ロル「残暑が残るうちに寺を舞台にしたホラー長編第一話を」
俺の名前はフランル・ロル。
高校生であり、超能力の星アビリスターでも最強ランクの能力者・ステップ9の一人だ。
「お嬢様、そろそろ学校の時間ですよ」
「まだ朝の7時じゃないか。非常識な時間に起こすな」
いつも通り布団に立てこもる引きこもりお嬢様、セントカクラ・アギと、そのメイドのフランル・ミンネ。
一応、俺の元妻と異母姉でもある。
「非常識なのは、コウレ君か私が起こさないと正午過ぎに起床するお嬢様の方でしょう」
「今日はこもって『スーバイFAMILY』一気見する。どうせあと一週間ほどで夏休みなんだ」
「一週間なら尚更、我慢してくださいよ」
まあ……この館の風物詩、ってやつだな。
「二人共、ちょっと耳を貸してください」
聞き慣れた中性的な声の主は、アギの執事・ケンリュウ・コウレだ。
「突然ですが、アギをこの夏休み、完獄尼寺というところに預けようと思います」
夏休み約一週間前にして、寝耳に水な一言だった。
「えっ、お嬢様を寺修行に!? それに完獄尼寺って、アビリスター近くの星にある仏教の名門で、並の刑務所や少年院よりはるかに厳しいことで有名な……」
読者の皆さんはくれぐれもすげ~丁寧な説明だなとか地球の外の星なのになんで仏教があるのかとか、なんで漢字が使われてる名称なんだとかそういう野暮なツッコミはしないように
「そういうところに預けないと、あの子は治らないでしょうから」
正論だからこそ、コウレが本気で言っているという現実を、ミンネが受け入れ始める。
「……ちなみに、修行期間はいつからいつまでなんだ?」
「一学期終了した日の夜から、二学期始業式の前日までです」
「尼寺というからには、髪はどうするんですか?」
「有髪でもいいらしいですが、気を引き締めるためにも剃髪していただきます。その場合、修行が終わるまで毎日剃り上げてもらえるようですよ」
「いくらなんでも、夏休み丸潰しで丸坊主の寺修行なんて、あんまりですよ!」
怠惰なクズニートのあいつにとっては、明らかに拷問だろう。
「明らかにそれを上回る日数、学校サボってるのに?」
「……それもそうだな」
「お嬢様だって一応、年頃の女の子なんですよ! 人生で数えるほどしかないJK時代の夏休みですから、それらしい青春を味合わせてあげましょうよ!」
「具体的にどんな? そもそも漫画なんですから、JK時代の夏休みなんて60回ぐらい来てもおかしくありませんし」
「唐突なメタ発言は、とりあえず置いておくか……」
未来の宇宙の話なのにスーバイFAMILYなんて明らかに2020年代の地球の有名漫画のパロなものがある時点で時間の流れを気にするのはナンセンスであろう
「それはもちろん、朝早く(正午過ぎ)に起きて部活の朝練などの課外活動(ゲーム内)や、様々なスポーツで記録を作ったり(飲まず食わず風呂にも入らず漫画やアニメ視聴記録、連続昼寝時間最高記録など)、彼氏を作ったり(二次元)、友達と旅行したり(レイリーといっしょに迷う、ゲンヨにかなりの人の年収分ぐらい奢らせられるなど)、普通に遊んだり(コウレの隠し撮り映像に勝手なアテレコなど)……」
()の中に入っているのは、俺とミンネ、コウレが同時に思い浮かべた脳内映像である。
言っておくが、俺の能力に人の心を読む機能はない。
それでもミンネやコウレの顔を見れば、考えていることが同じなのはわかる。
「味わってどうするんですか?」
「ですが……」
「それ以外にあの子を更生させる方法があるなら、ぜひ聞きたいですね」
少なくとも俺にはわからないし、わかる必要もないだろう。
「……ちなみに、お嬢様にはなんと?」
「もちろんまだ内緒ですよ。ただ、そのままではお寺の方に迷惑でしょうから、お二人には剃髪と法衣への着替えを手伝ってもらおうかと」
「そんなの、寝ている隙にやれよ」
「俗世から決別していくところを直に味合わせた方が、少しはやる気を出すでしょう」
まあ、そうでもしないと、自分の本能的な興味以外でこいつがやる気を出すことはないからな。
「……まあ、私の気が進まないことだけは覚えておいてください」
数日後。
夏休み前のレクリエーションで、オクスタン高の周辺を散策することになった。
ミニハイキング、あるいは遠足というやつだ。
クラス混ぜこぜの交流イベントなので、当然のように俺とミンネはアギとは別グループ。
絶対に歩きたくない引きこもりクイーンのアギは、もちろん仮病を使った。
だがミンネとコウレは0.1秒未満で嘘を見破り、引率のゲンヨ先生に引き渡した。
「さて、今日のレクリエーションは楽しかったです」
「まあ、俺もいい気分転換にはなったな」
「遅かったな、ミンネ、ロル」
「お嬢様の班が早かったんですね。ちなみにレクリエーションはどうでしたか?」
「楽しかったぞ」
「では一体、どこで何を経験しましたか?」
コウレが口を挟む。
「それは忘れちゃったぞ、テヘ。でもゲンヨ先生に聞けばわかるだろ」
「さっき先生から、参加されている時のお嬢様がどういうふうに過ごしたか、直接聞かされましたよ。でもアギがすぐに忘れるって、ちょっと変ですね」
「コウレ君。家の食卓から来客向けの高級酒瓶がなくなっていることに、答えがありそうですよ」
「それに屋敷のアギの自室は、捨てたてホヤホヤのスナック菓子の袋や読みかけの漫画など、明らかにほんの数分前まで誰かが過ごしていた痕跡があるんだが」
「ギクっ」
ヘビに睨まれたカエルのような顔になるアギ。
まあ、こうなるんじゃないかと予想はついていたが。
「まさかゲンヨ先生を買収してアリバイを作り、ずっと屋敷にこもっていたんですか?」「ギクギクギクッ」
アギの顔はさらに青ざめる。
「図星のようですね。だからいつも言ってるでしょう、ミンネさん。アギを甘やかしちゃダメだって。まあ本来なら明後日からでしたが、今日の夜からということで。ではアギ、お風呂に来てくださいますか?」
剃髪させる日を、前倒しするようだ。




