淀「ダメなお嬢様が頑張るとこうなる」
私の名前は浅利淀。科学の殿堂の星・アビリスターに留学中なのにアイスを食べて暑い夏を涼む元メイドの女子高生。
「まったくなんなのだ。あの担当編集者は! 私に人生経験が足りないだと!」
13歳にしてプロの漫画家であり名家のお嬢様のアギちゃんが朝から居間で怒鳴っている。
夏休み中盤のある日、彼女は漫画のネームを机に叩きつけ、顔を真っ赤にしていた。
「まあ足りないでしょうね。宇宙屈指の魔法の名門という大富豪の家に生まれ、漫画のことだけは大天才で13歳で連載獲得してるお嬢様では……」
メイドのミンネさんがいつものように冷静に指摘する。
「せっかくの夏休みなんだしもう少しいろんなことにチャレンジしたら。例えばプールにいくとか虫取りするとか……」
私が提案すると、アギちゃんは即座に鼻を鳴らした。
「そんな子供っぽいことできるか!」
「漫画のアイデアといって児童向け教育アニメを10時間見続けるほうがよっぽど子供っぽいと思いますが……」
「8時間しか見てないぞ! おまけに、そのあとも勉強もせずにソリティアにマインスイーパー、さらにそのあと漫画一気読み。もちろん不眠不休不勉強で挑戦する私のどこが子供っぽいというのか‼︎ コウレの説教から逃げる苦労も知らないくせに!」
流石のミンネさんも、どこをどう突っ込めばわからない顔をしている。
「もう少し身体と脳を能動的に動かすことをするべきなんじゃないかな」
「っよし、そうするか」
アギちゃんなら「そんな人間の本能に逆らえというのか!」とか言うと思ってたので意外だった。
ミンネさんは日頃怠け者の主を矯正する千載一遇のチャンスとばかりに顔が明るくなる。
「やっぱりこういうのはいままでご自分がやらないことをするのがいいんですよ。アギお嬢様! さっそく新学期に備えて勉強して身体も鍛え……
」
「いやそんなことよりもっと根本的に、普段の私とは正反対のことだ!」
「ということで1日使用人として働かせてもらうぞ。何でも頼んでくれ」
ミンネさんは着地点が外れてしまったという顔になる。
こうしてみるとコウレ君の女装ほどじゃないが、アギちゃんの執事服はわりと似合う。
「……ミンネさん」
コウレ君はいかにも「とんだ厄介事のスイッチを入れてくれましたね」と言わんばかりにミンネさんを睨みつけている。
ミンネさんは「お嬢様の熱意は素晴らしいですから」とフォローしつつ、コウレ君の目の先でお詫びの印に手を合わせる。
「ってことでなにをすればいい?」コウレ君はミンネさんに耳打ちで相談する。
「……正直なにもしないで食っちゃ寝してるのが一番役に立つんですが……」
「お嬢様はその食っちゃ寝以外のことをやる気になった貴重な機会なんですよ! ここでそれをアシストしないでなにが執事ですか? それともここでなにも頼まないで勝手に料理とかされる方がよろしいんでしょうか?」
そういえば私がイカレタタヤカタに来た時も、2人は明らかにアギちゃんが料理を作るのを必死に止めようとしていた。
「とりあえず掃除を頼むのはいかがでしょうか?」
コウレ君は気の進まない顔をしつつ首を縦に振る。
「アギ。とりあえずイカレタヤカタの掃除をお願いできますでしょうか?」
「よし見るがよい!この私のウルトラスーパーハイパーミラクルホーキーを!」
思うのも悪いけど、掃除なら人畜無害だと思ってたミンネさんがバカだったらしい。
「……お嬢様」
彼女の掃除と言う名の単なる箒を使ったチャンバラゴッコによって、コウレ君に掃除されてた以色列タヤカタはどんどん散らかっていく。
それだけで済めばいいんだろうけど、左右上下見境なく振り回してるので割れ物はどんどん割れていく。もちろん素人目でみてもかなり高価と分かるものも含めて。
「にしても掃除というのは非常に難儀なものだな。どんどん散らかっていく。予想以上に大切なことを学べるな」
……絶対にアギちゃんだけだと思う。
「ミンネさん……」
コウレ君がこの世の者とは思えない顔で、お嬢様の暴走を止められないメイドさんを睨みつけている。
いつ巨大雷が落ちてもおかしくない。
「お嬢様、掃除は一旦(いろんな意味で)終わりましたので次いきましょう次!」
ミンネさんはアギちゃんをお姫様抱っこで連れ出し、間一髪でコウレ君の雷を逃れた。
しかしこのあと、これ以上のアギちゃんの天才的な天災に巻き込まれるのは今はまだ知るよしもなかった。




