ただのお寺には興味ありません。このなかに監獄、地獄、矯正所、刑務所の2つ名を持つ寺があったら我儘お嬢様を預かりなさい
今日はオクスタン高の夏休みが始まってから数日。
俺とコウレ、ミンネは改めて、夏休みの前日から寺で修行中のアギに面会に行った。
「そろそろ修行には慣れましたか、お嬢様?」
丸坊主姿のアギは、暴れないように腰にロープを巻かれ、それを尼僧がしっかり掴んでいる。
まあ刑事ドラマで犯人と面会するときとかに見る、あれだ。
「流石厳しいお寺です。ちゃんと風呂で青い頭を維持してくれるんですね」
まあ、暴れないように固定するだけでも一苦労だろう。尼僧さんたちには感謝しかない。
「こんな頭、恥ずかしいではないか! せっかくの完璧美少女アギが台無しだぞ、これは!」
「まあ、新学期向けにちゃんとカツラを用意しておきますから、ご安心くださいね、修行尼僧さん」
「どこをどう安心しろというんだ。本当に夏休み中、毎日毎日こんな非人道的な生活をしろというのか……! アニメもゲームもSNSも絶って、引きこもりどころか毎日休む暇もなく坐禅に滝修行、念仏に農作業、寺の雑用。娯楽もつまらないテレビだけ。せっかくの夏休みなのだぞ!本当にこんな生活を2カ月近く続けろというのか!」
「もちの論です」
「鬼、悪魔、(ピー)、(ピー)、(ピー)……!」この作品を公開停止にしないためにピー音付きなのを許してね。
「だってどうせ寺に入れなかったら、どうしようもない生活しかしないでしょ」
「そんなことないやい! 朝14時に起床、20時までお菓子食べながら全12話のアニメを一気見、翌朝4時までゲーム、以降も漫画を一気見という人道的なスケジュールが全部水の泡なんだぞ!」
……それを世間一般では「どうしようもない生活」という。
「それは人道的なスケジュールではありません。ダメ人道的なスケジュールです」
「……なあ、せめてゲーム機とか差し入れしてくれよな」
「ダメです。真面目に修行してください」
「言っておくが、寺は自然の要害だからな。お前の身体能力じゃ逃げ出すのはまず無理だろう。お前どころか、恐らくその道の物好きかプロでもない限り、話にならないレベルだ」
まあ、実際これは本当のことだ。
こないだ俺は近くのネトカフェに泊まって、寺の周辺も散策してみた。寺の内部は尼僧たちが厳重に管理しているし、その目を盗んで出れても、断崖絶壁やまともに歩くのも一苦労な急坂、さらに湖に囲まれている。
「くれぐれもふざけたことは考えず、諦めて真面目に修行してください。まあ僕やミンネさんは、どこかの誰かさんがいないおかげで少しは羽を伸ばせそうですが」
「とりあえず私たちはもう帰ります。いつもはどこかの誰かさんの起こすトラブルのせいで、ろくに勉強もできないですし」
そのどこかの誰かさんは、意味がわからない振りをする。
ここぞとばかりに、割と辛辣な一面を曝け出す苦労人執事と、しっかり者のメイドである。
俺たちの住処である、ガラクタヤカタの夏休みのありふれた夜。
俺と淀はボードゲームに興じていた。ガラクタヤカタは俺たち数人の住居で、当然俺以外にも淀やピラーセルなども入居している。
いずれもしっかり者だ。部屋の掃除も普通に自主的にやるし、学力や身体能力も少なくとも俺よりは上だ。……いっとくが、俺はアギよりはマシだ。これだけは断言できる。
「ちょっと相談なんですけど、ロルさん、淀さん、いいですか?」
「相談?」
「いまちょうど屋敷の片付け終わったんですけど、このあと何すればいいんでしょうか?」「……いつもはアギに勉強やらせてる時間だよな。適当にスマホでも見て暇つぶしてろ」
「……スマホで何すればいいんでしょうか?」
「配信アニメとか?」
「ですよね、淀さん。アギ、今おすすめのアニメってなんでしょうか?」
「アギちゃん、寺修行中よね?」
コウレは一瞬、何かを悟ったような顔を見せた。
「あ〜、そうでした、そうでした」
「じゃあこのボードゲームでもやるか?」
「あの、それはちょっと……正直ロルさん相手だと簡単すぎるというか……」
……悔しいが、その通りだ。
「だったら私とやる?コウレ君」
「そうですね。少なくともロルさんよりは強そうですし」
……悔しいが、これもその通りだ。コウレは笑いながら淀とボードゲームに興じる。
わりと名勝負だった。
しかしコウレは、まだどこか心が落ち着いていない感じだった。その夜、ガラクタヤカタの居間は比較的静かだった。




