アギお嬢様は長編終わりだとかっこよくなる
とあるアビリスターの星の外に来た俺たちは、この地に潜む幽霊に遭遇し、それを除霊することになった。
「なあ、アギ。こういう時ってまず何やればいいんだ?」
「知るか!」
「にしても、この景色すごく綺麗だな」
「それは本当だな。明るかったらより絶景なんだろうな。宇宙中を旅行した経験がある私でも、めったに見ないレベルだろう」
……とりあえずは、こんなたわいもない会話をするばかりである。
しかし実際、そんな余裕を感じていたことを後悔したのは、それから数秒とかからなかった。
「みーつけた。お客さんかな。今度は逃がさない……」
とりあえず、瞬時にその声の主が幽霊になっている娘なのを確信する。
「お前たち、いや下流の村のやつ全員、コロス……」
俺は本能的に自分の必殺技を放つ。
「ブレイカーストライク!!」
しかし、やつにはまったく効いていない。
「とりあえず距離を置くために一旦逃げるぞ! コウレやミンネはともかく、お前は息切れとか転ぶとか気にしてる余裕はないだろ!!」
「それはお前も同じだろうが」
まあ、それも正論だ……。
「ハァハァ……ったく、何をやっておるのだお前は。お前の能力は万物破壊だろ!」
「ハァハァ。確かに俺の能力は万物破壊だが、こいつは霊だから物どころか生物でも異能でもない。俺の能力の焦点が、あいつに届いてくれないのかも」
「じゃあどうすればいいのだ! 能力が効かないお前なんて、ポケットがない青い猫型ロボット以下だろうが!」
「漫画以外は射的も昼寝もあやとりもできないメガネの少年未満のお前に言われたくないわ!」
……この際、ここは未来の宇宙なのに地球の国民的漫画ネタをやっているのは置いといてほしい。
「そうだ。私の力であいつの能力を一時的にジャックする。その隙にグランクロスはどうだ」
「確かに妙案だが、止まったら殺されるぞ!!」
「一旦巻くしかないのか。もう私は限界に近いんだが……ハァハァハァ」
「俺もだ。ハァハァハァ」
その時だった。
「もうやめて」
声の主は、母親の幽霊だ。
「これ以上、関係ない人を巻き込まないで」
「ママ。何言ってるの? 私たちは死んだのに、こいつらはまだ生きてる。憎い憎い憎い」
「私だって憎い。だけど彼らはたまたま迷ってきただけなのに、ここの景色を感動してくれた。それだけでも私にとってはすごく嬉しかった」
母親の幽霊の説得で、少しずつだが怯んでいる。もう少し様子を見よう。
「このまま彼らを殺してしまったら、ここにどんなレッテルが貼られるかわからないわよ。しかも一応この二人は、アビリスターでの最強の超能力者とその元妻で、大物魔法師の跡取り娘の有名な漫画家という有名人二人よ」
「……」
「ここの景色と自然は、私たち家族が愛し、誇りにしてきたものよ!」
「……ああ、そうだ。私は大好きな自然と景色に泥を塗ろうとしてた。うわああん」
「今だ、お祓いして!」
「言われなくても!」
アギは自分の魔力を、こいつなりに全集中させて幽霊を押さえつける。身体はかなり無理をしているが、アギの能力での拘束が効いている今なら、俺の能力が通用しそうだ。
「ロル……やれ」
「わかってる」
俺は能力を展開する。掌に淡い光が集中し、やがて巨大な十字のエネルギー体——グランクロスが形成される。
「マスターグランクロス!」
アギのパワー殺しで弱体化した怨念に、俺のグランクロスが直撃する。激しい光が森を照らし、血の手痕も、見えない壁も、一気に弾け飛んだ。
「ありがとう」
娘も母の手を取り、二人は光の粒子となって消えていった。周囲の空気が、急に軽くなる。
スマホの電波も普通に繋がるようになっていた。
「……終わったな」
「さて、お前は寺に戻ろうか?」
「おい、そこは普通に考えて除霊に貢献した私を褒めるところだろうが!」
「はいはい。えらいですね、アギお嬢様。ほら、帰りましょう」
「いえ、帰るのは寺じゃなくてイカレタヤカタですよ」
後ろを見ると、コウレとミンネがそこにいた。
「やっぱりお前たちもちゃんと探してたんだな。……ってか、寺修行は取りやめか?」
俺は苦笑する。
「結局お嬢様は、寺では手に負えないという結論になりました」
「ようやく地獄から帰れるぞ。これも私の日頃の行い故だな」
「……」
呆れ顔になるミンネと、苦笑する俺。
「まったく、少しはいろいろ反省していただけませんか」
「まあ寺ほどは無理ですが、少なくとも夏休み中は厳しくお嬢様の私生活を管理させていただきます」
「まったく、私はものすごく真面目に堕落したいだけなのに」
「ニートの鏡だな」
俺は空を見上げた。幽霊がいなくなった森は、ただ静かに、いつもの夜を取り戻していた。
俺は、改めて周囲の景色を見回した。夜の森。滝の音。遠くに見える山の稜線。ホタルが浮かぶ川面。さっきまで幽霊に追われて必死だった場所が、今はただ静かに、美しくそこにある。母と娘が守りたかった景色。
廃れていくのを見たくないあまりに、命まで捨ててしまった景色。
お祓いする寸前で母親のみならず娘もどこか笑っていた。
あの親子は静かに闇に消えていった。
最後まで自分と愛する家族の当たり前の棲家を愛しそれを最後まで愛した家族。自分と真っ当に相思相愛な家族と居場所があるのは幸せだなと思いながらいつものワガママお嬢様と兄姉のような使用人を見つめる。
「ということがあったんだ。嘘みたいだが本当のことだぞ一応。それと行ってみて思ったんだが。あそこは観光地として価値あるぞ!」
「でもあんなことあったんだから危険では。」
「大丈夫だ。俺とアギが保証する。」
「まあオクスタン高のハイキングコースぐらいにはなるかゲンヨ先生に言っておけ」




