ヒゾラ「金輪際現れない一番嫌なクズ両親(ヒゾラ過去編①)」
「えっ、私のギャラ全部親に渡しちゃったんですか!?」
「だって女子小学生がそんな大金持ってたらすぐ使っちゃうに決まってるでしょ」
私の名前はミバリ・ヒゾラ。
ここはかなり遅れた文明の星だけど、一応私は新進気鋭の美形子役タレントだ。
別に芸能稼業自体はあまり好きではない。小学校に通う時間までほぼ捨てて活動しているのは、親がろくに働かないクズニートなので、その代わりに私が稼いでいるからだ。
「あの二人にそんな大金渡したら、競馬・カジノ・パチンコのトリプル役満ですぐに使い切っちゃうに決まってるじゃないですか!」
今、私が問い詰めている相手はマネジャーだ。
「小学生の娘の大金をそんなことで使い切る親なんて、この世にいるわけないでしょ?」
「いなかったら私はとっくにこの業界の活動なんてやめてますよ。私の将来の夢はアビリスターの超能力者なんですから!」
「またそんなこと言って。貴女のタレントとしての才能は本物よ。こんな弱小事務所だからまだまだ途上だけど、なんであんな凶悪犯罪と非人道的な実験の殿堂みたいな町を夢見るのかわからないわ」
「とにかくあの親の居場所はどこですか?」
私はこの会話の間にも足踏みをしていた。
「どこ行ったかはわからないわよ。強いていえば『これで一稼ぎできる』とか……」
マネジャーが言い終わるより先に、私は事務所から超速で飛び出した。実家のボロアパートへ、全速力で走る。
一刻でも早く、あのバカ両親を止めなくてはならない。
50万を全部博打につぎ込んだら……。
家財や私の日用品まで売り捌いていたら……。
それすら溶かして、コンビニの買い物ついでのコーヒー感覚で反社関係の金融から借金してさらにギャンブルで溶かしていたら……。
私は絶対にファンやスポンサーには見せられないレベルの劣悪なアパートに駆け込む。
家の中は、もともと最小以下だった家財がすべてなくなっていた。
1週間近くほとんど睡眠を取れておらず身体はボロボロなのに、電気・ガス・水道は止められ、衣類もないのでシャワーを浴びることもパジャマで寝ることもできない。
あるのは怪しげな書類と手紙だけだった。
ウシジマ金融という怪しげな金融会社に、累計数億円の借金。返済期限は今日。
手紙にはこう書かれていた。
『ヒゾラちゃんごめんね〜 私達はヒゾラちゃんの50万をちょっと借りて増やそうとしたんだけど大穴当てちゃったテヘ。』
ごめんねとテヘで済んだら警察はいらないわ!
『前からお母さん達は夢のためにお金を増やすことに挑戦しましたがことごとく失敗し、家財やヒゾラちゃんの私物を売り捌いてしまったのでもうお金はありません。それどころか約数億円の借金があります。』
……ここに来る前の私の心配を、トリプル役満したところはある意味尊敬する。
『でも私たちにはまだ売れるものがあります。そうだ、ヒゾラちゃんの身体とか心とか人生とか尊厳とかを売ろう』
私の想像のさらに斜め下をいく二人だ……。
親として最低限の線すら、もう超えていた。
私が幼い頃から睡眠を削って稼ぎ、笑顔を作り、友達どころか学校もほとんど行けずに支えてきたのに。
その挙句「身体を売れ」だなんて。
落胆というより、空虚だった。
怒りすら、すぐに冷めてしまった。
その時、アパートに怪しげな物音が響く。
「おら。ミバリ夫妻の娘さんよ! ここに帰ってるのはわかってる!」
「金ちゃんと返せよおい」「どうせ無理だから美形子役タレントである娘さんの身体で稼いでもらいましょうかね」
声だけでも相当ガラの悪い男たちなのはわかる。階段の足音から恐らく数人いる。
私には空虚を感じる権利すら与えられていない現実を思い知らされる。
「小学生の娘におっさんの相手なんてもったいないだろ。どうせならAVに出てもらおうぜ。あの夫婦は娘さんの入浴や着替えの盗撮動画も大量に売ってくれたし、あれの周期とかまでまとめて送ってくれたぜ! いや〜気が利く両親だしネット社会様ってか」
私がこのアパートで入浴するときに感じていた妙な違和感は、これだったのか……。
私だってこれでもちゃんと年頃の女の子だ。
本来なら自分の尊厳を自分の快楽のために金に変える両親に対して激しく怒り、自分の身体がネットに晒され不特定多数に見られているという事実に涙を流すべきなのだろう。
でも私にはそんなことすら許されない。
今ここから逃げるために、アパートの窓を開け、排水管をつたって地面に向かう最中である私には……。
「まさか裏の窓から逃げたのか……」
向こうもそれに気づく。
私は全速力で借金取りとは正反対の方向へ逃げる。
自分のなけなしの所持金では、どこまで逃げられるのか……。
——なんで、昔の夢を。
はっきり言えば、思い出したくもない悪夢だ。私はさっき、新しいステップ9の浅利淀・サイスプリムとのバトル中に過労で倒れてしまった。
ここ数日はほぼ不眠不休だった。
彼女は本職の私すら初見なら新人アイドルと間違えるほどの美貌だ。正直私もタレント兼アイドルでなければ見惚れるか妬んでしまいそう。
でも今は彼女に対して素直に感謝している。
彼女とのバトル中だったからこそ、落ちたら即死レベルの高所も軽々と移動できるテレポーターなのに、ライブをすっぽかす程度で済んだのだから。ライブは既に中止が発表されているだろうから、恐らく会場にはもう誰もいないだろう。
だけど念のために覗いておく。でも、私がみたのは信じられない光景だった。
なんと淀がステージに立ち、私に負けず劣らず観客から声援を浴びている。……信じられる光景よね、うん。私は薄く目を開けたまま、力なく笑った。




