淀「彼女はサイキョーでテレポーターのアイドル」
私の名前は浅利淀。地球からこのアビリスターに留学した、ごく普通……いや、ステップ9という超能力者の頂点に立つ女子高生だ。
「はあ〜、淀、おはよう」
「おはようって、今もう11時だよ……」
「それが普段より数時間早く起きた人間に対して言うセリフか! 学校がある日は正午以降に起きるのがアギスタンダードだぞ!」
「いや、言うセリフだと思う、うん」
まあアギちゃんはいつもこんな調子だ。夏休みは厳しい寺修行に行くはずだったんだけど、結局いろいろあったらしく、10日ぐらいでイカレタヤカタに戻ってきた。
それから数日で当然のように自堕落な生活に戻り、寺修行の名残は丸坊主の頭だけである。外出時は帽子を被っているが、端正な長髪を取り戻す日も近そうだ。
「淀さん。この引きこもりお嬢様とミンネさん、そして僕といっしょに、とあるライブに行きませんか?」
「あの方ですね。私はもちろんいいですが。もしかして、あれですか?」
「ええ」
彼らはアギちゃんの執事のコウレ君と、メイドのミンネさんだ。
「ライブってどんな?」
「こいつだよ」
アギちゃんがテレビをつける。
画面に映ったのは、アビリスターの美形子役タレント、ミバリ・ヒゾラちゃん。
「コウレ君はヒゾラちゃんのファンなの?」
「ファンというか、なんというか……」
正直、コウレ君がそういうのに興味があるのが意外だった。
「まあ、お嬢様のちょっとしたご友人でして」
「へえ。流石セントカクラ家」
「淀さんは興味ありますか?」
「まあ人並みにはあるし、できるならぜひ御一緒させてもらおうかな」
「決まりですね」
しかしアギちゃんにしては珍しく、時計を確認する。
「ではもうそろそろ行かないとな」
「ライブまで時間、余らない?」
「ちょっと野暮用があってな」
連れてこられたのは、ライブ会場でも、その近くのショッピングモールでもなく、会場の側の裏山だった。そこで待っていたのは、なんとミバリ・ヒゾラちゃん本人である。
「久しぶりだな、ヒゾラ」
「ご無沙汰してます」
三人の様子から、どうやら別人の変装とかでもなさそうだ。
「ちょっとコウレ君。今日は新しいステップ9を連れてくる予定だったわよね?」
「え?」
どうやら話がわかっていないのは、私だけのらしい。
「私はコウレ君とのプライベートにまで、新人アイドルとのコラボや審査員とかやる気力はないんだけど」
彼女はプライベートではアギちゃんの友達だけあって、多少はっちゃけるタイプなのかもしれない。現職のタレントなのに、一般人に対してかなりのブラックジョークである。
「こいつが浅利淀。まさにその新しいステップ9のサイスプリムなんだが?」
「なるほどね」
そのとき、私は大木が空から降ってくるのに気づく。危ない!!私は反射的に避けつつ竜巻を起こして、木の落下の衝撃を無力化する。
上を見上げると、ヒゾラちゃんは大木の上から私を見下ろしていた。
「まさかこれ、ヒゾラちゃんがやったの?」
「これ回避できるなんて、本当にステップ9のようね」
「どう見てもステップ6の威力じゃないよね、これ」
ステップ6は日常生活で役立つ程度である。テレポーターは自分を移動させることができる時点でステップ7という扱いと聞いたことがある。それどころか、自分の体重の何倍にもなるだろう大木を軽々と移動させており、おそらくステップ8ぐらいはありそうだ。
「ステップ6というのは建前だけね。テレポーターって実用性がありすぎて、それがアイドルなんてやってたら関係者に危害が及ぶでしょ。真の能力は貴女とお揃いのステップ9よ。サイスプリムさん?」
「まさか私と勝負しろと?」
アギちゃんはようやく気づいた、という顔になる。
空中で舞う私を相手に、ヒゾラちゃんは何度もテレポートを繰り返す。そのたびに間合いを詰めてくるが、しばらくしたあたりから、明らかに息が上がり始めた。
「……っ、ちょっと待って」
次の瞬間、ヒゾラちゃんの足がもつれた。私は慌てて風で体を支え、倒れ込む彼女を受け止める。
「大丈夫ですか!?」
「……過労の症状ですよ、これ」
駆け寄ってきたコウレ君が、冷静に告げる。ヒゾラちゃんは薄く目を開けたまま、苦しそうに息をしていた。
「おい、あいつのライブまであと30分もないよな」
もしファンなら、本番土壇場でバックレるなんて、間違いなくショック半端ないと思う。
「でも大丈夫。一応、この場を繋ぐのはなんとかなるのでは?」
「えっ、代役のタレントさんでもいるの?」
まあセントカクラ家の財力とコネならなんとかなりそうだ。それが不幸中の幸い。
「そうですね。僕の目の前に、ちょうどうってつけの方がいますし」
「えっ、どこに?」
私は周囲を少し見渡す。ちょうどアギちゃんが、私のことをじっと見つめてるのに気づく。
「セントカクラ家の力で代理のタレントでも用意するの?」
「ああ、用意するさ。新人アイドル・浅利淀を」
衝撃の一言だった。




