アギお嬢様が自分の毒で死ぬわけないでしょう
アギお嬢様は自信たっぷりに、自身の料理という名の毒物をお客様に振る舞おうとしています。
物音を聞く限り、もう既にお客様は出揃い始めています。今更中止というのは無理でしょう。集められた面々は、ロルさん、ナキユ会長兄妹、淀さん、ピラーセルさん、エリザさん、ゲンヨ先生、それに出版社の方や魔法界の関係者。料理を出したら大量殺人ですが、今更中止などすればお嬢様は大恥です……。
「コウレ君。私たちで作りましょう」
「え?」
「お嬢様にはスピーチでもしていただいて、他の方が食べているところをあまり注視させないようにすれば、ほぼ別物の料理でも誤魔化せますよ!」
コウレ君は一瞬だけ沈黙したあと、深く頷きました。
「……それしかなさそうですね」
私たちは厨房の奥、アギお嬢様の死角になる位置から逃げるように移動し、すぐ側の別の厨房で手早く動き始めました。
幸いにもお祭りなだけあり、余り物をもらったり買い取ったりして、食材はすぐに揃えることができました。
「いや〜、完成したぞ。さっそく料理を出そう!」
アギお嬢様の方の完成したようです。さっきのシチューに、さらに水増しも兼ねて具材や味付けを加えたもののようですが、既に見た目と匂いだけでも、さっきのシチュー以上にまともな人間が食べられる代物ではないのがわかります……。
「いつもながら思いますが、なんでアギお嬢様はご自身の料理の見た目や匂いで不快感を感じないのでしょうか?」(ひそひそ声)
「当たり前でしょう……。フグが自分の毒で死ぬわけないでしょ?」(ひそひそ声)
「あの……お嬢様……。配るのは私とコウレ君がやります! やっぱり主役のお嬢様は壇上でスピーチをお願いします」
「それもそうだな」
「えっ、今回は私のために集まってくれてありがとな! はりきって作ったので、美味しく食べてくれよな!」
エプロン姿のお嬢様が得意気にスピーチをしてます。
「大丈夫なんですかね?」
「まあ、大丈夫でないと思うけどね」
知的なエリザさんとピラーセルさんらしく、冷静に、現実を真面目に見つめていらっしゃいます。
しかし……。
「意外と……普通に、いや相当うまいな」
「それどころか絶品じゃないですか、これ。まろやかなコクと具材のアクセント。私の母星の高級ディナーを思い出しますわ」
次々と好意的な感想が漏れます。
すり替え作戦は大成功でした。アギお嬢様の顔が、見たことのないほど輝きました。
「だろう! 私の才能は料理にも発揮されるのだ!」
私とコウレ君は、内心で大きく息を吐きました。
とりあえず、今日の大量殺人は防げたようです。ちょうど各々の食事も一段落してきた頃のようです。とりあえず私たちも会場を見回ることにしました。そのとき、私の妹でオクスタンの生務会長であるナキユさんが、私たち二人にそっと声をかけました。「美味しかったわよ。お姉様、コウレ君」
「ナキユさん?……なんのことですか?」
「感謝ならアギにお願いしますよ?」
ちょうどその場には、ロルさん、淀さん、ヒゾラさんもいっしょです。
「だってこの料理、二人が作ったんでしょ? 自信だけたっぷりの我儘お嬢様の御守りは大変ね。御愁傷様」
流石、文武両道で才色兼備のオクスタン校の生務会長様です。
「その顔は図星のようだな」
「ロルさん……」
「まあ予想通り。アギがこんな美味しい料理を作れる可能性なんて、恐らくアイスの当たりが10本連続で出続ける可能性より低いわよね。うん」
辛辣な口調のアイドル様。
「そもそも私だって、アギの料理の口直しとかでコウレ君かミンネさんの料理を堪能できなければ、わざわざ貴重なタレント活動の休暇を割いてここに来ないわよ。うん」
「俺もだ」
「私も」
お嬢様の目が届かないことをいいことに、言いたい放題な御三方です。まあ容赦ないだけ正論なのですが。
「……くれぐれもお嬢様にはご内密にお願いしますよ」
「じゃあ秘密にするかわりに、おかわり頂こうか?」
「かしこまりました」
試食会は大成功のうちに終わりました。
アギお嬢様は上機嫌で「今日の経験値は過去最高だ!」と宣言し、厨房を後にします。私たちには、まだ後始末が残っています。
本当に危険だった「本物」の料理の後始末が。




