白髪のステップ9・フリミド・ピラーセル
地球から留学してきた案内役のステップ9である彼もオクスタン高の生徒らしい。
もちろん留学生一人一人に案内役(監視役?)がつくなんて本来あり得ないはずだが私の場合はステップ9だから特別らしい。
ステップ9というとアビリスターどころか宇宙中の天才の頂点であると同時に人格破綻者の頂点として有名。
……まあ私自身がその一人なのに、よく客観視できてるなと思う
どちらにせよ好奇心を誘う存在だとは思う。
ステップ9についての話題は地球でも聞くには聞くけど「能力の凄さをみてみたい」とか「天才の頂点に憧れるわ」とかそういう話は聞かない
「どんな感じにぶっ飛んでるのかな」とか下世話な興味。
地球で例えれば不祥事をやらかした芸能人とか家柄か知名度だけで実績は伴わない政治家とかに近いのかもしれない。
「彼女が本日付けでステップ9になったサイクロンスプリーム、サイスプリム・浅利淀だ」
サイクロンスプリームが能力の正式名称でサイスプリムはその略称。高ステップの能力者同士は相当親しくない限り能力の略称で呼び合うのがデフォルトらしいので。
「僕が案内役のフリミド・ピラーセル。能力はストレンジ・テレキネシス。一応よろしく‥で、どこか行きたいところある?」
彼も前述の世間のステップ9に対する印象を知ってるのか新しい同類に対して少し苦笑気味な口調。
白髪で髪型は中性的、何より徹底的な特徴として一言でまとめるとかなりの美形。地球だったら新進気鋭のアイドルかタレントと言われても通用するだろう。
彼は私の顔を見た瞬間、わずかに目を見開いて緊張した様子を見せた。
「とりあえず適当にオクスタン高の周辺あたりを散策したいです」
なに考えてるかわからない感じだしとりあえず敬語を使う。
「敬語はいらないよ。変に気を使いたくないし。よろしくねサイスプリム」
わりと気さくそうですぐ馴染めそうな感じの男性だと思う。
「えっと……できればサイスプリムってのやめてくれるかな?」
「えっ?略称としてはカッコいいと思うけど略さない方が好み?」
私は自分の正直な気持ちを述べる。
「高ステップの能力者同士は、親しくない限り能力名で呼び合うって知ってる。でも、ピラーセル君とは普通の友人になれそうな気がしたから……」
それをいうと彼は意外そうな顔をみせた。
少し間が空いてから彼は微笑み
「わかったよろしくね。淀」
「ありがとね。よろしくピラーセル君」
当地の写真などはもちろん地球のネットでも死ぬほど出回ってるが現地を散策してると日本どころか地球、いや銀河系ですらないのに町並みはわりと明治〜昭和の東京に似ているのに気づく。むしろ私の故郷のほうがより近代的な都市景観だと思う。
しかし実際は流石科学の殿堂。旧態的な外観だが中身はかつての東京とは似ても似つかないほどハイテク。多層建ての建物は少ないがそれは森林や山岳地帯などを差し引いても明らかに人口密度も低いかららしい。
「で幼少の頃からメイドで…」
ピラーセル君と軽い雑談をしてみると掴みどころがなく飄々とした性格。おどけた軽口や芝居がかった仕草を絶やさない。世間一般で言えばかなりの変わり者だけど他のステップ9よりははるかに良識的な面を持ってると思う。頭脳明晰かつ理知的な一面を覗かせる雰囲気は行成にも似てる。でも彼にはない「闇」のようなものを感じた。
「まともな実家があるだけ羨ましいよ。僕なんて両親が早くになくなってて幼少期ほとんど浮浪者だった。とある戦争に参加してその軍隊は敗戦したから奴隷としてここに売られたわけだからね」
多分彼はもともとさらっとこういうことを吐き出すタイプなんだと思う。
なるほど、その闇の正体はここか。同じように美形だけど髪の色だけなく境遇も行成と正反対の少年だった。
どちらにせよ私達2人はいっしょに散策してるわけだが正直あんな美形の隣が私みたいな平凡な容姿の子でいいのだろうか。なんだか居心地が悪い。一応同年代の男女2人なので傍目でみたら容姿レベル格差カップルのデートに見えなくもないかも。少なくとも性別が逆だったら今ごろ私は回りの男から強烈なヘイトに満ちた視線を浴びてたに違いない。
彼は一応私の監視役なだけあってなにかをどこかに報告してるようなそぶりも見せた。
「はい。まあそういうことで…イカレタヤカタですか…」
彼は電話を切ると私になにかを告げる
「君の入居先はイカレタヤカタだ。一応僕も住んでるんだ」
そう言って彼は私の新しい住居への道案内を始める。館を名乗るだけあってそこまでの道はすぐに町外れとなる。
「…イカレタヤカタって…」
ネーミングセンスがすごい。
「まあ作った人と家主がいろんな意味でイカれてるからその名前で呼ばれるようになったんだよ」
「…」
「これを言っても興味持つかはわからないけどイカレタを上回るほど優秀な執事がいるんだよ。君にとってもお世話役になってくれる。ほらもうついた」
道のりとしては町外れではあるが徒歩でもせいぜい中心地から20分もかからない。
彼が指を指したのは和風の2階だての建物。どうや離れや庭等も持つらしい。背後には山脈も見える。東京郊外の高級住宅地というより田舎のその土地に根付いた旧家の住居っぽい。
「とりあえず家主には君のこと話してるからもう部屋も用意はしてくれてる。まあ挨拶が済むまでリビングにいたいならそれでもいい」
この奇妙な名前の館が、これからの私の新生活の舞台になるとは、まだ実感が湧いていなかった。




