一番厄介なのはやる気100能力-1000のお嬢様
コウレ君の雷からアギちゃんをお姫様抱っこして逃げたミンネさん。
「まあこんなもんか」
アギちゃんは未来の地球でも誰もが知る国民的青ダヌキが持ってそうな怪しい検測機器を見ている。
経験値+100
コウレのストレス+4545
「経験値を計る機械ですか?」
当然ミンネさんも気になって画面を見ながら聞く。
「私が作ったのよ」
「あっ、淀さんと同じステップ9のレイリーさん」
「これは私が漫画家に必要な経験値を計ってくれる測定器具だ。今はまだ100か」
「5000ないと経験値としては不充分よ」
レイリーちゃんはいかにも高みの見物といった感じの表情だ。
「ちなみにコウレのストレスが4545ってのはなんなんだ?」
「まあそういう数字もついでに測れるおまけ機能付きよ
」「……いつもろくでもないことをしでかすどこかの誰かさんが、一段磨きのかかった碌でもないことをしでかしたからじゃないんですか?」
私も母星ではメイドなので、アギちゃんの掃除のせいでおそらくイカレタヤカタでのコウレ君の今日の仕事は数倍増えたのは予想ができる。
「おいミンネ。お前がいくら美人メイドだからって流石にコウレが可哀想だろうが!」
あっ、これ本気で自分のせいだと気づいてない……。
「とにかく私の経験値がまだ全然足りないのは確かだからな。もっといろんなことにチャレンジするぞ!」
ミンネさんは完全に諦めの表情になっている。
アギちゃんの次の「チャレンジ」が何なのか、考えてるんだけど頭が痛そう。
「ってことで僕に剣術をか?」
ため息をつくピラーセル君。「まあほどほどで大丈夫だぞ‼︎ 一週間で人を真っ二つにできる程度でいい」
……運動音痴の無知ってのは恐ろしいなあ。
「ならオクスタン高の体育館はどうですか? マットなども使えますし」
とりあえずピラーセル君にアギちゃんは剣術の指導を受けている。
「意外にいい方向なんじゃないですかこれ」
「そうですね。これきっかけに運動に目覚めていただければ。まあいくらお嬢様でも、慣れないうちにめちゃくちゃに振り回してすっぽ抜けた上で体育館の物を壊すとかはないと思います」
アギちゃんはめちゃくちゃに剣を振り回す。
「こういう時だけ運動神経は冴えるのがお嬢様らしいですわね」
「大丈夫なのかな」
「ピラーセル君?」
「日頃ろくに運動しない人間がこんな振り回し方で。真面目な話、淀の星で喩えると、軽自動車で日常生活もできないくせに高級スポーツカーで日本一周旅行系配信者を目指すようなもんなんだけど」
知的な彼らしく非常にわかりやすい喩えだ。
ミンネさんもアギちゃんの危うさに気づくのだけど……。
「やめてくださいお嬢様! お嬢様の天才(天災)的な名(迷)捌きでなにかよからぬことが起きてからは遅いんですよ!」
「何を言ってる。もうこつは掴めてきたんだ。よし。くらえ。これが私のウルトラミラクルグランドソード!」
そして剣はまず体育館の壇上の巨大モニターを壊してから、さらにバスケットボールのゴールも破壊し、窓ガラスも破壊した後、床に落ちて体育館の床に大穴を開ける。
清々しいほど綺麗な伏線回収だ。
ミンネさんどころか、流石のピラーセル君も苦笑とドン引きの中間みたいな表情になっている。
「……窓ガラスどうするの?」
「まあいくらだろうが賠償できないセントカクラ家ではないと思いますが……」
「それで今度は私に射的を習いたいと?」
今度の舞台はやはりオクスタン校の校庭である。
彼女も私と同じステップ9のベニセイス・エリザさん。射的の名手でもある。
「まあ実力がどの程度か知るために、ミンネ。この帽子を被れ」
アギちゃんがミンネさんに渡したのはシルクハットタイプの帽子。上のくぼみにはリンゴが載っている。
「まさかメイドさんの頭上のリンゴを銃で撃つつもりですか……」
「私にできないはずがない」
……できるはずがない。
「私ちょっと急用思いだしました!」
当然ミンネさん説得するのも瞬時に諦め逃げ出してしまう。
完全な実銃ではないが相当な飛距離が出る銃とBB弾であり、人に向けるのは充分危険だ。
「大丈夫だ。問題ない」
私とエリザさんが止めるより先に、アギちゃんは逃げるミンネさんに発砲していた。
それはミンネさんの後頭部に命中し、彼女は倒れる。
「ミンネさーん!」
「メイドさん!」
当然私たちは駆け寄る。
「あっ、やっぱり某メーカーの粗悪品だった。空中で破裂してるぞ。撃つ前に状態悪いやつを処分しないとな」
「それ以外に反省することないんですか?」
当然ミンネさんは呆れかえった顔でつっこむ。
「コウレ君ならともかく、私ならあと数ミリ破裂場所が近かったら大怪我ですよ!」
コウレ君ならともかく、ってのもどうかと思うけどね……。
私とミンネさんは例のメーターを見る。
経験値+200
ミンネのストレス+1919
「やっぱり全然経験値が足りないな。よし、もっと派手なことをしないとな!」
「……もうやめるという選択肢はないのですか?」
「ちょっとあんたたち。とっとと帰って!」
声の主は私たち的担任・ゲンヨ先生。コウレ君の姉でもある。
「あっ、ゲンヨ先生」
「ここ、明日から数日間お祭りがあるのよ。まあ屋台とかは移動式だけど、流石に今夜には一通り終わってないとまずいし」
「とのことですよ、お嬢様」
「しょうがない。《今日》はもう帰るか」
ミンネさんは明らかに嬉しさを隠しきれてない。
しかし、本当の彼女にとっての悪夢は、明日だった……。




