に戻ってきていました。
「⋯なぜお嬢様がここに?⋯」
「私はまだ帰ってなどない。別の屋台でリンゴ飴やチョコバナナを食べてただけだ。」
タイミングが最悪でした。
私が一旦お嬢様の注意を逸らそうとするより先にアギお嬢様の視線がお鍋に、耳がコウレ君と廃棄物業者さんとの会話に向いています
「……これは、何だ?もしかして私の料理か?それに有廃棄物回収業者ってどういうことだ?」
コウレ君も気づいたのか業者さんとの会話は中断し唖然とした表情になりました。
「⋯」
「まさかお前達が作った料理とすり替えたのか?」
「いやですわねえお嬢様⋯お嬢様の料理は昼間皆様が美味しく召し上がったではないですか⋯」
「そうですよお嬢…アギ。このお鍋は見た目が似ているだけでお嬢様の料理とはまったく関係ない別の屋台の残飯ですよ。手伝いを押しつけられてしまいまして…」
「それならお鍋に書いてある私の名前はなんなんだ?」
…確かにセントカクラ・アギとお嬢様の名前が書いてあります。
まあお嬢様にとっては自身の原稿にサインをいれるのと同じ感覚なのでしょう…
「……そうか。やっぱり私の料理は、誰にも食べられないものだったのか」
声に、いつもの強気さはありません。
自信たっぷりに「才能だ」と胸を張っていた人の声とは思えませんでした。
「経験値を稼いだつもりだった。でも全部茶番だったんだな」
「違います!」
思わず、私は声を上げていました。
「茶番なんかじゃありません。お嬢様が本気で作ろうとしたこと自体は、本物です」
「結果が伴ってないだろ」
「結果だけが全てじゃないです」
コウレ君も前に出ました。いつもの丁寧な物腰のまま、それでも言葉ははっきりしています。
「お嬢様は今日、誰かに届けるつもりで料理を作りました。失敗したとしても、その過程で得た感情や焦り、悔しさは、ちゃんと経験値になります‼︎」
しかしお嬢様は無言で逃げるように帰ってしまいまし
その足取りには自嘲以上のものが混ざっていました。
日頃、才能や財力、身分で周囲を振り回しているお嬢様が、ここまで落胆する光景は珍しいです。
「⋯どうしますか?コウレ君」
「正直逆上して周囲を破壊するか無理矢理あのダークマターを食べさせるとかしなくてよかったです。たまにはいい薬になるでしょう」
「⋯それもそうですね」
そして私達はイカレタヤカタに戻りましたが意外にもお嬢様はあっさり立ち直ってました。
「……とりあえず今日の経験をネームにしてる。失敗した天才料理人の話だ。皮肉が効いてて、悪くないだろ」
「ええ。きっと面白い作品になります」
私とコウレ君は、また顔を見合わせました。
「毒料理を出して誰にも届かなかった料理人が、実は周囲に支えられてた話……か。主人公は当然天才で、周りが味覚オンチの凡人なんだが」
「……半分合ってて、半分真逆ですね」
「何だと?」
「いえ、何でもありません」
その後のお嬢様の自室では平穏にペンを走らせる音が聞こえてきます。
私とコウレ君は、リビングでようやく肩の力を抜きました。
「……今日は長かったですね」
その時、階段の上からアギお嬢様の声が降ってきました。
「なあ、ミンネ。コウレ」
「はい」
「次のチャレンジ、もう決めたぞ」
空気が、また少しだけ張り詰めます。
「……何ですか?」
「料理ではない次は本格的に『誰かに本気を届ける』経験だ。具体的には——」
間が空きました。
私達の顔は明るくなりました。料理以外のチャレンジに目覚めてくれたのかもしれません。
「——次回の文化祭で、屋台を出して、今度こそ自分の味で行列を作る」
私とコウレ君の表情が、同時に引きつります。
「お嬢様、それは……とかいっても無駄そうです⋯
ガッツポーズをしながら机に戻るお嬢様。
「……やっぱり、終わってませんね」
「ええ。アギお嬢様のチャレンジ病は、治りません」
それでも、少なくとも今夜は原稿の音がしていますので私たちはそれを救いとして聞くことにしました。
そして私たちは、また次の地獄へ向けて、静かに胃薬を補充するのでした。




