一発屋のホラー回だけど伸びたら本名設定します
「なんでお母さんが……誰がこんなことを……」
失踪から数日後、滝の下流で見つかった母親の溺死体に縋りながら、娘は泣いた。警察からはこう告げられた。
「我々は他殺の線も追っています。しかし奥様が一人で、貴方方の自宅の鍵付きの物置から持ち出したと思われる大きな砂袋などを運んでいる目撃証言などから、自殺の可能性が高いと考えています」
「……そうですか」
……あいつは、そんなにここが好きだったのか。
その後、当時の技術ではあるがDNA鑑定や、母が一人で飛び降りる人影を見たという目撃証言などからも、母を殺したのは母本人だと確認された。当然、父親はその動機もわかりきっている。だが娘は当時一番多感な時期だ。当分その真相は伏せることにした。
しかしさらに父親に、また悪い報せが入る。
「私たちへの移転先補償はないんですか?」
それは村のお偉いさんからの電話だった。
「そうですか。……まあ、あんなことがありましたからね。お偉さんの方々が激怒するのももっともです。はい……」
父親は自分と娘が路頭に迷うこともわかりきっていたが、新道建設に協力しやがて新道は完成した。
全ての真相は、父親が思っているよりはるかに早く、最悪な形で娘も気づくことになる。
「私、聞いたよ。旧道が廃止になって、この宿どころか村ごとなくなるんでしょ? それを知ったからお母さんも自殺したんでしょ」
「……」
口調からして、娘が既に自分がかなり前から旧道廃止のことを知っているのも、母親の自殺の動機がそれだと気づいているのも、父親は確信していた。だからこそ余計に、苦し紛れに「今気づいた」ような素振りを出そうとする。
「なんでそもそもパパは新道建設なんかに協力したの?」
「……わかってくれ。今の世の中、この星には新道が必要なんだ」
「これから私たちはどうなるの? 他の友達と同じように新しいところに引っ越すの?」
「いや。私たちにそんな保障はない。お母さんが自殺したせいで警察の介入を招いて、自分たちのイメージにまで傷がついたと、村のお偉いさんはカンカンらしい」
「じゃあ私たちはどうなるの? 単にここを奪われて、一方的に立ち退けってこと?」
「……」
「どうやって生活するの? 都会に出ても、パパに学歴とかないでしょ?」
「……それは」
もともと街道を通る通行人の宿代以外は基本自給自足の寒村の家族だ。宿代がなくなり町を追い出された後、どういう末路になるのかわからない年齢ではなかった。
「お母さんが死んだのは、全部新道のせいだ……。お父さんが賛成したせいだ……」
小さな体で何度も何度も同じ言葉を繰り返し、やがてそれは狂気へと変わっていく。ある夜、娘は台所から包丁を持ち出した。
「お母さんを返して……返してよっ!」
「おい、なにをする! やめろ!」
父親は抵抗する間もなく刺された。血の匂いを嗅いだ近隣の住民が駆けつけるも、既に手遅れだった。娘はさらに数人の関係者にも刃を向け、結果として複数の命を奪った。娘はその後数週間逃亡の末に逮捕され、拷問の末に処刑された。
裁判で死刑を宣告され、当時としては異例の速さで刑が執行された。
こうして母と娘は、揃ってこの地に囚われることになった。
「私はただ、この景色が廃れるのを見たくなかっただけなのに……。娘を巻き込んでしまった」
母の幽霊は虚ろな目で言った。
「……そういうことだったのか」
気を取り戻した俺たちは、血の手痕が薄れゆく中で、母の幽霊から話を聞いていた。
「これが旧道で起きたことです。あの子に気づかれる前の全ての事情を話しました。彼女は今でもこの辺りの悪霊として、寂しげに生きている人を見つけては殺しています。ここにいるのは危険です。私があの子の視線を逸らしているうちに逃げてください。あの子は暴走しています」
「俺は特別工務隊の人間なんだ。それに俺はこれでも、アビリスターに12人しかいないステップ9のマスターブレイカーなんだ。一応理論上は万物破壊だ。ここまで聞いたなら尚更、手ぶらで帰るわけにはいかない。アギは返してやれ」
「私も残るぞ。私の能力は一応パワー殺しだからな」
「はっ?」
「もし除霊に成功したら、あの寺でもう修行しなくて済むかもしれないだろ?」こういう時になるとこいつは妙にカッコよくなる。
その源が例えニート気質由来であっても。
「足手まといにならなければ、好きにしろ」




