pixivでもアダルト小説あげてますのでよろしく。このタイトルはいつか変更予定
「……マジで出られないのか」
「こんなの、ありなのか……。寺から逃げ出しただけなのに、なんでこんな目に」
「誰かさんが寺修行から逃げようとしなければ、こんなことに巻き込まれずに済んだのに」
「うるさい! コウレとミンネがあそこであんなことしてるのが悪いのだ!」
……まあ、こいつが自分の勘違いに気づくことはなさそうである。
こういう時はまず状況を整理すべきなのだろう。ここはそこそここのあたりでも高台で、周辺の景観自体はかなりいい。都会の展望台みたいにライトなどが幻想的な風景を構成しているわけではない。純粋に周囲の山岳や滝、川にホタルなどの昆虫がアクセントになり、いかにも田舎らしい絶景を形作っている。
その時、アギがなにかに気づいた顔になる。
「お前は誰だ! 明らかに体が血塗れだが、なにかあったのか?」
「アギ。お前は誰と話してるんだ?」
「はあ。お前は見えないのか? 30代半ばぐらいの血塗れの女を! 今まさに『貴方たちは誰?』と聞いてきたんだが?」
そういえばこいつの魔術は「パワー殺し」。相手から異能力のエネルギーを奪ったり、それを自分が使って攻撃することができる。ただし操縦性などは極めて低く、本人の身体能力の低さも相まって、戦闘では基本一般人以下だ。
しかし数少ない取り柄として、相手が幽霊などでも「その力を取り込むこと」はできなくても、「エネルギーなどを通じて見たり聞いたりすること」はできるという点がある。
その時、あたり一面に突然の血の手痕が広がった。
「うわあっ……!」
俺は当然、激しい生理的な嫌悪感と生命の危機を感じ取る。
しかしそれ以上に、アギが苦しそうに頭を押さえながら座り込んでいるのがわかる。
「頭が割れるし、呼吸もできない……」
その瞬間、俺の脳にも激痛が走り、そのまま俺たちは数分間、気を失った。
それは今から数十年前。
この星が宇宙文明と開国する前の時代。
当時この星はまだ馬車や人力車が主役で、土木技術も未発達だった。山を避けたり、できる限り短い距離のトンネルや橋を建設するのが精一杯の時代である。
旧道の宿場町で、活気に溢れた旅館を切り盛りする若い夫婦がいた。
彼ら二人の間に新しい命が誕生したのは、まだ宇宙文明の影も形もない、旧道の全盛期といえる時期だった。
「おぎゃー」
「よしよし、僕がパパだよ」
「私、この子が大きくなるの楽しみだわ」
そこには決して裕福ではないが、一つの幸せな家庭があった。
「パパ! ママ! この景色すごく綺麗だね!」
「そうだね。この景色は私とパパにとっても誇りだもの」
「パパ、すごい疲れてそうだけど大丈夫?」
「昨日も夜遅くまで仕事だったからね」
「へえ。仕事って大変なんだね」
娘が小学校低学年の頃、星全体が宇宙文明と開国した。
娘は激動の時代の中で思春期を迎えることになる。
「お前たち、喜べ! ついに新技術の元でこのあたりも大きく生まれ変わるぞ」
「すごい。それならどんどん宿のお客さんも増えていくよね」
ここが、この一家が幸せから暗闇に堕ちていく転換期だった。
転機が訪れたのは、その数ヶ月後だった。
「残念な知らせだ。調査しているうちに、今の道路をそのまま拡張するのは無理があるらしい。別に新道を一から建設するんだとさ」
宇宙文明との開国によって、それ以前では考えられない新技術がもたらされ、土木技術も急上昇した。新しく建設される新道は、まだ宇宙的に通用する近代国家としては黎明期だったため、費用や工数を削るためにある程度のカーブはある。それでも旧道に比べたら、所要時間などは雲泥の差だった。
「そうなの。つまりここは旧道になるってことよね。ここが廃れなければいいんだけど」
「新道は歩道と大型の自動車も走れる道路が併設されて、すぐ隣には宇宙空港などに行く鉄道も通るらしい。俺も建設に参加することにした」
「今の道路は一部がなくなるんだよね。でもここは残るよね、貴方!」
「……言いにくいんだが、旧道、つまり今の道路は全て廃道になる。というより、村そのものがなくなるらしい。俺たちも引っ越せ、だとよ」
「……なんで」
「もともと宿場町ってことに依存した地域だから、その役割がなくなると採算が合わないんだそうだ。すでに俺の知り合いや近所の人も引っ越す準備を始めてるやつがいる。あの子の学校でも最近よく『誰々が転校した』って話を聞くだろ?」
旧道は宿場町やその関係者の生活区域でもあり、新道建設時の計画上ではほとんどが残される予定だった。しかし、もともと旧道が通っていること以外は何の変哲もない寒村地帯であり、宿場町もほとんどが廃業するなど、維持の費用対効果の問題で村そのものが廃村になるのが確定した。
「でも交通は大幅に便利になるんだぞ!」
「この宿も、この景色も、全てが無くなるなんて嫌だ嫌だ! 私たち家族の人生そのものを捨て去るってことよ!」
「……わかってくれ。今の世の中には新道が必要なんだ」
そう言うと、妻は黙って悲しみにくれた顔で夫の前を去っていった。
「ここが廃れていく姿なんて見たくない。綺麗なうちに、いっそ……」
妻がこの近くにある滝に錘をつけて身を投げたのは、その夜だった。
妻の亡骸が発見されたのは、それから数日とかからなかった。




