混浴回がエロくない唯一の方法は本音を言い合うシリアス回説
私とコウレが今日泊まる旅館は和風で、坂道の上にあった。
正直、期待していたよりかなり貧相な旅館だ。それでも部屋はわりと広く、食っちゃ寝しながらゲームをやるには悪くない環境なのかもしれない。
外はもうすでに、暗いに近い「薄暗い」である。空の色が沈みきる前の、少し寂しい青紫が残っている。
しかしコウレは私からスマホを取り上げた。
「アギ。こういう時ぐらい、旅館やその周辺を探索しましょう」
……まあ、コウレと夜に二人っきりで散歩する、というのが案外悪くない気がする。
ふと「デート」という言葉が頭をよぎり、自分の心拍数が明らかに上がっているのに気づいて、慌てて視線を逸らした。
「まあ、たまにだし……同行してやってもいいぞ。うん」
私たちは旅館の周辺を散策した。
周囲は自然一点張りではなく、土産物店や、周辺の住民の生活の要となっているだろうコンビニなども多く、それなりに人混みがある。
「なあ、コウレ……」
「なんですか、アギ?」
「周りからすれば、私とお前ってどう見えるんだろうか……」
カップルに見えている自覚はあるのだろうか。そう思った瞬間、胸の奥がくすぐったいようで、同時に怖くもあった。
「小学生ぐらいの妹と、それに付き合う高校生ぐらいのお兄さん、以外に何かあるんでしょうか?」
私はコウレの手をきつく握り、指の関節を痛めるほど力を込めた。
「痛い痛い痛い。なんでここで爪を立てて手を攻撃するんですか…」
「聞いた私がバカだった……」
疑問形の顔になるところが、尚更不本意だ。心のどこかで期待していた自分を情けなく思う。
時間こそ多分一時間も経っていないのだろうが、坂が多い道を長距離歩いたせいで、お互いかなり汗をかいてしまった。服が身体にに張り付く感触が、生々しく気持ち悪い。
「そろそろ戻って入浴しますか。あと二時間ぐらいで夕食ですし」
「そういえば、着替え持ってきてるのか?」
「温泉に入りながら洗濯もできるそうですよ」
温泉自体は露天風呂であり、幸いにも時期が時期なだけに、私の貸し切りだった。
湯気の向こうに広がる夜景が、思ったより綺麗だった。
「夜景きれいだな。いい作品描けそうだ」
「ならよかったです」
声のするほうを向くと――なんと、コウレがいる。
瞬間、頭が真っ白になった。
「なにをやってるのだ、お前は! ここをどこだかわかっておるのか! いくらお前が傍目から見て女性でも通る容姿と体型とはいっても……!」
私は自分の体を必死に隠しつつ、コウレにお湯をぶっかける。熱い湯しぶきが肌に当たる感触さえ、今はあまり感じられない。羞恥で耳まで熱い。
「混浴ですよ、ここは」
確かに後ろを振り向くと、脱衣所は二つある……。脱衣所だけ男女別の混浴風呂のようだ。
「……確かにそうみたいだな」
どうしよう。タオルもまったく巻いていない。
お湯が半透明なのが不幸中の幸いだが、注意深く見れば私の身体の全体を観察できるだろう。私は湯の中で小さくなって、視線を泳がせた。
「大丈夫ですよ。僕はアギの身体で変な感情なんて湧きませんから」
……本当なら今すぐ一発吹き飛ばしたいが、それだと完全に私の身体が見えてしまう。必死にこらえる。
「お前はミンネや淀などが相手でも、こういう感じなのか? 純粋に女性に興味ないのか?」
胸の奥で、何かがじわりと冷えていくのを感じていた。
「僕だって一応、年頃の男子ですよ。ミンネさんや淀さんと混浴なら、間違いなく興奮してしまうと思いますよ」
「あのなあ、コウレ。私だってもう既に、子供産めるんだぞ……」
自分の思春期の体の変化まで口にして声が少し掠れた。自分でも驚くほど、弱々しい。
「なにが言いたいのでしょうか?」
「もういい」
聞くだけ無駄そうだ。本当の意味でタオルを巻いている下半身を見ても、それらしい反応はない。
正直、混浴していることより、自分がまったくコウレから異性として認識されていないという事実に、深くショックを受けてしまう。湯気の中で顔がさらに熱くなりそうになるのを、瞬きで誤魔化す。
「コウレ。お前は私のことを、どう思ってるんだ?」
「なんですか、藪から棒に。もちろん仕える相手ですよ」
「それ以外に、なにかないのか?」
「強いて言えば、家族でしょうか?」
「お前の家族は、あのアル中ブラック教師とケンリュウ夫妻だろ? まあ、子供時代のほとんどを生き別れて過ごした姉と、その養父母に合わせて苗字を変えても、やっぱり家族は無理があるよな……」
コウレと姉のゲンヨ先生の実の両親は、二人が幼い頃に悪質な事故を起こし、巨額の賠償金だけ残して失踪したらしい。ゲンヨ先生と生まれて間もないコウレも引き離された。
その後ゲンヨ先生のほうはケンリュウ夫妻の養女となった。
コウレのほうはセントカクラ家に引き取られ、執事となり、幼少の頃からまともな親としての意欲と能力は皆無な私の実の両親のかわりに、私を育てた。
「いいえ。今の戸籍上のお父さんとお母さん、そしてお姉ちゃんも、僕は大好きですよ」
「なのに、私も家族なのか……」
「ちょっと違いますね。アギは仕える相手であり、家族であり、そして……」
少しは私のことを異性として認識し始めたのでは、と思い、唾を飲む。喉が渇いている。期待と不安が同時に胸を締め付けた。




