淀「その美貌で、パーフェクトで誰も彼も虜にしていく(ヒゾラの夢の中と同一時間)」
「新人アイドル・浅利淀を」
コウレ君のその一言で、私・浅利淀の思考は完全に停止した。
「……は?」
「芸名はヨトリちゃんでいいよな?」
「ヒゾラのライブまであと30分切ってるんですが、それまでにヒゾラさんが回復する見込みなんてないです。代役が必要ですよ」
ミンネさんも当然のように言ってくる。
ヒゾラちゃんは私との能力バトルの最中に過労で倒れ、今私たちの目の前のベッドで療養している。
「いや、待ってよ。私にアイドルの代役なんてできるわけないでしょ? そもそも本職のプロのアイドルのライブよ。素人が代役なんて無理に決まってるじゃん。大ブーイングよ絶対!」
その時、館内放送が流れる。
『急病でヒゾラが出られないため、急遽デビューする新人アイドル・ヨトリちゃんが代役を務めます!』
……とりあえずこの3人が本気なのはわかった。
「ここは大きな会場ですし、目の前に大型服飾品店もあります。衣装やメイクもありますし」
3人は至って本気らしい。
「そもそも私がどうやって場をつなぐのよ?ヒゾラちゃんの新曲の歌詞ぐらいは覚えてるけど」
「それなら尚更大丈夫だろ。淀は顔がいい。スタイルもいい。メイド服着てても映えるんだから、ステージ衣装ならなおさらだ。心配するな」
「心配するに決まってるでしょう! 歌はともかく振り付けは知らないし——」
他にもいろいろツッコミたいところは山ほどあるが、この際置いておく。
「……それもそうですよね」
「なら別にバックで誰かが振り付けやればいいだろ」
「でもこれ歌い手が中央なら両サイドで2人必要よ。どうするの?」
「一人はミンネでいいが、もう一人誰にすべきか。そこそこかわいい女の子でないとダメだろうが……」
「あっ、一人。適役がいますよ」
「いるな」
2人は一斉に、女装が似合う執事さんを見つめる。
「さあ誰でしょうね……僕はアギも適役だと思うんですが……」
「私に振り付けなんてできるわけないだろう。そもそもどこかの誰かさんに少し前に丸坊主にされたから、まだスポーツ刈り程度にしか髪も生えてないし」
「僕ちょっと小道具とか取ってきますね……!」
全力疾走でコウレ君は走り出すが——
「ミンネ、やれ!」
「はい!」
ミンネちゃんの能力でコウレ君は私たちの目の前に召喚される。
ピンクと白のフリルが大量についた、いかにもアイドルらしいドレスに着替えさせられた状態で。髪型も整えられ、メイクまで施されている。
「コウレ、この際覚悟を決めろ。な」
「とっても似合ってますよ」
「一ミリも嬉しくないです」
次は私とミンネさんの番だった。
私は黒基調に白のフリルが大量についたドレスに着替え、髪型も整えられ、メイクまで施される。
鏡に映った自分を見て、私は一瞬言葉を失った。
「……これ、本当に私?」
「うん。めちゃくちゃ可愛いぞ、淀」
アギちゃんが素直に褒めてくるのが、逆に怖かった。
すでにファンが詰めかけ、会場はざわめいている。
私はステージ袖で深呼吸をした。
「大丈夫。歌詞は覚えてる。振り付けはミンネさんとコウレ君がカバーしてくれる」
スポットライトが当たる。
私は一歩、ステージへ踏み出した。
最初の一音を歌い出した瞬間、会場がどよめいた。
「肝心のヒゾラちゃんは急病。代役聞いたことないアイドルでガッカリだったけど……」
「可愛い……!」
どうやらミンネさんとコウレ君のおかげで、センターが私とはいえ、ざわめきが一気に熱を帯びる。
隣でミンネさんと女装コウレ君が完璧な振り付けを決めている。
コウレ君は多分心は引きつっているが、ヒゾラちゃんと観客のためなら笑顔を絶やさないし、動きも精確だ。
ミンネさんは笑顔を崩さず、プロ並みのダンスを披露している。
観客の声援が爆発した。
歌詞はヒゾラちゃんの新曲そのままだ。
「空を超えて君に届くよ」——その部分で、私は本当に風に乗って少し高く舞い、手を差し伸べるポーズを取った。
会場が一体になって手を振る。
その時、なんとヒゾラちゃんがステージ上から乱入してきた。
私の隣に並ぶ。
「みんなお待たせ! このヨトリちゃんは私の目から見てもすごく将来有望な新人だけど、私だって負けてられないからね!」
私は本来の主役が復帰できたので、数歩下がろうとするが、ヒゾラちゃんに腕を掴まれて止められる。
「一緒に最後まで歌おう、ヨトリちゃん」
彼女は満面の笑みでそう言い、私の手を握った。
会場がさらに熱狂する中、私たちは並んでこの曲の最後のサビを歌い上げた。
——これが、サイキョーのアイドルと、急遽デビューした新アイドルの初共演ステージだった。




