アギ「音痴・飯不味・スタイル・混浴?」
私の名前はセントカクラ・アギ。見てわかる通り、この女装大好きで迷子が欠点の執事コウレを、大型森林公園に連れ出す大人っぽい万能美少女だ。
「初見の方、この大嘘の自己紹介を信じないでください!」
「なにを言ってるのかまったくわからないのだが(笑)」
しかし公園にしてはかなり規模がデカい。子供向けのアスレチックランドはもちろん、子供向けではあるがジェットコースターなどもあり、「公園」というよりは「遊園地」に近い。
「おっ、カラオケコーナーがあるじゃないか。どうやら著名人のライブなどがないときには普通に使えるっぽいぞ」
「お嬢様ーーー」
まあ天使の音色が世間に知られたくない気持ちはわかるのだが、こんなに大勢の老若男女がいる目の前で私の類まれない美声を披露しないのは人類の損失であろう。
コウレが止めるより先に、私はステージ上に立つ。
「〜ぶっ飛ばさず蹴飛ばさず私アギ〜」
あれ、周辺からどんどん人影がなくなっていくぞ。萎縮してるのだろうか。
コウレもなぜか浮かない顔で頭を下に向け、ぶつぶつ独り言を言っている。
「なんでアギはこんな凄まじい歌で平気なんでしょうか? まあフグが自分の毒で死ぬはずないですからね……」
……意味はよくわからないが、すごい失礼なことを言っている気がする……。
そしてなぜか、漫画の優れたアイデアでも思い浮かんだような顔になる。
「お嬢様。やはりお嬢様の美声はこんなただ広いだけの庶民的な公園で披露する理由はないですよ! ここはせっかくの遊園地ですよ! 漫画のアイデアのためにも様々なアトラクションを楽しんでインスピレーションを得ましょうよ!」
ちょっと違和感のある理論と表情と「お嬢様」呼びだが、気にはなる。
「ならこれはどうか? ぜひ食べさせてやるぞ」
それはラーメン作り体験コーナーである。
「勘弁してくださいよ! 僕はまだ死にたくないです!」
勘弁してくださいよ、死にたくないとはなんなんだ!
「あのジェットコースターとかはどうでしょうか?」
・はらぺこいもむしジェットコースター
・3歳〜12歳用
まさかこれに乗れというんじゃないだろうなおい……。
「お嬢様ならどうせ10歳といっても通りますよ。背は低いし胸も小さ……」
言い終えるより先にコウレを吹き飛ばす。
なんて失礼なやつなんだこいつは!
「もういい。誰が作ってやるか!」
とはいっても、このまま帰路につくのもアレだ。あの喫茶店でジュースでも飲んでみるか。
まったく私が子供っぽいわけなかろう。ミンネにエリザ、ラツミネに、そして淀に比べれば……まあかなり年下に見られるかもしれんが。あいつらが化け物過ぎるだけなんだ。
それでも私だって世間一般の水準には達しているはずだ。多分……。
そう信じても現実が変わらない。
変わらないとはさすがの私でもわかりつつも、成長促進を謳う牛乳を頼んでしまう。
「あのアギ。さっきはすみません。向かいに座っていいですか?」
「……好きにしろ」
「こんなこと言っているうちに外は夕方ですよ。どうせなら泊まりますか? このあたりはわりとアビリスターのなかでは観光地として名が通ってるので旅館やキャンプ場も点在しています。明日は休日ですし、今はオフシーズンですし」
「まあイカレタヤカタよりは優雅なところならいいぞ」
「決まりですね」
「それにまだ回りたいところあるしな」
目的地は土産物屋である。単なる土産が目当てではない。
「これ女性向けの浴衣ですよね? まさかこれを僕に着ろと……」
「だって似合いそうだから」
「勘弁してくださいよ! そうだ、ロルさん達にこれとかどうですか?」
コウレが持っているのはガンダヴァグッズ。
「まあ学生同士の贈り物なら無難だな。それにしても相変わらずお前はガンダヴァ好きだな。そんなに面白いか?」
「あれのロボットの造形を含めた芸術性がわからないアギが子供なだけです」
私みたいに完全に突出した一芸もないのにオクスタンを飛び級しただけあり、勉強もスポーツも能力もそつなくこなせる万能なコウレの数少ない子供っぽい一面。
それはねずみ嫌いと、このホビーアニメ・ガンダヴァの熱狂的ファンということだ。
そういうギャップもコウレの魅力と言えるだろう。
「やっぱり浴衣と、どうせならお前用のネグリジェや髪留めを買っておかないとな」
「勘弁してくださいよ!」
こうして私たちは今日泊まる旅館を目指したのだった。
ここでのお風呂が混浴で、次回はいっしょに入る以外はとくにオチとかはない。




