ヒゾラ「その努力が、その熱意が、嘘でもそれは完全な哀(ヒゾラ過去編2)」
病み上がりの美形子役タレント兼アイドルである私・ミバリ・ヒゾラ。
本来の主役として、代役だった浅利淀——サイスプリムのステージに乱入する。
サイスプリムは生まれて初めてステージに立ったとは思えないほど、わりと堂々としている。
やっぱり本当は母星では同業者だったのか、それともここだからこそブーイングを恐れないのか。私もここに来てアイドルを始めた時も、そうだった。
ライブ中でも、どうしても鮮明に思い出せてしまう。あの日、私は両親の巨額の借金を押し付けられた上で、全てを売り捌かれた。私は借金取りを横目に、自宅のアパートを脱出した。
幸い向こうが強引に入ってきたときは、私は遠くに行くバスに飛び乗ることに成功していた。とりあえず事務所にある程度立て替えてもらうしかなさそうだ。
アイドル業を続ければ、ある程度は返せるはずだ。うん。
しかしその時、メールが来た。
『ちょっとヒゾラ。私の事務所に怪しい暴漢が来て、あなたが来て金寄越すまで座り込むとか言ってるわよ! それに貴女のいかがわしい画像も貴女名義から流出してるわよ‼︎ どういうつもり! そのせいでスポンサーや事務所のお偉さんも大激怒なんだけど!』
……恐る恐る私をネットで検索すると、私のトイレやお風呂や着替えなどを盗撮した画像が、私の自撮りとして大量にネットにばら撒かれていた。
具体的にどういったアングルやどういう「自撮り発言」なのかは、流石に割愛させてほしい……。
犯人は誰かわかりきっている。あの両親は、実の娘の真っ当な小学校生活を体験させるどころか、芸能人としての地位や、女としての尊厳すら、自分の快楽のために金に変えたのである。
相当時間が経たないと、芸能人どころか普通のアルバイトすら不可能だろう……。
もう両親に対しては完全に絶望したし、怨む意欲も起きない。
ただ、胸の奥が冷え切って、何も感じなくなっただけだった。
なけなしの所持金で事が落ち着くまで高飛びするべく、田舎行きの鉄道に乗ることを決めた。
GPSがあるので、もともとボロボロの中古だった携帯はここで完全に壊して捨てる。……まあほとぼりが覚めたら普通に今までの日常が返ってくるはず。
そう考えればホームレス生活もすぐに慣れるだろうと思ってたけど……、一ミリも慣れない。アニメとかでよく見るような、人が住むのに向いた土管や橋下なんてあるはずがない。
そもそもあの闇金達も私を探し続けているだろう。
人がなさそうな山が住処。山といっても食料などはろくにない荒地。
そのため数日に一度、近くのゴミ箱で残飯などを漁る生活。その際、他のホームレスなどに強姦されかけたのも一度や二度じゃない。
毛布やなけなしの食料が野生動物に奪われたことも一度や二度じゃない。
夏は汗をどんなにかいてもまともな着替えなどないので、ほとんど素っ裸で過ごした。
すでにネットに自分の裸の画像なんて死ぬほど出回ってるのだから、今更だ——と自分に言い聞かせた。
でも本当は、夜中に誰かの気配がするたびに、全身が震えて動けなくなった。夏ですらまだいい方で、冬は完全に凍死寸前だった。
指先が真っ白になり、呼吸をするたびに胸が痛む。しかし心は慣れてないし慣れたくもないはずなのに、適応できてしまっている自分が、それはそれで情けない。
あの両親に振り回され、幼い頃からろくな生活をしてきた試しがない。
ろくに働かないどころか酒やギャンブルで私の芸能活動のギャラやバイトの収入すら溶かし、それで足りなければマグロ漁船や介護などの肉体労働をやらされたり……。
私がまだ小学校に行けていた頃、学校の給食費や他の子の私物を盗んでいる犯人だと何度も疑われ、私は不登校になってしまった。今にして思うと、私を不登校にして金稼ぎに専念させるために両親がやったことでは、と確信する。
だからこそ美形子役タレントとして成功しても、全然嬉しくなかった。
笑顔は練習で作れるようになったが、心の中はいつも空っぽだった。でも一つだけ、私にも将来の夢があった。
それはアビリスターの能力者になること。
この星の世間では異能力というものそのものが、基本魔女狩りの魔女扱い。
普通の人間からしたら人智を超えた怪しい力を持つ連中なんて関わりたくない。
でも私はそうは思えない。
どんなに嫌われてもいいし、日常生活で実用性がなくても構わない。
とにかく並の芸能なんかよりよっぽど自分が誇りにできる特殊な力を持ちたい——といつも思っていた。
結局あれから一年たった。
私はもう身も心もボロボロだ。
たまに図書館などでネットに触れると、あれらの画像がネットから消える気配もない……。
もうそろそろ私の人生も終わりかもな、と思っている。その長くて辛い逃亡生活の終わりを告げる、いつかの暴漢たちの声。
「いたいた。さて淫乱ビッチの元美形子役タレントさん?お金はちゃんと返せよおい。」
もう逃げる気力もない…




