悲しみのそっちへと〜辿り着くとかつかないとか〜
私とコウレ君は、アギお嬢様が作る殺人兵器……もとい料理を、喜んで自死……もとい不快感に耐えてくださる方を探し続けました。
が、当然いらっしゃるわけもなく、途方に暮れています。
その時、叫び声が聞こえました。
「いやああー!」
エヌミさんの声です。
声のした方へ駆け寄ると、エプロン姿のお嬢様と、気絶したエヌミさんの姿が……。
「……どうしたんですか?」
まあ、聞くまでもなさそうですが。
「お前たちが全然招待してくれないようだから、私の方から行商することにした」
数分前。
「……今日は絶対、アギのいる棟には行かないようにしないと……」
「お待たせしました。アギレストランです!」
「うわ、頼んでないんですけど!」
「おい、なんで逃げようとするんだ!!食べさせたい人にお届けするのがアギレストランで〜す」
「これを見よ! アギ特製、ジャムとたくあんラーメンと、カエル出汁セミの抜け殻入り冷やし中華だ」
「どっちも人間の食べ物でないのはわかったわ……。そして今日、私は多分死ぬってことも……」
「合わせて食べると倍うまいぞ。ほら〜」
「待てや! せめて味見程度で……!」
「遠慮するな。いっぱい食べて、感想を言え!」
「いやああー!」
「うまいか? 美味しいか?」
「……そして現在に至るわけだが、気絶するほど美味かったらしいぞ」
「……そうなんですね」
哀れエヌミさん。私たちは心の中で、彼女の骸に手を合わせます。
「ねえ、行商はやめましょうよ? せっかくのお祭りを地獄……じゃなくて、とにかくしない方がいいですよ、うん」
「そうだな。行商はやめる」
言葉通りアギは店に戻りました。私とコウレ君はほっとした顔になります。
しかし、それも束の間でした。
「まあどうせ行商だと持ち運べる量も限られるしな。それに私はこれから、アギ特製スペシャルフルコースを調理しないといけないしな!!」
……どうやら真の地獄は、これからのようです。
「あの、ここがアギちゃんのお店よね」
「無駄に広いなおい」
店に入ってきたのは、私たちと同じ废れたヤカタの同居人であるロルと淀さん。
この店自体は祭りでは目立ちにくい奥の方にあるのにも関わらず、です。
「淀さん、なんでここに?」
「まさか……アギが呼んだんですか?」
当然お嬢様は、自信たっぷりな顔で得意げに言います。
「もちの論だ。淀やロルどころか、他のステップ9の連中やナキユやゲンヨ先生、それどころか出版社や魔法界の有力者の連中も呼んだ。もうすぐ来るだろうな!!」
日頃は学生としての課外活動も、作家らしい現地取材も、お金持ちらしいパーティーもろくにやらないくせに、こういう時だけ行動力抜群のお嬢様。
どうやら、もう提供自体を中止にさせることは無理なようです。
「それでは私は調理しているから、楽しみに待っててくれ!!」
そうして、お嬢様は厨房へと入っていきました。
「なんだろう……正直に言うと、ちょっと変な悪寒がするのよね……」
淀さんの見立ては正しいです。はい……。
「おいおい、本当に大丈夫なんだろうな? アギお嬢様の執事とメイドさんよ……」
「私たちはちょっと様子を見てきますね!」
様子を見るだけなので、私たち二人はお嬢様に気づかれないよう注意を払っています。
「悲しみのそっちへと〜 辿り着くとかつかないとか〜」
「幸いにもアギは鼻歌を歌っているので、私たちに本気で気づいてなさそうです」(ヒソヒソ声)
「鼻歌の歌詞時点で、すでに嫌な予感しかしないんですが」(ヒソヒソ声)
「まあ、いくらお嬢様でも流石にこういう時ぐらいは、意外にまともかもしれませんよ……」
私は一粒の可能性にかけ、多少の覚悟を決めて、その場にあるお玉を使い、お嬢様が作っているシチューを味見します。
「……うう」
その瞬間、私の口の中に強烈な不快感と生理的嫌悪感が走りました。
漫画的に粉々になった「多少の覚悟」と、味見した料理を吐き出すどころか、さっきまで食べていたまったく関係ない屋台でのおやつまで吐き出し、周囲が地獄絵図になる一歩手前です。
恐らく、度数の高いお酒を一晩中飲み続けた後の二日酔いでも、人や動物の排泄物を食べた時ですら、ここまでの嫌悪感はないでしょう……。
コウレ君は何かを察した(察するまでもないですが……)のか、水をコップに汲んでくれました。
鼻をつまんで水を飲み、なんとか無理矢理飲み込むことができましたが、胃薬を飲んでおいた方がよさそうです。
「……どうしますか?これを出せそうですか?」
「コウレ君。殺人幇助は犯罪ですよ……。ましてや人数が人数ですから、多分確実に私たち二人共、死刑です」
「どうしますか? 物音を聞く限り、どんどん人が集まり始めてますよ」
「……」




