ミンネ「アギお嬢様のレストランと書いて死刑執行場と読みます」
私の名前はフランル・ミンネ。
大物魔法師の令嬢にして、13歳でありながら連載作家であるアギお嬢様のメイドです。
昨日は本当に悪夢でした。年に数回発生するんですよね。アギお嬢様の「なにかにチャレンジして自分の作品の質を上げるわ病」。まあ私の故郷の星(ろくに過ごしたことはありませんが)の台風みたいな、年に数回くる災害です。
「なあ。ミンネ、コウレ。おかげさまでとりあえず《アイデア》は思いついたぞ。明日はお前たちは《休んでいいぞ》!」
「そうですか、アギ。ぜひ作品のためにも頼みますよ」
コウレ君の表情も明るくなりました。この時、私もコウレ君も、これが今日とは比較にならないほどの地獄への入口だとは、夢にも思っていませんでした。
そして翌朝。
「アギお嬢様は今日一日部屋にこもっていると思いますし、废れたヤカタの家事もほとんどないですよね?」
「ええ。たまの休日なので、今日はオクスタン校で開催されるお祭りに行きたいです」
「ならもう出発しますか? あと数十分で開きますし、お昼時以降はコミケ並みに混みますし。あっ、でもお嬢様はどうしますか?」
「ほっときましょう。どうせお昼、下手すれば夕方まで起きてこないでしょうし」
生徒や有志などが自由に出店や催しをするので、お祭りというより文化祭に近いのかもしれません。早く来て損はありませんでした。既にほとんどの露店が営業しています。
「どうせなら奥にも行ってみましょう。よく考えたら朝ごはんもろくに食べてないですよね?」
「ちょっとそこのお二人さん!! 私の美味しいピザを食べてみるか? 今ならお二人がお客様第一号だぞ」
声の主は奥の屋台からです。アギお嬢様に似た声ですが、まさかこんなところにいるはずありません。
そして私たちは屋台の椅子に座ります。
「とりあえずシーフードピザを一つ」
「僕はシチューを」
「お二人共、お待ちどうさま!!」
そして振り向いた店主の顔は……。
「……なんでアギがここに」
「私の特製料理を振る舞えば、人生経験も積めるし、漫画のネタにもなる!」
「でもまだ朝の8時ですよ! アギが起きるような時間じゃないですよ! 出店ならもっと遅くてもいいんじゃないですかね? 夜の11時からとか」
「それだと既に祭りは終わっているではないか! いくら私だってそれぐらいスケジュールは守るわ! あと流石にいつもの私だって夜の11時はないわ!」
確かに屋台の看板を見ると『アギレストラン』と大書されています。
肝心の出された料理は、茶色の泥みたいな毒物を毒物みたいなパンに乗せたピザと、紫に変色した毒みたいなシチュー……。
「それ、なんの料理でしょうか……」
「アギ特製、ザリガニとセミの抜け殻ピザと、ジャムと納豆のシチューだ」
明らかに匂いもあからさまな毒ですね、これは……。
「お嬢様、それを私たちに食べろと……!」
私とコウレ君は生命の危機を感じ取り、青ざめる。
「遠慮するな! お前たちが記念すべき最初の客だ!」
「あっ、私お腹あんまり空いてないでした〜。コウレ君、私の分もどうぞ!」
「そんな! ミンネさんの裏切り者。鬼・悪魔・▲・☓・□(3記号には好きな罵倒語や独裁者の名前を入れてお楽しみください)」
「なんだと!」
当然激怒する拷問殺人執行人……いえ、お嬢様。
「いえ……」
「なんでもありませんわ……」
このままでは確実に死にます。
私はとっさに、後先考えず口を開いてしまいました。溺れるものは藁だけではなく幸せトランプも掴みます。
「お嬢様、せっかくの初出店なのに、最初のお客が私たちだけというのは勿体ないです。もっと知り合いを呼びましょう」
「ほう?」
「ええ。みんな呼べば、経験値も一気に稼げますよ!」
「一理あるな。よし、ぜひ可能な限りみんなを集めてこい。私は今日のお昼までじゃんじゃん作ってるからな!」
アギお嬢様は一旦、拷問器具開発所……もとい厨房に戻りました。
その場は乗り切りましたが、真の地獄はこれからでした⋯
「どうするんですか! あんな約束をして!」
「だって、ああいうしかないでしょ! それとも召喚してコウレ君が食べたほうがよかったんでしょうか?」
外は晴れているはずなのに、私たちの周囲は明らかに雷が鳴りだしそうなレベルの暗雲に囲まれました。
オクスタンのお祭りだけあって、すぐにアギお嬢様のご友人とも出会えましたが、予想通り帰ってきた返事は惨憺たるものでした。
エヌミさんの場合。
「アギが作った料理! そんな恐ろしいものが食えるかボケ!」
「そこをなんとか……」
「命が惜しいんや! 風ひいたってことにしておいてくれや!」
ルリネさんの場合。
「そんな……わざわざ誘いに来るなんて……。執事さんもメイドさんもひどいよ……」
といって泣き出してしまいました。
当然、他の数少ないアギお嬢様と親しい学校関係者の方にも誘いましたし、なんなら土下座で頼み込みました。
しかしみんなアギお嬢様の料理のひどさをご存知なので、「アギお嬢様の料理」というキーワードを聞いた途端、逃げ出す有様です。
誰もが知っているのです。
あのお嬢様が「本気で何かを作る」とき、出来上がるのは料理ではない、ということを。そして今、厨房ではアギお嬢様が、黙々と次の「作品」を作り続けています。




