添い寝を最大値までアレなシュチュエーションにしてみた
旅館の同じ布団にコウレがいるという状態に、私の心拍数はどうしても上がってしまう。
広い布団で距離的には遠くても、彼を意識してしまう。
二人で旅館に泊まって、夜に散歩して、素っ裸で混浴して、寝るのも同じ布団。
それだけ聞いたら、ただのカップル同士の旅行にしか見えないだろう。
なのに彼の中では、私は「心配で仕方がない対象」でしかない。それがとにかくやるせない。
胸の奥が、じわりと重くなる。
「…くだらないことは考えず、とっとと眠ろう」
と思ったが、隣にはコウレが天使のような顔で寝息を立てている。穏やかな横顔が、やけに近く感じられて仕方ない。
…今夜は身体は眠れるけれど、心は寝不足になりそうだ。
「まあ…私が反対側を向けば、寝るのは問題ないはずだ…うん」
それでも寝息は当然聞こえる。むしろ顔を合わせて寝るときよりも、妙な緊張が背筋を走る。
息を潜めるようにして、自分の鼓動を抑えようとする。では耳栓でもしようかと思ったけれど、もしかしたらコウレの寝言を聞けるのではないか、という考えがふと浮かんでしまった。
コウレだってこれでも思春期の男子だ。
いくら自分がねずみを怖がったからとはいえ、せっかくの執事の仕事をお休みした上での旅行だ。
ミンネや淀あたりとエッチな妄想ぐらいしている可能性もある。正直、愛する人が私以外の女とそういう妄想なんて、夢でも嫌だ。
嫌だからこそ、尚更この際、寝言が聞ける限りは聞いてみたい――そんな自分が、少し卑しくも思えたがその背徳感も含めてなぜか気持ちいい。
結局、顔をコウレ側に向けた。物理的な距離はあるし、中途半端に視線を逸らせばいいはずなのに、そのわりとかわいい寝顔を見ると、寝るのにまったく集中できない。
身体が重くなるどころか、余計に冴えていく。
しょうがない。原稿でも書くか。しかしこんなときに限ってすぐに描き終わってしまうし、結局眠くなってしまうのが皮肉なものだ。
「普通にゲームでもやるか」
と思ったけれど、やっぱりこの際、添い寝してみたい衝動に駆られてしまう。
なんて迷惑なヤツなんだ!
心のどこかで自分を責めながらも、体はもう動いてしまっている。まあたまには顔を合わせながら寝るのも悪くはないだろう! うん。
でもどうせなら、もっと近くに近寄ってみたい!
別に私がラッキースケベ的な出来事に遭遇したいとかじゃない。これでも漫画家なので、こういうシチュエーションも一度ぐらい経験したほうが、自分の作品に役立つというだけだ!
……そう自分に言い聞かせる。一度近くによるともう、物理的ではなく感情的に離れられなくなってしまう。
「かわいい…」
小さく呟いてしまった声が、自分の耳にだけ響く。自分の心が許す限界まで近づいてみたい。
そんなことを考えていた矢先――。
「…アギ、そんなところいってはダメですってば」
私の背中に、コウレの手が回る。
そしてコウレの顔に、私の顔が引き寄せられる。
なんなんだ、この非常事態は! 頭の中が真っ白になり、心臓が喉元まで跳ね上がる。
もちろん、よくできた寝相と寝言なのはわかっている。
私の力でもすぐに抜け出せるのもわかっている。
だからこそ、この時間を――少しだけでも、楽しんでみたい‼︎
そんなことを考えている間に、コウレの腕は私の背中から頭の後ろに移動した。そして私とコウレの体は、完全に密着する……。
「……」
コウレの寝息どころか、体温もより濃密に感じることができる。肌越しに伝わる熱が、浴衣の薄い生地を通して直接染み込んでくるようだ。
自転車の相乗りなどで身体が密着するのなんて今更だけれど、旅館でお互い浴衣という環境で、二人っきりの寝室というシチュエーションは、まったく別物だった。
ちなみにどうせ帰るときにはここまで着ていた普段着に着替えるので、少なくとも私は下着をつけていない。
その事実が、今さらのように意識に刺さる。結局この一晩は、ほぼ一睡もできなかった……。
早朝、コウレが起きる直前に彼の腕からそっと抜け出し、朝食までの数時間、ようやく浅く眠れた程度である。彼の身体の感触が残ったまま、体がまだ少し熱い。
イカレタヤカタの屋敷に戻るのは、コウレの自転車のスピードならさほど時間はかからない。
「ふあああ〜」
「また夜更かししてたんですか?」
誰のせいだと思ってる‼︎ と言いたくなったが、もし今日の経験を正直に話したら、今後二度とそういうことがないように本人は厳戒体制になるだろう。
そんなの、嫌だ。絶対に嫌だ。
ちなみに淀、ロル、レイリーの三人でのサイクリングは当人たちも満足っぽかったし、从前の屋敷での家事はミンネが卒なくこなしていたらしい。
明日からは、昨日私の心拍数が何度も急上昇したとは思えない日常が帰ってくるのだろう。
寝不足の私が夜更かしして起きるのが、正午過ぎになる以外は……。それでも、布団の中で感じた彼の身体がまだ肌に残っているような気がしてならなかった。




